ガロア群が可解である方程式の解き方・その4

\(\newcommand{\Q}{\mathbb{Q}} \newcommand{\R}{\mathbb{R}} \DeclareMathOperator{\Gal}{Gal}\)
置換群としての Galois 群が可解な場合に、実際の解をべき根で求めていく解法について、これまでの説明の要点をおさらいしておくと、
\begin{gather}
\label{eq:51-1}
\text{Galois 群} = G_{0} \supset G_{1} \supset \dots \supset G_{r} =
\{e\} \\
G_{i} \rhd G_{i+1}, \quad \frac{\lvert G_{i} \rvert}{\rvert G_{i+1} \rvert}
\text{ は素数} \notag
\end{gather}
となる組成列を、そのメンバー \(G_{0}, \dots, G_{r}\) の要素がすべて既知な形で作っておき、隣り合う各々の群について、低位の群で対称な \(\psi(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n})\) の値を求めることを、\(\theta(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n})\) を構成して上位の群で対称となる多項式の値を求めることに帰着する、ということの繰り返しだった。

Galois 理論の基本定理から、\eqref{eq:51-1}の部分群列に対応する中間体の拡大列が存在する。
\begin{gather}
\label{eq:51-2}
\Q = K_{0} \subset K_{1} \subset \dots \subset K_{r} = \Q(\alpha_{1},
\dots, \alpha_{n}) \\
\text{$K_{i+1}$ は $K_{i}$ の素数次巡回拡大} \notag
\end{gather}
その3」で書いた問題(のひとつ)は、\(\theta\) を構成する際にいろいろな素数 \(p\) に対する \(1\) の原始 \(p\) 乗根 \(\zeta\) が必要になるため、\(2\) 以外の素数が \(p\) として出現する場合は\eqref{eq:51-2}の体にさらに \(\zeta\) を添加した拡大体の列が出現することになって、対応する Galois 群も\eqref{eq:51-1}の置換群とは異なるものになってしまうのではないか、ということだった。

例えば、これまで何度も例に取り上げてきた角の3等分方程式 \(x^{3}-3x-1=0\) は解 \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) はすべて実数解なので、\(\Q\) 上の最小分解体 \(\Q(\alpha, \beta, \gamma)\) は虚数を含まず、\eqref{eq:51-2}の列に現れる体はすべて実数 \(\R\) の部分体だった。ところが実際にべき根を使って解く過程では \(1\) の虚数 \(3\) 乗根 \(\omega = \frac{-1+\sqrt{-3}}{2}\) を使うので、\(\theta\) や \(\theta^{3}\) を作るとき虚数が現れてしまい、それは\eqref{eq:51-2}の体には含まれない。

実は、こういう場合であっても\eqref{eq:51-2}の体の列や\eqref{eq:51-1}の群の列には影響がない。それは、\(V\) の最小多項式の因数分解がどう進んでいくかを考えればわかる。元々\eqref{eq:51-1}や\eqref{eq:51-2}の列は「方程式をべき根で解く」ことを行う前の段階で予め作られていて、各ステップに対応する \(V\) の最小多項式も、それぞれ \(K_{0}\) 係数、\(K_{1}\) 係数、…、\(K_{r}\) 係数のものとして存在している。ただ、この時点ではまだその「具体的な値」がわかっていないだけだ。

こういう方程式を「その3」の方法でべき根で具体的に解き始めて、体が \(K_{i}\) まで拡大したときの \(V\) の最小多項式 \(g(x)\) を因数分解するステップで、\(\zeta \not\in K_{i}\) となったとしよう。すると、\(g(x)\) の因子となる \(h(x)\) の係数を \(\psi\) とおいて計算する過程で、\({\theta_{1}}^{p}\)〜\({\theta_{p-1}}^{p}\) が \(K_{i}\) の数ではなく \(K_{i}(\zeta)\) を用意しないと入ってくれない、ということが起こりえて、そうなると \(\theta_{1}, \dots, \theta_{p-1} \not\in K_{i+1}\) となってしまう。

ところが、そういう時でも \(\psi \not\in K_{i+1}\) とはならない。元々 \(\psi\) は \(K_{i+1}\) 上の \(V\) の最小多項式 \(h(x)\) の係数としていたから、\(K_{i+1}\) からはみ出した数にはなりようがない。これはどういうことかというと、\(\psi\) には \(K_{i+1}\) からはみ出した数 \(\theta\) がそのまま現れるわけではなく、それらが「特定の組み合わせ」
\begin{equation}
\label{eq:51-3}
\psi = \frac{\theta_{1} + \dots + \theta_{p} }{p}
\end{equation}
を通して出現するに過ぎないからだ。つまり、個々の \(\theta_{j}\) は \(K_{i+1}\) よりも大きい体の元だが、それらを(\(p\) 乗根の不定性による不適な値を除いた上で)\eqref{eq:51-3}右辺のように足し合わせれば、それを計算した結果の \(\psi\) はうまく \(K_{i+1}\) に収まるようにできている、という寸法だ。ただその \(\psi\) を「べき根を使った具体的な表式」で表そうとした場合、その表式に和として現れる「個々の項」は \(K_{i+1}\) に入らない数を使わざるを得ない、という形になっている。

