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ガロア理論 数学

ガロア群が可解である方程式の解き方・その1

\(\newcommand{\Q}{\mathbb{Q}}\)
前回、重解を持たない \(n\) 次方程式では、整数係数であれば \(n \geqq 5\) であっても解の置換群としての Galois 群が求められることを説明した。それだけでなく、\(\Q\) 上の原始元 \(V\) の最小多項式の具体的な表式と、\(V\) の多項式で各解を表す具体的な表式も求めることができた。

今回は、そのことを利用して、前回最後に書いた通り、「求まった Galois 群が可解群だったら、実際にその解をべき根で具体的に表す表式を求めることも(原理的には)可能」ということを説明する。

※ \(\Q\) を有限回べき根拡大して得られる体の数全体は可算無限個(…だよね?)しかないので、一列に並べて順に元の方程式に代入していくことで、可解な方程式の解は原理的には必ず有限回の試行で見つけられると言えば言えるが、ここで言っているのはそれよりはマシな手順。しらみつぶし的な試行錯誤は事前に候補を有限通りに絞った上で行うことが可能である。

次の事実を前提知識として使う。「要素数(位数)が素数の群は必ず巡回群である。また、単位元以外の任意の元がその生成元になる。」これは、有限群論の最も基本的な定理のひとつなので、証明は省く。

今回の話の核となるのは次の関係である。

解の置換群  \(G\) と、その正規部分群  \(H\) が具体的に与えられていて、商群  \(G/H\) の要素数(位数)が素数だとする。この時、解  \(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}\) の多項式で、\(H\) で不変なものが与えられて、その値を知りたくなったとすれば、その問題を「\(G\) で不変な解の多項式の値を求めること」に帰着できる。ここで、「帰着できる」というのは「後者が求まればべき根によって前者が求まる」の意味。

以下、このことを示す。

まず、仮定より \(\lvert G/H \rvert=p\) は素数だから、上述の前提知識から \(G/H\) は巡回群であり、さらに、\(G\) の置換で \(H\) に属さないもの \(\sigma\) を任意に1つ固定すると、\(G/H = \{H, \sigma H, \sigma^{2}H, \dots, \sigma^{p-1}H\}\) となる。

そして、解 \(\alpha_{1}, \alpha_{2}, \dots, \alpha_{n}\) の多項式 \(\psi(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n})\) の具体的な表式が与えられていて、それが \(H\) で不変だとしよう。つまり、
\(\forall h \in H \bigl[\psi(\alpha_{h(1)}, \dots, \alpha_{h(n)}) = \psi (\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n})\bigr]\) がなりたっているとする(【追記】ここは、厳密に述べるなら、「多項式としての」対称性を要請しており、「解を代入した値」に対する対称性では実は不十分。つまり、条件を正確に述べるなら、\(x_{1}, \dots, x_{n}\) を多項式の変数(不定元)として、\(\forall h \in H \bigl[\psi(x_{h(1)}, \dots, x_{h(n)}) = \psi (x_{1}, \dots, x_{n})\bigr]\) がなりたっていないといけない。そうでないと、次段落の結論部分が保証されなくなる。下の\eqref{eq:46-1}も、正確には「多項式としての \(\theta (x_{1}, \dots, x_{n})\)」を定める「多項式としての等式」と見ないといけない→この件については補足記事を書いた)。

この多項式に、上で固定した \(\sigma\) を次々に作用させていった値を \(\psi_{0}, \psi_{1}, \dots, \psi_{p-1}\) とする。
\[ \psi_{0} = \psi(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}),\quad \psi_{1} = \psi(\alpha_{\sigma(1)}, \dots, \alpha_{\sigma(n)}),\quad \dots, \]
すなわち、\(\psi_{k}\) は \(\sigma\) を \(k\) 回作用させた時の値である(\(k=0,1, \dots, p-1\))。\(H\) が \(G\) の正規部分群で \(\sigma^{k}H = H \sigma^{k}\) がなりたつことから、\(\sigma^{k}H\) のどの置換を作用させた値も \(\psi_{k}\) になっている。

\(1\) の \(p\) 乗根を \(\zeta\) とし、
\begin{equation}
\label{eq:46-1}
\theta = \psi_{0} + \zeta^{1}\psi_{1} + \zeta^{2}\psi_{2} + \dots +
\zeta^{p-1}\psi_{p-1}
\end{equation}
とおく。\(\theta\) に対し \(\sigma\) を作用させると \(\theta \mapsto \zeta^{-1} \theta\) なので、\(\theta^{p}\) は \(\sigma\) で不変。したがって \(\theta^{p}\) は \(G\) のどの置換でも不変である。

