第14話 幻のイナズマボール

名作・第13話を引き継ぎ、後半13話の開幕を飾 る1本ですが、どうもいきなり作画が不安定です。松、重、辰の目が黒目の みってのは頂けません。これまでは、セルの部分はヘロヘロでも背景の部分は 大抵まともだったんですが…。

恐らく、前回特別に力を入れた分、今回は手が回らなくなってしまったの でしょう。すぐ後に17話というこれまた力を入れね ばならない回が控えていたことも影響してるんでしょうね。部分的には、しっ かりした作画のカットもあるんですが…(隠し球で石丸を討ち取ってにっこり するヒカルとか)。

加奈子大変身

いよいよ加奈子が正体を明かす時が来ます。二遊間の打球を取れずに、責 任を感じて落ち込みますが、しかしまあこのシーンの大げさな盛り上げ方と言っ たら!(笑)

「果てしなき闘い」を BGM に、青く変色した背景を背負って加奈子の一人 芝居の始まりです。

「私のせいだ…私がこんな恰好をしてたから、同点にされてしまった…」
手をぶるぶる振るわせるアクションまで付けて、徹底的にクサく、ドラマチッ クに盛り上げます。笠原さんの陶酔ぶりもお見事。おまけに、加奈子がメガネ を装着して顔を上げるシーンと、雲間が切れて太陽が顔を出すタイミングまで シンクロさせる念の入れよう(笑)。まさしく「プリ9」の本領発揮で、なん と、単にカツラを取るだけのシーンを延々30秒もかけて徹底的に盛 り上げます。

これで、「プリ9」を知らない人に紹介する時のキャッチフレーズが決ま りましたね。「ヅラを取るのに 30 秒かけるアニメ」これです。

「なあ、『プリンセスナイン』って知ってるか?」
「いや知らない。どんな作品なんだ、それ?」
「うん、それがすげえんだ。たかがヅラを取るだけのシーンに、なん と 30 秒もかけて盛り上げるアニメなんだぜ!!」
「………え?(何それ…)」
ダメだこりゃ…。

ちなみに、マンガ版では加奈子がカツラを投げ捨てるシーンはたった3コ マで済まされてしまっています。もちろんページ数の制約もあるんでしょうが、 やはり、あの苦悩ぶりを延々と描く暑苦しい描写が可能な作品というのは、そ うそうあるもんではありません(笑)。第1話から して異様なオーラを放っていたアニメ版「プリンセスナイン」だからこそ、そ れが可能だったと言えるでしょう。

それにしてもそれにしても、加奈子、どこに眼鏡しまってたの?尻ポケッ トとかだと守備の最中割れちゃうよ?(笑)

さて、「野球部に反対する校長の娘が素性を隠して野球部に加わっている」 というのは加奈子というキャラの最も重要な点(と言うか、加奈子にはキャラ クターとしてそれ以外の特性が与えられていなかった)ですが、今回、ついに それを放棄してしまいました。悪く言えば、これで加奈子は「野球がうまいだ けのただのおとなしい子」になってしまった訳です。そこで制作者側が加奈子 に与えた新たな役は、それまで誠四郎が担っていた「解説者役」のポジション でした。

実際、「中学時代名ショートとして知られていた」という設定を持つ加奈 子は野球知識の豊富な解説者役としてぴったりで、もう早速「それは、敵が涼 の配球を読み始めたからよ」と的確なフォローを始めています。

おかげで、この頃もはや解説者役としての出番しかなくなっていた誠四郎 がその座を追われ、作中での役割をついに失ってしまいます。この誠四郎とい うキャラは製作者側のキャラ設計の失敗の犠牲になったキャラで、おそらく本 来はストーリーの本筋にもっと絡んで来させるつもりで用意したキャラなので しょう。

ところが涼が恋愛面に関しては犯罪的と言えるほどまでに鈍く、しかもそ のくせ本心は初めから高杉一本槍に決まっていたため、結局誠四郎は意味のあ る形でストーリーに関わることが全く出来なかったんですよね。この点、高杉 の本心も涼一筋に決まっていたんですが、彼の場合いずみにもなぜか気を持た せるような言動が多かったことと、またいずみがお人好しの誠四郎と違ってア グレッシブな性格であったため、いずみはちゃんとストーリーラインに絡んで 来ることが出来た訳です。

製作者側が誠四郎というキャラを持て余していたことがはっきり解るのが 17話で、涼が生死の境をさまよっていたこの回に彼 はまったく登場できていません。岩永さんもお気の毒です。

さて話は変わりますが、理事長は「校長の娘が素性を隠して野球部に参加 している」という事情を知っていたんでしょうか?と言うか、知らないのは不 自然ですよね。校長も、やはりそう判断すると思うんです。そうすると、校長 にとっては、「自分が野球部に反対なのは知っているくせに、加奈子がいるこ とを知りつつシラを切っていたとは!」とメンツを潰された形になります。と ころが、15話以降でこの件で理事長や木戸に詰め寄 る全くなかったんですよねえ。ここがどうも不自然で、細かいことですがこの 辺りにも製作者側のしくじりが感じられます。

ピンチ継続中

秘密兵器「明応中との試合データ」をもとに本格的に涼を攻略し始めた臨 海大付属。ここでヒカルが見せてくれた相変わらずの業師ぶりは見事です。ま さかここで隠し球なんていう芸当まで見せてくれるとは!ここでまた、ヒカル のお気に入り度がグーンと急上昇です(笑)。その少し前の「ツーアウトツー アウト!」と檄を飛ばすシーンの元気のよさや、後の方の「お守りもたまには ええもんやねぇ」と感激するシーンのコミカルさもいいしね。って訳でやっぱ り、スタッフに好かれてるキャラだなあ、と思うのでした。

