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ガロア理論 数学

ガロア理論入門ノートについて・その3

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以下の文章で、「本文書」というのは「ガロア理論入門ノート」のことを指す。

■ 定理17の証明で、「\(A_{n} = N\) であることを示せば \(A_{n}\) が可解群であることに矛盾する」という文はちょっとわかりにくいように思った。その前段で、特に \(N\) を真部分集合と限定していたわけではないので、最初に読んだときは「なんで矛盾なの?」と思ってしまった。前段部の「\(N \lnsg A_{n}\) かつ \(A_{n}/N\) がアーベル群となる部分群 \(N\) がある」が「\(\exists N\)」であると読めるような言い回しをしているためちょっと紛らわしいが、ここでの論法は「そのような \(N\) としては \(N=A_n\) しかありえない」ということを示すというものになっており、「\(\exists N\)」という話はしていなかったのだが、それはよく読まないとわからなかった。それならば確かに可解群でないと言えるが、それなら別にわざわざ背理法という態をとる必要はなく、\(A_{n}\) が可解ということを仮定せずに単に「\(N \lnsg A_{n}\) かつ \(A_{n}/N\) がアーベル群となる部分群 \(N\) は \(N=A_{n}\) に限る」ということを示せば、(\(A_{n}\) が非アーベル群であることとあわせて)\(A_{n}\) が可解でないことが直接言える。この方がシンプルではないだろうか。

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ガロア理論入門ノートについて・その2

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\newcommand{\lnsg}{\mathrel{\vartriangleleft}}\)
以下の文章で、「本文書」というのは「ガロア理論入門ノート」のことを指す。

■ p.14 命題15 まず、「群 \(G\) の正規部分群は \(G\) と \(\{e\}\) のみとする」という仮定はいささか不用意。これだと \(G=\{e\}\) の場合も適するので、(\(\{e\}\) が可解群であることも考えれば)結論の「\(G\) は位数素数の巡回群である」が成立しない。(にもかかわらず証明中で破綻が生じてないように見えるのは、\(e\) 以外の元 \(\alpha\) の存在を勝手に仮定してしまっているため)

なので、ここでは \(G=\{e\}\) の場合を除いておかないといけない。実際、単純群と言った時には単位群 \(\{e\}\) は除いておくのが正確な定義のようだ(ここは正確には私はわかっていない。文献によって単純群の定義が違っている感じで、本文書と同じく「自分自身と単位群以外に正規部分群を持たない」という条件しか課していないものもれば、「自明でない群」と断っているものもあった。前者なら単位群も立派な単純群だが、「有限単純群の分類一覧」のようなものを見るとどれも単位群は入っていないようなので、どうやら後者の方が正確な定義らしい)。

また、この証明では途中で \(\lvert \langle \alpha \rangle \rvert = n\) としている所で暗黙のうちに \(G\) が有限群と決めつけてしまっている。ただし、本文書の本題では実は有限群しか扱わないため、命題15は仮定に有限群という条件を追加しておけば、本文書内では特に問題なく話は完結している(上で述べた単位群についての話を除けば)。

ただ、命題15自身は特に有限群という仮定を置かなくても正しく成立するので、意欲ある読者はその仮定を置かずに有限群であることを導く議論を考えてみるとよい。

なお、この命題15は本文書中で一見使われていないように見えるが、実は本文書の主定理である定理37の「\(\impliedby\)」の証明中で明記せずに使われている、「有限可解群では、商群 \(G_{i-1}/G_{i}\) がすべて素数次の巡回群になるように正規列を取れる」ということの証明に使われる。

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ガロア理論入門ノートについて・その1

\(\newcommand{\lnsg}{\mathrel{\vartriangleleft}}\)
ここからは、実際に「ガロア理論入門ノート」の内容に立ち入って話を進めていく。

■ p.5 例(3)で「\(\mathbf{Z}/p\mathbf{Z}\) の全ての元が生成元となり得る」とあるが、\(0\) は当然除かないといけない。
■ pp.6-7 定理3 p.6 の最下行で「の互換」がダブっている。なお、この証明では \(k\) の偶奇がどこにも効いておらず、置換群に初めて触れる読者には一見 \(k\) が偶数の場合にも矛盾が示されてしまったかのように見えるかもしれない。しかしこれは矛盾や証明の誤りではないので、この点を疑問に思った読者はどのようにして解決されるのか、まずは自分で考えてみるとよい。
■ p.6 \(V_{4} \lnsg A_{4}\) の証明の所で、「\(\lnsg\)」記号の位置がずれてやや見苦しくなってしまっている。
■ p.7 第2段落最後の方「偶数全体 \(A_{n}\)」は当然「偶置換〜」が正しい。
■ p.7 中段例(2)で、長さ 3 の巡回置換には \((143)\) が欠けている。
■ p.9 命題7の下の例の(2)で、「\(A_{4}=\langle(123), (124)\rangle\) なので、\(A_{4}/V_{4}\) は \(V_{4}\) と \((123)V_{4}\) と \((124)V_{4}\) からなる」とあるが、この「なので」はちょっと不用意な用法。加法群としての \(\mathbb{Z}\) は \(\mathbb{Z}=\langle1\rangle\) だけど、\(\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}\) は \(3\mathbb{Z}\) と \(1+3\mathbb{Z}\) からできてるわけじゃない。つまり、\(A_{4}/V_{4}\) が \(V_{4}\) と \((123)V_{4}\) と \((124)V_{4}\) からなっていることは、\(A_{4}=\langle(123), (124)\rangle\) であることと関連はしていても、それが直接の単一原因というわけではない。
■ 命題8は補題36でしか使ってないはずで、補題36は定理37でのみ使い、しかも、私の考えが正しければ実は定理37は補題36を使わずに示せるはずなので、結果的には命題8は不要と思われる。
■ p.10 準同型定理の最初の所で、「2つ群の」とあるのは「2つの群の」。
■ 命題10 (1) の証明では、\(x’\) の逆元が \(\operatorname{Im}(f)\) に含まれることも示さないといけない(容易だが)。
■ p.12 定理13の証明で、(2) に進む前に、「このことと \(HN \supset N\) によって \(N\) は \(HN\) の正規部分群になるので、\(HN/N\) が定義できるようになる」ということに触れておくと親切かな。

とりあえず今日はここまで。

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ガロア理論の学習に至るまで

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「5 次(以上の)方程式には解の公式がない」という話を初めて読んだのは、小学校の図書室の本でだったか。当時は当然ながら 2 次方程式の解の公式はおろか \(\sqrt{~~}\) 記号すら知らなかった(それどころか「方程式」とは何なのか、を理解していたかどうかすら怪しい)が、他に取り上げられていた数学の話題と並んで、このことは印象に残っていた。

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はじめに

ガロア理論を理解したい、特に「5 次方程式に解の公式がない」という証明の理解を中心として、と思っていた私が、「ガロア理論入門ノート」という手頃なテキストのおかげで目標を達することができました。公開してくださった Osamu MATSUDA さんに感謝すると共に、後から同じ道を辿る方の助けとなるべく、読み進める過程で引っかかった点を解説したり、不備がある部分を補足していきたいと思います。

また、同テキストとは直接は関係しないような、関連する話題にも随時触れていきたいと思います。