\(\newcommand{\Q}{\mathbb{Q}}\)
先月の終わりから今月始めにかけて、新しく気づいたことがふたつある。ひとつは、整数係数の代数方程式を1つ与えられたとき、重解がなければ、解の置換群としての Galois 群を具体的に求めることができる、ということだ。以下で、その手順を説明する。
以下の手順では、単に置換群としての Galois 群が求まるだけでなく、\(\Q\) 上の最小分解体を単拡大として与えるための原始元 \(V\) で各解を表す式や、\(V\) が Galois 群の変換によってうつる先の共役元を \(V\) で表す式も具体的に得られる。\(V\) の値そのものはわかるわけではないが、\(V\) の \(\Q\) 上の最小多項式は具体的に求まる。
以下の2点を予備知識として使う。
[1] 整数係数の多項式は、有理数係数の範囲内で因数分解できるなら必ず整数係数の範囲で因数分解できる。例えば、\(10x^{2}+9x+2\) は
\[ 10x^{2}+9x+2 = \Bigl(\frac{10}{3}x + \frac{4}{3} \Bigr) \Bigl( 3x+\frac{3}{2} \Bigr) \]
と有理数係数の多項式の積として因数分解できるが、右辺の各因子を通分し、分子の共通因数をくくり出せば
\[ \Bigl(\frac{10}{3}x + \frac{4}{3} \Bigr) \Bigl( 3x+\frac{3}{2} \Bigr) = \frac{2}{3}(5x+2) \cdot \frac{3}{2} (2x+1) \]
となって、うまく約分が起こって結局
\[ 10x^{2}+9x+2 = (5x+2)(2x+1) \]
という整数係数の範囲での因数分解が作れる。これと同様に、整数係数の多項式が有理数係数の多項式の積として因数分解されるときは、通分して共通因数をくくり出せば必ずうまく約分が起き、整数係数の範囲での因数分解が作れる。
証明は、http://aozoragakuen.sakura.ne.jp/taiwa/taiwaNch02/node30.html などを参照(本定理の証明は、このためだけならちょっと大げさな部分もあるように見えますが、さらに発展的なことを見据えるとこうなるもんなのかもしれません)。
これより、整数係数の多項式については、「有理数係数の範囲内で可約(既約)」と「整数係数の範囲内で可約(既約)」は同じこと。以下、係数の範囲に触れずに単に「可約(既約)」と言ったらそのことを指すとする。
[2] 整数係数の多項式は、整数係数の範囲で確実に因数分解できる手順が存在する。つまり、可約ならば整数係数の \(1\) 次以上の2つの多項式の積として具体的に表すことができ、既約ならば「既約である」ことが有限の手数内で判定できる。可約な場合、得られた2つの多項式に対してそれぞれ同じことを繰り返せるので、結局元の多項式の整数係数の既約分解が得られる。[1] で述べたことから、これは有理数係数での既約分解にもなっている。
証明は、http://aozoragakuen.sakura.ne.jp/taiwa/taiwaNch02/node31.html などを参照。
以上 [1], [2] を前提として、冒頭に述べたことを説明する。ここでは \(3\) 次方程式を例に取るが、解の具体値などの「\(3\) 次方程式がべき根で可解であるという特殊事情」は一切使わず、一般の \(n\) 次方程式にそのまま使える手法として説明するのでご安心を。
整数係数の方程式
\begin{equation}
\label{eq:45-1}
x^{3}-3x-1=0
\end{equation}
の解を \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) とする。重解はない。基本対称式は有理数(整数)で、
\begin{equation}
\begin{split}
\alpha+\beta+\gamma &= 0 \\
\alpha\beta+\beta\gamma+\gamma\alpha &= -3 \\
\alpha\beta\gamma &= 1
\end{split}
\label{eq:45-2}
\end{equation}
である。
\(V=\alpha + 2\beta + 3\gamma\) とおく(解の整数係数の1次結合)。対称群 \(S_{3}\) の \(3!=6\) 通りの置換で \(V\) の解を入れ替えた値を \(V_{1}\)〜\(V_{6}\) とする。
\begin{equation}
\begin{split}
V_{1} &= \alpha+2\beta+3\gamma = V\\
V_{2} &= \beta+2\gamma+3\alpha \\
V_{3} &= \gamma+2\alpha+3\beta \\
V_{4} &= \beta+2\alpha+3\gamma \\
V_{5} &= \gamma+2\beta+3\alpha \\
V_{6} &= \alpha+2\gamma+3\beta
\end{split}
\label{eq:45-3}
\end{equation}
\(V_{1}\)〜\(V_{6}\) を根に持つ多項式を作る。
\[ F(x) = (x-V_{1})(x-V_{2})(x-V_{3})(x-V_{4})(x-V_{5})(x-V_{6}) \]
これは \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) の対称式になるので、展開すると有理数(今の場合は特に整数)係数多項式になり、その係数は\eqref{eq:45-2}を使って具体的に求められる。非整数だった場合には通分して分子を取り出して、整数係数で \(V_{1}\)〜\(V_{6}\) を根に持つ多項式にしておく。今の場合、地道に計算すると
\begin{equation}