それだけに、作画がヘロヘロなのが残念です。

「確かに、うちらの守備は心許ないけど、一人相撲せんと、打たせて取ること を考えた方が楽やで」
といいセリフを言ってるのに、棒立ちで目も虚ろなんだもんなあ…。

もう少し作画の話を続けると、打席に向かう涼を見る志乃の目付きも、何 だか怖くて変です。目の回りの影の付け方がおかしいですね。同じ絵が、涼が 3塁に滑り込んだ後もう一度使われるのですが、繰り返されると違和感が強ま るので余計にちゃんと作画して欲しかった所です。

ところで、「おばさん、早川がやったよ!」に対する「ええ」ってのが今 回の島本さんの唯一のセリフでしょうか?この一言のためだけにスタジオに来 たのかしら(笑)。

苦戦、如月女子

練習を無断でさぼって応援に駆けつける高杉。そんなんでよくレ ギュラーを抹消されなかったもんだ(笑)……と思っていましたが、 24話を見ると、如月高校って打撃に関しては高杉の ワンマンチームみたいですね。それじゃどんな勝手な振る舞いをしても許され る訳だ(え?違う?)。

さて、ちょっと細かいことですが、いずみの「私と勝負した時のスタミナ は、そんなものじゃなかったはずよ」というセリフには「え?」と思いました。 いずみとの勝負では、涼は4球しか投げてないんですが…。確かにいずみとの 対決に向けて連日ハードな投げ込みをしていましたが、どこぞのゴルフ練習場 に籠って打撃練習をしていたいずみはそのことを知らないはずなんじゃ…。

反撃開始

苦戦しつつもなんとか追加点を与えずふんばる涼を助けるべく、如月女子 も攻撃の糸口を探そうと努力します。8回裏の攻撃はヒカルから。セーフティー バント狙いですが、球の行方を見て「完璧や」なんて自画自賛してるからアウ トになっちゃうの(笑)。「クッソー!」と悔しがってみても後の祭です。

小春の当たりも好守備に阻まれましたが、なんとかいずみが2塁打で出塁。 そして、ここぞというときの宇宙人パワー、ユキの出番です。

「フィーフィーちゃん、ユキに力を貸して」
とユキがフィーフィーちゃん人形をいじると、「ギュイーン、ギュイーン」と いう異様な効果音が発生します………電波の発信音か?倉橋さん教えて(笑)。

フィーフィーちゃんの導きで出塁したユキに続き打席に立った加奈子は、 見事に勝ち越し打を放ちます。前半のヅラをむしり取る展開をちゃんと加奈子 の責任感に結び付けて、うまく一本の流れにまとめたのは立派です。いずみが 意地を見せて2塁打を放つ展開ともうまくつながっており、ここもプリ9名演 出のひとつですね。マンガ版では、対明応中戦と対臨海付属戦が1つにまとめ られてしまったせいで、この加奈子の見せ場がなくなってしまったのがちょっ と残念。

めでたく勝ち越しを果たしたにも関わらず、「私はやるべきことをやった までよ」とお得意のセリフで涼を突き放すいずみ。舞台はいよいよ9回表へ。

イナズマボール見参

まずはオーバーラップする止め絵主体のシーンで、如月女子は無死満塁の ピンチに追い込まれます。細かいことですが、このシーン、2塁に殺人スライ ディングでランナーが入った後、ライトの陽湖が落球してますよね。2塁にラ ンナーがいる状態で、あんなフェンスぎりぎりで落球したりしたら、大抵は2 塁ランナーはホームまで帰れると思うんですが…。多分小春はかなりライト寄 りに守ってはいたんでしょうが、それでも、ねえ。

そしてついに、イナズマボールに開眼する涼。

「そうか!気持ちの乗った球は、少しくらいスピードが落ちても、打者から見 れば恐いはず。今の私に必要なのは、向かって行く姿勢と、気持ちだ!」
って、ええっ!?そんな島本和彦ばりの論理展開でいいの!?と混 乱しているこちらを尻目に、遂に本邦初公開、イナズマボールの 連続合成写真バンクシーンに突入します。 どひー!!この、ふた昔ほど前のロボットアニメ風の迫力のある作画が凄い!(笑) ああっ、何か、光の粒子が渦巻状の尾をひいているーっ!!と爆笑するうちに ボールはミットに収まります。あ、あの同心円状に広がる衝撃波もどきは何な んだーっ!投げ終わった直後の手足を伸ばした状態で固まってる涼も、「リン グにかけろ」でスーパーブロウを放ち終わったキャラみたいで笑えます。

どこがどう凄い球なのか、具体的にはまったく解らないイナズマ ボールの連投によって、ついに勝利を収める如月女子。できれば魔球に頼らな いストーリーを構成して欲しくはありましたが、何はともあれ高校野球協会へ の加盟が認められたのはおめでとう、です。宏之助の「あれがいい加減な気持 ちで試合してたように見えますかな」というセリフとともに、悔しがる臨海付 属のメンバーが写ったシーンには結構ジーンとしました。

という訳で甲子園への道のお膳立ては整ったんですが、このあとの数話がねえ…。父親の因縁云々は もっと軽く流して、予選での野球描写にもっと力を注いで欲しかった所です。


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井汲 景太 <ikumikeita@jcom.home.ne.jp.NOSPAM.>(迷惑メールお断り)
最終更新日: 2003年1月21日