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ガロア理論 数学

ガロア群が可解である方程式の解き方・その3

\(\newcommand{\Q}{\mathbb{Q}}\)
置換群としての Galois 群が求まっていて、それが可解だった場合のべき根による解の求め方について、「下から」這い上がっていくのではなく、「上から」下りていく向きの解き方もあるので、それを説明する。なお、「上下」の向きにかかわらず、Galois 群が可解でべき根で解を求める場合は、出てくる群はすべて Galois 群の部分群なので、対応する体がきちんとわかるので、それについてもついでに触れておく。

ここでは \(4\) 次方程式
\begin{equation}
\label{eq:49-1}
x^{4}-5x^{2}+6=0
\end{equation}
を例にとって説明する。もちろんこれは、難しいことをまったく考えなくても容易に解ける方程式だが、ここではそのことを使わずに、「その1」の前半で解説した手法を「上から」適用していく手順の説明のために使う。解が直接求まることから、読者は途中の検算が容易に行えるが、手順そのものは \(4\) 次方程式に固有の事情はまったく使わないので、一般の可解な方程式に適用できる(次数が高くても)手順になっていることは理解できるだろう。

まず\eqref{eq:49-1}の解を \(\alpha_{1}\)〜\(\alpha_{4}\) とし、\(V=\alpha_{1}-\alpha_{2}+2\alpha_{3}+3\alpha_{4}\) とおいて、先日の Galois 群の求め方の手順を適用する。途中の計算は省略して結果のみ述べるが、この係数を採用すると \(V_{1}\)〜\(V_{24}\) がすべて異なる値になるとわかり、\(V\) の \(\Q\) 上の最小多項式としては \(g(x)=x^{4}-22x^{2}+25\) が採用できる(なお、これまで取り上げてきた例で元の方程式と \(g(x)\) の次数が同じだったのはただの偶然で、一般には当然異なる)。解を \(V\) で表す式は
\begin{equation}
\begin{split}
\alpha_{1} &= \frac{V}{20}(-V^{2}+27) \\
\alpha_{2} &= \frac{V}{20}(V^{2}-27) \\
\alpha_{3} &= \frac{V}{10}(-V^{2}+17) \\
\alpha_{4} &= \frac{V}{10}(V^{2}-17)
\end{split}
\label{eq:49-2}
\end{equation}
と求めることができ、\(g(x)\) の根は
\begin{align*}
V_{1} &= \alpha_{1}-\alpha_{2}+2\alpha_{3} +3\alpha_{4} = V \\
V_{2} &= \alpha_{2}-\alpha_{1}+2\alpha_{3} +3\alpha_{4} \\
V_{3} &= \alpha_{1}-\alpha_{2}+2\alpha_{4} +3\alpha_{3} \\
V_{4} &= \alpha_{2}-\alpha_{1}+2\alpha_{4} +3\alpha_{3}
\end{align*}
である(なお、白状するとこれらは先日の記事の手順を真面目に実行して得たものではない。やはり \(24\) 次式の \(24\) 個の係数を求めて…から始まる一連の手順を手計算で行うのは余りにハードなので、ここでは解が最初から解っていることからズルをして、結果から逆算して「こうなるはず」という式を書き下している。最初は安直に \(V\) の値が \(\sqrt{2}+\sqrt{3}\) になるように \(\alpha_{1}\)〜\(\alpha_{4}\) の係数を見つくろって記事を書こうとしていたが、それでは \(V_{1}\)〜\(V_{24}\) の間の値の重複を避けることができないことが発覚したため、一応 \(24\) 通りの値を実際に計算して確かに異なる値が出てくるような係数を選び直しているので、手抜きに関してはご容赦を願いたい。しかし、そうは言っても原理的にはズルをせずに上の \(V\) で計算は実行できるはずで、
\[ F(x) = \prod_{k=1}^{24} (x-V_{k}) \]
を展開して整数係数の多項式として得てから改めて既約分解した結果は
\[ \begin{split}
F(x) =& (x^{4}-100x^{2}+2116)(x^{4}-100x^{2}+841) \\
& \times (x^{4}-22x^{2}+25)(x^{4}-28x^{2}+100) \\
& \times (x^{4}-60x^{2}+36)(x^{4}-70x^{2}+36)
\end{split} \]
となるはず。数式処理ソフトの助けを借りて検証したい方はぜひ。私は、そんな計算ができるほど数式処理ソフトの扱いに習熟していない(笑))。

