\(\newcommand{\Q}{\mathbb{Q}}\renewcommand{\dotsc}{\cdots}\DeclareMathOperator{\Res}{Res}\DeclareMathOperator{\Gal}{Gal}\)先日の、(私のこれまでの記事の中では)ガロア群の新しい求め方として公開した方法の改良について説明する。
先日書いたやり方では、方程式 \(f(x)=0\) の解 \(\alpha\) 1個だけを \(\Q\) に添加した \(\Q(\alpha)\) では \(f(x)\) の最小分解体にならなくて、他の解 \(\beta\) を添加した \(\Q(\alpha, \beta)\) で \(f(x)\) の \(2\) 次以上の因子を既約分解しようとする際、かなり計算が大変になる道筋を辿っていた。すなわち、\(u=\alpha+ c\beta\) が \(\Q(\alpha, \beta)\) を単拡大で作れる原始元となるような整数 \(c\) を見つけ、その \(u\) の \(\Q\) 上の最小多項式を求め、\(\alpha\), \(\beta\) を \(u\) の \(\Q\) 係数多項式として表し、\(f(x)\) の因子を \(\Q(u)\) 係数の多項式として表して \(\Q(u)\) 係数の範囲での因数分解を行っていた。
しかしこの場合、\(u\) の \(\Q\) 上の最小多項式も、\(\alpha\), \(\beta\) を \(u\) の \(\Q\) 係数多項式として表した式も、\(f(x)\) の因子を \(\Q(u)\) 係数の多項式として表した式も、\(u\) の多項式としてかなり次数が高くなり、それだけならまだしもその係数にかなり桁数の大きな数が出てきてしまうという問題があった。
そこで、今度はちょっと別の道筋を採り、原始元 \(u\) を持ち出さずにあくまで \(\alpha\), \(\beta\) の文字式として計算を進めるやり方を書いてみる。以前の記事でこのやり方を採らなかったのは、そのとき想定していたやり方だと maxima での計算に手間がかかってしまうのと(つまり、maxima での実装を漠然と想定していた)、求まったガロア群が可解群だった場合に実際にべき根を使って解を求めるやり方の見通しが立っていなかったからだが、前者についてはやや緩和でき、後者についても考察を続けて解決できたのでこうやって紹介することにする。
以下、\(f(x)=x^{6}-2\) を題材に取る。
ガロア群の求め方
途中までは先日の記事と同じやり方である。\(f(x)=x^{6}-2\) は \(\Q\) 上で既約であり、その根のひとつを \(\alpha\) とおく。
\begin{equation}
\label{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-1}
\alpha^{6}-2=0
\end{equation}
\(\alpha\) の \(\Q\) 上の最小多項式は \(f(x)=x^{6}-2\) 自身であり、それを \(g_{\alpha}(x)\) とおく。
\[ g_{\alpha}(x) = x^{6}-2 \]
続いて、「代数拡大体上での既約分解」の手法を使って \(f(x)\) を \(\Q(\alpha)\) 係数の範囲で既約分解する。
\begin{equation}
\label{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-3}
f(x) = (x-\alpha) (x+\alpha) (x^{2}+\alpha x + \alpha^{2}) (x^{2}-\alpha
x + \alpha^{2})
\end{equation}
因数分解し切れず、\(2\) 次(以上)の既約因子が残っている。そこで、そのうち任意の一つを選び、その根の一つを \(\beta\) とおいて、\(\Q(\alpha,\beta)\) で既約分解を進めることを考える。先日の記事では \(\beta\) は \(x^{2}-\alpha x + \alpha^{2}\) の根としたが、ここでは \(x^{2} +\alpha x + \alpha^{2}\) の方を選ぼう。これが \(\Q(\alpha)\) 上での \(\beta\) の最小多項式 \(g_{\beta}(x)\) である。
\begin{gather}
\label{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-4} \beta^{2} + \alpha\beta + \alpha^{2} = 0 \\
g_{\beta}(x) = x^{2} + \alpha x + \alpha^{2} \notag
\end{gather}
\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-3}の \(2\) 次以上の因子を、\(\Q(\alpha, \beta)\) 係数の範囲で既約分解していこう。\(g_{\beta}(x)\) の方は \(2\) 次式で \(x-\beta\) で割り切れるため手計算でも \(1\) 次式の積に分解できる。
\begin{equation}
\label{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-6}
g_{\beta}(x) = (x-\beta) (x+\alpha+\beta)
\end{equation}
また、もう一方の \(x^{2}-\alpha x+\alpha^{2}\) の方も、上の結果とちょっとした考察の組み合わせで次のように分解できてしまう。
\begin{equation}
\label{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-7}
x^{2}-\alpha x+\alpha^{2} = (x+\beta) (x-\alpha-\beta)
\end{equation}
