\(\DeclareMathOperator{\Gal}{Gal}
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\)
以下の文章で、「本文書」というのは「ガロア理論入門ノート」のことを指す。
■ p.31 まず注意することは、ここで「方程式が代数的に解ける」と言っているのは、前回の記事の用語の用法では「解が存在する」の方の意味、つまり「べき根拡大を繰り返した体の『どこかには』解がある(けど具体的にそれがどこかにはまったく言及していない)」というだけだ、ということである。これは、前回の記事での「解ける」の方の意味、つまり「解がべき根を使った式で具体的に表せる」ということまで言っているわけではない、という点に注意しよう。
■ p.31 「代数的に解ける」の定義で、\(\Q(a_{0}, \dots, a_{n})\) ではなくわざわざ \(\Q(a_{1}/a_{0}, \dots, a_{n}/a_{0})\) を使っていることの意味がちょっとわかりにくい。p.24 の「最小分解体」の定義では、「〜上の \(f(X)\) の最小分解体」と言うときは、「〜」は最初から \(f(X)\) の係数をすべて含む体という場合しか考えていないが、\(\Q(a_{1}/a_{0}, \dots, a_{n}/a_{0})\) には \(f(X)\) の係数は入っているとは限らない。
ここでは定義にちょっと手を加えて、\(\Q(a_{1}/a_{0}, \dots, a_{n}/a_{0})\) に \(f(X)\) の根をすべて添加した体のことを最小分解体と言っている?その場合、\(f(X) = a_{0}(X-\alpha_{1}) \dotsm (X-\alpha_{n})\) という因数分解は、必ずしも最小分解体の中でできるとは限らなくなっている?(その場合でも、\(\dfrac{f(X)}{a_{0}}\) なら因数分解できるということになるわけだけど)
■ p.31 の、方程式(多項式)のガロア群の定義で、\(K=\Q(a_{1}, \dots, a_{n})\) の右辺に \(a_{0}\) が入ってないのは明らかに変な気がする。正しくは \(K=\Q(a_{0}, a_{1}, \dots, a_{n})\) とするか、あるいは \(a_{0}=1\) の場合を考えているのではないだろうか。
■ まあ、前2項のことは余り深く考えなくても、「方程式の可解性について考えるときは、いつでも最高次の係数で両辺を割っておいて、最高次の係数を \(1\) にして考える」ということにしておけばいずれにしろ紛れはない。
そのことを踏まえた上で考えてみると、前2項はおそらくこういうことなのだろう。
○ 最も単純に考えると、「べき根で解ける」ことの定義は、\(K=\Q(a_{0}, \dots, a_{n})\) として「\(K\) 上の \(f(X)\) の最小分解体が \(K\) 上べき根で構成される」になるだろう。が、このように定義してしまうと、あんまり適切とは言えない状況が発生してしまうことがわかってきた。
べき根では解けない方程式の例として、
\begin{equation}
\label{eq:17-1}
X^{5}-3X-1=0
\end{equation}
を考える。代数学の基本定理のおかげで、このような方程式でも \(\C\) の中には必ず解があるので、そのひとつを \(\alpha\) としよう。\eqref{eq:17-1}の両辺に \(\alpha\) をかけたものは
\begin{equation}
\label{eq:17-2}
\alpha X^{5}-3\alpha X-\alpha = 0
\end{equation}
だが、上の単純な定義だと、この方程式はべき根で解けることになってしまう。\(K=\Q(\alpha)\) だが、この体の中では\eqref{eq:17-2}は
\[ \alpha(X-\alpha)(X^{4}+\alpha X^{3} + \alpha^{2}X^{2} + \alpha^{3}X
+ \alpha^{4}-3) = 0 \]
と因数分解でき、この \(4\) 次式の \(\Q(\alpha)\) 上の最小分解体は \(\Q(\alpha)\) 上べき根で構成できる(\(\because\) \(4\) 次方程式は必ずべき根で解ける)からだ。