【 2017, 12/14 追記 】 間違ってました、ごめんなさい!ついに maxima での計算ができるようになったので検証してみたところ、正しくは
\[ \begin{split}
F(x) =& (x^{4}-100x^{2}+2116)(x^{4}-70x^{2}+841) \\
& \times (x^{4}-22x^{2}+25)(x^{4}-28x^{2}+100) \\
& \times (x^{4}-60x^{2}+36)(x^{4}-70x^{2}+361)
\end{split} \]
でした!残っていた計算メモと突き合わせてみた所、1ヶ所目は最後のステップで \(58x^{2}-128x^{2}\) をなぜか \(-100x^{2}\) にしてしまっており、2ヶ所目は単純に \(361\) を \(36\) に書き写し間違っていただけでした。

以上より、解の置換群としての Galois 群は
\[ W=\{e, (1, 2), (3, 4), (1, 2)(3, 4) \} \]
となっている。これは可換群なので当然可解群で、\(U=\{e, (1,2)\}\) とおけば
\begin{equation}
\label{eq:49-3}
W \supset U \supset \{e\}
\end{equation}
という組成列が作れる。

その1」の後半ではこの組成列を \(\{e\}\) から始めて \(W\) まで「上がって」いくことで解 \(\alpha_{1}\) を求める手順が作れる、と説明したが、上述の通り、ここでは \(W\) から始めて \(\{e\}\) まで「下がって」いくことで解を求める手順を述べる。どうやるのかというと、\(V\) の最小多項式 \(g(x)=x^{4}-22x^{2}+25\) の因数分解を段階的に進めていき、最終的に \(1\) 次の因子に達することで \(V\) を求める…という道筋で攻略する。解 \(\alpha_{1}\)〜\(\alpha_{4}\) はすべて\eqref{eq:49-2}のように \(V\) で表されているので、\(V\) が求まれば解もすべて求まる。(「数学ガール」ガロア理論編でも、「同じことだ」とミルカが言っている通り、「元の方程式を解く」ことと「\(g(x)\) の因数分解を進めて \(1\) 次の因子を求める」ことは同じこと)

まずは、「その1」の前半の手順を、組成列\eqref{eq:49-3}の最初の \(2\) つ \(W \supset U\) に適用する。\(G=W=\{e,(1,2), (3,4), (1,2)(3,4)\}\), \(H=U=\{e,(1,2)\}\) とおくと、\(g(x)\) は \(G\) の \(4\) つの元に対応する \(4\) つの原始元
\begin{align*}
V_{1} & \leftarrow \text{$G$ の元 $e$ に対応} \\
V_{2} & \leftarrow \text{$G$ の元 $(1,2)$ に対応} \\
V_{3} & \leftarrow \text{$G$ の元 $(3,4)$ に対応} \\
V_{4} & \leftarrow \text{$G$ の元 $(1,2)(3,4)$ に対応}
\end{align*}
を根に持つ多項式 \((x-V_{1})(x-V_{2})(x-V_{3})(x-V_{4})\) だった。ここで、\(H\) の \(2\) つの元に対応する \(2\) つの原始元
\begin{align*}
V_{1} & \leftarrow \text{$H$ の元 $e$ に対応} \\
V_{2} & \leftarrow \text{$H$ の元 $(1,2)$ に対応}
\end{align*}
を根に持つ多項式 \((x-V_{1})(x-V_{2})\) を \(h(x)\) とおくと、これは \(g(x)\) の因数である。ポイントは、\(h(x)\) は定義より \(H\) の任意の置換に対して対称(不変)であるということである。つまり、\(h(x)=(x-V_{1})(x-V_{2})\) を展開して \(V_{1} =
\alpha_{1}-\alpha_{2}+2\alpha_{3} +3\alpha_{4}\), \(V_{2} = \alpha_{2}-\alpha_{1}+2\alpha_{3} +3\alpha_{4}\) を使って \(\alpha_{1}\)〜\(\alpha_{4}\) で表せば、\(h(x)\) のどの係数も「その1」 に述べる意味で「\(H\) で不変な、解の多項式 \(\psi(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{4})\)」になっている。

