1. ほとばしる情熱
  2. 古き形と新しい血肉の融合
  3. その偉大なる魂を支える心臓
  4. が、しかしこれは何とかならないか
  5. プリ9ストーリー批判
  6. 戦い終わって日が暮れて

ほとばしる情熱(コミットさん、無断借用すみません)

プリンセスナインの魅力と言えば、既視聴者の十人が十人とも第一にその 「熱さ」を挙げるだろう。冗談や誇張などではない。全くの掛け値なしに、プ リンセスナインの熱さは我々の胸を打ったのだ。

例えば、第1話ラスト、余裕しゃくしゃ くで登場した高杉と涼の対決を、最高潮に盛り上げた所で次回につなげるヒキ。 あるいは、第8話ラスト、いよいよいずみ と涼の初対決!という所でまたも次回へつなげるヒキ。はたまた第10話ラスト、誰が登場するのかはわかり切っ てるのに、あれだけもったいぶった大袈裟な登場のさせ方をする度胸。そして、 16話ラストの、岸辺に残された靴と上着 という衝撃的なシーンで次回へつなげるヒキ。そしてまた、 20話ラスト、伏線も何もなしに、ユキの 「フィーフィーちゃん!?」で急転直下の幕切れを迎えるヒキ……あくまで熱 く!クサく!クドく!そしてオーバーに!!ハッタリの効きまくったケレン味 満点の展開を、臆面もなく、真正面から堂々と描く図々しさ………じゃなかっ た、力強い演出。「この作品を見ていてよかった!」と心から思わせてくれる 瞬間だ。

「作り話としての面白さ」を心の底から堪能させてくれる、 「プリンセス ナイン」の底知れぬサービス精神を讃えよう!それが一つの頂点を極めたのが 26話で、あの小春の満塁ホームランと涼 対高杉最後の決戦を見せられたのでは、もはや私は感涙に咽ぶしかない。26話 を見てからしばらくしてから、「ひょっとしたら、24年前にリアルタイムで 『ヤマト』を見ていた人達の気持が、少しは味わ えたのかも知れない…」という気分すら湧き上がってきたものだった。(事実、 山木氏は西崎の弟子筋に当たる人だから、山木氏の頭の中には「ヤマト」的な 物を目指す気持が――意識していたにしろしていなかったにしろ――あったと しても不思議ではないのではないか)

とは言え、「プリ9」の熱さは、いわゆる「熱血もの」のそれとは趣が異 なる。いわゆる「熱血もの」というのは、周りのことが目に入らずに猪突猛進 する登場人物のバカっぷりにその特色があるが、「プリ9」にはそういう要素 は薄い。周りが見えてないキャラと言えば、26話後半の涼と高杉くらいのもん である(笑)。(※22話以前のユキはあ る意味では「周りが見えていない」キャラだったが、決して「熱血キャラ」で はなかったことは言うまでもない)

「プリ9」の熱さは、人が「作り話」を楽しむ際の本能的な快楽に働きか けたものだから感動的なのだ。人が「作り話」を楽しむ時、その最も原初的で ストレートな欲求は、「作り話ならではの『都合のいい』展開を楽しみたい!」 というものだろう。「プリ9」のフカしたハッタリとケレン味は、この要求に 正面から応えた偉大なものだった。それが「プリ9」の最大の醍醐味だ。

余談だが、この作品の総合的な価値を評価する上で「お約束」(が多いこ と)を理由に挙げて称賛する人もいるが、その評価の仕方にはどうも違和感を 覚える。「お約束」という言葉それ自体には、肯定的意味も否定的意味もなく て、単に「ある種のパターン(必ずしもプラスに評価すべきものとは限らない) に当てはまっている」というだけの意味しかないはずだ。だから、ただ単にマ ンネリ化して陳腐になった表現に対しても、「お約束」という形容は当てはま り得る。一方、この作品の命であるハッタリやケレン味は、それが人の心を突 き動かすように描かれているからこそ尊いのであって、単なる「お約束」など では断じてない。そのことに言及しないまま、「お約束」であることそれ自体 を無条件で称賛することは、内容の乏しい懐古趣味に陥りかねないのではない だろうか。

古き形と新しい血肉の融合

この作品を構成しているひとつひとつの要素は、目新しいものではない。 例えば、

素質はあるが不遇な境遇にある主人公が見出され、才能を開花させていくとい う導入と、これに対し、恵まれた環境にあり、高慢ぶった態度を取る敵役
という構図は「ガラスの仮面」を始めとして、古今のマンガ・アニメに 数多の先例がある。

また、野球部のメンバーがなかなか揃わず、ナインを徐々にスカウトしつ つ増やしていく、というシチュエーションは「ドカベン」や「七人の侍」で用 いられた手法だ。

涼と高杉の関係の進展も、

「何なのよ、アイツ!」が徐々に気になる存在へとなり、いつしか抑え切れな くなった思いがあふれ出る。それがうまくいきかけたところで決定的な誤解か らすれ違いへ、そしてそれを修復するドラマチックな展開
と、ラブコメものの基本を一歩も踏み外すことのない手堅い描き方である。