しかし、\eqref{eq:17-2}は両辺を \(\alpha\) で割るだけで\eqref{eq:17-1}に逆戻りしてしまう方程式である。そんなものを「べき根で解ける方程式」の範疇に含めるべきかと言ったら、普通はそうは思うまい。
○ 方程式の両辺に \(0\) でない定数をかけたものは、かける前と等価な方程式と見なすのが普通だろう。この考えに従えば、「方程式が(代数的に)解けるかどうか」はそういった定数倍には影響を受けないものであるべきだから、それを決めているのは係数 \(a_{0}, a_{1}, \dots, a_{n}\) そのものというより、比 \(a_{1}/a_{0}, \dots, a_{n}/a_{0}\) の値の方だ、と言った方が正確になる。そうすると、「方程式が代数的に解ける」ということの定義は、素朴には「(すべての)解が \(a_{1}/a_{0}, \dots, a_{n}/a_{0}\) から四則演算とべき根を使って表せる」としたくなる。つまり、「方程式 \(f(X)=0\) が代数的に解ける」ということの定義は、「\(K=\Q(a_{1}/a_{0}, \dots,
a_{n}/a_{0})\) とし、\(K\) にすべてのすべての解を添加した体を \(L\) とするとき、\(L\) が \(K\) 上べき根で構成される」とするのが本文書の本来の意図だったのではないだろうか。この場合、上で注意したように、\(a_{0} \not\in K\) の場合は \(f(X)\) は \(K\) 係数多項式ではなくなるので、この \(L\) は \(f(X)\) の (\(K\) 上の)最小分解体、と言うわけにはいかないが、本文書ではそこをうっかり「最小分解体」と書いてしまっているような気がする。
○ 実際、\(f(X)=\pi X^{2}- 2\pi\) の場合、\(f(X)\) の最小分解体 \(\Q(\pi, \sqrt{2})\) は \(\Q(a_{1}/a_{0}, a_{2}/a_{0}) = \Q\) 上べき根で構成されないが、しかし \(f(X)=0\) は明らかに「べき根で解ける」方程式に分類されるべきだろう。したがって、本文書のように「最小分解体」を持ち出す定義はこういう例に対しては都合がよくない。
○ 一方、「方程式(多項式)のガロア群」の定義についてだが、素朴には「\(K=\Q(a_{0}, a_{1}, \dots, a_{n})\) 上の \(f(X)\) の最小分解体を \(L\) としたときの \(\Gal(L/K)\)」と定義したくなるところだが、それだと方程式の可解性とガロア群の性質を結びつけようとする立場からすると具合が悪いことがある。その定義では「\(\sqrt{2}X^{2}-2\sqrt{2}=0\)」という方程式に対して \(K=L=\Q(\sqrt{2})\) となって \(\Gal(L/K) = \{e\}\) になってしまう。等価な方程式 \(X^{2}-2=0\) のガロア群は明らかに \(2\) 次巡回群になるべきだから、上の素朴な定義だと「等価な方程式の間でガロア群が異なる(※)場合がある」ことになってしまう(※ 異なっていても(自然な)同型になるならば問題はないのだが、同型にすらならないのは困る。自然な同型になる例としては、上でも挙げた「\(\pi X^{2}- 2\pi=0\)」がある。この場合のガロア群は \(\Gal(\Q(\pi, \sqrt{2})/\Q(\pi))\) で \(\Gal(\Q(\sqrt{2})/\Q)\) とは異なるが、(当然ながら)極めて自然な同型構造を持っている)。
○ そういう問題を避けるためには、やはり一度最高次係数 \(a_{0}\) で全体を割っておいてから係数体 \(\Q(a_{1}/a_{0}, \dots, a_{n}/a_{0})\) を考える、ということにすればいいだろう(なお、\(a_{0}\) がその体に入っているなら、\(\Q(a_{0}, a_{1}, \dots, a_{n})\) も同じ体になるので、そういう場合は全体を \(a_{0}\) で割らずにそのままの方程式(多項式)で考えてよいことになる)。
○ だとすると、本文書の「\(K=\Q(a_{1}, \dots, a_{n})\) 」というのは、ひょっとしたら上述の「\(a_{0}\) が \(\Q(a_{1}/a_{0}, \dots, a_{n}/a_{0})\) に入っている」という条件を表現しようとした表式なのかもしれない。ただ、そうであったとしたらこの書き方は不正確で、これだと先ほどの「\(\sqrt{2}x^{2}-2\sqrt{2}=0\)」という方程式が結局除外できていない。この意図を正しく表現することが目的だったら、やはり \(f(X)\) の係数が属する体としては \(\Q(a_{1}, \dots, a_{n})\) ではなく \(\Q(a_{1}/a_{0}, \dots,
