\(\newcommand{\floor}[1]{\lfloor #1 \rfloor}
\newcommand{\Babs}[1]{\Bigl\lvert #1 \Bigr\rvert}
\newcommand{\kumiawase}[2]{{}_{#1}\text{C}_{#2}}\)
きっかけとなった記事の最後で触れた \(p_{n}\) の漸近的振るまいが解決したので書いておく。結局、最も妥当な \(p_{n} \to 0 \; (n \to \infty)\) という結果に落ち着いた。以下、やや丁寧に説明してみる。
【追記】
と思ったら、またまた例の方から、もっと簡単に示せることをご教示頂いてしまった。末尾に述べる。
\(p_{n}\) は
\begin{equation}
\label{eq:36-1}
(n+1)p_{n+1} – \frac{2(2n+1)}{3}p_{n} + \frac{n}{3}p_{n-1} = 0
\end{equation}
という漸化式をみたしていた。今、\(n\) が大きい所での振る舞いを見たいので、\eqref{eq:36-1}の「主要項」を取り出すため両辺を \(n\) で割ってみる。すると
\begin{equation}
\label{eq:36-2}
\underbrace{p_{n+1} – \frac{4}{3}p_{n} + \frac{1}{3}p_{n-1}}_{\text{主要項}} + \underbrace{\frac{p_{n+1}-\tfrac{2}{3}p_{n}}{n}}_{\text{微小な誤差}} = 0
\end{equation}
ここで、主要項と微小な誤差は書き入れた通りである。なぜならば、\(p_{n}\) は確率だから \(0 \leqq p_{n} \leqq 1\) で、したがって \(p_{n+1}-\frac{2}{3}p_{n}\) は有界(\(-\dfrac{2}{3}\) 以上 \(1\) 以下)だからである。よって、\(n\) が非常に大きいところでは \(p_{n}\) はほぼ
\begin{equation}
\label{eq:36-3}
p_{n+1} – \frac{4}{3}p_{n} + \frac{1}{3}p_{n-1} = 0
\end{equation}
という漸化式をみたしながら変化しつつある、ということになる。
\eqref{eq:36-3}の形なら馴染み深い。この定数係数3項間漸化式の特性方程式とその解は
\begin{gather*}
\lambda^{2} – \frac{4}{3}\lambda + \frac{1}{3} = 0 \\
\therefore (\lambda – 1) \Bigl( \lambda – \frac{1}{3} \Bigr) = 0 \\
\therefore \lambda = 1, \frac{1}{3}
\end{gather*}
である。ここから、「\(n\) が大きい所では \(p_{n}\) は大体定数と \(\Bigl( \dfrac{1}{3} \Bigr)^{n}\) の1次結合で表される挙動を示すだろう」と見通しが立つ。
さらに、特性方程式の解が \(\lambda = 1, \dfrac{1}{3}\) だったことから、\eqref{eq:36-2}を「\(p_{n+1}-p_{n}\)」「\(p_{n+1}-\dfrac{1}{3}p_{n}\)」という形を軸に式変形してみると、次のように書ける。
\begin{align*}
p_{n+1} – p_{n} – \frac{1}{3}(p_{n} – p_{n-1}) + \frac{p_{n+1}-p_{n} + \frac{1}{3}p_{n}}{n} &= 0 \\
\therefore \Bigl( 1 + \frac{1}{n} \Bigr) (p_{n+1}-p_{n}) – \frac{1}{3}(p_{n}-p_{n-1}) + \frac{p_{n}}{3n} &= 0 \\
\therefore (n+1)(p_{n+1}-p_{n}) – \frac{1}{3}n(p_{n}-p_{n-1}) + \frac{p_{n}}{3} &= 0
\end{align*}
よって、\(a_{n}=n(p_{n}-p_{n-1})\) とおくと
\begin{equation}
\label{eq:36-4}
a_{n+1} – \frac{1}{3} a_{n} + \frac{p_{n}}{3} = 0
\end{equation}
また、
\begin{align*}
p_{n+1} – \frac{1}{3}p_{n} – \Bigl( p_{n} – \frac{1}{3}p_{n-1} \Bigr) + \frac{p_{n+1}-\frac{1}{3}p_{n} – \frac{1}{3}p_{n}}{n} &= 0 \\
\therefore \Bigl( 1 + \frac{1}{n} \Bigr) \Bigl( p_{n+1} – \frac{1}{3}p_{n} \Bigr) – \Bigl( p_{n} – \frac{1}{3}p_{n-1} \Bigr)- \frac{1}{3n}p_{n} &= 0 \\
\therefore (n+1)\Bigl( p_{n+1} – \frac{1}{3}p_{n} \Bigr) – n\Bigl( p_{n} – \frac{1}{3}p_{n-1} \Bigr)- \frac{1}{3}p_{n} &= 0
\end{align*}
よって、\(b_{n}=n\Bigl( p_{n} – \dfrac{1}{3}p_{n-1} \Bigr)\) とおくと
\begin{equation}
\label{eq:36-5}
b_{n+1} – b_{n} – \frac{1}{3}p_{n} = 0
\end{equation}
も得られる。
さて、まず\eqref{eq:36-4}から \(a_{n+1} = \dfrac{1}{3}a_{n} – \dfrac{p_{n}}{3}\) である。これと \(p_{n} \geqq 0\) を合わせると、次のことがわかる:「数列 \(a_{n}\) は、いったん負になるとそこ以降の項もすべて負になる」
