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ガロア理論 数学

数学ガール ガロア理論編 補足

\(
\newcommand{\field}[1]{\mathbb{#1}}
\newcommand{\Q}{\field{Q}}
\newcommand{\zettaiti}[1]{\lvert #1 \rvert}
\)
この blog でこれまで読み進めてきたガロア理論の解説だと、山場の「方程式が代数的に解けるための条件は、ガロア群が可解であること」の部分の証明が、数学的帰納法を利用したかなり大掛かりなものになっていて、最初にガロアが考えていたときに、この巨大な構造を一から見抜いたということはなさそうに思える。当時の彼はおそらくもっと手の着けやすい所を突破口にしていったはずなのだが、その道筋は一体どうなっていたんだろう…?という疑問に応えてくれたのが、(私の読んだ範囲では)「数学ガール」のガロア理論編だった。

そこで書かれていた次の引用部が、私の疑問にズバリ応えてくれるものだった。(下線、傍点といった装飾は引用にあたり省略した)

つまり——
ガロア群が縮小するように方程式の係数体に冪根を添加できるなら、その縮小したガロア群が作り出す剰余群の位数は素数になる。
——ということだ。これは逆も成り立つ。つまり——
剰余群の位数が素数になるような正規部分群が存在するならば、ガロア群が縮小するように方程式の係数体に冪根を添加できる。
——ということだ。

このようなミクロの関係を認識したことで、「その繰り返しが最後まで実現できる条件」に自然に到達することができた、というのは非常に納得できる話だ。この部分をきちんと取り出して光を当ててくださった、「数学ガール」著者の結城浩さんに感謝。

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合同式で理解する正規部分群・その3

\(\DeclareMathOperator{\Ker}{Ker}
\DeclareMathOperator{\Img}{Im}
\)
前回前々回の続きとして、今度はもう1つの同型定理を合同式と同値類で扱ってみる。

【定理】 \(G\) を群、\(M\), \(N\) を \(G\) の正規部分群とし、\(M \supset N\) とすると、\((G/N)/(M/N) \cong G/M\)

つまり、左辺を普通の分数であるかのように扱って「約分」してよい、というわけである。具体例を挙げよう。対称群 \(S_{4}\) は正規部分群として交代群 \(A_{4}\) とクラインの4元群 \(V_{4}\) を持ち、しかも \(V_{4}\) は \(A_{4}\) の部分群でもある。このとき、一番小さい群で残り2つを割った \(S_{4}/V_{4}\), \(A_{4}/V_{4}\) はそれぞれ \(S_{3}\), \(A_{3}\) と同型だったが、それらの「比」\(S_{3}/A_{3}\) が始めの2つの「比」\(S_{4}/A_{4}\) と同型になっている、というのが定理の言っていることになる。
\[ (S_{4}/V_{4}) / (A_{4}/V_{4}) \cong S_{3}/A_{3} \cong S_{4}/A_{4} \]
\(S_{3}/A_{3}\) と \(S_{4}/A_{4}\) はどちらも積を演算とする群 \(\{1,-1\}\) と同型なので、これは確かになりたっている。

普通、この同型定理を証明するときは、準同型定理
\[ G/\Ker f \cong \Img f \]
に帰着するために、上手く準同型写像を定めてやる、という流れをとる(ようだ)。もちろんそれは「簡潔」で「美しい」証明なのだが、しかしやはりその証明を「読む」立場の人からすれば、何が何やらさっぱりわからないままに終わってしまう話になっている。この定理はどんな意味があって、どういう描像で捉えることができて、その準同型写像の定義の仕方はどんな見通しの下に構想されたのか…といったことが皆目見当も付かないまま、無理矢理手を引かれて薮の中を最短コースで突っ切らされたも同然だからだ。

そこで、ここではもっとゆっくり、周りの景色を眺め、積極的に寄り道をしながら、この同型定理の意味や背景といったものに接していこう。