a_{n}/a_{0})\) の方を指定しなければならない。
■ また、本文書での「方程式(多項式)のガロア群」の定義では、ベースとなる体 \(K\) が \(f(X)\) によって一意に決まってしまい、補題35でやってるように「ベースとなる体が変わったときのガロア群の変化」といったものを考えることができなくなってしまう。以上のことを考えると、「方程式(多項式)のガロア群」というものは、正確にはベースとなる体を指定して次のように定義すべきものなのだろう。
\(f(X)\) は \(1\) 次以上の多項式で、最高次の係数は \(1\) だとする。\(K\) を \(f(X)\) の係数をすべて含む体とし、\(L\) を \(f(X)\) の \(K\) 上の最小分解体とするとき、\(\Gal(L/K)\) を「方程式 \(f(X)=0\) の \(K\) 上のガロア群」、あるいは「多項式 \(f(X)\) の \(K\) 上のガロア群」と呼び、記号では \(\Gal_{K}(f)\) と書く。
これならば、\(K\) は \(f(X)\) の係数をすべて含む体なら任意の体を自由に選べる。
また、このように定義した場合、「方程式(多項式)のガロア群」は最高次の係数が \(1\) であるような \(f(X)\) に対してしか定義されないが、そうでない場合は \(f(X)\) を最高次の係数で割ってから考えることになるだろう。そうすると「\(\pi X^{2}- 2\pi=0\)」や「\(\sqrt{2}x^{2}-2\sqrt{2}=0\)」といった方程式であっても、始めに「\(X^{2}-2=0\)」の形に直すわけだから、「\(\Q\) 上のガロア群は \(\Gal(\Q(\sqrt{2})/\Q)\)」というリーズナブルな結果になる(ただしこれらの場合、ベースの体として取った \(\Q\) には元々の方程式の係数 \(\pi\) や \(\sqrt{2}\) は入っていない。つまり、\(\Gal_{K}(f)\) というものを考えるときに、最高次の係数が \(1\) ではない \(f(X)\) も許すことにすると、\(f(X)\) の係数は必ずしも \(K\) に含まれず、\(f(X)\) を \(L\) 上で因数分解できるとも限らなくなる、という点にちょっと注意が必要。\(1\) でない最高次の係数としては、\(\Q(a_{1}/a_{0}, \dots, a_{n}/a_{0})\) に入っている場合のみ許す、ということにすればそのような懸念はなくなる)。
■ 補題35 ここでも、まずこの補題がどういう文脈の中で、どういう意味を持っているのか、という大まかな見通しを先に説明しておく。
これまでは、係数体 \(K\) と最小分解体 \(L\) に対して、\(K\) を拡大するとき \(K\) と \(L\) の中間体しか考えてこなかったけど、例えば実際に方程式を解こうとしているときは、必ずしもそうはならない。解いている最中は \(K\) は既知だが \(L\) は未知だから、試行錯誤の過程では、作ってみた拡大体 \(M \supset K\) が \(L\) からはみ出してしまうようなこともままあるだろう。したがって、\(M\) を新しい係数体と考えた場合、最小分解体は \(L\) のままとは限らず、もっと広がった体になることがありうる。そういう場合、新しいガロア群は元のガロア群とどういう関係にあるか?という問いに補題35は一定の答を与えていて、「元のガロア群の部分群(と同型)になる」と述べている。これは、\(M\) が中間体だったときは定理30辺りでもすでに考察済みのことで、\(\Gal(L/M)\) は \(\Gal(L/K)\) の部分群だったが、中間体でなくともそこは大差ない、ということ。
■ そういったことは、根の置換の立場で考えるとすごく明らか。
ベースとなる体を \(M\) に広げても、ガロア群の元が \(f(X)\) の根 \(x_{1}, \dots, x_{n}\) の置換として現れることに変わりはない。変わる点はどこか、と言うと、ベースの体が広がった結果、\(f(X)\) の因数分解がより進み、それぞれの因子内での入れ替えしか許されなくなる、という所。このため、置換としては部分群になる、というわけ。ガロア群の作用が、\(x_{1}\)〜\(x_{n}\) に対する作用のみで決まる、という所がポイント。
