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ガロア理論 数学

ガロア群が可解である方程式の解き方・その2

\(\newcommand{\Q}{\mathbb{Q}}\)
もうちょっと書きたいことはあるが、書くのにちょっと時間がかかりそうなのでひとまず前回持ち越しとなっていたことにカタをつけておく。

前回の続きで、[2] の解決を図る。例によって、角の3等分方程式 \(x^{3}-3x-1=0\) を例にとる。\(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) を \(V\) で表す式に使われた多項式 \(\frac{1}{3}x^{2}-x-2\), \(-\frac{2}{3}x^{2}+x+4\), \(\frac{1}{3}x^{2}-2\) をそれぞれ \(a(x)\), \(b(x)\), \(c(x)\) とおく。つまり
\begin{equation}
\begin{cases}
a(V) &= a(V_{1}) = \alpha \\
b(V) &= b(V_{1}) = \beta \\
c(V) &= c(V_{1}) = \gamma
\end{cases}
\label{eq:47-1}
\end{equation}
である。

この \(a(x)\), \(b(x)\), \(c(x)\) に \(V_{2}\) を代入したらどうなるかと言うと
\begin{equation}
\begin{cases}
a(V_{2}) &= \beta \\
b(V_{2}) &= \gamma \\
c(V_{2}) &= \alpha
\end{cases}
\label{eq:47-2}
\end{equation}
である。なぜなら、体の同型写像としての Galois 共役変換(という名前は私が勝手に付けたものだけど)\(V \mapsto V_{2}\) は解に対する置換としては \(\alpha \rightarrow \beta \rightarrow \gamma \rightarrow \alpha\) としてはたらいたから、これを\eqref{eq:47-1}の両辺に作用させれば\eqref{eq:47-2}が出てくる(\(a(x)\), \(b(x)\), \(c(x)\) は \(\Q\) 係数なので作用が狂うおそれはない)。
まったく同様にして
\begin{equation}
\begin{cases}
a(V_{3}) &= \gamma \\
b(V_{3}) &= \alpha \\
c(V_{3}) &= \beta
\end{cases}
\label{eq:47-3}
\end{equation}
もわかる。

さて、Galois 群 \(A_{3}\) の作用で不変な解の多項式 \(I(\alpha, \beta, \gamma)\) が具体的に与えられたとしよう。今考えている状況ではこれは \(\Q\) 係数とは限らず、色々な \(1\) のベキ乗根を係数に含んでいる。この場合、\(I(\alpha, \beta, \gamma)\) の実際の値が、\eqref{eq:47-1}を代入し、\(V\) の最小多項式を用いて次数下げをするだけで \(V\) が打ち消し合って確定値として求まるのだろうか?というのが今考えている問題だった。

まず、仮定より
\begin{equation}
\label{eq:47-4}
I(\alpha, \beta, \gamma) = I(\beta, \gamma, \alpha) = I(\gamma, \alpha,
\beta)
\end{equation}
である。

また、\(I(\alpha, \beta, \gamma)\) に\eqref{eq:47-1}を代入し、\(V^{3}-9V-9=0\) を用いて次数下げするというのは、やっている計算としては \(I(a(x), b(x), c(x))\) を \(x^{3}-9x-9\) で割って余りを求めることと同じである。この割り算の商と余りをそれぞれ \(Q(x)\), \(\varphi(x)\) としよう。すると
\begin{equation}
\label{eq:47-5}
I(a(x), b(x), c(x)) = (x^{3}-9x-9)Q(x) + \varphi(x)
\end{equation}
である。\eqref{eq:47-5}に \(x=V_{1}\) を代入すると\eqref{eq:47-1}によって
\[ I(\alpha, \beta, \gamma) = \varphi(V_{1}) \]
だが、\(V_{2}\), \(V_{3}\) も \(x^{3}-9x-9\) の根だから、\eqref{eq:47-5}に \(x=V_{2}, V_{3}\) を代入しても右辺は同じように計算が進む。よって\eqref{eq:47-2},\eqref{eq:47-3}より
\begin{align*}
I(\beta, \gamma, \alpha) &= \varphi(V_{2}) \\
I(\gamma, \alpha, \beta) &= \varphi(V_{3})
\end{align*}
である。今得られた3つの式と\eqref{eq:47-4}によって
\begin{equation}
\label{eq:47-6}
\varphi(V_{1}) = \varphi(V_{2}) = \varphi(V_{3})
\end{equation}
を得る。

ところが \(\varphi(x)\) は \(3\) 次式 \(x^{3}-9x-9\) で割った余りだから、\(2\) 次以下の多項式。それが\eqref{eq:47-6}のように異なる \(3\) つの入力 \(V_{1}\), \(V_{2}\), \(V_{3}\) に対して同じ出力を返すのだから、\(\varphi(x)\) は定数多項式でなければならない。

これで、\(I(\alpha, \beta, \gamma)\) に\eqref{eq:47-1}を代入し、\(V^{3}-9V-9=0\) を用いて次数下げすれば、\(V\) が打ち消し合って定数だけが残ることが言えた。以上の議論は \(I\) の係数の範囲には何の制限も付けていないから、特に \(\Q\) に色々な \(1\) のべき根を添加した体の数が係数になっていても問題なく成立する。\(\square\)

以下のような別方針もありうる。今考えている状況では、\(I\) は多項式として \(A_{3}\) 不変なものが与えられている、という前提で考えればよいが、そうすると例えば「\(\alpha^{3}\beta^{2}\)」という項を \(I\) が含んでいれば、それらを \(A_{3}\) の各元でうつした \(3\) つの項
\[ \begin{cases}
\alpha^{3}\beta^{2} &\dots \text{$e$でうつした} \\
\beta^{3}\gamma^{2} &\dots \text{「$\alpha \rightarrow \beta
\rightarrow \gamma \rightarrow \alpha$」でうつした} \\
\gamma^{3}\alpha^{2} &\dots \text{「$\alpha \rightarrow \gamma
\rightarrow \beta \rightarrow \alpha$」でうつした}
\end{cases} \]
も \(I\) は持っていなければならず、しかもそれらの係数は一致しなければならない。そこで、\(I\) は
\[ \fbox{定数} \times (\alpha^{3}\beta^{2} + \beta^{3}\gamma^{2} + \gamma^{3}\alpha^{2}) \]
という形の項を持っていることになる。このかっこ内は \(\Q\) 係数で \(A_{3}\) 不変な多項式の形だから、前回の議論がそのまま使えて、\(V\) で表して次数下げすれば定数になる。

\(I\) の他の項も同様で、結局 \(I\) は
\[ \fbox{有理数じゃないかもしれない定数} \times \fbox{$A_{3}$不変な有理数係数多項式} \]
という形の項の和として表せて、結局それらすべてが \(V\) で表して次数下げすれば定数となるから、題意は示された。\(\square\)

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