よって、この \(G\) 対称な多項式 \(\theta^{p}\) の具体的な値が求まれば、\(\theta\) の値はその \(p\) 乗根として得られる。これは「\(\theta\) の値」であって元々の「\(\psi\) の値」ではないが、次のように工夫(と言うほどの大げさなものではないが…)すれば「\(\psi\) の値」を求める手順に拡張できる。

\(p\) を一般の素数として述べると「\(\dots\)」がやたら現れてうるさい式になってしまうので、ここでは \(p=5\) と具体化して説明する。今度は \(\zeta\) を \(1\) の原始 \(5\) 乗根とすると、\(\zeta^{1}, \zeta^{2}, \zeta^{3}, \zeta^{4}, \zeta^{5}=1\) はすべて \(1\) の \(5\) 乗根なので、\eqref{eq:46-1}の \(\zeta\) をこれらで置き換えられる(\eqref{eq:46-1}及びその下の議論で使っている \(\zeta\) の性質は「\(1\) の \(p\) 乗根」であることだけで、「原始」\(p\) 乗根であることは要請していないので、\(\zeta^{5}=1\) で\(\zeta\) を置き換えても問題はない)。
\begin{equation}
\begin{aligned}
&\left.
\begin{aligned}
\theta_{1} &= \psi_{0} + \zeta^{1}\psi_{1} + (\zeta^{1})^{2}\psi_{2}
+ (\zeta^{1})^{3}\psi_{3} + (\zeta^{1})^{4}\psi_{4} \\
\theta_{2} &= \psi_{0} + \zeta^{2}\psi_{1} + (\zeta^{2})^{2}\psi_{2}
+ (\zeta^{2})^{3}\psi_{3} + (\zeta^{2})^{4}\psi_{4} \\
\theta_{3} &= \psi_{0} + \zeta^{3}\psi_{1} + (\zeta^{3})^{2}\psi_{2}
+ (\zeta^{3})^{3}\psi_{3} + (\zeta^{3})^{4}\psi_{4} \\
\theta_{4} &= \psi_{0} + \zeta^{4}\psi_{1} + (\zeta^{4})^{2}\psi_{2}
+ (\zeta^{4})^{3}\psi_{3} + (\zeta^{4})^{4}\psi_{4}
\end{aligned}
\right\} &\leftarrow \text{$5$乗すると$G$で不変} \\
&~\theta_{5} = \psi_{0} + \psi_{1} + \psi_{2} + \psi_{3} + \psi_{4}
&\leftarrow \text{そのままで$G$で不変}
\end{aligned}
\label{eq:46-2}
\end{equation}
\eqref{eq:46-2}を辺々足して \(5\) で割れば
\[ \psi_{0} = \frac{\theta_{1}+\theta_{2}+\theta_{3}+\theta_{4}+\theta_{5}}{5} \]
なので、\(\psi_{0}\) の値は \(\theta_{1}, \theta_{2}, \theta_{3}, \theta_{4}, \theta_{5}\) の値が解れば出る。ここで、\(G\) で不変な解の多項式が \({\theta_{1}}^{5}, {\theta_{2}}^{5}, {\theta_{3}}^{5}, {\theta_{4}}^{5}, \theta_{5}\) と \(5\) つ現れたが、これらの多項式としての表式はすべて具体的に手に入る(元々の多項式 \(\psi(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n})\) の表式も、\(G\), \(H\) の要素も具体的にわかっていると仮定されているので、\eqref{eq:46-2}より算出できる)。その \(5\) つの具体的な値がもし求まれば、\(5\) 乗根を使って \(\psi(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n})\) の値が求まる、という寸法である。

上の話だけでは \(G\) で不変な \(p\) 個の多項式の値が実際に求まったわけではない、という点に注意しておく。「多項式としての表記」は具体的に書き下されるが、それは「値そのもの」が具体的にわかることとは別の話である。ただ、もしその値までわかれば、元々の \(\psi(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n})\) の値もべき根によって求めることができる、という話になっている。

わかったことを再度まとめておく。

解の置換群  \(G\) と、その正規部分群  \(H\) が具体的に与えられていて、商群  \(G/H\) の要素数(位数)が素数だとする。\(H\) で不変な解の多項式の表記が具体的にわかっているとき、その値を求めることは、\(G\) で不変な解の多項式(表記は具体的に算出できる)の値を求めることに帰着される。