例えば、\(f(X)=X^{3}-2\) のガロア群を、ベースの体を \(\Q\) から \(\Q(\sqrt[3]{2})\) に取り替えた場合、後者では \(f(X) = (X-\sqrt[3]{2})(X^{2}+\sqrt[3]{2}X+\sqrt[3]{2}^{2})\) と因数分解が進んで、可能な置換が \(\sqrt[3]{2}\omega \leftrightarrows \sqrt[3]{2}\omega^{2}\)(と恒等変換)のみになる。
上の例では、拡大後の体は中間体になっており、最小分解体には変化はなかった。一方、\(\Q\) から \(\Q(\sqrt{2},\sqrt[3]{2})\) に広げてみると、これは中間体ではない。これを新たなベースの体としてみると、最小分解体も(意味なく)\(\sqrt{2}\) が添加されて広がるけど、その場合ガロア群は \(\sqrt{2}\) を止めるから、結局 \(\sqrt[3]{2}\omega \leftrightarrows \sqrt[3]{2}\omega^{2}\) の置換しかできないことは同じで、群としては先ほどの例と同型になる。
■ 補題35 \(LM\) というのは最初 \(\{lm \mid l\in L, m \in M\}\) のことかと思ったがそれでは意味が通じなかった(本文書始めの方の群論パートではそういう記法でしたやん…)ので、他の文書を参照するとどうやら「\(L\) に \(M\) の数をすべて添加して得られる体で、\(LM=L(M)=M(L)\)」ということらしい。それなら確かに \(LM=M(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n})\) となる。
■ 補題35のミスプリ。 途中で現れる \(\Gal(LM/K)\) はすべて \(\Gal(LM/M)\) の書き間違い。(改訂の際に一部修正されたが、まだ残っている)
また、「\(\varphi\colon G \to \Gal(LM/M)\)…」の矢印は \(=\) が正しい。
■ さてこの \(\varphi\colon \sigma \mapsto \sigma|_{L}\) について補足しておく。確認しておかなければいけないのは、「\(\sigma|_{L}\) はちゃんと \(L\) の \(K\) 自己同型写像になっているか」「\(\varphi\) は準同型写像になっているか」の2点。
(1) \(\sigma\) は \(M\) の数をすべて止めるので、\(K\) の数もすべて止める。
(2) \(L\) は \(LM\) の部分体で、\(K\) 係数多項式 \(f(X)\) の最小分解体なので \(\sigma(L) = L\)
(1), (2)から、 \(\sigma|_{L} \in \Gal(L/K)\) は OK。
さらに、\((\sigma\tau)|_{L} = (\sigma|_{L})(\tau|_{L})\) も制限写像の定義から確認できるので、\(\varphi\) は準同型写像。
■ 補題35 \(L \cap M = L^{H}\) を導いて \(H\) の正体を \(H = \Gal(L/L \cap M)\) と求めてるけど、ここの部分はまるまる不要では?群 \(\Gal(LM/M)\) から群 \(\Gal(L/K)\) への準同型 \(\varphi\) が見つかったんだから、後は \(\varphi\) が単射であることさえ言えれば、\(\Gal(LM/M) \cong \Img(\varphi)\) となって、\(\Gal(LM/M)\) は \(\Gal(L/K)\) の部分群と同型であることが言える。
■ 補題35 \(\varphi\) が単射になることの証明。
[証明] 準同型写像だから、単射になることを示すには、\(e\) にうつるのが \(e\) のみであることを示せばよい。\(\sigma \in G\) を \(L\) に制限したときに \(e\) となるということは、\(\sigma\) は \(L\) の数すべてを固定するということ。定義により \(\sigma\) は \(M\) の数もすべて固定するので、\(LM\) の数をすべて固定することになる。つまり \(\sigma\) は \(LM\) の恒等写像。\(\square\)
