\(\newcommand{\V}[1]{\boldsymbol{#1}}
\newcommand{\order}[1]{\mathcal{O}(#1)}\)
エネルギー運動量テンソル \(T^{ab}\) の空間成分、あるいは応力テンソル \(\sigma^{ab}\) は、添字(の入れ替え)について対称になる。このことの物理的な理由は普通「トルクの釣り合い」によって説明されるようだ。が、この説明は実はちゃんとした説明になっていないんではないか…ということに、前回の話の考察をきっかけとして気がついた。
例えば Misner, Thorne, Wheeler の「電話帳」こと Gravitation(以下 MTW。日本語訳は丸善出版より)の§5.7.(私の手許の版だと p.141)では、概略次のようになっている。
- \(1\) 辺の長さが \(L\) の小立方体を考える。
- その質量は \(T^{00}L^{3}\)、慣性モーメントのオーダーは \(T^{00}L^{5}\)。
- 周囲からの応力によって立方体に及ぼされるトルクを、空間座標の原点を立方体の中心に取って評価すると、\(z\) 成分は
\begin{align}
\tau^{z} &= \underbrace{(-T^{yx}L^{2})}_{\text{($+x$面の力の$y$成分})}
\underbrace{(L/2)}_{(\text{$+x$面への腕})} +
\underbrace{(T^{yx}L^{2})}_{(\text{$-x$面の力の$y$成分})}
\underbrace{(-L/2)}_{(\text{$-x$面への腕})} \notag\\
&\quad –
\underbrace{(-T^{xy}L^{2})}_{(\text{$+y$面の力の$x$成分})}
\underbrace{(L/2)}_{(\text{$+y$面への腕})} –
\underbrace{(T^{xy}L^{2})}_{(\text{$-y$面の力の$x$成分})}
\underbrace{(-L/2)}_{(\text{$-y$面への腕})} \notag\\
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-1}
&= (T^{xy}-T^{yx})L^{3}
\end{align}
となる。 - \(L\) を \(0\) に近づけると、トルクが減少するオーダーは \(L^{3}\) なのに、慣性モーメントのオーダーは \(L^{5}\)。よって、いくらでも小さい立方体が、いくらでも大きな角加速度を得ることになってしまう。そんなことはありえないから、\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-1}のトルクが消えるように\(T^{yx}=T^{xy}\) となっていなければならない。
他の文献に当たってみても、基本アイディアはどれも同じで、微小な立方体に対する周囲からの応力によるトルクを評価して、それが消えることを示そうとしている。この手の話では物体が平衡状態にあることを仮定するものも多く、それだと非平衡状態での対称性の証明にはならなくなってしまうので読むときは注意が必要だが、時間変化する項を残している議論でも、その影響は「体積力」と同等のオーダーで減少するから「面積力」による\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-1}のオーダーを下回って影響を及ぼさないため無視できる、という理屈で同じ結論に結びつけている。上の MTW の議論でも実は周囲からの応力以外の力によるトルクが計算に入っていないが、それは体積力v.s.面積力のオーダー評価の議論を暗黙のうちに割愛している、と解釈すべきなのだろう。
………しかし、前回の議論を経た上で改めて MTW を読み返してみると、あることが気にかかってくる。この説明は「内力によるトルク」を考慮していないのではないか?
もう少し詳しく述べる。上の 4. を読み返してみると、次の関係に立脚した議論になっている。
\begin{equation}
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-2}
\text{(慣性モーメント)} \times \text{(角加速度)} = \text{(トルク)}
\end{equation}
角運動量は大まかには \(\text{(慣性モーメント)} \times \text{(角速度)}\) だから、\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-2}の左辺はだいたい角運動量の時間微分だ。つまり\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-2}は、元を辿れば
\begin{equation}
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-3}
\frac{d}{dt} \text{(角運動量)} = \text{(トルク)}
\end{equation}
という式だ。しかし前回の考察で確認できたのは、\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-3}の関係では、右辺に置くべきトルクは「外力によるトルク」だけでなく「内力によるトルク」も含めなければいけない、ということだった。なのに\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-1}に現れているのは「周囲から及ぼされる力によるトルク」、つまり外力によるトルクだけだ。内力によるトルクはどうなっているのだろうか。もし内力によるトルクが、\(L^{3}\) のオーダーの寄与を持っていたりしたら、\(T^{yx}=T^{xy}\) と言える根拠があやふやになってしまう。より高次の寄与しか持たないなら無視しても安全なのだが。ここは一発、内力によるトルクのオーダーを真面目に評価しなければならない。
と、ここまで考えたところでハタと手が止まってしまう。微小立方体の内力によるトルクって、どうやって評価すればいいんだ?
