こーいうの書いてたから、新装版 ARIEL の刊行が滞ってたんですね(笑)。
タイトルにはちょっとびびりましたが、内容はいつも通りの、「女の子主人公 の笹本物」です。女の子は行動力があり、頭が切れ、無謀なことに思いっ切り挑 戦する…と見せつつ、無謀の裏にちゃんと裏打ちもあったりする。なので、多少 の幸運が働いても、それがただのご都合主義には見えないようになっていますね。
主人公・茉莉香は魅力的です。確かに、彼女が活躍する続編を読みたい、とい う気にさせられます。一方読んでいてちょっと疑問点もありました。
…こういった点を考えると、作者の類似作と比べた場合、 「☆π」よりかはちょっと落ちる部分はあるかな、 という感じはします。「星ダン」で失望 させられた部分に比べれば、おそらく数段上とは言えるでしょうが。
あと………余りに「いつも通り」すぎやしませんか?(笑)いい意味でも、 悪い意味でも。
私はこういうキャラもストーリーも好きです。しかし、前身となった朝日ソノ ラマが営業終了に追い込まれたのは、「これ」が読者に受け入れられず、売り上 げが低迷したせいだったはず。だとしたら、新レーベルは「これ」とは別の方向 を目指さなくてはいけないはずなのですが。これだけ余りに「いつも通り」では、 また同じことの繰り返しに終わってしまわないか、という点は危惧させられます。
その辺り、 「ソノラマの遺伝子健在」と手放しで褒める評を見ると、むしろ「ソノラマ の遺伝子」を払拭しなければいけなかったのではないかと感じる所なのですけれ ど(とは言うものの、 売れてる、というデータも出てはいるみたいですが…)。
その書評の「昨今のライトノベルより数段上」というのは余り意味のある比 較には思えませんが、ひとつ言えることがあるとしたら、笹本作品の女の子 は、「がんばった主人公へのご褒美」としての存在ではない、ということ が挙げられますね。「妖精作戦」はちょっ とおいておきますが、ずっと一貫して描かれてきた笹本作品の持ち味で、読んで いて「清々しい」感じのよさを味わわせてくれる部分です。
それから、イラストはとてもいいですね。ゲーム畑出身のイラストレーター さんとのことですが、しっかりとした描線と生き生きした表情がよく描けていま す。
ちなみに、上の書評でもうひとつ気になった点として、「ほのかなお色気」っ てありましたっけ…?むしろそういう所が徹底的に抑制されている所こそが、こ の作品の上品さ・上質さの、割と重要な構成要素にすらなっている気がするんで すが(あるいは、イラストのことを言ってるのかしらん。それならわからないで もないですけど)。
面白かった!SF に、ちょっとオカルトチックな色合いを載せ込んで先の読め ない話を展開するのは、「妖精作戦」の「ハレーション・ゴースト」、「スター ダスト・シティー」のゴーストタウン探索エピソード、「ARIEL」の「イドの怪 物」、と作者のお得意のパターンの一つですが、今回も「探し求める黄金の幽霊 船で待つものは何か?」という興味でずっと楽しく引っ張ってくれました。逆に 言うと、それが余り読めない段階で、なぜ弁天丸の乗組員が「船長・茉莉香の決 断」と「先代船長・ゴンザエモンのよしみ」だけであんなにもグリュー エルに協力的である理由がいささかピンと来なかったりもしましたが、まあそれ は些細な点です(いや、茉莉香はいいんですよ。「お人好し」で。その理由だけ でグリューエルに親身になり、ぐいぐいストーリーを引っ張っていける所に彼女 の主人公としての資質があるわけで。ただ、それ以外の乗組員は話が別で、これ といった報酬が約束されているわけでもないのに、かなりの危険も見込まれる仕 事に、大して懸念も呈さないまま乗っていくなーって思いました)。
そして、「密航してきたお姫様」というモチーフは、ARIEL 新装版[2]の書き 下ろしおまけでも使われていて、きっと笹本さんはこの手の話が好きなんですね。 ちょっと残念だった点を挙げれば、グリューエルとゴンザエモンがどういういき さつで知り合ったのか、まったく触れられていなかった所でした。そこは読者の 想像に委ねることにしたのでしょうが、でも私は知りたかったなあ。
チアキは今回はゲストとしての登場だけでしたが、なかなか楽しい役どころを 振られていました(笑)。次回以降の活躍が楽しみです。うーん、それにしても、 チアキの声は沢城みゆき、ミーサの声は本田貴子で脳内再生されてしまう…(笑)。
ちなみに、p.53 下段、最後から2行目で、コートの袖に腕を通したのは茉莉 香のはずなのにミーサになってるミスがありますね。それと、p.278 下段 5 行 目の「カーバー」って、「カバー」の書き間違いなんじゃないかなあ。たぶん、 carver とかそーいうことじゃないよねえ。