この他にも、一見只の酔っ払い風だが実は斬れ者、なんてキャラを出して 来たり、怪しげでもったいぶった雰囲気を漂わす理事長や、まるでマンガのよ うに頭の硬い校長に、これまたマンガのように露骨なおべんちゃらを振りまく 教頭を配する、など、「ワンパターン」という形容を地でいくようなあからさ まな表現が目につくようになっている。

「プリンセスナイン」の優れていた点は、単独では何ら突出した所のない そういった凡庸な要素を巧みに取捨選択し、今までにない斬新な視点で組み立 てて見せてくれた所にある。まさか、女子高に野球部を作って、男子に交じっ て甲子園を目指す、という荒唐無稽な設定を意図的に古くさい雰囲気で味付け し、キャラクターの性格や言動は現代風に、ベタベタした 所のない(一部を除く)さっぱりしたタッチで描くことが、こんなにも面白く なり得るとは全く想定外だった。

初めて「プリンセスナイン」を見る人は誰しも「今どきよくもこんなに古 くさい表現を恥ずかしげもなくやってのけたものだ!」と呆れるような第一印 象を抱くだろう。しかし改めて見返してみると、製作者側はそんなことは百も 承知で、それを悪びれることなく堂々と描き、さらにそれをベースとして視聴 者に媚びない女性キャラを生き生きと描いてみせることにより生まれる面白さ を、極めて正確に計算していたことが明確にわかる。山木プロデューサーと望 月監督の慧眼と手腕に心から脱帽。

その偉大なる魂を支える心臓

これほどの熱い内容は、普通のアニメだったら浮きまくって作品が成立し ない所だ。「プリ9」がそうならずに済んだのは、もちろん山木氏と望月氏の 手腕に負う所も大きいが、それに劣らず重要だったのがその音響だ。

たった 26 本のテレビアニメ用の音楽としては、余りにも大袈裟でゴージャ スな、驚異の楽曲群。その音楽が目指すものは、「どこまでも熱く、魂を揺さ ぶる大作にふさわしい最高のスコア」だ。天野氏は、作曲に当たって「テレビ アニメ向け」の要素を意図的に排除したに違いない。

これはなかなかできることではない。普通は、テレビアニメの BGM にそこ までオーバーな曲を付けようとは思わないだろう。最初からそんな発想が浮か びもしなくても何ら不思議はない。ましてや、前もってあの「絵」を見ていた りしたらなおさらである。

しかし、関係者の情熱は、不可能を可能にした。天野氏が本気で、真剣に 取り組んで導いたその音楽は、「プリ9」本編を真っ正面から受け止め、支え 切るだけの熱さを湛えていた。

今の所 BGM 集 CD は2枚だけしか出てないが、未収録曲がまだ残ってるので、 是非とも3枚目を出して欲しい、というのが今の私の切なる願いだ。→ [2000,2/25] 未集録曲のうちの3曲(「宏樹のテーマ・変調バージョン(仮)」 「小春のテーマ(仮)」、主題歌カラオケ版フルバージョン)は DVD 第4巻・ 第7巻に集録された。→[2006,3/16] 主要な未収録曲は、2005年に フェニックスから リリースされたCDによって大体カバーされた。

また、BGM だけではなく、効果の 倉橋氏に も惜しみない賛辞を送りたい。倉橋氏の「本物以上に本物らしい」効果音の数々 は、この作品に血肉を通わせる上ではかり知れない貢献を果たしていた。私見だ が、氏の効果音は、「良く聞かないとその素晴らしさに気がつかない上に、聞け ば聞くほどその質の高さに驚かされる」という、芸術的ともいえる域に達してい たように思う。

ひとつ、私が自分の不明を恥じなければならないことがある。実は、私が 倉橋氏の名前を意識したのは「プリンセスナイン」が初めてだった。しかし、 改めて調べてみると、あの「ルパンIII世カリオストロの城」をはじめ、古く から数多くのアニメ・実写の名作に名を残す大ベテランであり、他にもかの名作「 トップをねらえ!」 や、'98 年のもう1本の傑作テレビアニメ「カウボーイビバップ」、それに、' 98 年前半のアニメ界にひとときの潤いを与えてくれた「 星方武侠アウトロースター」などなど、その経歴には枚挙に暇がない。こ れほどまでの功績を挙げたスタッフの名が今まで目に止まらなかったのはひと えに私の失態であり、倉橋氏に深くお詫びするとともに、これからもその神技 的な手腕を存分にふるい続けて頂きたく思う次第である。

[2006, 3/15] 「アニメスタイル」 の記事中で、倉橋さんの凄さに言及されていました。社長の 倉橋静男さんが、効果の世界じゃ神様みたいな人なんですよ。…昔ながらの音作 りをやれる方で、生音で効果を作ってくれる。それと、音像が厚くて、生々しい。 ああ、やっぱりなあ。本当に凄いですよ、倉橋さんの効果音。

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井汲 景太 <ikumikeita@jcom.home.ne.jp.NOSPAM.>(迷惑メールお断り)
最終更新日: 2006年3月16日