普通に考えれば、物体の内力によるトルクというのは、その物体を細かく分割して離散化し、多体系と見なしてお互い同士に働く力に基づくトルクを足し上げ、分割を細かくする極限によって積分として表す…という手順で定義することになるだろう。しかし今考えている相手は、すでに無限小と見なす対象の微小立方体なのである。
もちろん、\(L \to 0\) の極限では内力によるトルクは \(0\)になるだろう。しかし、今の場合必要なのは \(L\) に関するオーダー評価なので、単に \(0\) という値を使ってしまうわけには行かない。その「\(0\) に収束する速度」が \(L^{3}\) のオーダーなのか、もっと高次のオーダーなのか、というのが今重要なポイントなのだ。したがって、単純に \(0\) として切り捨てるだけでは不十分で、もっと詳細な情報が必要になってくる。となるとこの微小立方体に関する積分によって内力によるトルクを評価する必要がありそうだ。しかしすでに微小立方体にしてしまった後で積分、というのは何だか話が堂々巡りしている感じで、何をどうすればいいのかよくわからなくなってくる。
改めて MTW の議論をじっくりと批判的に見つつ検討してみると、内力によるトルクが考慮されていないことのほかにも、どうも議論が怪しい点がいくつか浮かび上がってくる。
- 「もし \(T^{yx} \ne T^{xy}\) だと無限に大きな角加速度を持ってしまい物理的に破綻する」というのは本当か?物質が連続的に分布している場合の角運動量というのは、多体系の角運動量
\[ \V{L} = \sum_{i} \V{r}_{i} \times \V{p}_{i} \]
を連続分布に自然に拡張した
\begin{equation}
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-4}
L^{z} = \int (xT^{yt} – yT^{xt}) dxdydz
\end{equation}
(※ 次元を合わせるのが面倒なので \(c=1\) の単位系を使っている。以下もずっと \(c=1\) とする)で定義されるわけだが、これを時間微分した結果、\(T^{yx} \ne T^{xy}\) だと何か破綻が生じるのか?と考えてみると、これと言った破綻が発生する余地などないように思える。元が\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-4}という積分で表される式なので、その積分領域を限りなく小さくしたくらいで、何か現実の物理量が発散するようなことはまず考えられない。 - 慣性モーメントに基づく議論は適切なのか?慣性モーメント \(I\) というのは角速度 \(\V{\omega}\) と角運動量 \(\V{L}\) を結びつける量だが、それが意味を持つのは対象が剛体、ないし近似的に剛体と見なせる場合だけなのではないか。元々
\begin{equation}
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-5}
\V{L} = I\cdot \V{\omega}
\end{equation}
という関係なので、\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-3}から\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-2}が出てくるには \(I\) の時間微分が無視できるくらい小さくないといけない。その上、そもそもたった \(1\) 個の角速度 \(\V{\omega}\) で全角運動量 \(\V{L}\) が\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-5}のように表せるのも、全体が剛体的に「形を保ったまま、一斉に」動いている、という前提があってこそのこと。対象が液体や気体(あるいは、固体でもゆるい泥だったり粉の集まりだったりする場合)だと、こういった前提がすべて崩れてしまう。つまり、剛体(と見なせる場合)でないと、\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-2}に基づいて角加速度を云々するなんてほとんど無意味なのでは? - エネルギー運動量テンソルの空間成分を応力テンソルと同一視してるが、それでいいのか?例えば、相対性理論の教科書でエネルギー運動量テンソルの一番単純な例として最初に挙がる理想流体の場合
\begin{equation}
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-15}
T^{ab} = \rho u^{a} u^{b} + P(u^{a}u^{b}+\eta^{ab})
\end{equation}
(\(\eta^{ab}\) は Minkowski 計量)では、空間成分は
\[ T^{xy} = \rho u^{x}u^{y} + P u^{x}u^{y} \]
となって、「応力テンソルパート」からの寄与 \(P u^{x}u^{y}\) だけでなく \(\rho u^{x}u^{y}\) という項も含まれている。これは流れの場に沿った流体の自然な移動による運動量の輸送を表す項で、そういうものを含んでいる \(T^{xy}\) を、\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-1}でやっているように「\(+y\) 面を通じて及ぼす単位面積当たりの力の \(x\) 成分」とするのは正しくないのでは?\(T^{xy}\) が応力テンソルの成分と一致するのは、流体の局所静止系(運動量密度 \((T^{xt}, T^{yt}, T^{zt})\) が \(0\) になる慣性系)に限った話ではないのか?
(局所静止系で一致すればそれでいい、という見方には余り賛成できない。他の慣性系で \(T^{ab}\) が対称になるかどうか不明瞭になってしまうし、単色平面波の光の \(T^{ab}\) のように、光速で運動していて「局所静止系」というものがそもそも存在しない場合もありうるわけだから)
こうなったらやることはひとつだ。基本に戻って原理原則に従ってきちんと計算を追いかけるに限る。多体系の場合の角運動量とトルクの関係\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-3}は、角運動量の定義に戻り、運動方程式(基礎方程式)に基づいて時間微分をきちんと計算することで導出できたのだから、連続分布の場合もそれにならって\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-4}の時間微分を基礎方程式に基づいてきちんと計算してみよう。
積分で表された全角運動量の時間微分の計算
復習・全エネルギー運動量の計算
まずはちょっと復習しておこう。一般相対論まで行くと共変微分が顔を出してクリストッフェル記号がわらわら出現してしまい厄介だし、全エネルギー運動量を考える上での基礎になる慣性系も取れなくなるので、ここでの計算は特殊相対論止まりとしよう。\(x^{\mu}\) 等は慣性系での座標とする。するとエネルギー運動量テンソルに対しては
\begin{equation}
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-6}
\frac{\partial}{\partial x^{\nu}} T^{\mu\nu} = 0
\end{equation}
がなりたつ。\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-6}は全エネルギー運動量の保存を表す式になるが、そのことは次のようにしてわかるのだった。\(T^{\mu t}\) は \(4\) 元運動量密度だったから、
\[ P^{\mu} = \int T^{\mu t} dxdydz \]
で、適当な空間領域内の全エネルギー運動量 \((P^{t}, P^{x}, P^{y}, P^{z})\) が定まる。積分している空間領域が時間変化しないとすれば
\begin{align*}
\frac{d}{dt} P^{\mu} &= \int \frac{\partial}{\partial t} T^{\mu t}
dxdydz \\
&= – \int \frac{\partial}{\partial x^{i}} T^{\mu i} dxdydz \quad
(\because \eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-6}) \\
&= – \int_{S} T^{\mu i} dS_{i}
\end{align*}
(\(i\) は空間成分 \(x, y, z\) のみを走る添字で、やはり和の縮約規約を使う)となって、エネルギー運動量の流束 \((T^{\mu x}, T^{\mu y}, T^{\mu z})\) の表面積分が全エネルギー運動量の増減に一致している。これが意味するところは「\(4\) 元運動量は無から生じたり消滅したりはせず、空間領域の境界 \(S\) を通って出入りする分しか増減しない」ということで、全エネルギー運動量の保存を表している(ここで、「\(S\) を通って出入りする」というのは、エネルギー運動量を所持する流体(等)が実際に \(S\) を通過することによる分だけを言っているのではなく、領域外部に分布する物質から着目領域に与えられる応力や仕事に応じて注入される \(4\) 元運動量も合わせた勘定になっている。上で触れた通り、\(T^{xy}\) 等は応力テンソルの成分と流体の移動による運動量の輸送を両方含んだ量になっていることに注意)。