\label{eq:45-4}
F(x) = x^{6}-18x^{4}+81x^{2}-81
\end{equation}
となる。\(F(x)\) は係数が具体的に与えられた整数係数多項式なので、冒頭に述べた [2] によって既約な整数係数多項式の積の形に具体的に分解できる。
\eqref{eq:45-4}の場合は
\begin{equation}
\label{eq:45-5}
F(x) = (x^{3}-9x+9)(x^{3}-9x-9)
\end{equation}
となる。
\eqref{eq:45-5}より、\(V\) の \(\Q\) 係数の最小多項式は \(x^{3}-9x+9\) か \(x^{3}-9x-9\) のどちらか。どちらであるかは不明だが、例えば \(x^{3}-9x-9(=g(x) \text{ とおく})\) であるとしても一般性を失わない。なぜならば、\(g(x)\) の根はどうせ \(V_{1}\)〜\(V_{6}\) のどれかしかないから、たとえその中に \(V_{1}\) が入っていなくても、\(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) の命名を適当にやり直せば \(\alpha+2\beta+3\gamma\) が根になっているようにできるから。ただし、\(g(x)\) の残りの根が \(V_{2}\)〜\(V_{6}\) のどれなのかまではまだわからない。
さて、\(V_{1}\)〜\(V_{6}\) の値がすべて異なっていれば \(V\) は最小分解体 \(\Q(\alpha, \beta, \gamma)\) に関する \(\Q\) 上の原始元である。つまり、\(\Q(V) = \Q(\alpha, \beta, \gamma)\) である。
【証明】
\(\Q(V) \subset \Q(\alpha,\beta,\gamma)\) は明らかなので、\(\Q(V) \supset \Q(\alpha,\beta,\gamma)\) を示す。
\(\Q(\alpha,\beta,\gamma)\) の元は適当な有理数係数多項式 \(f(X,Y,Z)\) を使って \(f(\alpha, \beta, \gamma)\) と表せる。\(V_{1}\)〜\(V_{6}\) のそれぞれに使ったのと同じ置換で \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) を入れ替えた値を \(f_{1}\)〜\(f_{6}\) とする。
\begin{align*}
f_{1} &= f(\alpha,\beta,\gamma)\\
f_{2} &= f(\beta,\gamma,\alpha) \\
f_{3} &= f(\gamma,\alpha,\beta) \\
f_{4} &= f(\beta,\alpha,\gamma) \\
f_{5} &= f(\gamma,\beta,\alpha) \\
f_{6} &= f(\alpha,\gamma,\beta)
\end{align*}
ここで、Lagrange 補間によって次のような多項式を構成する。
\begin{align*}
& x=V_{1} \text{ を代入すると } f_{1} \text{という値になり} \\
& x=V_{2} \text{ を代入すると } f_{2} \text{という値になり} \\
& \vdots \\
& x=V_{6} \text{ を代入すると } f_{6} \text{という値になる}
\end{align*}
具体的には、次のような形の \(6\) つの項の和になる。
\[ f_{1} \times \frac{(x-V_{2})(x-V_{3}) \dots (x-V_{6})}{(V_{1}-V_{2}) (V_{1} – V_{3}) \dots (V_{1}-V_{6})} \]
和をとった多項式 \(P(x)\) は \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) について対称的だから、展開して整理すれば\eqref{eq:45-2}を使って有理数係数の多項式として具体的に求まる。
したがって、始めに取った値 \(f(\alpha,\beta,\gamma)\) は
\[ f(\alpha,\beta,\gamma) = f_{1} = P(V_{1}) = P(V) \in \Q(V) \]
となる。\(\square\)
対等性によって、\(V_{1}\)〜\(V_{6}\) はどれも \(\Q\) 上の原始元である。つまり、\eqref{eq:45-5}右辺の既約因子はどれも \(\Q\) 上の原始元の最小多項式である。
問題は、\(V_{1}\)〜\(V_{6}\) が本当に互いに異なっているかどうかを、\(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) の値が不明なままでどうやったら判定できるのか、ということだが、これは \(F(x)\) を\eqref{eq:45-5}のように既約分解した時点で、既約因子の重複の有無を確認すれば判定できる(重複の有無だけなら\eqref{eq:45-4}のように \(F(x)\) が整数係数の多項式として具体的に求まった段階で、\(F'(x)\) も求めて \(F(x)\), \(F'(x)\) の間で互除法を実行して互いに素かどうかをチェックするだけでもわかる)。
