\(\newcommand{\field}[1]{\mathbb{#1}}\)
引き続き「退職後は素人数学者」さんの「可解な代数方程式のガロア理論に基づいた解法」についての話題です。
「根 \(x_{1} ,x_{2},\dots ,x_{n}\) と係数 \(a_{n-1}, \dots, a_{1}, a_{0}\) の関係」について
この第 1 節の重要な部分について、私には理解できていない点があります。根と係数の関係を使って、\(r_1=0, r_2=0, \dotsc\) を使って順次 \(x_n, x_{n-1}, x_{n-2}, \dots\) を消去していく際に、最初に \(x_n\) が消去できるのはいいとして、その後 \(x_{n-1}\) 以降も順調に消去ができる式変形のメカニズムがうまく掴めていません。\(x_{n-1}\) の消去では \(x_{n-1}\) の \(2\) 次式で割り算しているので、余りの式は \(x_{n-1}\) の \(1\) 次の項を一般には含むはずですが、それが消えるのはどうしてなんでしょう。
その次の \(x_{n-2}\) の次数を下げるところでも同じです。なぜ \(2\) 次や \(1\) 次の項が残らずに \(x_{n-2}\) は完全に姿を消してしまうのでしょうか。
一般の \(n\) 次方程式で、一番最後に \(x_2\) を消去して、\(x_1\) のみたす \(n\) 次式を求めたときに、現れるのが元の方程式 \(f(x_1)=0\) そのもので、そこに \(x_2, x_3, \dots, x_n\) が出てこないことだけはまあわかります。解がみたす \(n\) 次式が作れるとしたら、それ以外のものは出てきようがないでしょうから。けれどそのひとつ手前までの式で、都合よく添字の大きい解が消えてくれるのが私には不思議です(もしかしたら、そこは多変数多項式論の初歩の話で、それを私が知らないだけなのかもしれません)。
以上の疑問点は「退職後は素人数学者」にメールでお伝えしたのですが、まだ返答は頂けていないので、もしどなたか手っ取り早く解説してくださる方がいらしたら、教えて頂ければ幸いです。
\(\theta(x)\) がゼロ多項式になる可能性
前回の記事で次のように書きましたが、この事情がわかりました。
「退職後は素人数学者」さんが
しかし,上記の方程式の場合,剰余を取った後も \(v\) が残ってしまいました。
と書かれているのはちょっと不思議です。ゼロ割のエラーがどこかで強制捕捉されて、見かけ上エラーが出ないまま処理が続行するようになっている…?)
まず、\(x^3-2=0\) の場合、解 \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) に対して \(V=\alpha+2\beta+3\gamma\) とすると \(g(x)=x^6+108\) となります。これを \(g_0(x)\) とすれば \(g_1(x)=x^3-6\sqrt{-3}\) となり、この段階では体は \(\field{Q}(\sqrt{-3})\) で \(\field{Q}(\omega)\) と一致します。
「退職後は素人数学者」さんや jurupapa さんのプログラムでは、\(1\) の原始 \(p\) 乗根は「\(1+Z+Z^2+ \dots +Z^{p-1}=0\) をみたす文字 \(Z\)」という扱いで、その具体的な値まで出しているわけではないので、\(1\) の原始立方根 \(\omega\) と \(\sqrt{-3}\) が \(\omega= \frac{-1 \pm \sqrt{-3}}{2}\) という関係で結ばれているという事情は考慮に入っていません。
このため、\(g_1(x)=x^3-6\sqrt{-3}\) で割った剰余に \(\omega\) と \(\sqrt{-3}\) が両方入っていて、「見かけ上 \(0\) ではないが真の値は \(0\)」という状況が発生しています。つまり \(g_1(v)=v^3-6\sqrt{-3}\) で割った余りの \(v^2\) や \(v\) の係数が \(2\omega+1-\alpha\) みたいな式になっていて(ただし、\(\alpha^2=-3\))、見かけが \(0\) ではなくなっているわけです。
というわけで、結構面倒なことになるかもしれない、と思っている所です。今の場合は「\(1\) の原始立方根 \(\omega\) と \(-3\) の平方根」という、よく事情がわかる数が対象だったので「見かけ上 \(0\) ではないが真の値は \(0\)」となっていることがわかったわけですが、もっと \(p\) の値が大きい \(\zeta_p\) が絡んでくると、他に顔を出しているべき根との関係がすぐにはわからないので、真の値が \(0\) なのかどうか、そう簡単には判断がつかない場合がしばしばあると考えられます。
「退職後は素人数学者」さんのアルゴリズムに従うにしろ、前回の記事の私の改良版にしろ、「\(\theta(x)\) が \(0\) かどうか」が判定できないと不適な \(0\) 割りが回避できません。ここを自動化するにはどうしたらいいのか、悩ましい所です。
\(g_{k-1}(v)\) による剰余をとった結果、見かけ上 \(v\) の \(0\) 次式にならなかった場合、\(1\) 次以上の係数については「実は真の値は \(0\) である」ということがわかる(よって、それを利用して式の簡約化をさらに進めるのにも利用できる)ので本質的には困りませんが、\(0\) 次の項は「真の値が \(0\)」かどうか、そう簡単にはわからなそうです。
おそらく、\(x^3-2=0\) を解く場合は、\(2\omega+1-\alpha\) と \(2\omega+1+\alpha\) (ただし、\(\alpha^2+3=0\))が両方現れて、「どっちかは \(0\) だがどちらが \(0\) なのかは与えられた条件だけでは不明」という状況になっているのだろうと思います(「\(1\) の原始立方根の \(2\) 通りのどちらを \(\omega\) に選ぶか」と「\(-3\) の平方根の \(2\) 通りのどちらを \(\alpha\) に選ぶか」を決めて初めて、\(2\omega+1-\alpha\) と \(2\omega+1+\alpha\) のどちらが \(0\) になるのかが決まる、ということ)。一般の場合もおそらく同様でしょう。ということは、各 \(\theta_i(x)\) は「\(0\) 多項式になる可能性があるが、それはそういうべき根の不定性を決めてからでないと確定しない」ということなのではないでしょうか。
私の提示したアルゴリズムだと、「各 \(\theta_i(x)\) が \(0\) 多項式かどうかは確実に判定できる」ということを前提にしているので、そこをどうすれば切り抜けられるのか、簡単には思いつきません。(jurupapa さんの計算によれば、計算過程で \(0\) 割りが発生して行き詰まってしまった、とのことでしたから、うまく行かない場合は「有理式を多項式に直す」過程で \(\text{分母}=0\) になってしまうと仮定してよい?だとすると、「\(\text{分母}=0\) になってしまう場合は \(\theta_1(x)=0\) になる場合なので別の \(\theta_i(x)\) を \(\theta_1(x)\) に取り直す」ようにすればうまく行く?)
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