\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-6}では \(T^{ab}\) は「全物質の」エネルギー運動量であり、物質が A, B の2種類からなるときは
\[ T^{ab} = T^{ab}_{\text{A}} + T^{ab}_{\text{B}} \]
のようにそれぞれのエネルギー運動量の和となる。このとき\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-6}からは
\begin{equation}
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-7}
\frac{\partial}{\partial x^{\nu}} T^{\mu\nu}_{\text{A}} =
-\frac{\partial}{\partial x^{\nu}} T^{\mu\nu}_{\text{B}}
\end{equation}
が得られるが、A が主、B が従という立場に立つとき、\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-7}の右辺を \(f^{\mu}\) とおくと
\begin{equation}
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-8}
\frac{\partial}{\partial x^{\nu}} T^{\mu\nu}_{\text{A}} = f^{\mu}
\end{equation}
である。すると物質 A の全エネルギー運動量
\[ P^{\mu}_{\text{A}} = \int T^{\mu t}_{\text{A}} dxdydz \]
に対しては、上と同じように積分領域が時間変化しないならば
\[ \frac{d}{dt} P^{\mu}_{\text{A}} = – \int_{S} T^{\mu i}_{\text{A}} dS_{i}
+ \int f^{\mu} dxdydz \]
となる。右辺第 \(2\) 項より、物質 A には、境界面 \(S\) を通って出入りする分の他に、単位体積当たり毎秒 \(f^{\mu}\) だけのエネルギー運動量が供給されているから、\((f^{x}, f^{y}, f^{z})\) は A にはたらく単位体積当たりの力、\(f^{t}\) は A になされる単位体積当たりの仕事率である。
\(f^{\mu}\) は\(-\partial_{\nu} T^{\mu\nu}_{\text{B}}\) だったから、今のことは次のように解釈できる。全物質ではエネルギー運動量は保存しているから、B がエネルギー運動量を失うと反作用によって同量のエネルギー運動量を A は得て、その逆もなりたつ、という関係になっている。物質として A のみに着目し、他の物質はすべて外場(環境)と見なす場合は、\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-8}の \(f^{\mu}\) は単位体積当たりの外場による力(仕事率)、という意味を持つ量である。
本番・角運動量の計算
では角運動量の考察に入ろう。\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-4}ですでに顔を覗かせているように、空間領域内の全角運動量(の \(z\) 成分)は
\[ L^{z} = \int (xT^{yt} – yT^{xt}) dxdydz \]
によって定義される。これは、\(T^{xt}\) 等が運動量密度だったことを考えれば当然の式だろう(微小体積 \(dxdydz\) が持つ運動量の \(x\) 成分は \(T^{xt}dxdydz\) になるわけだから)。
これを MTW の §5.11. と同様に時間微分してみる。MTW では \(T^{ab}\) の対称性が前提になっているが、ここではそれを仮定せずに計算しよう。やはり積分領域が時間変化しないとすれば、
\begin{align}
\frac{d}{dt} L^{z} &= \int \biggl(x \frac{\partial}{\partial t} T^{yt} – y
\frac{\partial}{\partial t} T^{xt} \biggr) dxdydz
\notag\\
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-9}
&= -\int \biggl( x \frac{\partial}{\partial x^{i}} T^{yi} – y
\frac{\partial}{\partial x^{i}} T^{xi} \biggr) dxdydz \quad (\because
\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-6})
\end{align}
だが、ここで表面積分の項を作り出すため
\begin{align*}
x \frac{\partial}{\partial x^{i}} T^{yi} &= \frac{\partial}{\partial
x^{i}} ( x T^{yi} ) – \underbrace{\frac{\partial x}{\partial
x^{i}}}_{\delta_{i}^{x}} T^{yi} \\
&= \frac{\partial}{\partial x^{i}} ( x T^{yi} ) – T^{yx}
\end{align*}
等の変形を行えば
\begin{align}
\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-9}
&= -\int \biggl( \frac{\partial}{\partial x^{i}} (x T^{yi}) – T^{yx}
– \frac{\partial}{\partial x^{i}} (y T^{xi}) + T^{xy} \biggr) dxdydz \notag\\
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-10}
\therefore \frac{d}{dt}L^{z} &= -\int_{S} (xT^{yi} – yT^{xi}) dS_{i} +
\int (T^{yx} – T^{xy}) dxdydz
\end{align}
となる。これが、外場がない場合の全角運動量の保存の式である。
\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-10}の右辺第 \(2\) 項を無視すれば、これは「全角運動量の増減が境界を通って出入りする分と一致する」という式で、全エネルギー運動量の保存の式\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-3}と類似した式だ(ここでも \(xT^{yi} – yT^{xi}\) の表面積分の部分は、物質の自然な移動による角運動量の輸送と、着目領域外部から与えられるトルクの両方を含んでいる)。実際には右辺第 \(2\) 項があるため、\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-3}とはちょっと様子が違う式になっている。
外場がある場合に\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-10}がどうなるかも見ておこう。今度は\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-8}を使う。簡単のため添字 A は取ってしまい、「\(T^{ab}\) は外場の源の物質も含めた『全』エネルギー運動量テンソルではなく、着目している物質 A のみのエネルギー運動量テンソル(本来は「\(T^{ab}_{\text{A}}\)」のように書くべきもの)」という点に注意してフォローして欲しい。やはり物質 A の全角運動量は\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-4}で定義され、その時間微分は(積分領域が時間変化しないなら)次のようになる。
\begin{align}
\frac{d}{dt} L^{z} &= \int \biggl( x \frac{\partial T^{yt}}{\partial t} –
y \frac{\partial T^{xt}}{\partial t} \biggr) dxdydz
\notag\\
&= \int \biggl( x \Bigl(-\frac{\partial T^{yi}}{\partial x^{i}} +
f^{y}\Bigr) – y \Bigl(-\frac{\partial T^{xi}}{\partial x^{i}} +
f^{x}\Bigr) \biggr) dxdydz \notag\\
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-13}
&= -\int_{S} (xT^{yi} – yT^{xi}) dS_{i} + \int (T^{yx} – T^{xy}) dxdydz +
\int (x f^{y} – y f^{x}) dxdydz
\end{align}
