第17話 夢・・・

作画に関しては全26話中最上位に位置する回で、スタッフの意気込みが伝 わって来る回。ただ、肝心のストーリーの踏み込みは今一歩という感が拭えな い。個々の演出単体では、結構光る所の多い回なんだけど…。

ロゴ

この回から画面右上に小さく「BS2」のロゴが入るようになった。これはこ の前日あたりから NHK の衛星放送すべてに対してついたロゴである。おそら く ビデオ・LD 収録版では除かれているのだろう。

このロゴは見ている間かなり邪魔っけでしょうがなかったのだが、同様の 抗議は NHK にも多数寄せられたらしく、19話の頃 にはより目立たないデザインに変更されていた。

出番

放映前は「さて、今回は涼はずーっと昏睡状態っぽいから、長沢美樹さん は下手するとほとんど出番なしではないだろーか」と思っていたのだが、思い の外出番は多かった。回想シーンに結構出番があったためだが、涼の回想シー ンは、構成が割とがんばってつくってあって、おざなりにならなかった点は評 価したい。これは、絵コンテを切った望月監督の功績だろう。

ところで、前回女生徒役で出ていた3人のエ キストラは、今回はエンディングでクレジットされていなかった。という ことは、涼に助けられた2人の子供たちは、レギュラーの女優さんの誰かが担 当したということになるが、誰が演じていたのだろうか?私には解らなかった ので、お解りになった方はお知らせ願いたい。→ [2000,1/15] ほぼ判明しました。上掲ページ参照。

球場病院へ急げ!

高杉

志乃の所に高杉から連絡があったときのシーンをよく見てみると、木戸が 志乃に事情を説明して店の外に出た途端、桂子の車が通りかかっている。タイ ミングを考えると高杉は志乃よりも先に桂子に連絡をしたことになる。お前、 それは順番が違うだろう(笑)。

もちろんこれはテンポよく話を勧めていくための作劇上のテクニックであ り、あまり目くじらを立てるようなことではない。が、こういう細かい所に着 目しながら作品を鑑賞するのもファンの楽しみの一つであり、こういう作業を 通じて作品により深く愛着が持てるようになっていくものである。

寧々

寧々は相変わらず絶好調。

「マネージャーに、お・ま・か・せ」
「寧々のパパのルードヴィッヒ号を借りたんですぅ」
も凄かったし、スダレ頭の執事(どっから見ても日本人)に「セバス チャン」(!)などという呼び名を奉る、神をも恐れぬ図々しさも それに負けず劣らずインパクトがあった。このインパクトの前では、同じ執事 でも、桂子の柳田ごときは足元にも及ばない(って、何の勝負をしてるん だ?)。

なぜ!なぜ、「ルードヴィッヒ」に「セバスチャン」なのだ、寧々よ!? 今回もちゃっかりユキや真央よりもたくさんのセリフをゲットした寧々 は、何も答えてはくれない。ちっぽけな人間の努力を高みから見下すがごとく、 自信に満ちた笑みを顔面に浮かべるのみである…。

いずみ

涼に振られ(違う)、夜の町をさまよういずみ。心情としては、グレて不 良まがいのヤケクソな行動にでも身を任せたかった(別に変な意味ではない) のだろうが、やっぱり「お嬢様」だからそこまではふっ切れず、結局映画館で 「ゴヂラ」を見る、という極めて中途半端な行動で妥協してしまう。やはり、 やさぐれるにはまだ根性が足りないようだ。

そして、嵐の中、徒歩で山道を突進する、というコテコテな演出を採用し たのはやはり「プリ9」ならでは。ここまで解りやすくてストレートな演出は、 一歩間違えれば白けてしまう危険を孕んでおり、そう度々使えるものではない が、「プリ9」という作品の独特の雰囲気のおかげで、そういう事態は避けら れている。裸足になっちゃうのは何だかおかしいけど。