さてこのとき、もしも \(G\) よりもさらに大きい置換群 \(\hat{G}\) があって、「\(G\) が \(\hat{G}\) の正規部分郡で、商群 \(\hat{G}/G\) の要素数(位数)が素数」ということになっていたとしたらどうなるだろうか。当然、今値を求めたいと思っている \(G\) 対称な多項式の値は、さらに対称性の高い \(\hat{G}\) 対称な多項式の値が出れば求められる、ということになる。

と、いうことはだ。

要素がすべて具体的にわかっている置換群の縮小列
\begin{equation}
\label{eq:46-3}
G_{0} \supset G_{1}\supset \dots \supset G_{r}
\end{equation}
があって、隣り合う2つ \(G_{i}\), \(G_{i+1}\) の関係がすべて上の \(G\), \(H\) と同様(右が左の正規部分群で、商群の要素数(位数)が素数)だった場合、上の議論を繰り返し適用すると、どんどん対称性の高い多項式の値を求めることに帰着していく。つまり、最も小さい群 \(G_{r}\) で不変な多項式の値を知るためには、最も大きい群 \(G_{0}\) で不変な任意の多項式の値を求める手段があればよい。

特に、\eqref{eq:46-3}の右端の \(G_{r}\) が単位群 \(\{e\}\) である場合を考えよう。\(\{e\}\) で不変な多項式というのは何でもいいわけだから、単一の解そのもの \(\psi(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}) = \alpha_{1}\) を採用すれば、「解 \(\alpha_{1}\) の値を知るためには、最大の群 \(G_{0}\) で不変な任意の多項式の値を求める手段があればよい」ということになる。

これが、\(4\) 次以下の方程式が必ずべき根で解けたことのメカニズムだ。\(n=4,3,2,1\) のいずれに対しても
\begin{align*}
&S_{4} \supset A_{4} \supset \{e, (1,2)(3,4), (1,3)(2,4), (1,4)(2,3)\}
\supset \{e, (1,2)(3,4) \} \supset \{e\} \\
&S_{3} \supset A_{3} \supset \{e\} \\
&S_{2} \supset \{e\} \\
&S_{1} = \{e\}
\end{align*}
のように、対称群 \(S_{n}\) から \(\{e\}\) までつながる組成列があるので、解の値を求めることが最終的に解の対称式の値を求めることに帰着できるが、対称式になってしまえばしめたもの。対称式の値を基本対称式で表す手順があるおかげで、\(4\) 次以下の方程式はすべてべき根で解けるのである。

続いて、同様のことを、置換群としての Galois 群が具体的にわかっていて、可解群だった場合に考えてみる。このとき
\begin{gather*}
\text{Galois 群} = G_{0} \supset G_{1} \supset \dots \supset G_{r} =
\{e\} \\
G_{i} \rhd G_{i+1}, \quad \lvert G_{i} / G_{i+1} \rvert \text{ は素数}
\end{gather*}
となる組成列を、そのメンバー \(G_{0}, \dots, G_{r}\) の要素がすべて既知な形で作ることができる。Galois 理論の成果として「Galois 群で不変な多項式の値」が有理数になると言えるので、この場合も \(4\) 次以下の方程式と同様、解がべき根で求められることになる!


「ちょっと待った。それはぬか喜びなんじゃないか。ここでは解を『具体的な値として』求めることが目標なんだから、最大の群で不変な多項式の『具体的な』値が求まらないといけない。ところが、ある多項式の表式が Galois 群で不変な形をしていても、それだけではその具体的な値が自明にわかるわけではなかったはずだ。『Galois 群で不変な多項式の値が有理数になる』というのは、『値が \(\Q\) の中の“どこかには”ある』ということを保証するだけであって、“実際の値そのもの”を教えてくれるわけではなかったのだから。