つまり、体を \(K_{i}\) まで拡大した時に、次のステップで起きる現象は次のいずれかである。

  1. それまでに添加したべき根の値によって、たまたま \(\zeta \in K_{i}\) になっている(例えば \(\sqrt{-3}\) が添加されていたおかげで、ついでに \(\omega \in K_{i}\) となっていた、という感じで)。
  2. \(\zeta \not\in K_{i}\) であり、上で説明したように \(\theta \not\in K_{i+1}\) になるが \(\psi \in K_{i+1}\) になって辻褄が合う。

ちょっと短いですが、今回の記事はこれで終わり。当初はもっとややこしい理解の仕方をしていて、その線に沿って書き始めたところ、実はこれだけのシンプルな話であることにやっと気づいて、書き終わってみたらこれだけの分量になってしまった、という次第。「その3」で書いたもう1つの問題についてはまた回を改めて。

【 オマケ 】 関連のある考察を少し追加しておく。置換群としての Galois 群の部分群 \(G\), \(H\) が次の式をみたしているとする。
\[ G \vartriangleright H, \frac{\lvert G \rvert}{\lvert H \rvert} \text{ は
素数} \]
このとき、\(G\), \(H\) に対応する中間体がある(\(\Q\) と \(\Q(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n})\) の間に)。それらを \(K\), \(L\) とすると
\[ K \subset L, \text{$L$ は $K$ の素数次巡回拡大} \]
となっている。

これまで同様、\(H\) に属さない \(G\) の元 \(\sigma\) を1つ固定し、
\[ G/H = \{H, \sigma H, \sigma^{2}H, \dots, \sigma^{p-1}H\} \]
と巡回群 \(G/H\) を表しておこう。

\(H\) 対称な多項式の値は
\[ \psi(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}) \in L \]
で、\(\sigma\) を \(k\) 回 \(\psi\) に作用させたものを \(\psi_{k}\) とすればそれらもすべて \(H\) 対称で
\[ \psi_{0} = \psi, \psi_{1} = \psi(\alpha_{\sigma(1)}, \dots, \alpha_{\sigma(n)}), \dots \in L \]
となる。よって、
\[ \theta = \psi_{0} + \zeta \psi_{1} + \zeta^{2} \psi_{2} + \dots +
\zeta^{p-1} \psi_{p-1} \in L(\zeta) \]
である。このとき \(\theta^{p}\) は \(G\) で不変な多項式となったが、そのことは
\[ \theta^{p} \in K(\zeta) \]
と表せる。したがって、\(\theta\) や \(\theta^{p}\) が存在している体は \(L(\zeta)\), \(K(\zeta)\) ということになる。

これらの体の関係について考察しよう。当然 \(L(\zeta)\) は \(K(\zeta)\) の拡大体だが、その拡大の様子は、\(K\) から \(L\) への拡大の様子とどれくらい変わっているのだろうか?

その様子は、以前の記事で述べたように、「ガロア理論入門ノート」の補題35が答を与えている。\(\Gal(L(\zeta)/K(\zeta))\) は \(\Gal(L/K)\) の部分群と同型になるのだった。より具体的には、\(K(\zeta)\) のうち「\(L\) の中で拡大した部分」\(M = K(\zeta) \cap L\) 上での Galois 群と同型で
\[ \Gal(L(\zeta)/K(\zeta)) \cong \Gal(L/M) \subset \Gal(L/K) \]
となっている。

一方、仮定より
\[ \Gal(L/K) \cong G/H \text{(素数次巡回群)} \]
だから、その部分群といったら巡回群そのものか単位群のどちらかしかない。つまり \(\Gal(L/M)\) は単位群か \(\Gal(L/K)\) のどちらかで、したがって
\[ L=M \text{ または } K=M \]
となる(これは、\(M\) が \(K\) と \(L\) の中間体で \([L:K]=[L:M][M:K]\) が素数 \(p\) であることからもわかる。\([L:M]\) と \([M:K]\) の一方が \(1\) でもう一方が \(p\) となる場合しかありえない)。

ところが、もしも \(L=M=K(\zeta) \cap L\) だったとすると \(K(\zeta) \supset L\) ということになるが、それはありえない。なぜならば \(\zeta\) は \(p-1\) 次の \(\Q\) 係数方程式
\[ 1+X+X^{2} + \dots + X^{p-1} = 0 \]
の根ゆえ \([K(\zeta):K] < p\) だが、\(K(\zeta) \supset L\) だとすると \([K(\zeta):K] \geqq [L:K]=p\) となって矛盾するから。

よって \(K=M\) しかありえないから、
\[ \Gal(L(\zeta)/K(\zeta)) \cong \Gal(L/K) \]
となる。つまり、\(\zeta\) を使おうと使うまいと、体の拡大の様子はまったく同じで、素数 \(p\) 次の巡回拡大になっているということがわかった。

また、
\[ K = M = K(\zeta) \cap L \]
より、\(K\) に \(\zeta\) を添加しても、\(L\) の中ではまったく拡大が起こっていないことがわかる。\(K(\zeta)\) は \(L\) とはまったく無関係な方向にしか膨らんでいない(あるいは、そもそもまったく膨らんでおらず \(K(\zeta)=K\) となっていることもある。この場合はもともと \(\zeta \in K\) だったことになる)。したがって \(\theta\), \(\theta^{p}\) が \(\zeta\) を含んでいることはあまり気にせず、それぞれ \(L\), \(K\) に含まれる数であるつもりで計算を進めても別に問題ない、ということになっている。


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