\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-10}と比べて右辺に追加された \(\int (x f^{y} – y f^{x}) dxdydz\) は明らかに「外場によるトルク」を表している。
\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-13}を眺めると、先ほど触れた「内力によるトルク」が \(\int (T^{yx} – T^{xy}) dxdydz\) であるようにも思えるが、それは正しくない。後述するが、「実際の」エネルギー運動量テンソルは常に対称であるはずなので、実際の物質ではこの積分項は消えて
\begin{equation}
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-19}
\frac{d}{dt} L^{z} = -\int_{S} (xT^{yi} – yT^{xi}) dS_{i} +
\int (x f^{y} – y f^{x}) dxdydz
\end{equation}
となる。では内力によるトルクはどこに現れるのか。ちょっと脱線になるが、この問題をちょっと追究してみよう。
内力によるトルクのありか
前回の記事の回転レバーを題材に取ろう。慣性系 \(K’\) でレバーが回転しないように支える内力は、電磁場等の「内力を伝える物質場」が担っているのだった。したがって、ここでは以下の \(3\) つがエネルギー運動量に関わっている。
- レバーの構成物質
- 内力場
- レバーを押す「手」とレバーを支える支点
よって全エネルギー運動量テンソルはこの \(3\) 者のエネルギー運動量テンソルの和だ。
\[ T^{ab} = T^{ab}_{\text{レバー}} + T^{ab}_{\text{内力場}} +
T^{ab}_{\text{外力}} \]
したがって、外場による力 \(f^{\mu}\) には外力のみでなく内力場からの寄与もあり、
\begin{align*}
f^{\mu} &= f^{\mu}_{\text{外力}} + f^{\mu}_{\text{内力場}} \\
f^{\mu}_{\text{外力}} &= -\frac{\partial}{\partial x^{\nu}}
T^{\mu\nu}_{\text{外力}} \\
f^{\mu}_{\text{内力場}} &= -\frac{\partial}{\partial x^{\nu}}
T^{\mu\nu}_{\text{内力場}}
\end{align*}
となっている。したがって\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-19}はこうなる。
\begin{equation}
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-26}
\frac{d}{dt} L^{z}_{\text{レバー}} = -\int_{S} (xT^{yi}_{\text{レバー}} –
yT^{xi}_{\text{レバー}}) dS_{i} + \int (x f^{y}_{\text{外力}} – y
f^{x}_{\text{外力}}) dxdydz +
\int (x f^{y}_{\text{内力場}} – y f^{x}_{\text{内力場}}) dxdydz
\end{equation}
この最後の積分項が「内力によるトルク」を与えており、慣性系 \(K’\) でレバーが回転しないように押さえている。
ラウエの議論に沿うと
内力場のエネルギー運動量に由来する角運動量を全角運動量に含めることにすればラウエの議論に沿った形となる。
\[ f^{\mu}_{\text{内力場}} = -\frac{\partial}{\partial x^{\nu}}
T^{\mu\nu}_{\text{内力場}} \]
の関係を使えば内力によるトルクの項は次のように書き換えられる。
\begin{align*}
&\quad \int (x f^{y}_{\text{内力場}} – y f^{x}_{\text{内力場}}) dxdydz \\
&= \int \biggl( -x \frac{\partial}{\partial x^{\nu}}
T^{y\nu}_{\text{内力場}} + y \frac{\partial}{\partial x^{\nu}}
T^{x\nu}_{\text{内力場}} \biggr) dxdydz \\
&= – \frac{d}{dt} \int
\Bigl( x T^{yt}_{\text{内力場}} – T^{xt}_{\text{内力場}} \Bigr) dxdydz
– \int_{S}
\Bigl( x T^{yi}_{\text{内力場}} – y T^{xi}_{\text{内力場}} \Bigr)
dS_{i} + \int (T^{yx}_{\text{内力場}} – T^{xy}_{\text{内力場}}) dxdydz
\end{align*}
内力場のエネルギー運動量テンソルも、実際には対称のはずだからこの最後の積分項は消える。したがって、\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-26}を書き換えると次のようになる。
\[ \frac{d}{dt} L^{z}_{\text{tot}} = -\int_{S} (xT^{yi}_{\text{tot}} –
yT^{xi}_{\text{tot}}) dS_{i} + \int (x f^{y}_{\text{外力}} – y
f^{x}_{\text{外力}}) dxdydz \]
ただし、添字 tot はレバーと内力場の寄与を合わせた「全」角運動量、「全」エネルギー運動量を意味する(かぎ括弧つきの「全」なのは、外力の分は入ってないから)。
\begin{align*}
T^{ab}_{\text{tot}} &= T^{ab}_{\text{レバー}} + T^{ab}_{\text{内力場}} \\
L^{z}_{\text{tot}} &= \int \Bigl( x T^{yt}_{\text{tot}} – y
T^{xy}_{\text{tot}} \Bigr) dxdydz \\
&= L^{z}_{\text{レバー}} + L^{z}_{\text{内力場}}
\end{align*}
本題に戻って…
さて、MTW によれば、\(1\) 辺 \(L\) の微小立方体を考え、その中心に空間座標系の原点を取っておくと、\(T^{yx} \ne T^{xy}\) の場合にトルクや角運動量のオーダーが合わなくなって矛盾する、という話だった。先ほど導いた\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-10}\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-13}の右辺の評価を真面目に行って、その主張の妥当性を確かめてみよう。
今の想定では表面積分は \(x= \pm L/2\), \(y= \pm L/2\), \(z= \pm L/2\) の \(6\) つの面に対して行うことになり、\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-10}\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-13}右辺の第 \(1\) 項は次のようになる。
\begin{equation}
\begin{split}
& -\int_{x=L/2} (xT^{yx}-yT^{xx})dydz + \int_{x=-L/2} (xT^{yx}-yT^{xx})
dydz \\
& -\int_{y=L/2} (xT^{yy}-yT^{xy}) dxdz + \int_{y=-L/2} (xT^{yy}-yT^{xy})
dxdz \\
& -\int_{z=L/2} (xT^{yz}-yT^{xz}) dxdy + \int_{z=-L/2} (xT^{yz}-yT^{xz}) dxdy
\end{split}
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-11}
\end{equation}
このうち \(x=\text{const}\) 面からの寄与は
\begin{align}
&\quad -\int_{x=L/2}
\Bigl(
\frac{L}{2} T^{yx} -yT^{xx}
\Bigr) dydz + \int_{x=-L/2}
\Bigl(
-\frac{L}{2} T^{yx} – yT^{xx}
\Bigr) dydz \notag\\
&= L \int_{y=-L/2}^{y=L/2} y
\biggl(
T^{xx} \Bigl(x=\frac{L}{2}\Bigr) – T^{xx} \Bigl(x=-\frac{L}{2}\Bigr)
\biggr) dy \notag\\
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-12}
&\quad – \frac{L}{2} \times L \int_{y=-L/2}^{y=L/2}
\biggl(
T^{yx}\Bigl(x=\frac{L}{2}\Bigr) + T^{yx}\Bigl(x=-\frac{L}{2}\Bigr)
\biggr) dy
\end{align}