具体的に計算してみると
\begin{align*}
h(x) &= \bigl\{ x-(\alpha_{1}-\alpha_{2}+2\alpha_{3} +3\alpha_{4}) \bigr\} \bigl\{ x-(\alpha_{2}-\alpha_{1}+2\alpha_{3} +3\alpha_{4}) \bigr\} \\
&= (x-2\alpha_{3}-3\alpha_{4})^{2}-(\alpha_{1}-\alpha_{2})^{2} \\
&= x^{2} – 2(2\alpha_{3}+3\alpha_{4})x + (2\alpha_{3}+3\alpha_{4})^{2}-(\alpha_{1}-\alpha_{2})^{2}
\end{align*}
となる。この \(h(x)\) の係数は(最高次の係数 \(1\) を除くと)
\[ – 2(2\alpha_{3}+3\alpha_{4}), (2\alpha_{3}+3\alpha_{4})^{2}-(\alpha_{1}-\alpha_{2})^{2} \]
で、いずれも上の考察通り \(H=U=\{e, (1,2)\}\) で不変な形をしている。これらをべき根で求めるため、\(2\alpha_{3}+3\alpha_{4}\) や \((\alpha_{1}-\alpha_{2})^{2}\)(いずれも \(H\) で不変な形)に「その1」前半の手順を適用してみよう。

\(G=W=\{e, (1,2), (3,4), (1,2)(3,4)\}\) の元のうち、\(H=U\) に属さないものとして \(\sigma = (3,4)\) をとると、商群 \(G/H = \{H, \sigma H\}\) は \(W/U = \{U, (3,4)U\}\) という要素数(位数)が素数 \(p=2\) の巡回群になり、\(1\) の原始 \(p\) 乗根は \(\zeta = -1\) になっている。

まず \(\psi(\alpha_{1}, \alpha_{2}, \alpha_{3}, \alpha_{4}) = 2\alpha_{3}+3\alpha_{4}\) とおいてみると、\(\psi_{0} = 2\alpha_{3}+3\alpha_{4}\) に \(\sigma = (3,4)\) を作用させたものが \(\psi_{1} = 2\alpha_{4}+3\alpha_{3}\) で、
\begin{align*}
\theta_{1} &= \psi_{0} + \zeta \psi_{1} = 2\alpha_{3}+3\alpha_{4} +
(-1)(2\alpha_{4}+3\alpha_{3}) = -\alpha_{3}+\alpha_{4} \\
\theta_{2} &= \psi_{0} + \psi_{1} = 2\alpha_{3}+3\alpha_{4} +
2\alpha_{4}+3\alpha_{3} = 5(\alpha_{3}+\alpha_{4})
\end{align*}
となる。「その1」および「その2」の考察通り、\({\theta_{1}}^{p}=(-\alpha_{3}+\alpha_{4})^{2}\), \(\theta_{2} = 5(\alpha_{3}+\alpha_{4})\) はともに \(G=W\) で不変(対称)な形をしているので、\eqref{eq:49-2}を代入して \(V\) で表して、\(g(V) = V^{4} – 22V^{2}+25=0\) を使って次数下げすれば \(V\) が打ち消しあって定数が残るはずだ。

実際に計算してみよう。
\begin{align*}
(-\alpha_{3}+\alpha_{4})^{2} &= \Bigl\{ -\frac{V}{10}(-V^{2}+17) + \frac{V}{10}(V^{2}-17) \Bigr\}^{2} = \Bigl\{ \frac{V}{5}(V^{2}-17) \Bigr\}^{2} \\
&= \frac{V^{2}}{25}(V^{4}-34V^{2}+289) \\
&= \frac{V^{2}}{25}(-12V^{2}+264)  \quad (\because V^{4}=22V^{2}-25) \\
&= \frac{-12}{25}(V^{4}-22V^{2}) = -\frac{12}{25} \times (-25) = 12 \\
\alpha_{3} + \alpha_{4} &= \frac{V}{10}(-V^{2}+17) + \frac{V}{10}(V^{2}-17) = 0
\end{align*}
で確かに \(V\) が残らず定数値が出てきた。すると
\begin{align*}
{\theta_{1}}^{2} &= (-\alpha_{3}+\alpha_{4})^{2} = 12 \\
\therefore \theta_{1} &= \pm 2\sqrt{3} \\
\theta_{2} &= 5(\alpha_{3} + \alpha_{4}) = 0
\end{align*}
であるから、
\begin{align*}
\psi(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{4}) &= \frac{\theta_{1} + \theta_{2}}{2}
\\
\therefore 2\alpha_{3} + 3\alpha_{4} &= \frac{\pm 2\sqrt{3} + 0}{2} = \pm
\sqrt{3}
\end{align*}
が得られた。