■ 補題35 上で「まるまる不要では?」と述べた部分は、\(K\) を拡大するとき、\(L\) からはみ出した体 \(M\) に拡大した場合のガロア群がどうなるか、ということをもうちょっと詳しく調べている。要するに、\(M\) のうち、\(L\) からはみ出していない部分 \(L \cap M = M’\) だけを見ると中間体 \(L \supset M’ \supset K\) となっていて、\(M\) 上で考えたガロア群 \(\Gal(LM/M)\) は \(M’\) 上のガロア群 \(\Gal(L/M’)\) と同型になっている、ということ。つまり、拡大体 \(M\) が中間体になっているかどうかを気にしなくても、そのときできたガロア群というのは中間体によるガロア群と同じ構造を持っているので気にせず色々な拡大を試してみればよい、ということ。
言い方を変えると、\(G=\Gal(L/K)\) を解に対する置換と見た場合は、体を \(K\) から \(M\) に拡大することで本当の部分群 \(H=\Gal(L/M’)\) になってると見てよい。
従って、\(K\) を拡大しても「\(L\) の中で」広がってなくて \(M’=K\) のままだったら、ガロア群は(実質的に)変化していない。逆に、\(L\) の中で少しでも広がっていれば、(実質的な)ガロア群は真に縮小している。
○ \(\underbrace{[L:K]}_{\zettaiti{G}} = \underbrace{[L:M’]}_{\zettaiti{H}} [M’:K]\) より、部分群による剰余類の個数 \(\zettaiti{G/H}\) は \([M’:K]\)、つまり \(L\) の中に限定して見たときの拡大次数と等しい。
また、\(M\) が既約 \(p\) 次式 \(g(X)\) の根 \(r\) 1個の添加による拡大 \(K(r)\) だった場合、\(p=[K(r):K] = [K(r):M’][M’:K]\) なので、その \([M’:K]\) は \(p\) の約数。特に、\(p\) が素数だった場合は \([M’:K]\)は \(1\) か \(p\) しかありえず、
(1) 前者なら、\(M’=K\) なので \(L\) の中でまったく拡大されておらず、ガロア群は(実質的に)不変。
(2) 後者なら \(M’=K(r)\) なので、拡大は完全に \(L\) の中だけで起きていて、ガロア群は(実質的に)真部分群であり、剰余類の個数は \(p\) 個。
\(p\) が素数でない場合、真に縮小しても剰余類が \(p\) 個にならない例としては、例えば \(\Q\) 上の \(X^{3}-2\) のガロア群を考えているときに、\(\Q\) に \(1\) の原始 \(9\) 乗根を添加した場合なんかがそう。拡大次数は \(\phi(9)=6\) で、非素数。しかし、実質的な拡大体は \(\Q(\omega)\) で拡大次数は \(2\)(\(6\) の約数)で、縮小したガロア群による剰余類の個数は \(2\)。つまり、元々 \(S_{3}\) だったガロア群が \(A_{3}\) に縮小して、剰余群が \(S_{2}\) になったという見当になる。
○ \(M\) が \(K\) の有限次ガロア拡大だった場合、\(M’=L \cap M\) もそうなる(まず \(L \cap M\) は体で、\(K\) の有限次拡大で、任意の元の \(K\) 共役元が再び属する)から、\(M’\) は有限次ガロア拡大の中間体。したがって \(H\) は \(G\) の正規部分群で、新しいガロア群 \(\Gal(LM/M)\) は元のガロア群 \(\Gal(L/K)\) の正規部分群と同型。
この場合は、単に剰余類の個数が \([M’:K]\) に一致するというだけでなく、剰余群の構造まで同じになって
\[ G/H = \Gal(L/K)/\Gal(L/M’) \cong \Gal(M’/K) \]
ということ。
■ 補題36の意味は、「同じ \(K\) に対する複数の有限次アーベル拡大は、(有限個なら)同時に行ってもやはり有限次アーベル拡大」という意味。定理37で「解ける \(\implies\) 可解群」の証明で利用している。逆の証明では使っていない。
以前書いたように、私の思い違いでなければ、定理37は補題36を使わずに証明可能なはず(別記事にて)なので、実は補題36はなくても済むはずである。