父との対話

涼と、涼の心の中の英彦の対話を描いたここの回想シーンは、演出上の小 技が冴えていた。望月氏も力を入れた所だろう。

まず、カメラがゆっくりとパンダウンして、涼と英彦が視界から外れかかっ た瞬間サッとパンアップし、「バッ!!」と照明が灯く、というタイミングが うまい。急に静から動へと移る心地よい効果により、視聴者をハッとさせ、注 意を引き付けることに成功している。

そして、繰り返し涼に投げるように促す英彦(ここでは英彦=涼の深層心 理だから、涼は本心から野球が嫌いになった訳ではなく、心の奥底では野球を 愛している、ということがちゃんと描写されている)が涼から少し離れ、そち らにパンしていったカメラが

英彦「それとも、今でもお父さんと互角に投げる自信はないのかな?」
というセリフとともに急に元の位置に戻る、というさっきと同じ演出を繰り返 し(印象の強化)、更に、つい今しがたまで子供の姿だった涼が、ユニフォー ム姿になっている、という技巧的な演出もなかなかのものだった。

涼の心のわだかまりが徐々にほぐれつつあることをセリフに頼ら ずにきっちり描く、という、前回も述べた演出の肝がきちんと実現 されている(ホント、こんな当たり前のことを特筆しなければならない現状は 情けないの一言に尽きる…)。

そして、
涼「子供扱いしないで」
と、ついに投げることを承諾する涼。その後のキャッチボールのシーンでは笑 顔も見せるようになり、英彦の件が徐々に自分の中で消化できつつあることが ちゃんと描かれている点はやはり評価したい。

クライマックス

英彦の疑惑に関する心の整理がつき始めたのとは裏腹に、いよいよ危篤状 態におちいる涼。ここでお嬢様登場。

いずみ「バカなこと言わないで!!」ドーン!!
おお、この鬼気迫る表情、いいぞ!さすが、「こわいひと」の面目顕如だ。こ の辺はやっぱし「ちいさいお友達」を完全に置き去りにしている感があり。や はり 1990 年台末の今この時期にアニメを作る、ということの意義を考えれば、 こうでなくてはいけない。(ところで、このやたら迫力のあるいずみが、今回 原画で参加した山下氏が担当したシーンだろうか?)。

そして、なぜかハダカになる涼(笑)に、チームメイトが次々と呼び掛け る。

小春「土佐からウチを引っ張ってきたがは、おまんじゃ。責任あるぜよ!」
うん、その通りだ。
陽湖「あたしもちゃんと練習するから!」
わはは、こりゃおかしい。陽湖というキャラにふさわしい、お似合いのセリフだ。
ユキ「フィーフィーちゃん、お願い。涼を、涼を助けて…!」
これがユキの今回唯一のセリフかな…?前回の予告でもおんなじようなセリフ があったし、川澄さんにとってはワンパターンでちょっとつまらなかったかも しれない。

そしてついに、心の中のわだかまりも完全に解消し、目を覚ます涼。ここ で、英彦に「お父さんは八百長なんてやっていないよ」などとはっきり言わせ なかったのは(当たり前のことだけど)お手柄。ここで重要なのは、「真相が はっきりしてなくても、涼が自分自身の力で問題を克服して立ち直ることがで きた」ということだから。前回いずみが言っていた通り。

さて、この最後の所は、もう少しクサく、ドラマチックに盛り上げて欲し かったところだ。誰かが言っていたことだけれど、いずみの必死の独白の合間 に心電図を捉えた短いカットを挟み込んで、いずみが

いずみ「帰って来なさい、涼!!!」
とか叫ぶと同時に、心電図に反応が復活する!という位のベタベタな展開はやっ て欲しかった。本編の展開だと、助かる見込みが急速に薄れつつあったはずの 涼が、「持ち直した」ことの描写が弱く、やや不満が残る。

「テレ」や「てらい」などの無用の長物は、この作品ではとうの 昔に放棄してしまっているのだから、今さらためらったりする必要はなかった のに、もったいないことである。

落ち穂拾い


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井汲 景太 <ikumikeita@jcom.home.ne.jp.NOSPAM.>(迷惑メールお断り)
最終更新日: 2000年4月22日