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ガロア理論 数学

ガロア理論の学習に至るまで・続き

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前回は約10年前の行き詰まりまでしか話が進まなかった。その続きとして、この度再度ガロア理論にチャレンジしてみようと考えるまでの話も書いておく。

きっかけは、2年ほど前に職場で見かけた次の2つの問題だった。

問題1 3次方程式 \(x^{3}-3x+1=0\) の3解を適当な順番で並べ、それを \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) とおく。すると、\(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) が次の関係を持つようにできることを証明せよ。
\[ \beta=\alpha^{2}-2, \gamma=\beta^{2}-2, \alpha=\gamma^{2}-2 \]

問題2 3次方程式 \(x^{3}+x^{2}-2x-1=0\) の3解を \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) (\(\alpha \geqq \beta \geqq \gamma\))とするとき、
\[ \beta\gamma^{2}+\gamma\alpha^{2}+\alpha\beta^{2} \]
の値を求めよ。

もちろん、ガロア理論の理解が進んだ今はどちらの問題の背景も知っている。だが、当時の私には結構刺激的な問題だった。まず問題1の方は、「綺麗な解を持つわけでもない3次方程式の解がこんなすっきりした関係をみたす」という点に意外性がある。さらにこれは、以前に解いたことがある昔の東大入試に似た感じの問題があったことを思い出した。

東大入試 1990 文系
3次方程式 \(x^{3}+3x^{2}-1=0\) の一つの解を \(\alpha\) とする。
(1) \((2\alpha^{2}+5\alpha-1)^{2}\) を \(a\alpha^{2}+b\alpha+c\) の形で表せ。
ただし \(a\), \(b\), \(c\) は有理数とする。
(2) 上の3次方程式の \(\alpha\) 以外の二つの解を (1) と同じ形の式で表せ。

有理数解を持つわけでもない3次方程式の解がこんな綺麗な関係———つまり、適当な整数係数(有理係数、くらいに条件を緩めてもよい)の多項式をひとつ用意しておくと、解のうち1つをそれに代入すれば別の解が得られ、それをまた代入するとまた別の解が得られ…となる———をみたすというのは、実は(整数係数の方程式、程度の仮定があれば)一般になりたったりするのか?いや、そんなはずはない。例えば \(x^{3}-2=0\) の3解がこんな関係をみたすはずがない。解のうち2つは虚数なのだから、実数解 \(\sqrt[3]{2}\) を有理係数の多項式に代入したって他の虚数解は絶対に得られない。つまり、3解がこのような関係にあるのは、3次方程式が何かある特殊な条件をみたすときしかありえないはずだ。以前、この東大入試の方を解いたときも「何でこんなにうまいこと行くんだろう?」と疑問に思って、「うまく行くためには元の整数係数3次方程式はどんな条件をみたしていないといけないのか?」ということをちょっと調べてみたが、何の工夫もなく単純計算で挑戦してみるととてつもなく複雑な式が出てきてしまって放棄したことも思い出した。

さらに不思議だったのは問題2だ。もしこれが、\(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) の対称式の値を求める問題だったなら、何の変哲もない「解と係数の関係」を利用する問題に過ぎない。しかし本問の式は、ある程度の対称性は持つものの、対称式にまではなっていない式である。果たしてこんなものの値を求めることはできるのか?と言うか、実際に問題として出されているからには可能なのだろうが、その方法がさっぱり思い当たらない(実際に3次方程式の厳密解を求めて代入する、以外に)。色々考えるうちに、「欠けてる対称性を自分で補ってみるという手が使えるか?」と思いついて、\(\beta^{2}\gamma+\gamma^{2}\alpha+\alpha^{2}\beta\) という式とペアにしてみたところ、和と積を作ると完全な対称式が得られる、ということから解決には至ったが、結果が綺麗な整数値になったことがまた不思議だった。何でこんなに話がうまく行っているのか。

私は思った。「この不思議な現象の裏には、きっとガロア理論があるに違いない。この背景を解き明かすためにも、やはりガロア理論をちゃんと理解したいものだ!」実際、試しに差積の値を求めてみると、問題1、問題2ともにうまくルートが外れて整数値となった。「きっとこのことは、ガロア理論の観点からは明確につながりがわかるはずだ」というのは当時直観できた。

その後、今から1年ちょっと前になって、職場内でのポジションが変わり、職務で数学に触れる時間がだいぶ減ったので、「これを機会に今まで棚上げにしていた数学的課題をできるだけ解決してみよう!」と思い立つこととなり、その一環としてガロア理論にも手を着けることとなった。

以上がここまでのいきさつである。

なお、そうやってガロア理論の学習を始める前に、「問題1」「問題2」についても若干考察を進めて少しだけだが成果は出ていた。本ブログの本題には直接関係ないし、既に背景を知ってる人にとっては何の新規性もない話だが、私が書き留めておきたいので書いておく。

まず問題1の方だが、「解がすべて実数であるような3次方程式は3角関数の3倍角の式を利用して、逆3角関数を利用して厳密解が書ける」という話があったことを思い出し、「それを利用すると \(\beta=\alpha^{2}-2\) とかがすっきり導けるんじゃないの?」とアタリをつけて試してみたところ、見事に的中した。この3次方程式の解は \(2\sin10\Deg\), \(2\sin130\Deg\), \(2\sin250\Deg\) であった。\(\beta=\alpha^{2}-2\) などの関係は、倍角公式によって容易に確認できた(元々の3次方程式が、あの「角の3等分方程式」だ、なんて知識は当時はまったくなかった(笑))。

さらに問題2の方は、「これうまく行く理由は実は問題1と同根なんじゃないの?」と思いつき、当てずっぽうで「\(\alpha\) が解なら \(\alpha^{2}-2\) も解になってたりしない?」と試してみた所、まさしくそうなっていることが判明。よって、\(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) の順番さえうまく決定できれば、そこから容易に計算ができることにも気づいた(後付けの知識で元の方程式を見れば、これは1の原始7乗根 \(\zeta\) の方程式 \(\zeta^{6}+\zeta^{5}+ \dots +\zeta+1=0\) が相反形であることを利用して \(x=\zeta+\dfrac{1}{\zeta}\) とおいた時の3次方程式なので、\(\alpha^{2}-2\) が解になることは当たり前だし、さらに厳密解が \(2\cos \dfrac{2}{7}\pi\), \(2\cos \dfrac{4}{7}\pi\), \(2\cos\dfrac{6}{7}\pi\) であることやそこからやはり3角関数の関係式を活用できることも見て取れるが、やはりその頃はそんな背景など知る由もなかった)。

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