続いて \((\alpha_{1}-\alpha_{2})^{2}\) を求める番だが、これは \(H=U\) で不変(対称)であるのはもちろんのこと、\(G=W\) でさえ不変(対称)である。したがって、これをわざわざ \(\psi(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{4})\) とおいて \(\theta_{1}\), \(\theta_{2}\) を通じて計算する…なんていうことをするまでもなく、この形のまま直接\eqref{eq:49-2}を代入してしまえば \(V\) が消えて値が出るはず、ということになる。

実際にそうやって計算してみると
\begin{align*}
(\alpha_{1}-\alpha_{2})^{2} &= \Bigl\{ \frac{V}{20}(-V^{2}+27) – \frac{V}{20}(V^{2}-27) \Bigr\}^{2} = \Bigl\{ \frac{V}{10}(V^{2}-27) \Bigr\}^{2} \\
&= \frac{V^{2}}{100}(V^{4}-54V^{2}+729) \\
&= \frac{V^{2}}{100}(-32V^{2}+704) \quad (\because V^{4}=22V^{2}-25) \\
&= \frac{-32}{100}(V^{4}-22V^{2}) = -\frac{8}{25} \times (-25) = 8
\end{align*}
で、確かに \(V\) が消えて値が出た。

以上から、
\begin{align*}
h(x) &= x^{2} -2(2\alpha_{3}+3\alpha_{4})x +
(2\alpha_{3}+3\alpha_{4})^{2} – (\alpha_{1}-\alpha_{2})^{2} \\
&= x^{2} \mp 2\sqrt{3} x – 5
\end{align*}
となるから、このいずれかが \(g(x)=x^{4}-22x^{2}+25\) の因数のはずである。実際に割り算を実行してみると
\[ x^{4}-22x^{2}+25 = (x^{2}-2\sqrt{3}x – 5)(x^{2}+2\sqrt{3}x – 5) \]
となっているので、両者とも \(g(x)\) の因数として適している。よって \(h(x) = x^{2}-2\sqrt{3}x – 5\) としても一般性を失わない(\(\because\) 一方が \((x-V_{1})(x-V_{2})\) でもう一方が \((x-V_{3})(x-V_{4})\) になるが、どっちがどっちになるかは \(\alpha_{1}\)〜\(\alpha_{4}\) の添字を \(3 \leftrightarrow 4\) と付け替えるだけの違いしかないので)。

\(V\) がみたす新たな多項式として \(h(x)=x^{2}-2\sqrt{3}x – 5\) が手に入ったが、これは体を \(\Q(\sqrt{3})\) に拡大した結果、\(\Q\) 上の \(V\) の最小多項式 \(g(x)\) が可約になって、新たな最小多項式が \(h(x)\) となり、\(\Q(\sqrt{3})\) 上の Galois 群が \(U=\{e, (1,2)\}\) となった、ということを意味する。そこで、今度は組成列 \eqref{eq:49-3}の次の段階 \(U \supset \{e\}\) を \(G\) と \(H\) に当てはめて、再び「その1」の手順で \(h(x)\) の因数分解を進めることができる。

今度は \(G=U=\{e, (1,2)\}\) の元に対応する根 \(V_{1}\), \(V_{2}\) を持つ多項式が \(h(x)=(x-V_{1})(x-V_{2})\) であり、\(H = \{e\}\) の元に対応する根 \(V_{1}\) を持つ多項式 \(x-V_{1}\) を \(h(x)\) の因子として求めることになる。\(G\) の元で \(H\) に属さないものは \(\sigma=(1,2)\) のみで、\(G/H = \{H, (1,2)H\}\) である。よって \(p=2\), \(\zeta=-1\) で、これらの値は先ほどと共通。