である。ここで、関数 \(f(x)\)(十分滑らかとする)に対し
\[ f \biggl( \frac{L}{2} \biggr) = f(0) + f'(0) \frac{L}{2} + \frac{f”(0)}{2}
\biggl( \frac{L}{2} \biggr)^{2} + \frac{f”'(0)}{3!}
\biggl( \frac{L}{2} \biggr)^{3} + \dotsb \]
となることから
\begin{align*}
f \biggl( \frac{L}{2} \biggr) – f \biggl( -\frac{L}{2} \biggr)
&= f'(0) L + \frac{f”'(0)}{3} \biggl( \frac{L}{2} \biggr)^{3} + \dotsb \\
f \biggl( \frac{L}{2} \biggr) + f \biggl( -\frac{L}{2} \biggr)
&= 2f(0) + f”(0) \biggl( \frac{L}{2} \biggr)^{2} + \dotsb
\end{align*}
となることを使うと、
\begin{align*}
\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-12}
&= L \int_{y=-L/2}^{y=L/2} y
\biggl( L \frac{\partial T^{xx}}{\partial x}(x=0) + \order{L^{3}} + \dots
\biggr) dy \\
&\quad – \frac{L^{2}}{2} \int_{y=-L/2}^{y=L/2} \biggl(2T^{yx}(x=0) +
\order{L^{2}} + \dots \biggr) dy \\
&= L \biggl(
L \frac{\partial T^{xx}}{\partial x}(x=0) + \order{L^{3}}
\biggr) \times
\underbrace{\int_{-L/2}^{L/2} y dy}_{\text{$L^{2}$のオーダーまで$0$}} +
\\
&\quad – L^{2} \biggl( T^{yx}(x=0) + \order{L^{2}} \biggr) \times L \\
&= -L^{3} T^{yx}(0) + \order{L^{5}}
\end{align*}
となる。
同様にして、\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-11}の \(y=\text{const}\) 面からの寄与は \(L^{3}T^{xy}(0)+ \order{L^{5}}\)、\(z=\text{const}\) 面からの寄与は \(\order{L^{5}}\) となるので、結局\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-10}の右辺全体の \(\order{L^{3}}\) の項は
\[ -L^{3} T^{yx}(0) + L^{3}T^{xy}(0) + L^{3}(T^{yx}(0)-T^{xy}(0)) = 0 \]
となって消える。よって MTW の言うようなオーダーの食い違いは発生しないことがわかった。
\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-10}\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-13}右辺の第 \(2\) 項 \(\int (T^{yx}-T^{xy})dxdydz\) は一見「全角運動量保存則」のためには邪魔になりそうな形をしているが、実際には表面積分から発生する\(\order{L^{3}}\) の寄与をちょうど打ち消して、等式全体を矛盾なく成立させるはたらきをしている、という点は面白い。
というわけで、\(T^{ab}\) の空間成分が対称でなくても、特に角運動量保存則との矛盾は発生しないことがわかった。おそらく、MTW の議論は誤りだ。
対称テンソルになる本当の理由は?
だとすると、新たな疑問が沸いてくる。エネルギー運動量テンソルの空間成分が対称になるのは、物理的にはどのように理由づけられるのだろうか?私には今の所次の説明しか思いつけていないが、後述のようにこれには不満がある。
- エネルギー運動量テンソルを、一般相対論での物質場の作用積分 \(S_{m} = \int \mathcal{L} \sqrt{-g} d^{4}x\) の、計量に関する汎関数微分
\[ T^{ab} = \frac{1}{8\pi G} \frac{1}{\sqrt{-g}} \frac{\delta S_{m}}{\delta
g_{ab}} \]
によって与えられるもの、と定義する。Einstein 方程式 \(G_{ab} = 8\pi G T_{ab}\) を最小作用の原理から導出されるものとして扱う場合はこれがエネルギー運動量テンソルの定義になる。こうすれば、計量 \(g_{ab}\) が対称であることによって、\(T^{ab}\) の対称性は定義から直接従う性質になる。 - MTW のように、まず、エネルギー運動量テンソルの時間-空間成分の対称性 \(T^{\mu t} = T^{t \mu}\) は、質量とエネルギーの同等性に基づいて認めてしまう(\(4\) 元運動量密度は常にエネルギー流束に等しい、ということを指導原理として認めるということ)。すると、任意の Lorentz frame に対してそれが成り立つことから、空間成分の対称性も数学的な帰結として従う。証明は平易なのでこの記事の最後に付けておく。
これらの理由から、エネルギー運動量テンソルは「実際には」対称でなければいけないことは確かだ…と私は思っている(少なくとも今の所は)。ただこれらの説明だと、相対性理論が前提となっていて、Newton 力学のレベルで応力テンソルが対称であることを説明できない、という欠点がある。(実際のところ、Newton 力学の現象論のレベルでは応力テンソルが対称でない場合もあるらしい。
https://www.gfd-dennou.org/arch/riron/renzoku/ouryoku/pub/ouryoku.pdf
の p.12 の注“物体が微視的な角運動量 s を持つ場合には〜応力テンソルは対称にはならない”
http://www.epii.jp/articles/note/physics/continuum/body_surface
の最後の辺り“応力テンソルは対称テンソルだと勘違いしてしまうような書き方をしている教科書が多くあります。ですが、必ず対称テンソルになるわけではなくて、そうならない場合もあるということを頭の片隅においておいてください。実際、英語版 Wikipediaには、〜”
http://hc2.seikyou.ne.jp/home/Tetsuo.Iwakuma/n1.pdf
の p.62 には“大きな変形を扱う場合に用いる応力テンソルには対称にならないもの(第1Piola-Kirchhoff応力 [162])も存在するし,偶応力や分布外力モーメントが存在する場合[58]には式(3.23)(引用者注・応力テンソルの対称性を主張する式)は成立しない”
おそらく、厳密な応力テンソルは対称なのだが、現象論的に「実効的応力テンソル」とでもいうものを導入すると記述上便利な場面があって、それは場合によっては非対称テンソルになることもある、というようなことではないかと思われる)
そのような場合でも、Newton 力学の基礎方程式上で何か回復不可能な破綻が発生するわけではない…ということが、上の一連の計算・解析で示されているのではないだろうか。そういうわけで、Newton 力学の範囲内だけで応力テンソルの対称性を基礎方程式(ないしそれに近い原理的なレベル)から導く道筋は、今の所私は見つけていない。
上の計算・解析は、出発点の\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-4}や基礎方程式\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-6}が相対性理論に由来するものなので「Newton 力学のレベルでは、応力テンソルの対称性は直接は出てこない」ということがまだ納得できない、という方もいるだろう。そこで、類似の計算・解析を Newton 力学に基づいて実行してみよう。
Newton 力学での再検討
今度は、Newton 力学での流体力学の基礎方程式を出発点とする。簡単に参照できる文献だと、応力テンソルは理想流体の場合に簡略化された形でしか載ってないことが多いが、“流体力学の基礎方程式”の(3.15)に一般の形で書いてあるのを見つけた。ここでは、本記事に合わせて次の形で書いておく。
\begin{equation}
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-14}
\frac{\partial}{\partial t}(\rho v^{i}) + \frac{\partial}{\partial
x^{j}}(\rho v^{i} v^{j}) = – \frac{\partial}{\partial x^{j}}
\sigma^{ij} + f^{i}
\end{equation}
ただし、\(\sigma^{ij}\) は応力テンソル(の成分)、\(f^{i}\) は外場による単位体積当たりの力(の成分)である。上の文献では「応力テンソル」の符号を普通と逆に取ってあるらしく、\(\tau^{ij} = -\sigma^{ij}\) と対応していることに注意。
