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数学

Legendre 多項式で表される確率・その4

\(\newcommand{\kumiawase}[2]{{}_{#1}\text{C}_{#2}}\)
その2」で、2次元単純ランダムウォークについて次の等式\eqref{eq:37-1}がなりたつことに触れた。

2次元単純ランダムウォークで、原点から出発して \(n\) 歩後に \(x\) 座標が \(k\) となっているような経路数は
\begin{equation}
\label{eq:37-1}
\sum_{r} \frac{n! 2^{n-2r-k}}{r! (r+k)! (n-2r-k)!} = \kumiawase{2n}{n+k}
\end{equation}
通りである(左辺の和で、\(r\) の範囲は和の式が意味を持つ範囲での和とする)。

これは、母関数の考察によって直接導けることに気づいた。

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数学

Legendre 多項式で表される確率・その3

\(\newcommand{\floor}[1]{\lfloor #1 \rfloor}
\newcommand{\Babs}[1]{\Bigl\lvert #1 \Bigr\rvert}
\newcommand{\kumiawase}[2]{{}_{#1}\text{C}_{#2}}\)
きっかけとなった記事の最後で触れた \(p_{n}\) の漸近的振るまいが解決したので書いておく。結局、最も妥当な \(p_{n} \to 0 \; (n \to \infty)\) という結果に落ち着いた。以下、やや丁寧に説明してみる。

【追記】
と思ったら、またまた例の方から、もっと簡単に示せることをご教示頂いてしまった。末尾に述べる。

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数学

Legendre 多項式で表される確率・その2

\(\newcommand{\floor}[1]{\lfloor #1 \rfloor}
\newcommand{\Bfloor}[1]{\Bigl\lfloor #1 \Bigr\rfloor}
\newcommand{\kumiawase}[2]{{}_{#1}\text{C}_{#2}}\)
前回の話の、その後の展開である。周囲にまとめを配ったところ、いくらかの反応を頂くことができ、ちょっと考察が進んだ部分がある。

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数学

Legendre 多項式で表される確率

\(\newcommand{\floor}[1]{\lfloor #1 \rfloor}
\newcommand{\Bfloor}[1]{\Bigl\lfloor #1 \Bigr\rfloor}\)
だいぶ以前の話だが、「サイコロを \(n\) 個振るときに、1 の目と 6 の目が同数だけ出る確率」について考えたとき、ちょっと面白い非自明な結果が導けたことがある。この確率を \(p_{n}\) とすると、実は Legendre 多項式 \(P_{n}(x)\) によって
\begin{equation}
\label{eq:legendre}
p_{n} = \frac{1}{\sqrt{3}^{n}} P_{n}
\biggl(\frac{2}{\sqrt{3}}\biggr)
\end{equation}
と表せるのだ。(Legendre 多項式は規格化の選び方で定数倍の違いがありうるが、ここでは
\[ P_{n}(x) = \frac{1}{2^{n}n!} \frac{d^{n}}{dx^{n}}
\bigl\{(x^{2}-1)^{n}\bigr\} \]
で定義され、\(P_{n}(1)=1\) で規格化されているものとする)

この式、導いたはいいが結果(と、それをちょっと拡張した式)しかメモっていなかったため、この度久々に過程を再現しようとしてかなり手こずってしまった。何となく、それほど高度な変形をしたわけではなかった感覚が残っているので、当時の私はおそらく「その気になれば再現は難しくないはず」と軽く考えて途中の計算を処分してしまったらしい。ところがいざ取り掛ってみると苦心惨憺。「拡張した式」を手がかりにして、多少は扱いやすい等価な関係式に帰着する所までは行けたのだが、そこから先がにっちもさっちも進まなくなり、最後に「泥臭いしこれまでの計算の感触からしてうまく行く見込みは乏しそうな手だけれども、もうこれくらいしか思いつく手段がない」という方針をダメ元で試してみたところ、思いがけずすんなり計算が進んでやっとこさ示すことに成功した、という有様だった。いやはや、結果だけでもメモっておいてよかった。さもなかったら、(私にとっては)永久に失われた式になってしまった所だった(笑)。

以下では、このような確率を考えようと思ったきっかけと、どのようにしてこのような表式に至ったのか、そしてこの結果からのちょっとした考察等、\eqref{eq:legendre}にまつわることを色々と書いていきたい。

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ガロア理論 数学

解ける方程式のガロア群・その2

\(\DeclareMathOperator{\Gal}{Gal}\)
前回の \(\text{(I)} \implies \text{(IV)}\) の証明の step.1 で、群論の予備知識を借用した所、方程式論とガロア理論の知識で解決できることがわかった。と言ってもスッキリした議論にはならなかったので証明としては「群論の予備知識をまず習得して…」という流れの方が優れていると思うが、一応紹介しておく。(もちろん、主な動機は自己満足(笑))

