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ガロア理論 数学

ガロア理論入門ノートについて・その10

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以下の文章で、「本文書」というのは「ガロア理論入門ノート」のことを指す。

■ p.31 まず注意することは、ここで「方程式が代数的に解ける」と言っているのは、前回の記事の用語の用法では「解が存在する」の方の意味、つまり「べき根拡大を繰り返した体の『どこかには』解がある(けど具体的にそれがどこかにはまったく言及していない)」というだけだ、ということである。これは、前回の記事での「解ける」の方の意味、つまり「解がべき根を使った式で具体的に表せる」ということまで言っているわけではない、という点に注意しよう。

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「解がある」と「解ける」の違い

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「解の公式の有無」を考えるときに気をつけなければならないことの1つが「解がある(存在する)」と「解ける(解が表せる)」の違いだ。

代数学の基本定理により、「どんな方程式も、複素数の範囲内に必ず解を持つ」ことは保証されている。これと、「\(5\) 次方程式の解の公式がない」ということは一見すると矛盾しているように感じる人が多いだろう。

代数学の基本定理が言っているのは「\(5\) 次方程式だろうが \(100\) 次方程式だろうが、どんなに次数の高い方程式も、複素数 \(\C\) の中の『どこかには』必ず解がある」ということ(だけ)であって、「それは具体的にどこなのか」という値については何も教えてくれない。

「5次方程式には解の公式はない」というのは、「解自身は『どこかには』絶対あるのだけれど、それを四則演算及び \(\sqrt{~~}\), \(\sqrt[3]{~~}\) といったべき乗根による具体的な表式で表すことができるか、と言えばそれは別問題」という話である。易しい5次方程式の中にはそれが可能であるものもあるけれど、複雑になってくると最早不可能になる、というのが「5次方程式には解の公式はない」という話の意味するところだ。

まとめると、「複素数 \(\C\) の中に解はあるけど、それを具体的に表す式を作ることはできない」ということになる。

さて、ここからが本題。ガロア理論の中では、これと類似の違いに注意すべき場面なのに、多くの通俗本や web 上の記事ではそのことに無頓着なのではないか…?と私が感じている箇所がある。別にガロア理論に関する通俗本や web 記事を網羅的に調べたわけでは全然ないけれども、私の狭い範囲の経験の中では、今から述べることに注意を払った説明は見たことがない。

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ガロア理論入門ノートについて・その9

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以下の文章で、「本文書」というのは「ガロア理論入門ノート」のことを指す。

■ p.29 補題32 主張の書き方がちょっとよくなくて、初見では正しく意図を理解するのが困難になってしまっている。本来の意図は

「\(\forall\theta\in L
\left[
\sum_{i=1}^{n} \alpha_{i}\sigma_{i}(\theta)=0
\right]\)」をみたすような \(\alpha_{i}\) は \(\alpha_{1}= \dots = \alpha_{n} =0\) のみに限られる

ということなのだが、普通に読むと、「\(\theta \in L\) を任意にひとつ固定すると、\(\sigma_{1}(\theta), \dots, \sigma_{n}(\theta)\) は \(L\) 上1次独立」という感じに読めてしまう。これだと \(\theta=0\) の場合に簡単に破綻するので、「そうではない」ということはすぐわかるのだが、改訂前の文書では現在残っているミスプリ(後述)だけに留まらない結構痛いミスプリがあったせいもあって、最初は手さぐり状態で正しい意図を読み取るのに苦労した。
■ そういうこともあるので、ここでは補題32・定理33の流れについての大まかな見通しを先に紹介しておく。まず定理33は、大雑把に言うと「べき根拡大 \(\fallingdotseq\) 巡回拡大」ということを証明している。そして補題32はその中で「巡回拡大は(ある条件のもとで)べき根拡大になる」ということを言う部分でのみ使われており、しかもそこで使われている形は

\(\theta\) をうまく選べば
\[ \theta + \zeta^{n−1}\sigma(\theta)+ \dots +
\zeta^{n−i}\sigma^{i}(\theta) + \dots + \zeta \sigma^{n−1}(\theta) \ne 0 \]
がなりたつようにできる

という弱い形になっている。(つまり、補題32の対偶で

\((\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}) \ne (0, \dots, 0)\) なら、\(\theta \in L\) の中には \(\sum_{i=1}^{n} \alpha_{i}\sigma_{i} (\theta) \ne 0\) をみたすものがある

がなりたつので、特に \((\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}) = (1, \zeta^{n-1}, \dots, \zeta)\) としてそれを利用している)

