第22話 ユキ、ひとりじゃないよ!

アニメージュの記事

アニメージュでアフレコ風景が取材された回ですね。1998年の10月号です (p.100、アフレコせんにゅー記)。なかなか充実した内容なので、もし古本 屋で見かけることがあったら是非購入してください。

私はよく発売日の1日前にアニメージュを買うのですが、この号もそうで した。で、22話の放映はその翌日だったので、そこの所はその日は楽しみにし つつ読まないで、翌日22話を見てからじっくり楽しんだことを覚えています。

なお、記事中で、音響監督の吉田氏の名前の「知弘」が間違って「和弘」 とされています。恐らく若林和弘氏とごっちゃになってしまったんでしょう。 アンケート葉書で指摘したんですが、結局訂正はされなませんでした。「小春」 も「小雪」と誤植されてるし…。

この号には、巻末のカラーページにも見開きでプリ9の記事が載っていま す。ただ、こちらの方は内容は薄いです。例の「黒い霧」事件を話の軸にして、 「父と娘の絆」をメインにして全体をまとめているんですが、プリ9という作 品で真に注目すべき点である「熱さ」や「サービス精神溢れる過剰演出」につ いては一言も触れていません。だもんだから、未見の読者には「どういう点が 面白いのかがよく伝わらない」し、既見の読者には「踏み込みが浅くて物足り ない」という中途半端な記事になってしまっています。

憶測ですが、普段はプリ9を見ていないライターが、プリ9の記事を発注 されて、最近放映された2〜3話を見てまとめた記事なのではないでしょうか。 せっかくのイナズマボールの連続カットも、この内容だと残念ながらスペース の埋め草にしかなっていない印象が強いです。

とは言え、「化石の街で」収録時の川澄さんの写真も、小さいながら1枚 載ってますから、カラー記事がまったく無価値と言うわけではありません。熱 心なファンの方は入手に励んでください。

ユキの過去

まずは、回想シーンを通じてユキの過去が語られます。当時は今と違って 明るい表情が多いですね。ホームランを打って喜ぶ様子がとてもいいです。今 回は作画も結構よかったので、たくさん出てきたユキのアップも崩れることが なく、めでたし、です。

アナウンスでは「関東中学女子軟式野球大会」と言ってますが、 マンガ版ではユキは岩手県出身ということになっています(1巻 p.77)。こ れの理由はいろいろ考えられますね。

アニメとマンガでは設定が違う
マンガだと聖良と小春の守備位置が入れ替わってますし、聖良も左打ち ということになってたりしてます。(ユーカラ星も、18光年じゃなくて 18光年彼方にあることになってますし(笑))
岩手県の中学も、関東大会に参加していた
考えてみれば、中学校で女子の軟式野球がそんなに盛んだとは思えませ ん。「北海道大会」「東北大会」「関東大会」…が、すべての地区で存 在していなくてもおかしくはありません。もし東北大会が存在しない、 ということであれば、ユキの中学が単身、関東大会に参加していた、と いう話もありえないことではないでしょう。
ただの設定ミス
すんません…
アイキャッチのプロフィールに出身地も書いてあるとよかったなあ。

さて、この大会での活躍が仇となり、ユキはチームメイトからの陰湿な嫌 がらせを受けることになり、暗い表情しか見せなくなってしまいます。気分を 悪くして校門の所で倒れ込んじゃうのは重症ですね。ユキがとっても気の毒に なります。この辺の感情移入のさせ方はうまい。

担任や両親にも突き放され、ついに自殺を試みるユキ。一言「……死ねな かった」と言うだけしか描写がないのは、きっと「小さいお友達」に配慮した からなのでしょう。あまりあからさまに自殺を試みた様を描くわけにはいきま せん(あの、砂場に埋もれかけていた熊の人形に、何か自殺を暗示するような 所があったのでしょうか?)。

誰にも支えてもらえない孤独なユキの心は、ついに「フィーフィーちゃん」 という仮想人格を産み出します。自分を無条件で信頼し、支えてくれるフィー フィーちゃんに、以後のユキは全面的に依存するようになります。

※後の「UFO」のシーンから、フィーフィーちゃんは本当の宇宙人だった、 と見ている人もいるようですが、私はやはりフィーフィーちゃんはユキの心の 中だけに実在した幻想だった、と解釈しています。これについてはまた後ほど。

そのころ他のメンバーは

一方涼は風呂場で「嫌い、高杉君なんて」と言ってしまったことを後悔し ています。前回の感想に書き足した通り、このセリ フはやや軽はずみな感じが強いですから、涼が後悔するのはとてもうなずけま す。しかし、ビデオ・LD 収録版ではこの窓枠がなくなっているとは(笑)。