例えば、角の \(3\) 等分方程式 \(x^{3}-3x-1=0\) の Galois 群は \(A_{3}=\{e, (1,2,3), (1,3,2)\}\) だったが、\(A_{3}\) で不変な多項式 \(\alpha\beta^{2} + \beta\gamma^{2} + \gamma\alpha^{2}\) は、単にこうやって書き下しただけでは値が自明に出てくるわけではない。もちろんこの特定の場合に限れば、上で見た通り \(A_{3}\) の上に \(S_{3}\) が乗っていて \(S_{3} \rhd A_{3}, \lvert S_{3}/A_{3}\rvert =2\) だからさっきと同じようにして \(S_{3}\) 不変な対称式に帰着させてべき根で値は求められるけど、それは \(3\) 次方程式の特殊事情。\(5\) 次以上の方程式の場合、Galois 群が可解であっても \(S_{n}\) とそんな風にはつながっていない。となると、『単に書き下しただけで値が自明に出てくる』ようでないと困るけど、そうはなってないよね?」

「そう。そこを私は以前思い違いしていて、移転前の blog で“\(r^{p}\) が \(K\) の数になる、ということが示しているのは、その有理式を実際に \(p\) 乗して展開し、うまく式変形を進めていけば、結果からは \(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}\) という文字は消えて、具体的な \(K\) の数(と \(\zeta\))だけが残ってくれるということまで含まれていた”などと書いてしまったのだけど、それは大ウソだった。『高次方程式 \(z^{n}-1=0\) の代数的解(概要)』 の \(n=11\) の場合の解説、特に『5乗が不変ということは、\(V_{1}^5, V_{2}^5, V_{3}^5, V_{4}^5\) の式から \(a,b,c,d,e\) が消えることを意味する』の部分が余りにうまく行っていることに引きずられて、軽はずみな早合点をしてしまっていた」

「じゃあ結局、『解をべき根で具体的に表す手順が構成できる』というのは見込み違いだったってこと?」


見込み違いではない。最初に「この手順で行けるんじゃないか?」と思いついた時は実はここで行き詰まってしまっていた。しかし、その後あれこれ考えているうちに突破口が開けた。前回の終わりから今回の冒頭にかけて「\(\Q\) 上の原始元 \(V\) の最小多項式の具体的な表式と、各解を \(V\) の多項式で表す具体的な表式が得られた」ということを、前回の手順の副産物としてもったいぶって繰り返してきたが、今こそそれが実を結ぶときだ。

前回の例で見たように、上の角の \(3\) 等分方程式の場合、それらは
\begin{align*}
x^{3}-9x-9 & \qquad \leftarrow\text{$\Q$上の$V$の最小多項式} \\
\alpha &= \frac{1}{3}V^{2}-V-2 \\
\beta &= -\frac{2}{3}V^{2}+V+4 \\
\gamma &= \frac{1}{3}V^{2} -2
\end{align*}
となっていた。この \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) を \(V\) で表した式を Galois 群 \(A_{3}\) で不変な式 \(\alpha\beta^{2} + \beta\gamma^{2} + \gamma\alpha^{2}\) に代入してみよう。\(V^{3}-9V-9=0\) を利用して次数下げしていくと \(\alpha\beta^{2}=V^{2}-2V-5\), \(\beta\gamma^{2}=-V^{2}+V+7\), \(\gamma\alpha^{2} = V+1\) となり、結局
\[ \alpha\beta^{2} + \beta\gamma^{2} + \gamma\alpha^{2} = 3 \]
と \(V\) が消え去って、見事にこれまで未知だった「\(3\)」という値が出てくる。

これはもちろん偶然ではない。Galois 群の作用で不変な形をしているということから「値が有理数である」ことは事前にわかっていたわけだが、\(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) を \(\Q\) 係数の \(V\) の多項式として具体的に表した式を代入して、\(V\) の最小多項式 \(g(x)=x^{3}-9x-9\)を使って次数下げしてやれば、\(\Q(V)\) の元を \(aV^{2}+bV+c \quad (a,b,c \in \Q)\) の形で表す表し方の一意性によって、定数項しか残り得ない。一般の \(n\) 次方程式の場合でもまったく同様で、Galois 群で不変な形の解の多項式では、解を \(V\) で表した式を代入して最小多項式による次数下げを行えば、最終的に \(V\) が消えて定数項だけが残って具体的な値がわかる。

これで、整数係数の重解を持たない \(n\) 次方程式の場合、置換群としての Galois 群を求めることも、その Galois 群が可解群だった場合に解を具体的な値としてべき根で求めることも、どちらも可能となった!