本文書で補題32を使っている箇所は他にないので、補題32はこの弱い形を示せさえすれば十分なのだが、そうした所で特に証明が簡単になるわけではない(恐らく)ので、実際に掲載されているような形で述べられているのだろう。

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ガロア理論入門ノートについて・その8

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\)
以下の文章で、「本文書」というのは「ガロア理論入門ノート」のことを指す。この記事は、blog 移転に際して、後から気づいたことを反映して全面的に書き換えた。

ガロア理論では、「べき根による解の公式がない」という証明中の主定理は「べき根で解ける方程式では、ガロア群は必ず可解群になる」という内容だ(本文書では定理37前半)。この主定理と「ガロア群が可解群にならない方程式がある」という事実を組み合わせることにより、証明が完成する。そして主定理では、「方程式がべき根で解ける」ということの定式化は「べき根の添加による拡大を有限回繰り返した体に最小分解体が包含される」という形で行われるのだが、この記事ではその「べき根の添加による拡大」の定義の詳細に注意を向ける。

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ガロア理論入門ノートについて・その7

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以下の文章で、「本文書」というのは「ガロア理論入門ノート」のことを指す。

この辺りから、私も「一度は読んで理解したけど、ソラですらすら再現するのは怪しくなってくる」ような部分に入っていく。変なこと・誤りを書いていたりしたらご容赦のほどを。

■ p.27 定理30 証明1行目の「\(M \subset \mathcal{I}\)」の「\(\subset\)」は「\(\in\)」の誤り。3行目の「\(G \subset \mathcal{F}\)」も同様。
■ p.27 定理30 証明の始めで、\(L^{G}=M\) が明らかとされているが、私には \(L^{G} \supset M\) こそ明らかだったものの「\(\subset\)」が明らかでなくて最初は困った。

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ガロア理論入門ノートについて・その6

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以下の文章で、「本文書」というのは「ガロア理論入門ノート」のことを指す。

■ p.26 定理29 「単純拡大」の定義が書いてないが、文脈からすると 1 個の数を添加するだけの拡大をそう言うのだろう。
■ p.26 定理29 \(c\) を選ぶ所で、\(i\) が \(2\) 以上となっているが、\(i=1\) も含めておかないと以下の話が破綻する(\(i=1\) も含めておかないと \(c=0\) でもいいことになってしまうが、そうすると \(\tilde{g}\) がゼロ多項式になってしまい、\(h\) と \(\tilde{g}\) の共通根が \(\zeta\) のみにならない)。

なお、この部分については志賀本の p.142 の、次の書き方の方が平易な書き方でいいと思う(文字の使い方は本文書に合わせて修正してある)。

\(K\) の数 \(c\) を適当に定めて、\(mn\) 個の数
\[ \eta_{i} + c\zeta_{j} \quad (i=1,2,\dots,m; j=1,2,\dots n) \]
はすべて異なるようにすることができる。これは有限個の1次方程式
\[ \eta_{i} + x\zeta_{j} = \eta_{i’} + x\zeta_{j’} \quad (j \ne j’) \]
の解以外の値を \(c\) としてとっておくとよい。

これだと、何をやっているのか非常に明確。

※ 「選ぶ」というのは \(K\) が無限体なら当然できるが、もし有限体だと選べることも自明ではなくなりそうなので、ここでも標数 \(0\) に限っていることが効いていると思われる。
■ p.26 定理29 本筋には全然影響しない話だが、本文書では「最小多項式」と言っただけでは最高次の係数は \(1\) とは限らないので、\(g(X)\), \(h(X)\) を定義するときに「最高次の係数は \(1\)」を追加するなどしておいた方がよいだろう。\(f(X)\) についても同様。
■ p.26 定理29 \(g\) の真上に付くはずのチルダ「~」が横にずれてしまっている。ここ以降もそういう箇所が何ヶ所か見られる。

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ガロア理論入門ノートについて・その5

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以下の文章で、「本文書」というのは「ガロア理論入門ノート」のことを指す。

■ p.25 定理26 「\(\implies\)」の証明
\(f_{i}(X)\), \(f(X)\) を1次式の積に因数分解した式の小文字の \(x\) は大文字の \(X\) が正しい。
■ p.25 定理26 「\(\impliedby\)」の証明
ここが本文書を読む上で(私が)一番苦労した所だった。理由は何点かある。

