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ガロア理論 数学

続・番外編

\(\newcommand{\abs}[1]{\lvert #1 \rvert}\)
締めくくったはずの話が続いてしまって申し訳ないが、前回の 1. についての思いつきを書いておく。\(p\) 個の \(p\) 乗根の採用の仕方によって解の候補が何通りも出てきてしまい、どれが解なのかを決定するのが困難になることを克服できそうな案を述べる。

まず、\(3\) 次方程式 \(x^{3}+sx+t=0\) の解は、\(A=-\frac{t}{2}\), \(B=\frac{t^{2}}{4} + \frac{s^{3}}{27}\) とおくと
\begin{align}
\label{eq:57-1}
\alpha &= \sqrt[3]{A + \sqrt{B}} +
\sqrt[3]{A – \sqrt{B}} \\
\label{eq:57-2}
\beta &= \omega \sqrt[3]{A + \sqrt{B}} +
\omega^{2} \sqrt[3]{A – \sqrt{B}} \\
\label{eq:57-3}
\gamma &= \omega^{2} \sqrt[3]{A + \sqrt{B}} +
\omega \sqrt[3]{A – \sqrt{B}}
\end{align}
だった。ここでは、\(\sqrt{B}\) を \(-\sqrt{B}\) に置換しても\eqref{eq:57-1}に変化はなく、\eqref{eq:57-2}, \eqref{eq:57-3}は入れ替わるので解 \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) 全体としては変化がない。これは、解を与える式\eqref{eq:57-1}〜\eqref{eq:57-3}は平方根(\(2\) 乗根)の取り方の不定性に影響を受けない、ということを意味する。

では立方根(\(3\) 乗根)ではどうだろうか。立方根の取り方の不定性の影響は、\(\sqrt[3]{~}\) を \(\omega \sqrt[3]{~}\) や \(\omega^{2} \sqrt[3]{~}\) に置き換えることに相当するが、\eqref{eq:57-1}〜\eqref{eq:57-3}の 2 つの立方根に対して独立にそのような置き換えを行うことはできない。\(\sqrt[3]{A + \sqrt{B}}\), \(\sqrt[3]{A – \sqrt{B}}\) には
\[ \sqrt[3]{A + \sqrt{B}} \sqrt[3]{A – \sqrt{B}} = -\frac{s}{3} \]
をみたす枝を取る、という規約があったので、ここでは実質的な立方根は1つだけである。例えば \(\sqrt[3]{A – \sqrt{B}}\) の方は
\[ \sqrt[3]{A – \sqrt{B}} = -\frac{s}{3\sqrt[3]{A + \sqrt{B}}} \]
の単なる略記と見られる。よって \(\sqrt[3]{A+\sqrt{B}}\) を \(\omega \sqrt[3]{A+\sqrt{B}}\) に置き換えるときは \(\sqrt[3]{A-\sqrt{B}}\) の方は同時に \(\omega^{2} \sqrt[3]{A-\sqrt{B}}\) に置き換えることになる。この置き換えによって\eqref{eq:57-1}〜\eqref{eq:57-3}の値は \(\alpha \rightarrow \beta \rightarrow \gamma \rightarrow \alpha\) と変化するので、結局解全体としては変化がない。まったく同様のことが \(\sqrt[3]{A+\sqrt{B}}\) を \(\omega^{2} \sqrt[3]{A+\sqrt{B}}\) に置き換えるときにも言える。よって、\eqref{eq:57-1}〜\eqref{eq:57-3}は \(3\) 乗根の取り方の不定性にも影響を受けない、ということになる。

簡単のため、Galois 群が \(S_{3}\) の場合を考えると、上の \(2\) 乗根、\(3\) 乗根の取り方の不定性に由来する置き換えが Galois 群 \(S_{3}\) を生成する置換になっていることが見てとれるだろう。

このことから、「これまでの記事で気にかけていた \(p\) 乗根の不定性というのは、実は Galois 群による解置換を生成するもの(つまり、自明で無害なもの)だけに限られて、不適な解を含む恐れはなくせるのではないか?」という希望的観測が浮かんでくる。

