いよいよ、DVD とセットの原案小説もこれで一段落です。クライマックス の、明応女子対相模の試合の行方やいかに。
前半で、涼と泉の確執はますますこじれる様が描かれます。まず涼が、宏 樹から借りた参考書を泉に見られます。そのことを打ち明けた涼は、宏樹に宥 められ、握手して別れますが、またもその姿を泉に見られます。目撃するのが 泉の方だ、というのはアニメ版の24話と は逆ですね。
「今日の試合を落としたら、野球の為に女子高に来たあなたも、テニスを 捨てた私も一生後悔することになる。私は、絶対にミスしない。だから、あな たもミスをしないでね。今日の敵は相模高校よ。宏樹の事はお預けよ」という 高飛車なセリフはいかにも泉らしいです。こういう所はアニメ版にもそのまま 引き継がれていますね。すくなくとも泉=いずみの性格の描写に関しては、ア ニメ版は原案小説の雰囲気をほぼ再現できています。
それにしても、「泉とキスするところを涼に見られる宏樹」とか、「安奈 と歩いている所を令子に見られる東野」とか、男女関係で恋がたきに見られる、 というシーンが多いですね、この話(笑)。
東野と安奈の関係は着々と進展しているようです。エピローグによれば、 これも今後の展開へつながる伏線なのですね。続編、見てみたいなあ…。
一方、早乙女は前巻で知り合った相 模のコーチの羽仁亨を誘惑し、まんまと相模の練習風景をビデオ撮影に成功し ます。しかもコーチの解説つきで。羽仁は「お金持ちのドラ息子」と評されて ましたが、後の試合中も自己保身が先に立つ卑怯ものとして描かれてました。
余談ですが、このビデオ撮影シーンの時だけ、相模のエースの名前が「武 田」になってました。他のシーンはすべて「関口」で統一されてるんですが…(笑)。
最初読んだ時、突如として涼たちとは無縁の人々の情景描写に入ったのは なぜ?と思っていたんですが、「ガス爆発」というアイディアにはなるほどで す。一度はその場を去りかけるも、引き返す涼。こういう所は主人公らしく心 のまっすぐな娘として描かれてます。アニメ版の 16話ラストの行動が思い出されますね。
左手に軽い怪我をし、手当を受ける涼。絆創膏を貼ってもらって 「この程 度なら問題ないなと安心した」と書いてあったので、やはり右投げなのかな? と思いましたが、これだけではちょっと断定は難しいですね。そのあとの描写 を読んでも、結局はっきりしないままでした。
ここで涼が自分の血を200cc提供するわけですが、このように涼の力が削が れていた状態での対決に持って行ったのが、定番とは言えうまい展開です。こ れなら負けても言い訳が効く………じゃなくて(笑)、「まだまだ真の力を発 揮するのはこれから先だぞ」と、受け手の興味と期待を先へとつなぐことがで きる訳です。
さらに、ストーリーに起伏をつけるためには、主人公たちが順調に勝ち進 むばかりではまずい訳ですが、ストーリー上の必要から一時的な敗北を味わう ことになったとしても、主人公たちの力量の描写面で、ハッタリ度が落ちて面 白さが落ちちゃったり、それまでの描写と矛盾が生じちゃったりという事態を 避けることができる訳ですね。
締めくくりとあって、これまでの登場人物の総ざらえの感があります。 ナインや木戸・東野・桂はもちろん、陣内・平山・金城父・アネット・ゆかり 母&妹・宏樹&塾高ナイン・高田・孝子と、関係者はほとんど球場に顔を見せ てますね。出て来ないのは、涼の中学時代の関係者と佐々木物産関係者、ワイ ルドキャッツ…じゃなかった、二子玉ジャイアンツナインや東海電気のメンバー くらいでしょうか。
ことここに至っても、高田はあまりストーリーに干渉できていないですね。 ちょっと不憫に思います。
明応女子の臨時キャプテンは大谷ゆかりなんですね。確かに、実力的には キャプテンの座にふさわしいのではないかと思います。アニメ版でもこの先、 加奈子がキャプテンになったりする展開があるのかもしれませんね。
さて、先攻となった明応女子のオーダーを見てみると…おやあ、 4月頭の段階とは、打順もポジション もずいぶんと違っています。
1 大谷(2塁) 2 斎藤(ライト) 3 佐々木(3塁) 4 橋本(ショート) 5 早乙女(1塁) 6 古河(センター) 7 金城(キャッチャー) 8 白井(レフト) 9 早川(ピッチャー)