さて、\(H=\{e\}\) 対称な因子
\[ x-V_{1} = x-(\alpha_{1}-\alpha_{2}+2\alpha_{3}+3\alpha_{4}) \]
の係数を求めたいわけだが、これは \(1\) 次式であって要するに \(V_{1}=V\) そのものを求めたい、という話にほかならない。今度は
\[ \psi(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{4}) = \alpha_{1}-\alpha_{2}+2\alpha_{3}+3\alpha_{4} \]
とすればよく、このとき \(\psi_{0} = \alpha_{1}-\alpha_{2}+2\alpha_{3}+3\alpha_{4}\), \(\psi_{1} = \alpha_{2}-\alpha_{1}+2\alpha_{3}+3\alpha_{4}\) となるから
\begin{align*}
\theta_{1} &= \psi_{0} – \psi_{1} = 2(\alpha_{1}-\alpha_{2}) \\
\theta_{2} &= \psi_{0} + \psi_{1} = 2(2\alpha_{3}+3\alpha_{4})
\end{align*}
である。やはり \({\theta_{1}}^{2}\), \(\theta_{2}\) は \(G=\{e, (1,2)\}\) で不変(対称)だから、\(V\) で表して次数下げすれば具体的な値がわかるはず。ここでは \(V\) が \(h(V)=0\) をみたすことから、\(V^{2}=2\sqrt{3}V+5\) を用いて次数下げができることに注意しよう。

まず、\eqref{eq:49-2}を次数下げしておくと
\begin{align}
\alpha_{1} &= \frac{V}{20}(-V^{2}+27) = \frac{V}{20}(-2\sqrt{3}V+22)
\notag\\
&= \frac{-2}{20}(\sqrt{3}V^{2}-11V) =
-\frac{1}{10}(\sqrt{3}(2\sqrt{3}V+5) – 11V) \notag\\
\label{eq:49-4}
&= -\frac{1}{10}(-5V+5\sqrt{3}) = \frac{1}{2}(V-\sqrt{3})
\end{align}
同様に計算すると
\begin{align}
\label{eq:49-5}
\alpha_{2} &= \frac{1}{2}(-V+\sqrt{3}) \\
\alpha_{3} &= -\sqrt{3} \notag\\
\alpha_{4} &= \sqrt{3} \notag
\end{align}
となって、特に \(\alpha_{3}\), \(\alpha_{4}\) についてはこの時点で値が求まってしまっていることになる。これらより
\begin{align}
(\alpha_{1}-\alpha_{2})^{2} &= \Bigl\{ \frac{1}{2}(V-\sqrt{3}) – \frac{1}{2}(-V+\sqrt{3}) \Bigr\}^{2} = (V-\sqrt{3})^{2} \notag\\
&= V^{2}-2\sqrt{3}V+3 = 8 \notag\\
\label{eq:49-7}
2\alpha_{3}+3\alpha_{4} &= -2\sqrt{3} + 3\sqrt{3} = \sqrt{3}
\end{align}
だから
\begin{align*}
{\theta_{1}}^{2} &= 2^{2}(\alpha_{1}-\alpha_{2})^{2} = 32 \\
\therefore \theta_{1} &= \pm 4\sqrt{2} \\
\theta_{2} &= 2(2\alpha_{3}+3\alpha_{4}) = 2\sqrt{3}
\end{align*}
となり、次の結果を得る。
\begin{align*}
\psi(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{4}) &= \frac{\theta_{1} + \theta_{2}}{2} \\
\therefore \alpha_{1}-\alpha_{2}+2\alpha_{3}+3\alpha_{4}
&= \frac{\pm 4\sqrt{2} +
2\sqrt{3}}{2} = \pm2\sqrt{2} +
\sqrt{3}
\end{align*}
(2点ちょっと脇道に逸れる注意を述べておく。まず、前段の計算で \(h(x)\) の複号を \(x^{2}-2\sqrt{3}x-5\) となる方を選択した時点で、実は \(2\alpha_{3}+3\alpha_{4}= \pm\sqrt{3}\) の符号のうちプラスの方を選択していたことになるので、それを使えばここでは改めて \(\theta_{2}\) を計算し直す必要はなかった。しかし、それは\eqref{eq:49-1}という特定の方程式を解く過程でたまたま発生した事情に過ぎず、他の方程式を解く(Galois 群が可解な場合に)際に同様のことが起きる保証はないので、ここではより一般的な場合を見越して \(\theta_{2}\) を改めて求め直す、という計算を行った。第二に、\eqref{eq:49-7}で \(2\alpha_{3}+3\alpha_{4}\) の値が算出できた箇所で、\(\alpha_{3}\), \(\alpha_{4}\) の値がすでに求まってしまっていたことは本質的ではない。ポイントは上でも書いた通り、新しい最小多項式 \(h(x)\) によって解 \(\alpha_{1}\)〜\(\alpha_{4}\) を \(V\) の \(1\) 次以下の式で表せるようになっていたことであって、たとえ \(\alpha_{3}\), \(\alpha_{4}\) を表す式に \(V\) の \(1\) 次の項が消えずに残っていたとしても、\eqref{eq:49-7}の計算を実行すると \(V\) は打ち消し合い \(2\alpha_{3}+3\alpha_{4}\) の値は直接求まっていたはずである)