ただし、このやり方だと一般性がない。そこで、\(g_{\beta}(x)\) のような \(\Q(\alpha)\) 係数の多項式を、\(\Q(\alpha, \beta)\) 係数の範囲で既約分解する一般性のある手法を考えてみる。ここからが本題だ。
実は、「代数拡大体上の既約分解」の手法はこのような場合にも拡張できる。まず、既約分解したい多項式を \(p(x)\) とする。今の場合は \(p(x)=g_{\beta}(x)=x^{2}+\alpha x + \alpha^{2}\) や \(p(x) = x^{2} – \alpha x + \alpha^{2}\) だ。係数は \(\Q[\alpha]\) の元の形に書いておく。続いて、\(s\), \(t\) を整数として、次の終結式を順次計算していく。
- \(p(X-s\alpha-t\beta)\) と \(g_{\beta}(\beta) = \beta^{2}+\alpha\beta+\alpha^{2}\) の間で \(\beta\) を変数とする終結式 \(\Res(p(X-s\alpha-t\beta), g_{\beta}(\beta);\beta)\)(ここでは、\(\beta\) は変数と見る。「\(g_{\beta}(\beta)=0\) をみたす数」とは見ない)
- その結果の \(X\), \(\alpha\) の \(\Q\) 係数多項式と \(g_{\alpha}(\alpha)=\alpha^{6}-2\) の間で \(\alpha\) を変数とする終結式 \(\Res(\text{前項の結果},g_{\alpha}(\alpha); \alpha)\)(やはり \(\alpha\) は変数と見る)。その結果は \(X\) の \(\Q\) 係数多項式となる。これを \(r(X)\) としよう。
\(r(X)\) が重複因子を持たないように整数 \(s\), \(t\) を選ぶ。実際に、\(p(x)=x^{2}-\alpha x + \alpha^{2}\) として計算をやってみよう。まず \(s=1\), \(t=-1\) とすると
\[ \Res(p(X-\alpha+\beta),g_{\beta}(\beta);\beta) = X^4-8\alpha X^3+27\alpha^{2} X^2- 44\alpha^{3} X+ 28\alpha^4 \]
(これは実は \((X-2\alpha)^{2}(X^{2}-4\alpha X+7\alpha^{2})\) となってすでにこの時点で重複因子を持っていて不適だが、気づかないフリをして計算を進めると)
\begin{align*}
r(X) &= \Res(X^4-8\alpha X^3+27\alpha^{2} X^2- 44\alpha^{3} X+
28\alpha^4, g_{\alpha}(\alpha); \alpha) \\
&= X^{24}+316X^{18}+340548X^{12}-111100928X^6+7710244864 \\
\therefore r'(X) &= 24X^{23}+5688X^{17}+4086576X^{11}-666605568X^5 \\
&= 24(X^{23}+237X^{17}+170274X^{11}-27775232X^5) \\
\therefore \gcd(r(X),r'(X)/24) &= X^{6}-128
\end{align*}
となり \(r(X)\) が重複因子を持ち不適。
\(s=1\), \(t=-2\) としてみると
\[ \Res(p(X-\alpha+2\beta),g_{\beta}(\beta);\beta) = X^4-10\alpha X^3+45\alpha^2 X^2-100\alpha^3 X+91\alpha^4 \]
(これは実は \((X^2-5\alpha X+ 7\alpha^2)(X^2-5\alpha X+13\alpha^2)\) と因数分解するので、次の終結式の計算は各因子ごとに行ってもよい)
\begin{align*}
r(X) &= \Res(X^4-10\alpha X^3+45\alpha^2 X^2-100\alpha^3 X+91\alpha^4, g_{\alpha}(\alpha); \alpha) \\
&= X^{24}-440X^{18}+19198968X^{12}+10567495840X^6+9085908032656 \\
\therefore r'(X) &= 24X^{23}-7920X^{17}+230387616X^{11}+63404975040X^5 \\
&= 24(X^{23}-330X^{17}+9599484X^{11}+2641873960X^5) \\
\therefore \gcd(r(X),r'(X)/24) &= 1
\end{align*}
となって \(r(X)\) は重複因子は持たない。
こうやって適する \(r(X)\) が見つかったら、次はそれを \(\Q\) 係数で既約分解する(適する整数 \(s\), \(t\) は必ず存在するので、うまい値が見つかるまで試行錯誤で試す)。
\[ r(X) = (X^{12}-1012X^6+19307236)(X^{12}+572X^6+470596) \]
この各既約因子と、\(p(X-\alpha+2\beta)\) の GCD を求める(主変数は \(X\))。適宜、\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-4}と\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-1}で \(\beta\), \(\alpha\) の次数下げができることに注意。
\begin{align*}
\gcd(X^{12}-1012X^6+19307236, p(X-\alpha+2\beta)) &= (-7442\alpha^4\beta -3391\alpha^5)X+19595\alpha^5\beta +51434 \\
