\(\newcommand{\rnsg}{\mathrel{\vartriangleright}}
\newcommand{\lnsg}{\mathrel{\vartriangleleft}}
\DeclareMathOperator{\Irr}{Irr}
\DeclareMathOperator{\Gal}{Gal}
\newcommand{\field}[1]{\mathbb{#1}}
\newcommand{\Q}{\field{Q}}
\newcommand{\C}{\field{C}}
\newcommand{\zettaiti}[1]{\lvert #1 \rvert}
\)
以下の文章で、「本文書」というのは「ガロア理論入門ノート」のことを指す。
■ p.26 定理29 「単純拡大」の定義が書いてないが、文脈からすると 1 個の数を添加するだけの拡大をそう言うのだろう。
■ p.26 定理29 \(c\) を選ぶ所で、\(i\) が \(2\) 以上となっているが、\(i=1\) も含めておかないと以下の話が破綻する(\(i=1\) も含めておかないと \(c=0\) でもいいことになってしまうが、そうすると \(\tilde{g}\) がゼロ多項式になってしまい、\(h\) と \(\tilde{g}\) の共通根が \(\zeta\) のみにならない)。
なお、この部分については志賀本の p.142 の、次の書き方の方が平易な書き方でいいと思う(文字の使い方は本文書に合わせて修正してある)。
\(K\) の数 \(c\) を適当に定めて、\(mn\) 個の数
\[ \eta_{i} + c\zeta_{j} \quad (i=1,2,\dots,m; j=1,2,\dots n) \]
はすべて異なるようにすることができる。これは有限個の1次方程式
\[ \eta_{i} + x\zeta_{j} = \eta_{i’} + x\zeta_{j’} \quad (j \ne j’) \]
の解以外の値を \(c\) としてとっておくとよい。
これだと、何をやっているのか非常に明確。
※ 「選ぶ」というのは \(K\) が無限体なら当然できるが、もし有限体だと選べることも自明ではなくなりそうなので、ここでも標数 \(0\) に限っていることが効いていると思われる。
■ p.26 定理29 本筋には全然影響しない話だが、本文書では「最小多項式」と言っただけでは最高次の係数は \(1\) とは限らないので、\(g(X)\), \(h(X)\) を定義するときに「最高次の係数は \(1\)」を追加するなどしておいた方がよいだろう。\(f(X)\) についても同様。
■ p.26 定理29 \(g\) の真上に付くはずのチルダ「~」が横にずれてしまっている。ここ以降もそういう箇所が何ヶ所か見られる。
■ p.26 ガロア群の定義の下にサラッと書いてある「\(\lvert\Gal(L/K)\rvert = [L:K]\)」は初読では余り気にしていなかった。ガロア群というものは(解が解にうつることから)単純に解同士を入れ替える対称群 \(S_{n}\) と大体同じもの、くらいの感じで受け止めていたので、個数が \(n!\) ではなく \(n\) 個しかないというのはちょっと意外に感じたくらいだった。しかし、よく考えてみるとこれが全然自明でないことに困った。
また他の文書を眺めてみたりしているうちに、段々感じが掴めてきた。先日触れた「再度考えてみるきっかけとなった問題」でも、
\begin{equation}
\label{eq:12-1}
\beta=\alpha^{2}-2, \gamma=\beta^{2}-2, \alpha=\gamma^{2}-2
\end{equation}
という関係は \(\alpha \to \beta \to \gamma \to \alpha\) やその逆の \(\alpha \to \gamma \to \beta \to \alpha\) という巡回置換ではそのままなりたつが、奇置換だと崩れてしまうので、この方程式の場合は奇置換はガロア群に適さず、巡回置換のみでガロア群は構成される、ということがわかる。
あれこれ考えて、どうやら以下のようにすれば解決できるようだ、と見当がついた。
[\(\zettaiti{\Gal(L/K)} = [L:K]\) の証明]
\([L:K]<\infty\) として、その値を \(n\) とおく。定理29によって、\(L\) は \(K\) に1個の数 \(\theta\) を添加するだけで作れる: \(L=K(\theta)\)。
このとき、\(\theta\) の \(K\) 上の最小多項式 \(f(X)\) は \(n\) 次である。\(f(X)\) は重根を持たないので、その \(n\) 個の根 \(\theta_{1}, \theta_{2}, \dots, \theta_{n}\) はすべて相異なる。
\(L\) の \(K\) 自己同型写像による \(\theta\) の像は \(\theta_{1}\)〜\(\theta_{n}\) のいずれかで(\(\because f(\theta)=0\) の両辺に写像を作用させる)、そこが決まれば写像全体も決まるので、\(\zettaiti{\Gal(L/K)}\) は最大 \(n\) 通りである。
像が \(\theta_{i}\) になる写像が各々存在すれば、それらはすべて相異なる(\(\theta_{i}\) が相異なるから)ことから、ぴったり \(n\) 通り、ということを示すには、それらがすべてちゃんと \(L\) 上の \(K\) 同型写像として定義可能であることを確かめればよい。
