このマンガは「何の必然性もなく繰り出されるパンツの嵐」や「どんな小さ なきっかけからでも発生する身体密着型アクシデント」を繰り返す、誰が見ても 立派なパンツマンガで、そのシチュエーションの余りの強引さや、そ れを平然と構築する手際のよさを「見所」として観賞するマンガでした。当然ス トーリーは2の次で、むしろ「いかに意外性のある、無茶苦茶な展開に持ち込む か」こそが重要だったわけです。
ストーリーマンガとしてはもう破綻しまくっていて、「後先考えずに思いつ きだけで行き当たりばったりにネーム切ってる」ことは、これまでの展開からはっ きりしています。一旦「友達宣言」し たはずの北大路を節操なく再参戦させたのは『先の展望』の読みが極めて杜撰で あることを表していますし、「その場凌ぎ」の白眉が合宿中の無人島の回や、 合宿から帰った直後の東西南北鉢合せ公園デートの回ですね。もう無内容を絵に 描いたような回で、ついに1エピソード内ですら整合性が保てなくなって発狂し ている回です。
………ところが終盤、作者はストーリーマンガを指向す るんですね。いや、それはそれで別に構わないんです。ちゃんとそれにふさわし い作りのマンガになっていさえすれば。だけどそれまでストーリーマンガとして は非常にお粗末な所を多々見せていたこの作者には無謀な試みで、以下に見るよ うに見事に馬脚が現れちゃっているんですよね。(だいたい、当初の予定を全面 変更して西野を真中の相手にしようなんていう無茶をするなら、 編集がブレー ンとしてしっかりストーリーをフォローしなくちゃいけないでしょうに、何をやっ ていたんでしょう?それとも、サポートしてなおあの水準なのか?)
まずひとつは、西野とくっつけるこ とにしたというのに、すっきりしないグダグダした展開を続けたこと。なぜ こんなラブコメパンツマンガで、そんな鬱展開を見せられなきゃいけないんだー! 「主人公が相手を選んだ」なら、ちゃんとそれにふさわしい展開ってものがある でしょ!?(笑)
もうひとつ顕著な失敗は、引き際を完全に間違えている点です。マンガの完 成度から言えば、最後の十数話は蛇足で、学園祭終了直後、真中と西野が一夜を 過ごした直後がきれいに終わる最大のチャンスだったんですよ。
確かに真中の成長や留学問題なんかはケリがついてないんだけど、でも東城 の本気告白を断った勢いで西野と一夜も共にしちゃっているから、ある意味「 ラスボスを倒した」状態になって いて、その辺りの問題点はすべて勢い任せでウヤムヤにできちゃう。(実際、あ の辺りの号は「錬金」「Waq」と立て続けに終わっていて、私はてっきり「ああ、 それじゃ来週『いちご』が終わって、3週連続連載終了で新連載陣の露払いをす るわけね」とばかり思っていました。その後、2週経っても3週経ってもまだ誌 面から去らない怪奇現象を目にして、もう自分の目が信じられません でしたよ(笑))
その「最大のチャンス」を棒に振ってまで続行したにもかかわらず、相 変わらずストーリーの整合性や一貫性を一切ほったらかしにしたまま、パンツマ ンガの方法論のまんま突っ走ったおかげで、 その後10話くらいの東城の 扱いは完全に迷走しているんですよね。勘弁してくれー!(笑)
それ以外にも終盤にはストーリーマンガとしては余りにお粗末な点が散見さ れます。例えば学園祭の前後の流れですが、 東城と真中の間に「結界」でも 作ったかのように(笑)接触・対話を断ち誤解を増幅させ、無理矢理西野とくっ つけさせた強引さを別にしても
………何なんですか、この杜撰きわまりない展開は。ま るで「合宿編以後、『最後は西野で行く』ことを最終的に決定した編集との打ち 合わせの中で、『今後しばらくの展開』の素案として仮組してみた 暫定プロット」を、まったく再検討もせずにそのままネームにしたか のような(笑)いい加減なストーリーです。
(この辺りは、最後 不本意に西野を最終ヒロインに 変更せざるを得なかったためにしっかりプロットを構築する気力が湧かなかっ たんじゃないか?…………というのは、やっぱり邪推に過ぎますかね。)
さらに、恋愛マンガに舵を切ったにしては、肝心の恋愛描写が妙におざなり です。別項で述 べたことの他にも、結局、西野再登場以降は「西野がひたすら真中にアタッ クを繰り返して、ハートを射止めました」というだけの、何の起伏もないつまら ん話になってしまっています。
大きな理由の1つは、真中―東城―天地という関係と違って、日暮が恋愛上 の壁としてほとんど機能してないことで、日暮が西野をちゃんと意識してモーショ ンかけたり、真中にちょっかい出してきたりする描写が全然ないんですよね。そ れらしきモノが匂わされたり、真中が早とちりでひとり相撲をとったりするだけ で(大草もほぼ同様で、一度だけWデートの回で西野にアプローチしていました が、それ以外は出番も極端に少なく、事実上「いてもいなくても同じキャラ」と 言うしかない存在でした)。ですから、西野視点での障害は、実質的に「東城の 存在」しかなかったんですよね( 「学校が違う」という障害は、西野再登場の経緯によって障害でなくなってしまっ たので)。
その唯一の障害はさすがに巨大だったので、それがちゃんと障害として機能 していれば、乗り越える過程を興味深いものとして描くこともできた可能性があ りました。だけど、実際にはご 都合に次ぐご都合で作者によって無力化されて全然機能していないので、達 成感には乏しいは、起伏がなくてノッペラボーだはで…。
もう1つ起伏がなかった理由を挙げると、本来なら東城にとっての向井のよ うに、西野の目の前で真中と接近する女子キャラが「障害」として存在するべき だったんですが、それがないんですよね。何しろ学校も塾も違うせいで、西野と 他の女子キャラの接点が非常に乏しい(西野と北大路が顔を会わせた回数なんて、 下手すると片手の指で足りるくらいしかないのでは?)。これも西野が学校や家、 バイト先なんかで「今頃、学校(塾)では淳平くんと東城(北大路・向井)さん が仲良くしてるんだろうな…自分は何て淳平くんと遠いんだろ」と思い悩んで落 ち込んだりしていればある程度は緩和でき、障害に転化することも不可能ではな かったはずなんですが、ここでもまた 「直接的内面描写がない」ことが足を引っ張っているというのが…。
とにかくこんな調子でストーリーの構築能力には多大な問題のある
人なので、どうも次回作以降が期待できません(笑)。「いちご」が長続きした
のは偶然に助けられた部分が大きいのでしょう。それだけに、最後をまとめ損なっ
たのはもったいないなあ、と思わされます。(編集にも問題あるよなー。次回作
(が、もしあるとしたら、だけど)からは、しっかりした原作者と
組ませてやるなり、サポート能力の確かな編集と交代してやるなりして、河下水
希には作画に専念できるような状況を作ってやんなよ)
[2007, 9/25] と思ったら、また原作なしでのジャンプでの新連載が決まっちゃ いましたよ!何て無謀なんだ!(笑)