で、おそらくそれは正しいのではないか?という見通しが立ったのでこの記事を書いている。厳密な形で証明できたわけではないが、自由度の勘定が合ったので、たぶんこれでいいんだろう、ということで私の中では満足が行ったため、これ以上追究する気はあんまりない。更に深く追究したい方は、以下の話の続きを引き取ってきちっとした証明に仕上げていただきたい。

まず、先日の記事で、次のことが成り立つことを確かめた。
\(\theta \ne 0\) となる \(\theta\) をひとつ取って固定したものを \(\Theta\) と置けば、下位の群 \(H\) で不変な任意の解多項式 \(\psi\) は、上位の群 \(G\) で不変な解有理式を係数とする \(\Theta\) の多項式で表せる。

この表し方を使えば、\(p\) 乗根の不定性は \(\Theta\) のみに集約することができる(これは、始めの \(3\) 次方程式の話で言えば、立方根の不定性を \(\sqrt[3]{A+\sqrt{B}}\) のみに集約したことに相当するはず)。つまり、\(\Theta\) の値として \(p\) 個の \(p\) 乗根のどれを採用するか、という \(p\) 通りの不定性がある。どの \(\psi\) に対しても \(\Theta\) は共通のものを使えることから、\(G \supset H\) という一段階の部分群関係においては、解 \(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}\) の値が何通りあるかの不定性は \(p = \frac{\abs{G}}{\abs{H}}\) 倍にしかならない。よってこれを
\begin{gather*}
\text{Galois 群} = G_{0} \supset G_{1} \supset \dots \supset G_{r} =
\{e\} \\
G_{i} \rhd G_{i+1}, \quad \frac{\abs{G_{i}}}{\abs{G_{i+1}}} \text{ は素数}
\end{gather*}
という列に対して繰り返した時に、解の値の不定性が何通りになるかというと
\[ \frac{\abs{G_{0}}}{\abs{G_{1}}} \times \frac{\abs{G_{1}}}{\abs{G_{2}}}
\times \dots \times \frac{\abs{G_{r-1}}}{\abs{G_{r}}} =
\frac{\abs{\text{Galois群}}}{\abs{\text{単位群}}} \]
で Galois 群の要素数(位数)と一致する。これはつまり、\(p\) 乗根の不定性を各段階の \(\Theta\) にすべて押し込めて、\(\Theta\) を一斉に \(\zeta\) 倍、\(\zeta^{2}\) 倍…するような不定性のみを考えれば、上の \(3\) 次方程式の例と同様に、解の値の不定性は Galois 群を生成するような自明で無害な置換しか生まず、不適な解は含まれない、ということを示唆する。

また、次のように、「上から」下りていく向きに基づく考察もこの予想を支持する(この議論は、一応ちゃんとした証明にもなっているような気がする…。すぐ思いつくような穴は見つからなかった)。

\(V\) の最小多項式 \(g(x)\) は、\(H\) に対応する拡大体上では同じ次数の \(p\) 個の既約成分に因数分解するが、その \(p\) 個のうちどれが「正しい」\(h(x)\) になるのか、というのは \(G\) と \(H\) を決めただけでは決まらない。いずれもが \(h(x)\) になりうる。\(g(x)\) が決まった段階では、その根のうちどれが \(V\) なのかは未定だからだ(\(\abs{G}\) 個の根のどれもが \(V\) になりうる)。つまり、元々 \(h(x)\) として正しい式は \(p\) 通りある。

一方、上で述べたように \(\psi\) の不定性を \(\Theta\) のみに集約させる計算を行えば、不定性は \(p\) 通りしか出てこないから、\(h(x)\) の候補も \(p\) 通りしか出てこない。

元々 \(h(x)\) の可能性が \(p\) 通りありそのどれもが適している一方、候補が最大 \(p\) 通りに絞れる計算法がある、ということは、その計算法による候補はすべて適していて不適なものは含まれない(ことが保証される)、ということである。

以上より、各段階での \(p\) 乗根の不定性を \(\Theta\) 1ヶ所に集約するようにすれば、得られる解の候補に不適なものはなく、すべて適している、ということは、まあ大体間違いなかろうと思われる。

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