食堂に戻ってきた涼を迎えて、夕食の始まりです。

加奈子「監督、禁酒は?」
木戸「何だソレ、食えるのか?」
はいつも通りの漫才ですね。

主将を迎えて、改めてユキのことを話し合うナイン。いずみは

「ひとり補充すれば済むことでしょ」
「今すぐお母様に連絡して、新しいメンバーを一人頼んでみるわ」
と冷たい態度を取り、CDドラマでもパロディー に使われていた
「人間なんて所詮孤独なものじゃないの。……私は、ユキのあの甘えた態度が 許せないのよ」
というセリフも飛び出します。おそらく、みんなが言い出しにくいことを自分 から口にして、憎まれ役を買って出るのが彼女なりの責任感の表れなのでしょ う。このシーンのいずみの態度は結構好きです。

それにしても、新メンバーの補充をあっさり提案するいずみを見て、

だったら、初めっから控えのメンバーを用意しとけよ!
と思った方も多いはず。桂子に一言声を掛けるだけで新しいメンバーが見付か るなら、あの部員集めに苦労していたのは一体何だったの?という疑問が当然 湧きます。それに、ユキのことがなくても、野球の実力に不安のあるメンバー を抱えているのですから、控えのメンバーの確保は重要課題の一つだったはず です。この辺りも、シリーズ構成の失敗がもろに出てしまっている所ですね。

さて、悪役に徹したいずみのおかげもあって、他のナインは自然にユキを かばう側に回ることができます。

加奈子「それでもいずみさん、補充の話はもう少し待って」
という加奈子の頼みに、一応いずみが折れた形を取ってその場は落着。

フィーフィーちゃんとの別れ

ユキの心象風景の中で、フィーフィーちゃんが別れを告げます。ユキの深 層心理の中では、フィーフィーちゃんとの訣別を受け入れる心構えが出来つつ あることの表れなのでしょう。しかし、ユキの表層意識はまだそれを受け入れ る覚悟が出来ていません。

「もうひとりぼっちはイヤ!」「ユキをひとりにしないで!!」と叫ぶユ キですが、川澄さん、迫力はそれなりにあるものの、あんまし上手ではないで すね。こういう所は、もっとわざとらしく聞こえる演技の方が、結果的には功 を奏するんじゃないかと思うんですが。

そこへナインがユキを立ち直らせようとやって来ます。「人形のことは忘 れろ」と言う聖良に、激昂するユキ。

ユキ「みんなには解んないよ!!どれだけフィーフィーちゃんを大事な、大事 な友達だって思ってたか、誰にも解んないよ!」
そして、ここでバットを抱えて歩くいずみのカットのインサートが!これは名 演出ですね!ユキのことを見捨てて部屋に帰ったかに見えるいずみが何をやら かすのか?という期待を、実に見事に視聴者に印象づけることに成功していま す。

そして、なおも逃避を続けるユキに、バットを指し向けるいずみ!ここは、 先程からかかっていた「傷だらけのエース」が的確な編集によって再度盛り上 がって行く所と重ねられており、22話随一の名シーンです。問答無用でいきな りユキに向かって放たれるライナー。こ、これで一体どうなるの!?と皆が手 に汗握る所でアイキャッチ。うまいですね〜。

ちなみに、そのアイキャッチは丁度ユキが紹介される回。これは偶然でしょ うけど、その偶然もかなりよく効いていたと思います。

アイキャッチ終了後、いずみの強烈なライナーを、なんと片手で軽々と止 めてしまうユキ。それをきっかけに、みんなの励ましがユキの心に届き始めま す。この、ナインがかわるがわるユキに声を掛けていくシーンは、定番ですが 結構感動的です。

ここで「フィーフィーちゃん、星に帰る事件」が発生する訳ですが…さっ き書いた通り、私は「フィーフィーちゃんは本当の宇宙人ではなかった」派で す。「プリ9」という作品の他の部分とのバランスを考えると、本当の宇宙人 が存在した、というのは余りに異様で、ちょっと受け入れがたいです。また、 アニメージュの記事にも書いてあるように、川澄さんが一人二役を演じていた、 というのも、フィーフィーちゃんがユキの分裂自我であることを示唆している と考えられます。

ですからあれは、「謎の発光現象」と思えばいいのではないでしょうか。 単に、ユキのエピソードの締めくくりとして、ちょっと派手な演出を施した、 というだけのことだった、という解釈が、作品全体の構成から考えて最も自然 だと思います。画面には宇宙船や宇宙人の具体的な姿は一切登場していません から、陽湖や寧々のセリフは、その「発光現象」を「宇宙船」や「宇宙人」と (勝手に)結び付けただけ、と考えれば問題ないですね。