前回述べた定理26の補足と同様にして、\(\theta\) を \(\theta_{i}\) にうつすような写像 \(\sigma_{i}\) を作る。つまり \(\sigma_{i}\) は
\[
k_{0} + k_{1}\theta + k_{2}\theta^{2} + \dots + k_{n-1}\theta^{n-1}
\]
\((k_{j} \in K)\) を
\[ k_{0} + k_{1}\theta_{i} + k_{2}{\theta_{i}}^{2} + \dots +
k_{n-1}{\theta_{i}}^{n-1} \]
に移す写像。すると、やはり前回の補足と同じ流れで、これが単射で値域が \(L\) になる準同型写像、つまり \(K\) 自己同型になることが確かめられる。
よって \(\zettaiti{\Gal(L/K)} = n\) である。\(\square\)
なお、この過程から、\(\theta_{i}\) はどの1個も拡大 \(L/K\) についての原始根(上の、\(K\) に1個添加するだけで最小分解体 \(L\) が作れてしまう数 \(\theta\) をそう言うようだ)であることがわかる。その意味で、\(\theta_{1}\)〜\(\theta_{n}\) はすべて対等。
※ \([L:K] = \infty\) のときはおそらく \(\zettaiti{\Gal(L/K)} = \infty\) で、この場合も含めて両者は等しいと思われるが、その場合の証明は未考察。ただ、今我々はそこまでは必要としない。
この流れだと、「実は\eqref{eq:12-1}みたいな解同士の \(K\) 係数の関係式がこっそり(?)なりたっていたりすると、一見うまく行ってるように見える \(\sigma_{i}\) の定義が破綻しそうだけど、そういう心配はないのだろうか?」というのがちょっと自信なかったのだが、\(\zettaiti{\Gal(L/K)} = [L:K]\) がなりたつ、と言うからにはこうなっているしかないはずなので、そこはきっと大丈夫になっているのだろう、というのが私の感覚だった。
後日、志賀本を再読した所、p.147 に事実上上と同じ説明があり、それどころか p.149 に(そちらを逆に出発点とした)ガロア群の定義があったのには驚いた。以前書いた通り、何年か前にそこは読んだことがあったはずだったのに、私はそのことをすっかり忘れ去ってしまっていたからだった。「ガロア群」の定義を見たのは本文書が最初だったとばかり思っていたよ…(笑)。
■ なお、\(\zettaiti{\Gal(L/K)} = [L:K]\) の関係は、どうやら原始根に頼ることなく、純粋に線形代数的考察のみに基づいて導くこともできるようだ。具体的には、http://d.hatena.ne.jp/lemniscus/20110803/1312380831 などで示されている模様。
これについては、資料を色々当たっていたときに、有名な「物理のかぎしっぽ」でどう見ても破綻しているとしか思えない記述に当たったのには結構参った。場所は http://hooktail.sub.jp/algebra/FieldIsomorphism/ なのだが、記法が独特で読みにくい上に(写像 \(\phi\) による像をかっこをつけて \(\phi(s)\) のように書かずに続けて \(\phi s\) と書いているらしい、とか、\(\sigma\) を写像ではなく基底を表すのに使ってるとか…。私が知らないだけでそういう流儀もちゃんとあるのかもしれないけど、最初は非常に面食らった)、2つ挙げられている定理(補題)のどちらの証明にも問題があるように思える。
○ 前半の補題の証明で「任意の \(\alpha\) に対して,\(c_{j} \ne 0\) を
\begin{equation}
\label{eq:12-3}
(\phi_{1}\alpha)c_{1} + (\phi_{2}\alpha)c_{2} + \dots +
(\phi_{n}\alpha)c_{n} = 0
\end{equation}
となるように選べます」とあるのはどういう意味か?その前の部分ですでに非自明解として \(c_{j}\) を定めているのに、それをまったく使わないうちに \(c_{j}\) を再定義するのか?そもそも、よく式を見てみると、元々定めた方の \(c_{j}\) によって\eqref{eq:12-3}は自動的に成立するので、改めて「選べる」という話ではないのではないか?
○ その「選べる」の理由として補足している部分の「\(\phi_{j}\alpha\) が従属だからです」というのもよくわからない。もし従属というのが「\eqref{eq:12-3}から言えること」として述べられているのならわかるが、その逆に「従属だから\eqref{eq:12-3}」と言うのであれば、先に従属であることが示されていなければならないが、それはどこで示されているのか?
○ そしてその後の式変形もまったくわけがわからない。得られた \(\displaystyle\sum_{j=1}^{n} c_{j}(\phi_{j}\sigma_{k}) =0\) というのは元々の \(c_{j}\) を定義した1次不定方程式そのものであって、結局定義に戻っただけだ。一連の式変形に一体何の意味があったのだ?
