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ガロア理論 数学

ガロア理論入門ノートについて・その2

\(\newcommand{\rnsg}{\mathrel{\vartriangleright}}
\newcommand{\lnsg}{\mathrel{\vartriangleleft}}\)
以下の文章で、「本文書」というのは「ガロア理論入門ノート」のことを指す。

■ p.14 命題15 まず、「群 \(G\) の正規部分群は \(G\) と \(\{e\}\) のみとする」という仮定はいささか不用意。これだと \(G=\{e\}\) の場合も適するので、(\(\{e\}\) が可解群であることも考えれば)結論の「\(G\) は位数素数の巡回群である」が成立しない。(にもかかわらず証明中で破綻が生じてないように見えるのは、\(e\) 以外の元 \(\alpha\) の存在を勝手に仮定してしまっているため)

なので、ここでは \(G=\{e\}\) の場合を除いておかないといけない。実際、単純群と言った時には単位群 \(\{e\}\) は除いておくのが正確な定義のようだ(ここは正確には私はわかっていない。文献によって単純群の定義が違っている感じで、本文書と同じく「自分自身と単位群以外に正規部分群を持たない」という条件しか課していないものもれば、「自明でない群」と断っているものもあった。前者なら単位群も立派な単純群だが、「有限単純群の分類一覧」のようなものを見るとどれも単位群は入っていないようなので、どうやら後者の方が正確な定義らしい)。

また、この証明では途中で \(\lvert \langle \alpha \rangle \rvert = n\) としている所で暗黙のうちに \(G\) が有限群と決めつけてしまっている。ただし、本文書の本題では実は有限群しか扱わないため、命題15は仮定に有限群という条件を追加しておけば、本文書内では特に問題なく話は完結している(上で述べた単位群についての話を除けば)。

ただ、命題15自身は特に有限群という仮定を置かなくても正しく成立するので、意欲ある読者はその仮定を置かずに有限群であることを導く議論を考えてみるとよい。

なお、この命題15は本文書中で一見使われていないように見えるが、実は本文書の主定理である定理37の「\(\impliedby\)」の証明中で明記せずに使われている、「有限可解群では、商群 \(G_{i-1}/G_{i}\) がすべて素数次の巡回群になるように正規列を取れる」ということの証明に使われる。

■ p.15 命題16 (1) の証明 (B) 部
まず、明記はされていないがここでは \(f\) は準同型写像という前提であることは言うまでもない。ここで、\(f\) が全射であると仮定されているのがちょっと戸惑うが、目標が「\(G\) の準同型像もまたすべて可解群」であることの証明なので、「\(f\) が全射である場合に示せば十分」ということと思われる(全射でない場合は、\(f(G)\) を改めて \(G’\) と置き直せばいいだけ)。

なお、(1)の系として、『\(G\) が可解群ならば、正規部分群 \(N\) に対して、\(G/N\) と \(N\) も可解群』がなりたつことに注意しておく(\(G/N\) は自然な準同型写像による \(G\) の像なので)。そして(2)はこのことの逆もなりたつことを言っている。
■ p.15 命題16 (2) の証明の最初の部分では、「\(G/N\) の部分群はすべて \(G\) のある部分群 \(G_i\) を使って \(G_i/N\) の形で表せる」ということを先に示しておかないといけないように思われる。これは別に難しくないので証明は省略。

また、その少し後で同型定理2を使った後で、「このとき、\(G_{i} \lnsg G_{i−1}\) に注意する」とあるが、同型定理2を使うためにはそれは先に確かめておかないといけないことなので、この位置にあるのは少々まずい。具体的には、\(G_{i}/N \lnsg G_{i-1}/N\) であることから示しておくべきだろう(あるいは、示せる、ということを明記して読者の注意を喚起しておく)。この証明は「準同型写像では、引き戻しによっても正規部分群は正規部分群にうつる」ということを示せばいいだけなので、やはりここでは省略する。
■ \(G \rnsg N\) とする。可解群の定義から、\(G/N\) と \(N\) が共に可換なら \(G\) は可解と言えるが、命題16(2)はその拡張として「\(G/N\) と \(N\) が共に可解であっても \(G\) は可解と言える」ということを言っている。このことは、定理37の証明中で、次の形で何度も使う。『\(G/A \cong B\) のとき、
\[ \text{\(A\), \(B\) がともに可解} \iff \text{\(G\) が可解} \]
がなりたつ』

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