【2016,9/13 追記】今頃になってようやく気づきましたが、\(V_{1}\)〜\(V_{6}\) の差積を計算してもわかりますね。\(V_{1}\)〜\(V_{6}\) の差積は、\(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) で表すと反対称式になる(…で合ってますよね。解の互換 \(1\) 回で \(V_{k}\) の間の互換が \(\dfrac{3!}{2}=3\) 回起きるはず)ので、\(2\) 乗すれば対称式になって、解と係数の関係\eqref{eq:45-2}によって値がわかる(\(0\) かどうかが判明する)。一般の \(n\) 次方程式でも、\(\dfrac{n!}{2}\) の偶奇に応じて対称式か反対称式かになり(つまり \(n \geqq 4\) なら対称式、\(n=2,3\) なら反対称式)、同様にして \(0\) かどうかが判定できる。
ここで説明している手順だと、\(V_{1}\)〜\(V_{6}\) が互いに異なるような係数が見つかった後 \(F(x)\) を既約分解する必要があるため、全体の計算量としては結局差積を計算するより最初から \(F(x)\) を求めて…という手順の方が少なくてすむかもしれませんが、こんな基本的なことすら考えついていなかった、ということの自戒として公開しておきます。
もし運悪く重複があったら、\(V\) の \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) の係数を別の整数に変更して、\eqref{eq:45-3}(に当たる式)に戻って試す…ということをうまくいくまで繰り返す。\(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) が相異なることから、\(V_{1}\)〜\(V_{6}\) がすべて異なるような係数は必ず存在する。ただ、そんな係数を確実に見つけ出すアルゴリズムは意外に面倒(私が思いつく限りでは)なので、別記事にまとめておく(不適な係数の値のセットは一般に無限個あるので、あてずっぽうな試行錯誤ではいつまで経っても適切な値が得られない可能性がある。このため、適する係数を系統的に求められるアルゴリズムを考えておかないといけないのが少々厄介)。
こうやって作った \(V\) が原始元になるので、体の同型写像としての Galois 群の作用は、\(V\) を \(g(x)\) の根のそれぞれに写す変換として実現される。そこで、\(g(x)\) の \(V\) 以外の根が \(V_{2}\)〜\(V_{6}\) のどれなのか、ということが注目すべき問題になってくる。
上の手順で \(f(X,Y,Z)=X\) とおけば、\(\alpha = P(V)\) となる有理数係数多項式 \(P(x)\) が具体的に作れる。その式は \(V\) の最小多項式 \(g(x)=x^{3}-9x-9\) を使って次数下げしておくと簡潔にでき、
\[ \alpha= \frac{1}{3}V^{2}-V-2 \]
となる。同様に、\(\beta\), \(\gamma\) も
\begin{align*}
\beta &= -\frac{2}{3}V^{2}+V+4 \\
\gamma &= \frac{1}{3}V^{2} -2
\end{align*}
と求まる。\(V\) の値は不明だが、にもかかわらずその最小多項式と、3解 \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) を \(V\) で表す式は具体的に求まることになる。さらに、それらを\eqref{eq:45-3}に代入すれば、\(V_{1}\)〜\(V_{6}\) を \(V\) で具体的に表す表式がすべて得られ、次のようになる。
\begin{equation}
\begin{split}
V_{1} &= V \\
V_{2} &= V^{2}-2V-6 \\
V_{3} &= -V^{2}+V+6 \\
V_{4} &= V^{2}-V-6 \\
V_{5} &= -V \\
V_{6} &= -V^{2}+2V+6
\end{split}
\label{eq:45-6}
\end{equation}
\eqref{eq:45-6}を順次 \(g(x)\) に代入して、\(0\) になるかどうかを調べれば(※)、めでたく \(g(x)\) の \(V\) 以外の根が \(V_{2}\)〜\(V_{6}\) のどれなのかがわかる。
※ \(V\) の値が不明なままでも、\(g(V_{2})〜g(V_{6})\) が \(0\) になるかどうかは、\(V\) の最小多項式 \(g(x)=x^{3}-9x-9\) を使って次数下げすれば判定できる。
今の場合は \(V_{2} = \beta+2\gamma+3\alpha\), \(V_{3} = \gamma+2\alpha+3\beta\) が根であるとわかり、この \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) の並び順から、置換群としての Galois 群の元が \(\alpha \rightarrow \beta \rightarrow \gamma \rightarrow \alpha\) と \(\alpha \rightarrow \gamma \rightarrow \beta \rightarrow \alpha\)、そして単位元であることがわかる。
以上で、方程式\eqref{eq:45-1}の置換群としての Galois 群が具体的に求まった。また、解 \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) を原始元 \(V\) の有理数係数多項式で表す具体的な式と、\(V\) の \(\Q\) 上の最小多項式も具体的に得られた(後者がなぜ重要かと言うと、これが先日気づいたもうひとつのこと「(置換群としての)Galois 群が可解群だったら、方程式をべき根で解く具体的な手順も構成できる(\(V\) の値が事前にわかってなくても大丈夫)」から………なんだけどこれについてはまた日を改めて別の記事で)。
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