まず、「\(f(X)=\Irr(\alpha,K)\) の \(L\) の最小分解体」という部分だが、ここで \(\Irr(\alpha,K)\) を \(f(X)\) とおくのは非常に紛らわしい…と言うか、はっきり言って誤り。「\(\impliedby\)」の仮定の \(f(X)\) も、この後で出てくる \(f(X)\) も \(\Irr(\alpha, K)\) とは別のものである(なのでこの文書を読み始めた頃はここの議論は非常に頭が混乱した…)。なので、ここの「\(f(X)=\)」は削除すべき。また、うって変わって非常に細かいことだが、「\(L\) の最小分解体」は「\(L\) 上の〜」であるべきはず。

そして、それにも増して当初さっぱり理解できなかったのが「\(\sigma\) を単射準同型写像 \(\tau\colon L \to L(\beta)\) まで拡張することができる」の部分だ。一体なぜそんなことが言えるのか?理由としては「\(L\) は \(f(X)\) の \(K(\alpha)\) 上の最小分解体であり、\(L(\beta)\) は \(f(X)\) の \(K(\beta)\) 上の最小分解体であるから」と書いてあるのだが、そのことがどのように生かせるのか、始めのうちはまったく謎だった。

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ガロア理論入門ノートについて・その4

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以下の文章で、「本文書」というのは「ガロア理論入門ノート」のことを指す。

■ p.20 系19 やはり \(M\) を \(K\) と書いてしまっている所があり、正しくは
\[ [L:K] = [L:M] [M:K] \]
となる。
■ p.20 代数的数・超越的数の定義の所で、「\(0\) でない \(\alpha \in L\) に対して」となっているが、「\(0\) でない」という条件は不要では。\(0\) の最小多項式は \(X\) である、ということで何も問題はなく、他の値と区別する必要はないし、この条件があると、\(0\) は代数的でないことになってしまう。

ひとつ考えられるのは、推敲の過程で「\(0\) でない」という語句を別の場所に付け加えようとして、うっかり間違えたのでは、ということ。「\(0\) でない」が「\(f(X) \in K[X]\) が存在するとき」の前に付くならば問題ない(と言うか、そちらはむしろ付かないとまずい。\(\alpha\) がどんな数であろうと、\(f(X)\) がゼロ多項式なら問答無用で \(f(\alpha)=0\) となるのだから)。
■ p.21 最小多項式の定義でも同様に、「次数最小の多項式」というとき、厳密には「0(ゼロ多項式)でない」という条件を付けておく必要がある(定理20の中では断っているけれど)。

また、後の方で当然の性質として特に明記せず使ってる性質として \(K\) 係数の多項式 \(g(X)\) が \(g(\alpha)=0\) をみたすなら、\(g(X)\) は最小多項式 \(\Irr(\alpha,K)\) で割り切れるというのがあるので、これをここで証明しておいた方がいいのでは。
■ p.22 定理21(2) の証明で、\(f(X)\) を \(X^{n}+b_{1}X^{n-1} + \dots +
b_{n}\) とおいてしまっているのはちょっと表記が混乱していて、これだと続く \(b_{i}\) を使っている式とごちゃまぜになってしまって破綻してしまう。ここでは、\(f(X)\) の係数を具体的におく必要はない。

また、ここで同様にして「有限次拡大なら代数拡大」ということを言っておかないと、次の系22(2)でギャップが生じてしまう(この証明は難解ではないので省略する)。
■ p.22 系22 単純なミスプリで、まず (1) の主張右辺で \(\alpha_{1}\) の添字が取れてただの \(\alpha\) になってしまっている。

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ガロア理論の学習に至るまで・続き

\(\newcommand{\Deg}{^{\circ}}\)
前回は約10年前の行き詰まりまでしか話が進まなかった。その続きとして、この度再度ガロア理論にチャレンジしてみようと考えるまでの話も書いておく。

きっかけは、2年ほど前に職場で見かけた次の2つの問題だった。

問題1 3次方程式 \(x^{3}-3x+1=0\) の3解を適当な順番で並べ、それを \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) とおく。すると、\(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) が次の関係を持つようにできることを証明せよ。
\[ \beta=\alpha^{2}-2, \gamma=\beta^{2}-2, \alpha=\gamma^{2}-2 \]

問題2 3次方程式 \(x^{3}+x^{2}-2x-1=0\) の3解を \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) (\(\alpha \geqq \beta \geqq \gamma\))とするとき、
\[ \beta\gamma^{2}+\gamma\alpha^{2}+\alpha\beta^{2} \]
の値を求めよ。