とこうきましたか。涼が、アニメ版と同じく、 9番に後退してしまったのがちょっと残念………と思った所で改めて4巻を見 返したのですが、実は4巻の部員の自己紹介で「○番」と名乗ってたのは、打 順じゃなくて守備位置(=背番号)だったのではないかという気がしてきまし た。
それだと斎藤の「9番レフト」ってのが合わないのでその可能性は捨てて たのですが、むしろこの「9番レフト」が単純ミスである可能性の方が高いで すね。
両チームとも三者凡退に終わった1回が済むと、木戸がサングラスを外し て激励します。それにしても、まさか木戸がナインの前でサングラスを外した のがこれが初めてだとは思いませんでした(笑)。ずーっとグラサンの怪しい 人物だったのか…。
激励に応え、「オンナのコ作戦開始!」 よろしく明応女子は順調に得点を重ねます。あっちは色仕掛け込みだった (笑)のに対し、こちらは実力で得点してますから大したものですね。ついに 相模のエース・関口を引きずり出します。
涼が2塁打を放ち3点目を奪った後は、5回まで両チームとも無得点のま ま事態は推移します。そして、ついに6回、採血の影響が表面化し、涼は不調 に陥ります。
ここで、隠し球でランナーをアウトに取る橋本が渋いですね。これが、 アニメ版14話で石丸を隠し球で討ちとる ヒカルのシーンのもとになっているのでしょう。今までいろいろとアニメ版へ の翻案に関して不平を述べてきましたが、ここは素直によかったと思える部分 です。
なぜか、7回の攻防が飛ばされて、いきなり8回に突入してしまっている のはご愛敬(笑)。(執筆時の、残り回数の計算ミスですね)
アニメ版26話の9回裏同様、身体の限 界に近付きつつも懸命に投げ続ける涼に、とうとうお嬢様のわだかまりも消え ていきます。倒れた涼をベンチまで運んだり、マウンドに立つ涼に拍手を送っ たりする関口は、「敵ながらあっぱれ」という描き方をされてますね。もう少 し悪役っぽい描き方をするのかと思っていました。(「悪役」ってのは変か。 「敵役」の方がしっくり来るかな)
そして、ついに力つき、サヨナラホームランを打たれると共に意識不明に 陥る涼。
「心搏が停止したそうです」と聞いて泉が「涼、ごめんなさい。私が、気 づいていれば」と悔やむシーンでは、さも「このまま死んじゃって終わり」と いう雰囲気を感じて一瞬びびりました(笑)。落ち着いて考えてみれば、BGM 集 CD Vol.1 やマンガ版3巻のあとがきから、そんなはずがないことは明らか なんですが。
涼の幻想シーンはアニメ版17話の元な んですね。アニメ版ではいろいろと要素が付け加えられて、この幻想シーンが 膨らませてありましたが、これは絵コンテの望月監督の功績かしら。
涼と、明応女子の野球能力の高さに感銘した天道寺が高野連加盟を請け負っ ています。最後まで協会加盟を認めようとせず頭の固い人物として描かれてい たアニメ版の会長と違って、原案小説では「それなりに、人格者ではある」と いう描写なんですね。
「プリ9」原案小説の公開に対して、関係者の皆様に改めてお礼申し上げ ます。いろいろなシーン・エピソードのかつての姿の数々に、「ここは、もと もとはこのようになっていたのか…」と、多くの興味深い思いを味わうことが できました。
第1巻の雑感を書いた時に述べたこの言葉を、再び掲げたいと思います。
多分私が生涯買う小説の中で、最も高価なものとなることでしょ う。でも後悔はしてません!!(笑)
そして…毎度毎度この話題ばかりで気が引けますが、しかしやはり続編の 制作を願ってやみません。折しも CS での放映で、ある程度まとまった数の新 たなファンが生まれた所でもあります。このチャンスを、小さいものながらも 何とか生かして欲しいものです。
CS で新たなファンが生まれたことからも予想されるように、「まだ、この 作品に触れていない」だけの潜在的ファンは、まだまだいるものと思います。 それらのファン層を開拓するためにも、地上波での再放送を切に願 う所です。
願わくば、この紛れもない「10年に 1本の傑作」が、1日も早く人々に認知され、その全貌を我らの前に現さんこ とを…!!「プリンセスナイン 如月女子高野球部」に栄光あれ!!