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ガロア理論 数学

解ける方程式のガロア群

\(\DeclareMathOperator{\Gal}{Gal}
\newcommand{\lnsg}{\mathrel{\vartriangleleft}}
\newcommand{\field}[1]{\mathbb{#1}}
\newcommand{\Q}{\field{Q}}
\newcommand{\K}{\field{K}}
\newcommand{\tmod}[1]{\text{mod}\; #1}
\newcommand{\zettaiti}[1]{\lvert #1 \rvert}\)
ガロア理論による方程式の可解性について理解できた私にとって、次の目標となったのは、志賀本の p.101 で、ガロアが到達した成果として挙げられていた次の話を理解することだった。

\(f(x)=0\) を有理数体 \(\Q\) 上で既約な素数 \(p\) 次の方程式とする。このとき \(f(x)=0\) が代数的に解かれるための条件は、\(f(x)\) の最小分解体 \(\K\) が、\(f(x)=0\) の解 \(\alpha_{1}, \alpha_{2}, \dots, \alpha_{p}\) の任意の \(2\) つ \(\alpha_{i}, \alpha_{j}\) を \(\Q\) に添加して得られることである: \(\K=\Q(\alpha_{i}, \alpha_{j})\)

これについてはこれまで参照してきた文書中には言及がなく、自力でもどうやったものかさっぱり見当がつかずに困っていた。ようやく割と最近になって、「ガロア論文の古典的証明」がこれに触れていることを知り、がんばって読み始めたのだが、肝心の部分に(私には)理解不能な点や、ギャップが(私にとっては)大きすぎて埋められない箇所が多く、残念ながら解決とは行かなかった(とは言え、後述する「1次式で表される群」がキーポイントになる、ということは見て取れて、それが後で結構大きく効いたので、その点は感謝したい)。

「やはり、ガロアの論文に沿って解説を進めたちゃんとした成書を買って読むしかないか…」と思っていたところ、以前も触れたある方に「体とガロア理論」藤﨑源二郎(岩波基礎数学選書、岩波書店)にその証明があると教えて頂き、先日個人的な伝手によってその本をお借りすることができた(ちょっと紛らわしいが、教えてくれた方と貸してくれた方は別人)。そこには見事な証明が書かれており、ついにその証明も理解することができた!これで一連の個人的動機に基づく学習も一段落させることができた。

【 2017,11/6 追記 】「ガロアの時代 ガロアの数学〈第2部〉数学篇」のカスタマーレビューを見ると、この本にも載っていたみたいですね。

さて、藤﨑本の理解を深めようとその証明をじっくり吟味したり、整理したりしているうちに、部分的には実質的な重複があったり、もうちょっと簡素化できそうな部分もあることがわかってきた。藤﨑本はなるべく依存性の少ない議論を可能にするために(であろう、恐らく)、証明の大半を有限群論の枠内のみで完結させており、そのため有限群論の補題をたくさん用意して証明する、という流れになっている(もちろん、それらの補題は今テーマにしている定理の証明のためだけにあるわけではなく、別の定理の証明でも利用しているようだし、補題それ自身に有限群論の成果として有用性があるので列挙されているという面も大きいのだろう)。しかし、今の我々のように「方程式の可解性をガロア理論を通じて調べる」ということを主題にしている立場からすると、その議論の一部はガロア理論の成果を利用すればすぐに出てくる、という部分もあったりするのだ。

そこで、自分の理解を整理・確認するため、そして何より自己満足のために(笑)、藤﨑本の証明を自分なりに整理・一部再構成したものを以下にまとめておくことにする。

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数学

確率と幾何学

「確率」というものについて考えを深めていくと、しばしば根源的・哲学的疑問に行き着く。「サイコロを振るとき、どの目が出るかは同様に確からしい、と言うが、同様に確からしいとはどういうことか。もっとあいまいさのない形で言うとどうなるのか。なぜぴったり \(\dfrac{1}{6}\) ずつに等しいと言えるのか」「そもそも確率とは何か。1の目が \(\dfrac{1}{6}\) の確率で出る、とは、一体何を指しているのか」といった疑問を、一度は抱いたことのある人は多いだろう。

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数学

作図不能問題 本当に不可能なのか?