\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-14}をベクトル方程式の形に書くため、\(i\) 方向の単位ベクトル \(\V{e}_{i}\) を導入すれば
\begin{equation}
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-16}
\frac{\partial}{\partial t}(\rho \V{v}) + \frac{\partial}{\partial
x^{j}}(\rho v^{j} \V{v}) = – \frac{\partial \sigma^{ij}}{\partial
x^{j}} \V{e}_{i} + \V{f}
\end{equation}
となる。\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-16}の両辺に左から \(\V{r}\) を外積すると
\begin{align}
\V{r} \times\frac{\partial}{\partial t}(\rho \V{v}) + \V{r} \times
\frac{\partial}{\partial x^{j}}(\rho v^{j} \V{v})
&= – \V{r} \times \frac{\partial \sigma^{ij}}{\partial x^{j}} \V{e}_{i}
+ \V{r} \times \V{f} \notag\\
\therefore \frac{\partial}{\partial t} \underbrace{(\V{r} \times \rho
\V{v})}_{\text{角運動量密度}} + \frac{\partial}{\partial x^{j}}(\V{r}
\times \rho v^{j} \V{v}) – \underbrace{\frac{\partial \V{r}}{\partial
x^{j}}}_{\V{e}_{j}} \times v^{j} \rho \V{v}
&= – \frac{\partial}{\partial x^{j}} (\V{r} \times \sigma^{ij}
\V{e}_{i}) + \underbrace{\frac{\partial \V{r}}{\partial
x^{j}}}_{\V{e}_{j}} \times \sigma^{ij} \V{e}_{i} + \V{r} \times \V{f}
\notag\\
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-17}
\frac{\partial}{\partial t} (\V{r} \times \rho \V{v}) +
\frac{\partial}{\partial x^{j}} (v^{j} \V{r} \times \rho \V{v}) –
\underbrace{\V{v} \times \rho \V{v}}_{\V{0}}
&= – \frac{\partial}{\partial x^{j}} (\sigma^{ij} \V{r} \times \V{e}_{i})
+ \sigma^{ij} \V{e}_{j} \times \V{e}_{i} + \V{r} \times \V{f}
\end{align}
よって、角運動量密度を \(\V{l} = \V{r} \times \rho \V{v}\) とし、\(\V{f}\) によるトルク密度を \(\V{\tau} = \V{r} \times \V{f}\) として\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-17}の \(z\) 成分を書くと
\begin{align*}
\frac{\partial}{\partial t} l^{z} + \frac{\partial}{\partial x^{j}}
(v^{j} l^{z}) &= – \frac{\partial}{\partial x^{j}} (\sigma^{ij} (\V{r}
\times \V{e}_{i})^{z}) + \sigma^{ij}(\V{e}_{j} \times \V{e}_{i})^{z} +
\tau^{z} \\
&= – \frac{\partial}{\partial x^{j}} (x\sigma^{yj} – y\sigma^{xj}) +
\sigma^{yx} – \sigma^{xy} + \tau^{z}
\end{align*}
となる。この両辺を空間領域上で積分すると、
\begin{equation}
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-18}
\int \frac{\partial}{\partial t} l^{z} dxdydz + \int_{S} l^{z} v^{j}
dS_{j} = – \int_{S} (x\sigma^{yj} – y\sigma^{xj}) dS_{j} + \int
(\sigma^{yx}-\sigma^{xy}) dxdydz + \int \tau^{z} dxdydz
\end{equation}
となる。積分領域が時間変化しないとすれば、左辺第 \(1\) 項は
\[ \frac{d}{dt} \int l^{z} dxdydz \]
と書けて、全角運動量(の \(z\) 成分)の時間微分である。左辺第 \(2\) 項は、速度 \(\V{v}\) による輸送により境界面 \(S\) から流出する全角運動量(の \(z\) 成分)を表しており、右辺第 \(1\) 項は応力(の反作用)によるトルク。右辺第 \(3\) 項は、外力によるトルクになっている。そして右辺第 \(2\) 項に、ここでも \(\sigma^{yx}-\sigma^{xy}\) の形の積分が現れた。これは、原点中心の微小立方体で考えると表面積分から出てくる \(\order{L^{3}}\) の項と打ち消し合う、という計算は先ほどとまったく同じだ。したがって、この場合も、\(\sigma^{ij}\) が対称でなくても理論上は別に矛盾は生じない。
なお、\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-14}は\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-8}からも導ける。エネルギー運動量テンソルとしては\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-15}を非理想流体に拡張した \(T^{ab}_{\text{A}} = \rho u^{a}u^{b} + \sigma^{ab}\) を使い、Newton 極限 \(\lvert v^{i}/c \rvert \ll 1\) を用いればよい。なので、上の解析は実は\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-4}から\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-10}を導いた時のものと本質的には同じものである。
わかったことをまとめておこう。\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-10}\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-13}\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-18}の右辺に「応力(の反作用)によるトルク」の表面積分以外に \(T^{yx}-T^{xy}\) や \(\sigma^{yx}-\sigma^{xy}\) の形の体積積分が現れて、それがちゃんとオーダーを合わせる効果を持っている…ということは、「物質が連続的分布を持っている場合の\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-3}の関係式で、応力(の反作用)からのトルクの寄与に表面積分の形を使ってよいのは、応力テンソル(やエネルギー運動量テンソル)が対称である場合の帰結として得られる事実に過ぎない」ということだ。テンソルの対称性を証明する根拠として\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-3}を持ち出すのは正当性がない。なぜならば、非対称である場合には基礎方程式から直接得られる\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-10}や\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-18}の右辺には表面積分項以外に \(T^{yx}-T^{xy}\) や \(\sigma^{yx}-\sigma^{xy}\) の体積積分項が現れて、それが表面積分項から現れる非対称項をちょうど打ち消すようになっているからだ。