「さっきの件については納得が行ったが、まだ訊きたいことが3つある。

[1] \(\theta\) の値を知るためには \(\theta^{p}\) の値が求まればいい、という話だったが、よく考えるとそこで \(p\) 乗根をとる時に、\(p\) 個の値の不定性がある。そのどれをとるかは決まらなくて、\(\theta\) を「求める」所まで行かないんじゃないか?
[2] 「最終的に Galois 群で不変な多項式になるから、\(V\) で表した式を代入すると \(V\) 依存性が打ち消しあって値が求まる」という話は、前提に「Galois 群対称なので値は有理数」ということがあった。ところが今考えているのは「\(\Q\) 上の」Galois 群だったから、その話は正確には「有理数係数の」多項式に対してしか成立しないはずだ。なのに今の場合、単位群から Galois 群まで延々とはい上がってくる間に、いろいろな素数 \(p\) に対する \(1\) の原始 \(p\) 乗根 \(\zeta\) を多項式内にドーピングしてきてるから、「有理数係数」という条件がみたされていない。ということは、「Galois 群対称な多項式」だからと言ってその値が有理数とは限らず、\(V\) が消えてくれる保証がないのではないか?
[3] Galois 理論の核心のひとつが、「群と体との1対1対応」だった。ところが今の話はやけに体の影が薄い。群については単位群から Galois 群まで上ってくる間の構造に非常に仔細に視線が注がれているが、対応する体がどうなるのかはひどく曖昧模糊で、\(p\) 乗根が順次添加されている、ということくらいしかわからない。なのになんで破綻もせずちゃんと話が進むのだろう?」


[1] について。その不定性の一部は、当然ながら解 \(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}\) の順番の不定性によって当然生じるものだが、そうでないものも含まれている。実は、「\(\theta\) の値を知るためには \(\theta^{p}\) の値が求まればいい」というのはちょっと不正確な乱暴な言い方で、実際には \(\theta^{p}\) の値がわかっただけでは \(\theta\) の値「の \(p\) 通りの候補」が求まるに過ぎない。したがって、上の手順で求まるのは「解の候補」に過ぎない。しかし、最終的にはそれらの候補を元の方程式に代入すれば、それらのうちどれが本当の解なのかを決定することは可能である。したがって、「べき根で表した解の具体的表式を求める」上ではこの不定性は本質的な障害ではない。

また、この不定性をある程度系統的に減らすことはできる。よく、\(3\) 次方程式の一般解を求める説明の中で、「\(3\) 乗根は○○をみたすものを採る」という但し書きが付けられるが、今から述べるのはそれと本質的に同等な話である。上の \(p=5\) の場合を例にとると、まず \(\psi_{0}, \psi_{1}, \dots, \psi_{4}\) の \(5\) つの値の基本対称式
\begin{align*}
& \psi_{0} + \psi_{1} + \psi_{2} + \psi_{3} + \psi_{4} \quad (= \theta_{5}) \\
& \psi_{0}\psi_{1} + \dots + \psi_{3}\psi_{4} \\
& \vdots \\
& \psi_{0}\psi_{1}\psi_{2}\psi_{3}\psi_{4}
\end{align*}
は、\(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}\) で表せばやはり \(G\) で不変な多項式になっているので、それぞれ値が求められる(これは、\(5\) 乗根に起因する \(\theta_{1}, \dots, \theta_{4}\) の値の不定性に影響されない)。

さらに、\(\theta_{1}\)〜\(\theta_{5}\) で表せるのは \(\psi_{0}\) だけではなく、
\begin{align*}
\zeta^{-1}\theta_{1} + \zeta^{-2}\theta_{2} + \zeta^{-3}\theta_{3} +
\zeta^{-4}\theta_{4} + \theta_{5} &= 5\psi_{1} \\
\zeta^{-2}\theta_{1} + \zeta^{-4}\theta_{2} + \zeta^{-6}\theta_{3} +
\zeta^{-8}\theta_{4} + \theta_{5} &= 5\psi_{2} \\
\zeta^{-3}\theta_{1} + \zeta^{-6}\theta_{2} + \zeta^{-9}\theta_{3} +
\zeta^{-12}\theta_{4} + \theta_{5} &= 5\psi_{3} \\
\zeta^{-4}\theta_{1} + \zeta^{-8}\theta_{2} + \zeta^{-12}\theta_{3} +
\zeta^{-16}\theta_{4} + \theta_{5} &= 5\psi_{4}
\end{align*}
によって \(\psi_{1}, \dots, \psi_{4}\) も表せる。\(\theta_{1}, \dots, \theta_{4}\) の値の不定性によって、これらから決まる \(\psi_{0}, \psi_{1},
\dots, \psi_{4}\) の値にも不定性が出るが、そうやって出た値が上で求めた基本対称式の値をみたさないものは不適だから除外できる。