○ さらに、結論付近の \(\phi_{j}\) が一次従属であることが仮定に反するというのもなぜなのかわからない。前振り部分で「一次独立な自己同型写像は、相異なる」とは述べているが、その逆が成立するかどうかは別に言及されていないようだし…。
○ 次の「定理」の証明も、まず「式(*)により,\(b_{i}\) は \(\phi_{j}\) の作用に対して不動」という部分はおかしい気がする。確かに \(b_{i}\) は \(\phi_{j}\) のいずれでも不動だが、それは (*) とは特に関係なくて、\(G\) が群であることから従う \(\{\phi_{j}\phi_{1}, \phi_{j}\phi_{2}, \dots, \phi_{j}\phi_{n}\} = \{\phi_{1}, \dots, \phi_{n}\}\) が理由ではないのか?
((*) はむしろ、その後の「\(\text{右辺}=0\)」を示すのに使っているように見える)
○ \(\displaystyle\sum_{i=1}^{r} b_{i}\sigma_{i}=0\) から「\(\sigma_{i}\) が一次従属」と言ってるのも変ではないか。それを言うためには「\(b_{i}\) の中に \(0\) でないものがある」ということを言わなければならないが、それはどこで示されているのか。おそらく、「\(x_{i}=c_{i}\) が非零解」ということから言えるのだろうが、その部分がこの証明内には見当たらない。
と言った感じ。他のページの http://hooktail.sub.jp/algebra/GaloisExtension/ でも、素数 \(p\) と \(1\) の原始 \(p\) 乗根 \(\zeta\) に対して、\(\Q(\zeta)\) が \(\Q\) の \(p\) 次拡大という大ウソが堂々と書いてあったり(その「証明」も「例1」も思い切り間違っている部分があるよね…)して、残念ながら、有名サイトではありながら、少なくともこのガロア群回りの部分についてはかなり問題のある内容と言わなければならないように思える。
■ 定理26の系で、次のことが言える。志賀本の再読で気づかされた。「\(L\) が体 \(K\) の有限次ガロア拡大のとき、\(\alpha \in L\) と \(K\) 上共役な任意の \(\beta\) に対し、\(\alpha\) を \(\beta\) に移すような \(L\) の \(K\) 同型写像が存在する」つまり、そのような任意の共役な値の間を結ぶようなガロア群の写像が必ず存在する。本文書の定理26の証明はまさしくそのような写像 \(\tau\) を構成するという流れだったし、定理26の証明を前回述べた私の証明で行うなら、次のように示される。
上のように、\(L=K(\theta)\) で \(\theta\) と \(K\) 上共役な数を \(\theta_{1}=\theta, \theta_{2}, \dots, \theta_{n}\) とする。任意の \(\alpha \in L\) は適当な \(K\) 係数多項式(有理式)\(f(X)\) によって \(\alpha = f(\theta)\) と表せる。ここで、
\[ g(X) = (X-f(\theta_{1}))(X-f(\theta_{2})) \dotsb (X-f(\theta_{n})) \]
とおくと、この係数は \(\theta_{1}, \dots, \theta_{n}\) について対称な \(K\) 係数多項式(有理式)で表されるから、\(K\) の数である(\(\because \theta_{1}, \dots, \theta_{n}\) は適当な \(K\) 係数 \(n\) 次多項式の根の全体)。これと \(g(\alpha)=0\) より \(\Irr(\alpha, K)\) は \(g(X)\) の因子で、\(X-f(\theta_{i})\) の形の1次式の積。よって、\(\alpha\) と \(K\) 上共役などんな数も \(f(\theta_{i})\) の形に表せ、これは \(\theta\) を \(\theta_{i}\) にうつすガロア群の元による \(\alpha\) の像。\(\square\)
なお、志賀本のここの部分の証明には不備があると思われる。pp.152-153 に証明があるが、\(\dot{\theta}’\) を取るところで「\(\mathbf{K}(x_{1}, \dots, x_{n})\) を \(\mathbf{K}(\beta’)\) 上の体と見たときの原始要素」という制限しかつけておらず、これだと条件が不十分なはず。ここでは \(\dot{\theta}’\) は今から定める同型写像 \(g\) で \(\dot{\theta}\) がうつる先として想定しているのだから、「\(\dot{\theta}\) の \(\mathbf{K}(\beta)\) 上の最小多項式を、同型対応 \(h\) で \(\mathbf{K}(\beta’)\) に移した多項式の根」の中からしか \(\dot{\theta}’\) は選べないはずである。
そこでは、全射になることを示すため、次元数の考察だけは行っているが、次元数が一致するからと言って \(g(\dot{\theta})=\dot{\theta}’\) までもが成立するとは限らないはず。
コメントを残す