別の言い方をすると、\(T^{yx}=T^{xy}\) や \(\sigma^{yx}=\sigma^{xy}\) を示すとき、「角運動量の保存」や「トルクの釣り合い」を持ち出す議論は、最初から\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-10}や\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-18}の右辺の \(T^{yx}-T^{xy}\) や \(\sigma^{yx}-\sigma^{xy}\) の項がないと決めつけてしまっているのと同じことになっていて、循環論法に陥ってしまっている、ということだ。
連続分布する物質のトルクは特殊な評価が必要
なぜ、物質が連続分布する場合は質点が多数ある場合の式\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-3}がそのまま素直に拡張されずに\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-10}のように \(T^{yx}-T^{xy}\) の項が発生するのか、というのは不思議な点だ。この点をうさん臭く感じる方も多いだろうし、私もかなり疑問に感じたのだが、色々考えた結果、応力(の反作用)の特殊性から、連続分布の場合は「応力(の反作用)に由来するトルクについては、普通とちょっと扱いを変えなければいけないらしい」ということがわかってきた。
物質が連続分布しているとしよう。応力テンソル \(\sigma^{ij}\) は場所の関数として不連続に変化したりせず、十分滑らかだとする。よって、物質内の仮想切断面の向きを固定すると、応力場 \(\V{F}\) は滑らかに変化する。このとき、微小領域の向かい合う境界で、周囲から応力(の反作用)として及ぼされる力はほぼ \(\V{F}\), \(-\V{F}\) というペアで、\(0\) 次近似では偶力である。\(1\) 次の微小量まで考えてもうちょっと詳しく見ると、微小に離れた \(2\) 点 \(\V{x}\), \(\V{x} + \Delta \V{x}\)に周囲から及ぼされる力は \(\V{F}\), \(-\V{F}+\Delta \V{F}\) のように書けるが、これらによるトルクは
\begin{equation}
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-20}
\V{x} \times \V{F} + (\V{x} + \Delta \V{x}) \times (-\V{F} +
\Delta \V{F}) = \V{x} \times \Delta \V{F} – \Delta \V{x} \times \V{F}
\end{equation}
となる(\(2\) 次以上の微小量は無視した)。一方、MTW の議論はトルクを \(\Delta \V{x} \times (-\V{F})\) と評価していることに当たるが、MTW では原点を着目点に取っていて \(\V{x}=\V{0}\) としているので\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-20}に合致している。では、運動方程式から「角運動量の時間微分」を計算したとき、応力(の反作用)の寄与から出てくるのは果たして\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-20}と一致する量なのだろうか。
運動方程式は\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-14}と書けていて、応力テンソル \(\sigma^{ij}\) は右辺に \(-\partial_{j} \sigma^{ij}\) という形でのみ現れる。よって位置ベクトル \(\V{x}\) との外積を取り、その成分を取り出すと
\begin{equation}
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-21}
-x^{i} \frac{\partial}{\partial x^{k}} \sigma^{jk}
\end{equation}
の \(i\), \(j\) を反対称化した形が現れる。\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-21}に微小体積 \(\Delta x \Delta y \Delta z\) をかけると \(-x^{i} \partial_{k} \sigma^{jk} \Delta x \Delta y \Delta z\) だが、\(k\) に関する和のうち例えば \(k=x\) の項を取り出すと
\begin{align*}
-x^{i} \frac{\partial}{\partial x} \sigma^{jx} \Delta x \Delta y \Delta
z &= -x^{i} (\sigma^{jx}(x+\Delta x) – \sigma^{jx}(x)) \Delta y \Delta
z \\
&= -x^{i} \Bigl( \underbrace{\sigma^{jx}(x+\Delta x) \Delta y \Delta z –
\sigma^{jx}(x) \Delta y \Delta z}_{\text{微小に離れた2点での応力の差}} \Bigr)
\end{align*}
となっていて、\(i\), \(j\) についての反対称化を行えばこれは\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-20}の \(\V{x} \times \Delta \V{F}\) に相当する項である。\(- \Delta \V{x} \times \V{F}\) に相当する項は出てこない。これは何を意味するかと言うと、「全角運動量の時間微分の式では、応力(の反作用)からの寄与は\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-20}のような素朴なトルクを使うのは誤りである」ということになる。
なぜそんなことになるのか?前回の記事で「全角運動量の時間微分の式では、トルクはすべて合算しなければならない」と強調していたというのに、なぜここでは「ちゃんとした」トルク\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-20}ではなく \(\V{x} \times \Delta \V{F}\) という「不完全な」パーツだけを使うなんていう首尾一貫しない扱いが正しい、なんていうことになるのか?
その理由は、運動方程式\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-14}で応力(の反作用)が \(-\partial_{j}\sigma^{ij}\) という微分された形「のみ」で含まれていることに求められる、というのが私の辿り着いた答だ。この項は、微小体積 \(\Delta x \Delta y \Delta z\) をかければ \(-\partial_{j}\sigma^{ij} \Delta x \Delta y \Delta z\) となり、\(j\) に関する和のうち例えば \(j=x\) の項を取り出すと
\[ – \frac{\partial}{\partial x} \sigma^{ix} \Delta x \Delta y \Delta z =
– \Bigl( \sigma^{ix}(x+\Delta x) – \sigma^{ix}(x) \Bigr) \Delta y
\Delta z \]
で、これは微小体積の表面に及ぼされる応力(の反作用)の合力 \(\Delta \V{F}\) に相当する。合力にまとめる前のそれぞれの作用点が微小変位 \(\Delta x\) だけ隔たっているという情報はこの式のどこにも入っておらず、作用点は微小体積の中心に集中していると解釈するべき式になっていることに注意しよう(\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-14}に \(\sigma^{ij}\) が「最初から微分された形」\(-\partial_{j}\sigma^{ij}\) で入っているので、力の作用点の微小な違いに関する情報は落ちてしまっており、同一の代表点に集中して働いていると見なすしかないのだ)。そして、そのような式\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-14}こそが全角運動量の時間微分を決定するのだから、そこで出てくるトルクは作用点の微小な違いを計算に入れてしまった\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-20}を使うのは正しくなく、「微小体積のひとつの作用点に \(\Delta \V{F}\) という力が集中して働いている」と見なして作ったトルク \(\V{x} \times \Delta \V{F}\) を使うのが正しい、という結果になるわけだ。
