メインヒロイン

このマンガでは、「メインヒロインは誰か」ということがしばしば論争のタ ネになるようです(と言うか、「なっていた」かな。連載終了後しばらくは結構 見かけた記憶がありますが、さすがに最近はそんな話も滅多に持ち上がったりは していないでしょうね)。大抵は、東城派の読者が「メインヒロインの東城と結 ばれないなんて話としておかしい」と主張し、西野派から「これは元々東城と西 野が対等なダブルヒロインものであり、2人ともメインヒロインだった。その証 拠に第1話の扉の構図を見よ。なのでこの結末でも何ら問題はない」と反論され る、という展開をたどるみたいですね。 いちごパンツを根 拠にする話と概ね同じで、東城派側の考えがやや甘く、検討の不十分さのため十 分な効果が挙がっていない、という結果に終わってしまっているパターンの ひとつです。「その場の思いつき」を表出すればそれで満足、というのならとも かく、何らかの意味のある主張を実績として残しておきたいのであれば、そうい う「思いつき」レベルの発言をただ垂れ流すのではなく、もう少し状況を見極め て、彼我の言い分の構造を分析してきちんと論理を組み立てることが必要でしょ う。それを怠って単なる「ガス抜き」程度の散発的な発言に終始するふがいない ざまでは、結局は西野派に 西野つかさはメインヒロインです。 東城綾もメインヒロインです。といった程度の通り一遍の反論であしらわれ てしまい、ひいては「東城派の主張というのはその程度」と舐められてしま うわけです。

私個人としては、「メインヒロイン」の範疇の特定(東城だけなのか東城と 西野両方なのか)には余り興味がありません。なぜならば、「メインヒロインだ から○○○だ」みたいな論の立て方は、実の所、結論には余り関係してこないは ずだからです。その○○○という部分は、「メインヒロイン」であることが必要 不可欠で、そうでなかったらまったく成立する余地がないのでしょうか?そんな に完全にスパッと二者択一で白黒ついてしまう話なのでしょうか?おそらくそん なことはないと思います。そこで本当に重要なことは、「メインヒロインかどう か」という「形式的なラベル」に囚われた判定ではなく、「作中で実際に 果たした・行われた実質的な役割・行動」に基づいて、資格や評 価に値するかどうかを判断すること、なのではないでしょうか。

そういう観点で言えば、私は実の所「西野だってメインヒロインだ」という 西野派の主張も、「メインヒロイン論」を持ち出す東城派と視野の狭さにか けては五十歩百歩だと思っています。西野がサブヒロインだって別に構わ ないじゃないですか。「サブヒロインだったにもかかわらず、最終ヒロ インになった」で何の問題もないでしょう。そう思っとけばいいんで すよ。それで何が困るんでしょうか?………まあ、困る困らないの問題ではなく て、「メインヒロインじゃない西野には最終ヒロインとなる『資格』がない」み たいにけなされるのが嫌だ、というのが主要な動機なんでしょうけどね。そこは 気持ちとしてはわからなくもないです。ただ、上述の通り、そこで持ち出すのが 「西野だってメインヒロインだ」という論法だというのは、所詮は同じ穴のムジ ナにしか感じられず、「論争としては同レベル」で私の中ではカタが着いてしま う話になります。

もうひとつ、余り見かけることがない観点をひとつ提示しておきます。東城・ 西野それぞれと、他のヒロインとの関係に着目してみます。もし「東西どちらも メインヒロイン」で対等だった、とするならば、この図のように、どちらも他の ヒロインと大体同じくらいの量の人間関係を持ち、バランスのとれた関係になっ ていて然るべきですね。

架空の人物関係図

ところが、実際にはどうだったでしょうか。 以前述べたことがありますが、西野は 真中以外のキャラとの関わりが極めて希薄なキャラでした。圧倒的な読者人気を 背景に、他のキャラとの関わりの掘り下げなどそっちのけで、とにか く読者サービス先行で真中とのお色気シーンを奮 発すること最優先で、ひとりだけいい目を見る特権的ポジションにありつい ていた不逞の輩が再登場後の西野というキャラでした。他のヒロインとの人 間関係で、中心にいたのは東城です。つまり、実際のヒロイン間の人間関 係はこんな図でした。

実際の人物関係図

これは、東城にとってはいいことばかりではありませんでした。他のキャラ の出番を与えるため相対的に出番が減るということもありますが、重要なのはそ こではありません。この手のマンガの宿命として、他のヒロインも人間関係に波 風を立てるために多かれ少なかれ真中との恋愛模様に関わってきますが(※注)、 東城ばかりがその波風を受ける役回りになってしまうのですね。一方 西野はというと、東城以外のヒロインの波風を受ける場面というのはほぼ皆無に 近い。クリスマスケーキ回や、逆懸垂の直前の真中と向井の出会いの目撃、程度 のごく軽い出来事にしか出会いません。西野が何か深刻な出来事に遭うとき、そ の相手はいつも決まって東城でした。他のヒロインのために割を食うの は東城ばかりで、西野はその役割を免除されいつも自分勝手に振る舞 えるよう野放しにされていた。物語上の機能としては、西野は上の図のよう に東城を振り回し、また振り回されるという機能しかほとんど持っていなかった のです。この観点からすれば、西野は紛れもないサブヒロインであって、 「メインヒロイン」と呼ぶにふさわしいのは東城ひとりになるのではないでしょ うか。

※ 美鈴はまあ例外としましょう。端本も登場時にほんの一瞬 そういう雰囲気を匂わせただけ、と見られるので実質的に除外できる、という立 場をとりたい人はそれでもよいです。

ま、これもあくまで「あるひとつの角度からの見方」でしかなく、私の基本 スタンスは上述した通り「メインヒロイン」が誰か、という不毛な議論には余り 興味がない、というものです。上の考察も「どなたかの参考になれば幸い」とい う程度の話でしかないので悪しからず。


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井汲 景太 <ikumikeita@jcom.home.ne.jp.NOSPAM.>(迷惑メールお断り)
最終更新日: 2024年04月10日