\gcd(X^{12}+572X^6+470596, p(X-\alpha+2\beta)) &= (-994\alpha^4\beta-827\alpha^5)X+2155\alpha^5\beta +5296
\end{align*}
得られた結果で \(X=x+\alpha-2\beta\) としたものが、\(p(x)\) の \(\Q(\alpha, \beta)\) での既約因子。これも、\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-4}と\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-1}で \(\beta\), \(\alpha\) の次数下げができる。
\begin{align*}
(-7442\alpha^4\beta -3391\alpha^5)(x+\alpha-2\beta)+19595\alpha^5\beta +51434 &= (-7442\alpha^4\beta-3391\alpha^5)x+4051\alpha^5\beta+14884 \\
(-994\alpha^4\beta-827\alpha^5)(x+\alpha-2\beta)+2155\alpha^5\beta + 5296 &= (-994\alpha^4\beta-827\alpha^5)x+827\alpha^5\beta-334
\end{align*}
つまり、
\[ p(x) = x^{2}-\alpha x + \alpha^{2} = \text{定数} \bigl( (-7442\alpha^4\beta-3391\alpha^5)x+4051\alpha^5\beta+14884 \bigr) \bigl( (-994\alpha^4\beta-827\alpha^5)x+827\alpha^5\beta-334 \bigr) \]
である。これは上で求めた\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-7}と合ってないようにも見えるが、代数拡大なので有理式を多項式に直すことは可能で、最小多項式 \(g_{\beta}(x)\), \(g_{\alpha}(x)\) を使って各々の \(1\) 次式の根を \(\alpha\), \(\beta\) の \(\Q\) 係数多項式の形に書き直せる。
\begin{align*}
\frac{4051\alpha^5\beta+14884}{7442\alpha^4\beta+3391\alpha^5} &= -\beta \\
\frac{827\alpha^5\beta-334}{994\alpha^4\beta+827\alpha^5} &= \alpha+\beta
\end{align*}
よって\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-7}が得られ、同様にして\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-6}も得られる。これで
\begin{equation}
\label{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-9}
f(x) = (x-\alpha) (x+\alpha) (x-\beta) (x+\alpha+\beta) (x+\beta) (x-\alpha-\beta)
\end{equation}
となるので、\(\Q(\alpha,\beta)\) が \(f(x)=x^{6}-2\) の \(\Q\) 上の最小分解体であることがわかった。さらに、すべての解 \(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{6}\) を \(\alpha\), \(\beta\) の \(\Q\) 係数多項式で表す式も得られる。
\begin{align*}
\alpha_{1} &= \alpha \\
\alpha_{2} &= -\alpha \\
\alpha_{3} &= \beta \\
\alpha_{4} &= -\beta \\
\alpha_{5} &= -\alpha-\beta \\
\alpha_{6} &= \alpha+\beta
\end{align*}
なお、一般には \(g_{\beta}(x)\) は \(x-\beta\) で割り切れることが予め確定しているので、\(g_{\beta}(x)\) そのものではなく \(g_{\beta}(x)\) を \(x-\beta\) で割った商を \(\Q(\alpha, \beta)\) 係数の範囲で既約分解してもよい。その際、商は \(\Q(\alpha)\) 係数ではなく \(\Q(\alpha,\beta)\) 係数の多項式となるが、上の手順は実際には、\(\Q(\alpha)\) 係数だけでなく \(\Q(\alpha, \beta)\) 係数の多項式の既約分解にそのまま使える。特に、今の例のように \(g_{\beta}(x)\) が \(2\) 次式のときは、\(x-\beta\) で割った商が \(1\) 次式になるから、改めて既約分解を試みるまでもない。
話を元に戻そう。\(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{6}\) を \(\alpha\), \(\beta\) で表す式が求まっているが、この情報に基づいて方程式 \(f(x)=0\) のガロア群が求められる。\(\sigma \in \Gal(\Q(\alpha,\beta)/\Q)\) とする。ここでは、\(\sigma\) は解の置換ではなく体の自己同型写像と見よう。\(\sigma(\alpha)\), \(\sigma(\beta)\) が決まれば、そこから誘導される \(\Q\) 同型写像として \(\sigma\) が決まる。