■ 補題 36、\(L_{1}\), \(L_{2}\) が共に \(L\) の部分体であるという条件は必要なのか?単に、「共に \(K\) の拡大体」というだけで十分なような気がするが…。おそらく、以前定理23や系24について書いていた「\(K\) の拡大を色々な仕方で独立に行うとき、別々の拡大体の元の間にはアプリオリに演算が定まらないのでは」という懸念が当たっていて、そういうややこしいことを考えなくてすむように、あらかじめ存在する1つの体の中での拡大ということにする、という意図なのだと思われる。そこで私が書いていたように、体の拡大はすべて \(\C\) の中で行う、という立場を取るなら、この問題は最初からクリアされている、ということでおそらく大丈夫なのだろう(実際、よく読むと \(L\) は有限次拡大とも代数拡大とも書いてないので、\(L= \C\) だとしても問題はないはず)。
■ 補題36の証明中にはちょっとしたミスプリがある。「\([G,G] \subset G/\Gal(L_{1}L_{2}/L_{1})\)」の所は「\(G/\)」が余分で、正しくは「\([G,G] \subset \Gal(L_{1}L_{2}/L_{1})\)」。
■ 補題36の証明中で「\(L_{1}L_{2}\) が \(K\) のガロア拡大であることは、補題35の証明中で述べた」とあるけど、補題35の証明中で述べられていることから直接言えるのは「\(L_{1}L_{2}\) が \(L_{1}\) のガロア拡大になっている」あるいは「\(L_{2}\) のガロア拡大になっている」ということじゃないだろうか。「\(K\) の」であることはまた別の話であるような。
というわけで、\(L_{1}L_{2}\) が \(K\) のガロア拡大であることの証明も(容易ではあるが)一応書いておく。
[証明]
\(L_{1}\), \(L_{2}\) が、\(K\) 係数多項式 \(f(X)\), \(g(X)\) の \(K\) 上の最小分解体としてよくて、それぞれの根を \(\alpha_{1}, \alpha_{2}, \dotsc\) と \(\beta_{1}, \beta_{2}, \dotsc\) とすると \(L_{1}=K(\alpha_{i})\), \(L_{2}=K(\beta_{j})\) だから、\(L_{1}L_{2} = K(\alpha_{i}, \beta_{j})\) となっている。したがって \(L_{1}L_{2}\) は \(K\) 係数多項式 \(f(X)g(X)\) の \(K\) 上の最小分解体だから、\(K\) のガロア拡大である。\(\square\)
■ その後に続いている証明は、筋を追うことはできて確かに正しいとはわかるけど、まるで手品を見せられたようで何がどうなっているのやらイメージはさっぱり掴めない…。まるで狐につままれたよう。この補題は、以下のようにもっと素朴・素直に証明できるので、本文書の証明は余り意味なく回りくどいものになっているように思われる。
■ 【 補題36 の別証 】
\(L_{1}L_{2}\) が \(K\) の有限次ガロア拡大であることを示す所までは同じ。
\(\sigma, \tau \in \Gal(L_{1}L_{2}/K)\) に対して \(\sigma\rvert_{L_{1}}, \tau\rvert_{L_{1}}\) は \(\underbrace{\Gal(L_{1}/K)}_{\text{可換群}}\) の元だから、\((\sigma\rvert_{L_{1}})(\tau\rvert_{L_{1}}) = (\tau\rvert_{L_{1}})(\sigma\rvert_{L_{1}})\)
すなわち、\(L_{1}\) の元に対しては \(\sigma\tau\) の作用と \(\tau\sigma\) の作用は一致する。同様に、\(L_{2}\) の元に対しても \(\sigma\tau\) の作用と \(\tau\sigma\) の作用は一致する。ということは、\(L_{1}\) と \(L_{2}\) の元だけからなる \(L_{1}L_{2}\) のどの元に対しても \(\sigma\tau\) の作用と \(\tau\sigma\) の作用は一致するということで、これは \(\sigma\tau = \tau\sigma\) がなりたつということにほかならない。\(\square\)
いよいよ次回は本文書最大の山場、定理37に突入の予定。前半と後半で2回に分かれるかもしれない。
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