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ガロア理論 数学

数式処理ソフトによるガロア群の算出と、べき根を用いた厳密解の表現 その2

可解な代数方程式のガロア理論に基づいた解法」をご寄稿くださった「退職後は素人数学者」さんから、補足のコメントを頂きました。実際には数日前にコメントとして投稿されたものの、弾かれてしまってコメントとして反映されなかった、ということで、電子メールで直接送っていただきました。

私も近日中に補足記事を書くつもりですが、ひとまず先に公開します。コメントが弾かれてしまった理由は、残念ながら不明です。【追記】と書きましたが、ちゃんと見直したらスパムフィルターに引っかかっていただけでした。「退職後は素人数学者」さん、申し訳ありませんでした。

可解な代数方程式のガロア理論に基づいた解法」に関して,誤りが2つ見つかりました。井汲さんとは何回かメールを交換していますが,今回だけは他の読者にもお知らせしたほうがよいと思い,この場で報告させていただきます。

≪第1の誤り≫

ガロア群の組成列が正しく求められない場合があります。例えば,\((x^2-2)(x^2-3)(x^2-5)=0\)の場合,根を \(x_1,x_2=\pm\sqrt{2}\),\(x_3,x_4=\pm\sqrt{3}\),\(x_5,x_6=\pm\sqrt{5}\)とすると,ガロア群は以下の8個の置換となります。
\begin{gather*}
\{\sigma_1,\sigma_2,\sigma_3,\sigma_4,\sigma_5,\sigma_6,\sigma_7,\sigma_8\}\\
= \{1,(12),(34),(56),(12)(34),(12)(56),(34)(56),(12)(34)(56) \}
\end{gather*}
正しい組成列(何通りかあるうちの1つ)は以下となります。
\[ \{\sigma_1,\sigma_2,\sigma_3,\sigma_4,\sigma_5,\sigma_6,\sigma_7,\sigma_8\} \supset \{\sigma_1,\sigma_2,\sigma_3,\sigma_5\} \supset \{\sigma_1,\sigma_2\} \supset \{\sigma_1\} \]
私の方法では,各 \(\sigma_i (i=1,2,\dots,8) \)について,それを含む最小の正規部分群を求め,その8個の中で最大の正規部分群を次段の組成列として採用するので,\(\{\sigma_1,\sigma_2,\sigma_3,\sigma_5\}\)を見落とし,\(\{\sigma_1,\sigma_2\}\)を採用してしまいます。

≪第2の誤り≫

jurupapaさんの記事http://maxima.hatenablog.jp/entry/2018/12/02/103713によると,\(x^3-2=0\),\(x^5-3=0\),\(x^5-4=0\) は解けなかったそうです。私のプログラムでも確認してみましたが,解けませんでした。「可解な代数方程式のガロア理論に基づいた解法」の39頁8-11行では,以下のように書いています。

このとき,\(\theta_0(x)\)と\({\theta_i(x)}^{p_k}\)の各係数はまだvの多項式であるが,上記(2),(3)によると,これらは体\(F_{k-1}\)の元である。よって,これらの各係数について\(g_{k-1}(v)\)による剰余を取ると,\(v\)の次数は\(0\)となり,定数項(\(v^0\)の項)は体\(F_{k-1}\)の元になる。

しかし,上記の方程式の場合,剰余を取った後も\(v\)が残ってしまいました。

≪追記≫

Mathematicaでの計算時間を調べたので,この機会を借りてお知らせします。以下に示した4組の計算時間のうち,第1は最小多項式\(g(x)\),第2は根の\(v\)多項式表現,第3はガロア群と組成列,第4は根のべき根表現に要する計算時間です。第1,2,3は「可解な代数方程式のガロア理論に基づいた解法」の第10節で示したプログラムによります。第4は同じく第14節で示したプログラムによります。計算に使ったのはごく普通のノートパソコン(CPU 2.40GHz,RAM 3.86GB)です。
(例1) \(f(x)=x^3+a_2*x^2+a_1*x+a_0\) (1秒,0秒,0秒,1秒)
(例2) \(f(x)=x^4+a_2*x^2+a_0\) (28秒,11秒,3秒,0秒)
(例3) \(f(x)=x^4+a_2*x^2+a_1*x+a_0\) (1分30秒,計算不可,計算不可,−)
(例4) \(f(x)=x^4+2x^3+3x^2+4x+5\) (8秒,1秒,0秒,2分51秒)
(例5) \(f(x)=x^5+2x^3+4x^2-x+4\) (1時間25分51秒,33分17秒,1分57秒,12分31秒)
(例6) \(f(x)=x^5+a_3*x^3+(a_3^2/5)x+a_0\) (10時間34分46秒,計算不可,計算不可,−)
(例7) \(f(x)=x^5+2x^4+3x^3+4x^2+5x+6\) (1時間16分32秒,25分28秒,31秒,−)
(例8) \(f(x)=x^6+2x^5+3x^4+4x^3+5x^2+6x+7\) (計算不可,計算不可,計算不可,−)
(例9) \(f(x)=x^{16}+x^{15}+\dots+x^2+x+1\) (計算不可,計算不可,計算不可,2秒)

上記の誤りが解決したときは,また報告しますが,今のところは解決の見通しはありません。しばらくお待ち下さい。

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