蛇足だが、仮に解の命名の仕方を決めたとしても、\(\sigma\) の選び方の不定性もあるので、それだけで \(\psi_{1}, \dots, \psi_{4}\) の値の並び順は複数ありうる。その分から来る不定性も、当然 \(\theta_{1}, \dots, \theta_{4}\) の不定性に寄与している。

[2] は後回しにして、[3] について。実は、これはむしろ「群に対応する体」をきちんと同定しようとすると破綻する話なのだ。式\eqref{eq:46-3}付近で書いたことを再掲する。

要素がすべて具体的にわかっている置換群の縮小列
\begin{equation*}
G_{0} \supset G_{1}\supset \dots \supset G_{r}
\end{equation*}
があって、隣り合う2つ \(G_{i}\), \(G_{i+1}\) の関係がすべて上の \(G\), \(H\) と同様(右が左の正規部分群で、商群の要素数(位数)が素数)だった場合、上の議論を繰り返し適用すると、どんどん対称性の高い多項式の値を求めることに帰着していく。つまり、最も小さい群 \(G_{r}\) で不変な多項式の値を知るためには、最も大きい群 \(G_{0}\) で不変な任意の多項式の値を求める手段があればよい。

これを導くときの議論を注意深く追ってみれば、\(G_{i}\) が Galois 群の部分群であることはまったく要請されておらず、Galois 群とはまったく無関係に議論が成立していることがわかるだろう。つまり、\(G_{i}\) は Galois 群に含まれないような置換を含むような群でも一向に差し支えないのである。

これが、\(5\) 次以上の方程式であっても、「解の差積の値だったら必ず平方根で求められる」ことのメカニズムになっている。対称群 \(S_{n}\) と交代群 \(A_{n}\) は、\(n \geqq 2\) ならば常に
\[ S_{n} \rhd A_{n}, \quad \lvert S_{n} / A_{n} \rvert = 2 \]
をみたしているので、上の \(G_{0}\), \(G_{1}\) の関係をみたしている。そして、\(G_{0}=S_{n}\) で不変な任意の多項式の値を求める手段があるので、\(G_{1}=A_{n}\) で不変な多項式の具体的な値は、\(2\) 乗根(平方根)を用いて表すことができる、という寸法だ。差積の \(2\) 乗が対称式になる、というのは、上の手順で \(\psi\) から \(\theta\) を定めると \(\theta^{2}\) が上位の群で不変になる、という話そのものであることは容易に確かめられるだろう。

\(S_{n}\), \(A_{n}\) は Galois 群からはみ出している群になることもあるが、その場合でも上の議論は何の問題もなく成立する。

Galois 理論での「群と体の1対1対応」というのは「部分群と中間体の1対1対応」だったから、「Galois 群の部分群」でない群に対しては、1対1に対応する体など元々あるはずがない。したがって、ここで繰り広げている議論においては、「対応する体」はむしろ意図的に無視しないと話が破綻するだけである。

ちなみに、この「考えている置換群が Galois 群の部分群とは限らない」というのが、ここまでの議論で「解の有理式」ではなく「解の多項式」に限定して話を進めていた理由。Galois 群に含まれない置換を有理式に対して使うと、分母の値が、置換前は \(0\) ではなかったのに置換後は \(0\) になってしまう、という事故がありうるので。


「え?それはいったいどういうこと?」
「例によって、角の \(3\) 等分方程式 \(x^{3}-3x-1=0\) の場合を例に取って説明しよう。\(V\) の最小多項式として \(x^{3}-9x-9\) を採用した時点で、解の命名順について一定の制約を付けたことになっているけど、この命名順のもとでは \(\alpha^{2} = 2-\beta\) などがなりたっている(\(V\) で表した式を代入して確認できる)。ということは、
\[ f(\alpha,\beta,\gamma) = \alpha + \beta^{2} -2 \]
という多項式を考えると(この値は実は \(-V \ne 0\))、Galois 群に含まれない置換 \((1,2)\) によって
\[ f(\beta,\alpha,\gamma) = \beta + \alpha^{2} -2 = 0 \]
にうつってしまうということになる。よって、\(f(\alpha,\beta,\gamma)\) を分母としていた有理式には、置換 \((1,2)\) の作用を定義することができない、ということになる」


さて、長くなってしまったので [2] については後日、次の記事で。

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