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相対性理論

エナジー運動量テンソルはなぜ対称なのか・その2

\(\newcommand{\V}[1]{\boldsymbol{#1}}\newcommand{\barT}[1]{\underset{#1}{\bar{T}}}\newcommand{\Tzero}{\barT{0}}\newcommand{\Ti}{\barT{1}}\newcommand{\Tii}{\barT{2}}\newcommand{\Tiii}{\barT{3}}\renewcommand{\div}{\operatorname{div}}\newcommand{\U}{\bar{U}}\renewcommand{\d}{\tilde{d}}\newcommand{\volume}{\d t \wedge \d x \wedge \d y \wedge \d z}\newcommand{\Lie}{\mathcal{L}}\)

以前、エナジー運動量テンソル \(T^{ab}\) が対称テンソルになる事情についての記事を書いたが、この度この件について再度考えてみる機会があった。その結果、以前は気づいていなかったことにいくつか気づいた。(特殊)相対性理論についてちゃんと学んだ人ならばもしかしたらよく知っている当たり前の話かもしれないが、私にとっては結構新鮮な成果であり、また他所で見たことのない話でもあるので、興味のある方向けに紹介する価値はあるだろう、と思って公開してみる。

なお、内容的には8月頃までに大体到達していた話で、以下の内容も当時8割方書き終わっていたのだが、そこで入ってきた案件に12月までこういった活動の時間を充てなくてはならなくなったため、こうやって書き上げるまでにかなり時間がかかってしまった。

取り扱う話題は、以下のようなものになる。

  • \(T^{0i}=T^{i0}\) がなりたつことの意義
  • 連続分布する物質の重心(質量中心)と全運動量の関係
  • 熱力学第一法則 \(\Delta E = \delta Q – p\Delta V\) の、相対論での正当性。特に完全流体や平衡状態でない場合の考察。

なお、以下では、微分幾何の技法を積極的に活用する。特殊相対論に限定されているので曲率や接続は出てこず、大域的でフラットな座標系(慣性系)が存在し、異なる時空点でのベクトル(の成分)が平気で足したりできる…という点では微分幾何的には「易しい」計算しか出てこない題材なので、微分幾何の知識がある方には敷居は高くないだろう。その反面、添字の上下の使い分け、Lie 微分、微分形式とその積分、外微分といった微分幾何色の強い計算技法は遠慮なく使っていくので、微分幾何に接した機会のない方にはさっぱり計算が追えない話になってしまうと思う。これは、そうやって見通しよくすっきり計算を進められる所に意義がある話だと思うからと、あと、これを微分幾何を齧ってみるきっかけにしていただければ、という下心もちょっと働いている。「これは面白そうだ!こういう計算がすっきりできるなら、微分幾何というものを習得してみるのも悪くなさそうだ」と感じていただければ、私の目論見としては成功したことになる。私の狭い経験に限っても、微分幾何は相対論に限らず色々な場所で活用できる(電磁気、解析力学、熱力学、流体力学 etc…)ものなので、身につけて決して損にはならないはずだ。

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数学 相対性理論

エネルギー運動量テンソルはなぜ対称なのか

\(\newcommand{\V}[1]{\boldsymbol{#1}}
\newcommand{\order}[1]{\mathcal{O}(#1)}\)
エネルギー運動量テンソル \(T^{ab}\) の空間成分、あるいは応力テンソル \(\sigma^{ab}\) は、添字(の入れ替え)について対称になる。このことの物理的な理由は普通「トルクの釣り合い」によって説明されるようだ。が、この説明は実はちゃんとした説明になっていないんではないか…ということに、前回の話の考察をきっかけとして気がついた。

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数学 相対性理論

相対論のパラドックス2題

\(\newcommand{\V}[1]{\boldsymbol{#1}}\)

押した棒を離すパラドックス

だいぶ以前だが、相対性理論について面白いパラドックスを見かけたことがある。
極端大仏率Returns!“相対性理論はやはり間違っていた!”
これは非常に面白かった。「静止系では棒の加速はないはずなのに、運動系では加速が生じるはず。そして『加速のあるなしは慣性系の取り方によらない』のでこれは矛盾している」あるいは、「静止系では棒の速度は \(0\) のまま変わらないので、運動系でも速度は一定で変わらない。ということは運動量の変化もないはず。ところが運動系では \(0\) でない正味の力積を受け取っているので、前後での全運動量は変化しなければならない。これは矛盾している」というのは確かにパラドキシカルで、最初にこれを読んだ時にはかなり混乱して、なかなか解決に至らなかった。

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ε—δ 論法の逆襲!

\(\newcommand{\abs}[1]{\lvert #1 \rvert}\)
みなさんお馴染みの \(\varepsilon\)—\(\delta\) 論法。
\begin{equation}
\label{eq:epsilon-delta-1}
\text{どんなに小さな正の数$\varepsilon$に対しても、正の数$\delta$を適切に選べば、$0<\abs{x-a}<\delta$であるすべての$x$に対し$\abs{f(x)-b}<\varepsilon$がなりたつ}
\end{equation}
極限概念を精密化するためには必要不可欠な論法だ。「解りにくい論法」の代名詞的存在として槍玉に挙げられることも多いが、一度理解できてしまえば別にこれと言って難しくはない、ということもよくご存知だろう。度々接するうちにすっかりその用法に慣れ、自分でも数々の成果を導くくらいに習熟した、という方も多いはずだ。

だが人よ、忘るることなかれ。飼い慣らしたと思い込んでいた猛獣は、実は密かに爪を研ぎ、牙を剥く機会を眈々と狙っている(かもしれない)のだ!