どうして内力では「より精密な」見方をしたトルク\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-20}を使うと正しい結果が得られず、「粗く」見た \(\V{x} \times \Delta \V{F}\) の方を使わないといけないのか、というのは不思議に感じるが、その理由はおそらくこういうことではないだろうか。微分にしろ積分にしろ、「微小要素に分けて」分析する、という物理・数学での常套手段は、「十分狭い領域では、物理量は一定と見なせる」という原則に基づいた方法論だ。ところが、「応力(の反作用)」というのは、微小に離れた \(2\) 点にはたらく力が \(\V{F}\) と \(-\V{F}\) という丸っきり別のものだ。普通の物理量だったら、微小に離れた \(2\) 点での値は \(\V{F}(\V{x})\) と \(\V{F}(\V{x} + \Delta \V{x})\) という具合にごく近い値になるはずだが、応力(の反作用)の場合はそこがはっきり違っている(\(\Delta \V{x}\) をいくら小さくしても \(0\) 次近似が一致しない)。このため、応力(の反作用)については普通の微小解析の感覚で扱ってしまうと成立しないことが起こり得て、それがこの記事で見てきた一連の事態をもたらしている…というのが今の所の私の見立てだ。
したがって、外力に対してはトルクに関し同様な「特別な配慮」は必要ない。「十分狭い領域では一定と見なせる」わけだから通常の微小解析がそのまま使えるはずだし、実際運動方程式\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-14}に基づく解析でも、\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-17}のようにごく普通の形 \(\V{r} \times \V{f}\) でトルクを扱えばそれでよかった。
付録: 時間-空間成分の対称性から空間成分の対称性を導く
最後に、上で触れた数学的証明を置いておく。
【定理】 \(T^{ab}\) は時間-空間成分がどの Lorentz frame でも対称なテンソルとする。つまり、
\[ T^{\mu t} = T^{t \mu} \quad (\mu = t,x,y,z) \]
がどの慣性系でもなりたつ。このとき、\(T^{ab}\) の空間成分も対称である。つまり、
\[ T^{ij} = T^{ji} \quad (i,j = x,y,z) \]
である。
【証明】Lorentz 変換の変換行列を \({\Lambda_{\mu}}^{\mu’}\) と書くと
\[ T^{\mu’\nu’} = T^{\mu\nu} {\Lambda_{\mu}}^{\mu’}
{\Lambda_{\nu}}^{\nu’} \]
だから、\(T^{\mu\nu}\) を成分とする \(4 \times 4\) 行列を \(\V{T}\) などと書くと、行列の成分表示は
\[ \V{T}’ = ^{\text{T}}\V{\Lambda} \V{T} \V{\Lambda} \]
となる(\(^{\text{T}}\V{\Lambda}\) は転置行列を表す)。
ここで
\[ \text{$\V{T}$の時間-空間成分が対称} \iff \text{$^{\text{T}}\V{T}-\V{T}$の時
間-空間成分が$0$} \]
だが、\(^{\text{T}}\V{T}-\V{T}\) が反対称行列であることからさらに
\begin{align}
&\iff \text{$^{\text{T}}\V{T}-\V{T}$のいちばん左の列が$\V{0}$} \notag\\
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-22}
&\iff (^{\text{T}}\V{T}-\V{T})
\begin{pmatrix}
1\\0\\0\\0
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
0\\0\\0\\0
\end{pmatrix}
\end{align}
となる。仮定により \(\V{T}’\) もこの形の式をみたす行列だが、\(^{\text{T}}\V{T}’ = ^{\text{T}}\V{\Lambda} {}^{\text{T}}\V{T} \V{\Lambda}\) により
\begin{equation}
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-23}
^{\text{T}}\V{T}’ – \V{T}’ = ^{\text{T}}\V{\Lambda} (^{\text{T}}\V{T} –
\V{T}) \V{\Lambda}
\end{equation}
である。
仮定により \(\V{T}\) は\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-22}をみたす行列で、\(\V{T}\) の空間成分の \(3\times 3\) 行列を \(S\) とおくと
\[ ^{\text{T}}\V{T} – \V{T} =
\begin{pmatrix}
0 & \V{0} \\
\V{0} & ^{\text{T}}S – S
\end{pmatrix}
\]
となる。
\(^{\text{T}}S – S=A\) とおく。Lorentz 変換として、\(x\) 軸方向の Lorentz
boost をとって \(\V{\Lambda} = \begin{pmatrix}
\cosh \alpha & \sinh \alpha & & \\
\sinh \alpha & \cosh \alpha & & \\
&& 1 & \\
&&& 1
\end{pmatrix}\) とおく。\(^{\text{T}}\V{\Lambda} = \V{\Lambda}\) である。すると\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-22}を \(\V{T}’\) に対して使い、\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-23}を利用すると
\begin{equation}
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-24}
\V{\Lambda} (^{\text{T}}\V{T} – \V{T}) \V{\Lambda}
\begin{pmatrix}
1\\0\\0\\0
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
0\\0\\0\\0
\end{pmatrix}
\end{equation}
である。
\(\cosh\alpha=c\), \(\sinh\alpha=s\) とおけば
\[ \V{\Lambda}
\begin{pmatrix}
1\\0\\0\\0
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
c \\ s \\ 0 \\ 0
\end{pmatrix}
\]
ゆえ
\begin{equation}
\label{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-25}
(^{\text{T}}\V{T} – \V{T}) \V{\Lambda}
\begin{pmatrix}
1\\0\\0\\0
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
0 & \V{0} \\
\V{0} & A
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
c \\ s \\ 0 \\ 0
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
0 \\ A
\begin{pmatrix}
s \\ 0 \\ 0
\end{pmatrix}
\end{pmatrix}
\end{equation}
である。
よって\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-24}\eqref{eq:symmetry-of-energy-momentum-tensor-25}から
\[ \V{\Lambda}
\begin{pmatrix}
0 \\ s A
\begin{pmatrix}
1\\0\\0
\end{pmatrix}
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
0\\0\\0\\0
\end{pmatrix}
\]
で、\(\V{\Lambda}\) の逆行列をこの左からかければ \(s A \begin{pmatrix}
1\\0\\0
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
0\\0\\0
\end{pmatrix}\) が得られる。\(s=\sinh\alpha\) は任意だから、結局
\[ A
\begin{pmatrix}
1\\0\\0
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
0\\0\\0
\end{pmatrix} \]
すなわち、\(A\) のいちばん左の列は \(\V{0}\) である。
\(y\), \(z\) 方向の Lorentz boost をとれば \(A\) の第 \(2\) 列、第 \(3\) 列でも同じことが言えるので、結局 \(A= {}^{\text{T}}S-S\) はゼロ行列。よって \(^{\text{T}}S = S\)、すなわち\(\V{T}\) の空間成分は対称行列である。\(\square\)
今の話は1つの時空点での正規直交基底の取り替えしか扱っていないので、一般相対論でもそのまま通用する証明になっている。
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