したがって、\(x-(2\sqrt{2}+\sqrt{3})\), \(x-(-2\sqrt{2}+\sqrt{3})\) のどちらかが \(h(x)=x^{2}-2\sqrt{3}x-5\) の因子となるが、実際に割り算してみるとやはり
\begin{equation}
\label{eq:49-6}
x^{2}-2\sqrt{3}x-5 = (x-2\sqrt{2}-\sqrt{3})(x+2\sqrt{2}-\sqrt{3})
\end{equation}
となっていて両方が適する。よってこの場合も \(V=2\sqrt{2}+\sqrt{3}\) として差し支えなく、\eqref{eq:49-4}, \eqref{eq:49-5}より
\begin{align*}
\alpha_{1} &= \frac{1}{2}(2\sqrt{2}+\sqrt{3}-\sqrt{3}) = \sqrt{2} \\
\alpha_{2} &= \frac{1}{2}(-2\sqrt{2}-\sqrt{3}+\sqrt{3}) = -\sqrt{2}
\end{align*}
となって、これで元の方程式の解 \(\alpha_{1}\)〜\(\alpha_{4}\) がすべて求まった。

後半の計算では \({\theta_{1}}^{2}=32\) の平方根を取るところで体 \(\Q(\sqrt{3})\) にさらに \(\sqrt{2}\) を添加していることになり、その結果の体 \(\Q(\sqrt{3}, \sqrt{2})\) で \(h(x)=x^{2}-2\sqrt{3}x-5\) が\eqref{eq:49-6}のように因数分解されて、最終的に \(V\) の最小多項式が \(1\) 次になっている。


さて、今回も長くなってしまったので、以下の話題は次回以降に。

まず、今の説明では途中で現れる素数 \(p\) が \(p=2\) の場合しかなかったため、\(1\) の原始 \(p\) 乗根 \(\zeta\) が \(\zeta=-1\) しか出てこなかった。しかし一般には \(p>2\) の場合もあるはずで、その場合は \(\zeta\) は虚数となり \(\zeta \not\in \Q\) となる。すると、体を拡大する際 \(\zeta\) も添加されることになり、Galois 群も最初の計算からはずれてくる可能性がある。そういう場合は一体何がどうなるのか?

また、今の例では下位の群 \(H\) に対応する最小多項式の次数が低かったこともあって、ひとつの多項式の中でべき根を開く必要があった値は \(1\) 個しか出なかったが、一般には \(\sqrt[p]{2}\) と \(\sqrt[p]{3}\)、といった具合に \(p\) 乗根は複数現れそうなものである(実際、ひとつの \(\psi(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n})\) を求めるためだけに \(\theta_{1}, \dots, \theta_{p-1}\) の \(p-1\) 個の \(p\) 乗根が必要となるはずだった)。ところが、そのように独立な \(p\) 乗根がてんでんばらばらに出現するようなことがあると、添加による体の拡大次数が \(p\) を超えてしまい、Galois 群の方の要素数(位数)が \(\frac{1}{p}\) 倍になることと合わなくなる。つまり、最小多項式の \(1\) 回の因数分解では、出現する \(p\) 乗根は、\(\sqrt[p]{2}\) と \(3\sqrt[p]{2}\) といった具合に、独立なものが出現しないよう完全に統制されていることになる。このような統制はいったいどんなメカニズムで行われているのか?(もちろん、「それこそが Galois 理論の帰結そのものであって、『Galois 理論という高度な理論が背景にあること』が理由になっていると考えればよい。それ以上の説明は別に必要ない」という立場もとりうるが、なにがしかの理由づけは考えられないものだろうか)

それから、上の例では、\(W\) の組成列の作り方は\eqref{eq:49-3}が唯一のものではない。途中に挟む正規部分郡 \(U\) としては、\(U=\{e, (3,4)\}\) や \(U=\{e, (1,2)(3,4)\}\) を採用しても当然構わない。その場合にどう計算が進むのかも確かめてみるといいだろう(後者の計算はちょっと面白いことになるはず)。なお、これについては次回以降特に取り上げる予定はない。

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