このシーンには川澄さんの歌う「化石の街で」がかかりますが…はっきり 言って、「ヘタ」の一語に尽きます(笑)。基本的には役者さんは歌唱いの専 門家ではないんですから、役者さんに歌を歌わせたり、またそれを喜んで受け 入れたりする風潮は止めにしませんか?そういう姿勢は、業界の健全な発展に は、却って害になると思うんです。

今度発売されるプリ9の DVD の映像特典として、この「化石の街で」を楽 しみにしている方も結構いるようですが、私は「あんなヘタな歌の収録に手間 暇かける余裕があったら、未収録 BGM のCD化に力を注いで欲しい」と考え ています。一般論としては、役者さんが歌う歌でも、「余興」として歌う分に は全然構いませんし、そういうのをCDに収録したり映像特典にするのも問題 ないと思うんですが…。

木戸の

木戸「明日は徹底的にしごくからな!」
に対し、
ユキ「ハイ!」
と明るく答えるユキ。ここで、冒頭の回想シーンのような笑顔が見られて、素 直に「よかったね」と思うことができます。こういう所の演出も、ちゃんと心 が配ってある点はやっぱり優れた作品ですね。それだけに、設定面がちぐはぐ なのは残念です。

いよいよ地区予選へ

「合宿編」に19話からの4話も費してしまい、 地区予選を描く余裕がほとんどなくなってしまった遅れを少しでも取り戻すべ く、22話残りの時間は急ピッチで進行します。

まずは今までとうって変わって自信に満ち溢れたユキの表情。もともと顔 の造作には恵まれている娘ですから、こういう表情をするとやはり魅力的です ね。そして、

加奈子「もー、やることが極端なんだからあ」
と照れる加奈子のシーンが入ります。しかし校長ったら、コロッと態度を変え ちゃってまあ(笑)。そこまで態度が変えられるんなら、始めから女子野球部 にもっと協力的でもよかろうに。

地区予選の対戦表を決める会場で、涼の新しい設定が明らかにされました。 くじ運はよくないそーです(笑)。確かに、いきなり堀高義塾と当たっちゃう のは、あんまり運がよくないなあ。でも、1回戦で如月高校と当たるよりかは 遥かにマシで、クジ運最悪、というほどでもないようです。

寧々は主な出場高の特色まで把握しているみたいですね。

寧々「確か、マンガによく出て来るような…」
……って、あくまでマンガベースで発想するのかよ(笑)。一方、涼の方はそ ういう情報に疎いようです。4話で、全国女子中学 軟式野球大会の最優秀選手の名を知っていた、というのとはちょっとちぐはぐ ですねぇ。

いずみは高杉相手にやる気満々な所を見せますが、高杉には悩みを打ち明 けてもらえません。おそらく、この辺りから、高杉の心が本気で涼の方を向い ている、ということを悟っていったんでしょうが、ちょっと描写が弱いですね。 前回あれだけ涼にダメージを与えてまでつかんだは ずの「高杉のステディ」の座を、たいしてあがきもせずに 24話で放棄してしまったのは拍子抜けでした。あれ だけのことをした以上、もう少し高杉への執着を描いて欲しかった所です。

涼は未だ高杉のことが頭から離れません。いずみには恐れをなして(笑) 「高杉とは何でもない」と心にもないことを言いますが、高杉の声が、姿が、 脳裏に甦り、立木に頭を預けて深く落ち込んでしまいます。こういう所で涼の 気の毒な姿をきっちり描くのはうまいですね。

いよいよ試合前日。「ちょっとお腹空いたから、夜食買いに」来たユキを、 涼は家に誘います。志乃とユキは涼が失踪した時に会ったことがあるはずなの に、「野球部の方ね?」と志乃は言ってますが、多分あのときはドタバタして いて、ナイン全員の顔はちゃんと覚えていなかった、ということなのでしょう。

久々登場のワイルドキャッツの面々の応援も受け、決意を新たにする涼と ユキ。舞台は翌日の球場に移り、いよいよ地区予選の開始です。

しっかし、予告編ラストの

寧々「おまんら、ナメたらあかんぜよ」
涼「それは小春のセリフでしょ」
というベッタベタなオチは相変わらず凄いです(笑)。


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井汲 景太 <ikumikeita@jcom.home.ne.jp.NOSPAM.>(迷惑メールお断り)
最終更新日: 2000年4月22日