書こうと思っていたことがもう1つあったことを思い出したので、それを書いておく。

角の三等分問題や円積問題などの作図不可能性は、普通、作図したい実数が「定規とコンパスで作図可能な数」の集合に含まれない、ということを使って証明する(※「普通」と書いたが、それ以外の証明が存在するのかどうかは知らない)。

そのとき、「作図可能な数」というものを定義するために、「定規とコンパスはこういう使い方しかできない」という一覧を厳密に定めていく。その一覧に従えば、確かに角の三等分問題や円積問題は作図不可能ということになる。しかし、私が前からひとつ疑問に思っているのは、「普通、『定規とコンパスのみによる作図』と言った場合、その一覧にはないタイプの使い方も一部認めているのではないか?つまり、その定式化は、一般的な感覚による『定規とコンパスのみによる作図』を正しく掬い取っておらず、よくある作図不可能性の証明というのは、もうちょっと深く考える必要があるのではないか?」ということだ。(別に、定規とコンパスの裏技的な使用法を考えているわけじゃなくて、後述の通りごく真っ当な使用法だよ)

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ガロア理論 数学

数学ガール ガロア理論編 補足

\(
\newcommand{\field}[1]{\mathbb{#1}}
\newcommand{\Q}{\field{Q}}
\newcommand{\zettaiti}[1]{\lvert #1 \rvert}
\)
この blog でこれまで読み進めてきたガロア理論の解説だと、山場の「方程式が代数的に解けるための条件は、ガロア群が可解であること」の部分の証明が、数学的帰納法を利用したかなり大掛かりなものになっていて、最初にガロアが考えていたときに、この巨大な構造を一から見抜いたということはなさそうに思える。当時の彼はおそらくもっと手の着けやすい所を突破口にしていったはずなのだが、その道筋は一体どうなっていたんだろう…?という疑問に応えてくれたのが、(私の読んだ範囲では)「数学ガール」のガロア理論編だった。

そこで書かれていた次の引用部が、私の疑問にズバリ応えてくれるものだった。(下線、傍点といった装飾は引用にあたり省略した)

つまり——
ガロア群が縮小するように方程式の係数体に冪根を添加できるなら、その縮小したガロア群が作り出す剰余群の位数は素数になる。
——ということだ。これは逆も成り立つ。つまり——
剰余群の位数が素数になるような正規部分群が存在するならば、ガロア群が縮小するように方程式の係数体に冪根を添加できる。
——ということだ。

このようなミクロの関係を認識したことで、「その繰り返しが最後まで実現できる条件」に自然に到達することができた、というのは非常に納得できる話だ。この部分をきちんと取り出して光を当ててくださった、「数学ガール」著者の結城浩さんに感謝。

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数学

合同式で理解する正規部分群・その3

\(\DeclareMathOperator{\Ker}{Ker}
\DeclareMathOperator{\Img}{Im}
\)
前回前々回の続きとして、今度はもう1つの同型定理を合同式と同値類で扱ってみる。

【定理】 \(G\) を群、\(M\), \(N\) を \(G\) の正規部分群とし、\(M \supset N\) とすると、\((G/N)/(M/N) \cong G/M\)

つまり、左辺を普通の分数であるかのように扱って「約分」してよい、というわけである。具体例を挙げよう。対称群 \(S_{4}\) は正規部分群として交代群 \(A_{4}\) とクラインの4元群 \(V_{4}\) を持ち、しかも \(V_{4}\) は \(A_{4}\) の部分群でもある。このとき、一番小さい群で残り2つを割った \(S_{4}/V_{4}\), \(A_{4}/V_{4}\) はそれぞれ \(S_{3}\), \(A_{3}\) と同型だったが、それらの「比」\(S_{3}/A_{3}\) が始めの2つの「比」\(S_{4}/A_{4}\) と同型になっている、というのが定理の言っていることになる。
\[ (S_{4}/V_{4}) / (A_{4}/V_{4}) \cong S_{3}/A_{3} \cong S_{4}/A_{4} \]
\(S_{3}/A_{3}\) と \(S_{4}/A_{4}\) はどちらも積を演算とする群 \(\{1,-1\}\) と同型なので、これは確かになりたっている。

普通、この同型定理を証明するときは、準同型定理
\[ G/\Ker f \cong \Img f \]
に帰着するために、上手く準同型写像を定めてやる、という流れをとる(ようだ)。もちろんそれは「簡潔」で「美しい」証明なのだが、しかしやはりその証明を「読む」立場の人からすれば、何が何やらさっぱりわからないままに終わってしまう話になっている。この定理はどんな意味があって、どういう描像で捉えることができて、その準同型写像の定義の仕方はどんな見通しの下に構想されたのか…といったことが皆目見当も付かないまま、無理矢理手を引かれて薮の中を最短コースで突っ切らされたも同然だからだ。

そこで、ここではもっとゆっくり、周りの景色を眺め、積極的に寄り道をしながら、この同型定理の意味や背景といったものに接していこう。