これと \(a_{n}=n(p_{n}-p_{n-1})\) より、「数列 \(p_{n}\) は、いちど減少し始めるとその後はずっと単調減少する」とわかるが、\(p_{0}=1\), \(p_{1}=\dfrac{2}{3}\) が減少してるため、結局 \(p_{n}\) はすべての \(n\) にわたって単調減少する数列である。
このことと、\(p_{n} \geqq 0\)(下に有界)から、\(n \to \infty\) のとき \(p_{n}\) は収束すると言えた。この極限値を \(c\) とする。
すると\eqref{eq:36-5}から \(b_{n+1}-b_{n} = \dfrac{1}{3}p_{n} \to \dfrac{c}{3} \; (n \to \infty)\) である。ここで、一般に
\[ \lim_{n \to \infty} (A_{n+1} – A_{n}) = \alpha \implies \lim_{n \to
\infty} \frac{A_{n}}{n} = \alpha \]
(証明は \(\epsilon-N\) 論法で)が成り立つことから \(\dfrac{b_{n}}{n} \to \dfrac{c}{3} \; (n \to \infty)\) が言える。
すると \(b_{n}=n\Bigl( p_{n} – \dfrac{1}{3}p_{n-1} \Bigr)\) より得られる
\[ \frac{b_{n}}{n} = p_{n} – \frac{1}{3}p_{n-1} \]
の両辺で \(n \to \infty\) とすることにより
\begin{gather*}
\frac{c}{3} = c – \frac{1}{3}c \\
\therefore c = 0
\end{gather*}
よって
\[ \lim_{n \to \infty} p_{n} = 0 \]
である。\(\square\)
このように、\(p_{n}\) が \(0\) に収束することに加えて、単調減少することも言えた。なので、大元の話でそもそものきっかけだったゲームの確率に戻ると、結局次のことが解ったことになる。
- 振るサイコロの個数が増えるほど、「自動失敗するかしないか」だけに着目した確率では不利になる。
- サイコロが無限に増える極限では、成功・失敗の確率は \(\dfrac{1}{2}\) ずつ、つまり五分五分というつまらない結果になってしまう。
【追記・もっと簡単な導出】
確率
\begin{equation}
\label{eq:36-6}
p_{n} = \sum_{k=0}^{\floor{\frac{n}{2}}} \frac{n!}{(k!)^{2}(n-2k)!}
\Bigl( \frac{1}{6} \Bigr)^{k} \Bigl( \frac{1}{6} \Bigr)^{k} \Bigl( \frac{4}{6} \Bigr)^{n-2k}
\end{equation}
は、次のように積分表示できる。
\begin{equation}
\label{eq:36-7}
p_{n} = \frac{1}{2\pi} \int_{0}^{2\pi} \Bigl( \frac{1}{6} e^{i\theta} + \frac{4}{6} + \frac{1}{6} e^{-i\theta} \Bigr)^{n} d\theta
\end{equation}
ここで、被積分関数のカッコ内の大きさは
\begin{equation*}
\Babs{\frac{1}{6} e^{i\theta} + \frac{4}{6} + \frac{1}{6} e^{-i\theta}} \leqq \Babs{\frac{1}{6} e^{i\theta}} + \Babs{\frac{4}{6}} + \Babs{\frac{1}{6} e^{-i\theta}} = 1
\end{equation*}
と押さえられ、不等号の等号成立は積分区間内では \(\theta=0, 2\pi\) の2点のみ。よって \(n\) 乗の定積分は \(n \to \infty\) で \(0\) に収束する。\(\square\)
\eqref{eq:36-7}のようにうまい表示があるとは!\eqref{eq:36-6}の多項係数を \(n\) 乗で表現するというアイディアは当然思いついていたのだが、その時は「どうやって指数が一致する項だけを抽出すればいいんだろう?」という問題点の解決法が思いつかなくて諦めてしまっていた。言われてみれば、整数 \(m\) に対して
\[ \frac{1}{2\pi} \int_{0}^{2\pi} e^{im\theta} d\theta =
\begin{cases}
1 & (\text{\(m=0\)のとき}) \\
0 & (\text{\(m \ne 0\)のとき})
\end{cases} \]
というのは当たり前だった。こんな、Fourier 変換の初歩的な関係すら思い当たらなかったとは!何とも恥ずかしい限りだ。
なお、この発想を使うと、前回の
\[ \sum_{r} \frac{n! 2^{n-2r-k}}{r! (r+k)! (n-2r-k)!} = \kumiawase{2n}{n+k} \]
という関係は
\begin{equation}
\label{eq:36-8}
\frac{1}{2\pi} \int_{0}^{2\pi} (e^{i\theta} + 2 + e^{-i\theta})^{n} e^{ik\theta} d\theta = \kumiawase{2n}{n+k}
\end{equation}
と書き直せる。これは何かすでによく知られた結果でありそうな気がするなあ…。左辺の漸化式を作るとたぶん示せそう。→つーかこれ、左辺のカッコ内を \((e^{i\theta/2}+e^{-i\theta/2})^{2}\) と書き直して \(2n\) 乗を二項定理で展開するだけで特に何の工夫もなく出てくる式ですね。
\eqref{eq:36-8}を書き直すと
\[ \frac{2^{2n}}{\pi} \int_{0}^{\pi} \cos^{2n} \frac{\theta}{2} \cos k\theta \, d\theta = \kumiawase{2n}{n+k} \]
で、これも示すのはそんなに難しくなさそうに見える感じ。→こっちはちょっと難しいか?むしろ、この式を上のように複素数表示することでうまく計算できるようになる…という感じですね。
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