まず、\(\sigma\) による \(\alpha\) の行先は \(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{6}\) の \(6\) 通りに限られ、かつそのすべてがありうる。これは、\(\sigma(\alpha)\) の値の候補が \(\Q\) 上で \(\alpha\) と共役な値に限られ、逆に、\(\alpha\) と \(\Q\) 上共役な任意の値に対して、\(\alpha\) をその値に移すガロア共役変換 \(\sigma \in \Gal(\Q(\alpha,\beta)/\Q)\) が存在することによる。つまり、\(\alpha\) に対する \(\sigma\) の作用は次の \(6\) 通りだ。
\begin{align*}
\alpha \mapsto \alpha_{1} &= \alpha \\
\alpha \mapsto \alpha_{2} &= -\alpha \\
\alpha \mapsto \alpha_{3} &= \beta \\
\alpha \mapsto \alpha_{4} &= -\beta \\
\alpha \mapsto \alpha_{5} &= -\alpha-\beta \\
\alpha \mapsto \alpha_{6} &= \alpha+\beta
\end{align*}
この \(6\) 通りのそれぞれに対して、\(\sigma(\beta)\) がどんな値を取りうるか調べていこう。
- \(\sigma(\alpha) = \alpha_{1} = \alpha\) のとき
\(\sigma\) によって \(\alpha\) は固定されるから、\(\Q(\alpha)\) の元はすべて \(\sigma\) で不変である。そして、\(\beta\) の移り先は \(\beta\) の共役元、つまり最小多項式 \(g_{\beta}(x)\) の根 \(\beta\), \(-\alpha-\beta\) のどちらかのみである(\(g_{\beta}(x)\) が「\(\Q(\alpha)\) 上の」最小多項式だったことに注意しよう)。さらに、どちらになることもありうる。これは、次の3つを合わせると出てくる。- \(\Gal(\Q(\alpha,\beta)/\Q(\alpha)) \subset \Gal(\Q(\alpha,\beta)/\Q)\)(部分群)
- \(\sigma \in \Gal(\Q(\alpha,\beta)/\Q(\alpha))\)
- \(\Q(\alpha,\beta)\) の任意の元に対して、\(\Q(\alpha)\) 上で共役な任意の元に移す \(\Gal(\Q(\alpha,\beta)/\Q(\alpha))\) の元がある
以上から、\(\sigma(\alpha) = \alpha_{1} = \alpha\) であるようなガロア共役変換 \(\sigma\) は、次のいずれかから誘導される \(2\) 通りである。
\begin{alignat*}{2}
\alpha &\mapsto \alpha, &\qquad \beta &\mapsto \beta
\quad (\text{恒等写像})\\
\alpha &\mapsto \alpha, &\qquad \beta &\mapsto -\alpha-\beta
\end{alignat*} - \(\sigma(\alpha) = \alpha_{2} = -\alpha\) のとき
このとき、\(\beta\) の移り先は \(\beta\) と \(\Q(\alpha)\) 上共役な \(\beta\), \(-\alpha-\beta\) ではない。\(g_{\beta}(x)=x^{2}+\alpha x + \alpha^{2}\) が \(\sigma\) によって \(x^{2}+\sigma(\alpha)x + (\sigma(\alpha))^{2} = x^{2} – \alpha x + \alpha^{2}\) に移るので、その根 \(-\beta\), \(\alpha+\beta\) が \(\sigma(\beta)\) になる(\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-7}に注意)。この事情を少し補足しておこう。\(g_{\beta}(\beta) = \beta^{2}+\alpha\beta + \alpha^{2}=0\) の両辺に \(\sigma\) を作用させると
\[ \sigma(g_{\beta}(\beta)) = \sigma(\beta^{2}+\alpha\beta + \alpha^{2}) = (\sigma(\beta))^{2} + \sigma(\alpha)\sigma(\beta) + (\sigma(\alpha))^{2} = (\sigma(\beta))^{2} – \alpha \sigma(\beta) + \alpha^{2} = \sigma(0) = 0 \]
となる。つまり、得られる式は \(g_{\beta}(\sigma(\beta))=0\) ではないわけだ。\(\sigma(\beta)\) は上述の通り、\(g_{\beta}(x)\) の \(\sigma\) による移り先 \(x^{2}-\alpha x + \alpha^{2}\) の根となる。また、その根 \(-\beta\), \(\alpha+\beta\) がともに \(\sigma(\beta)\) の値としてありうるのは、以前も出てきた次の定理(の証明過程)によってわかる。体 \(K\) とその有限次拡大 \(L\) があって、(単射)準同型写像 \(\sigma\colon K \to \mathbb{C}\) があるとき、\(\sigma\) を \(L \to \mathbb{C}\) の(単射)準同型写像に拡張できる。すなわち、\(L\) を定義域とする(単射)準同型写像 \(\tau\) で、\(K\) への制限が \(\sigma\) と一致するものが存在する。
この証明では、\(K\) の単拡大 \(K(\beta)\) に対する \(\tau\) の作用を決めるとき、\(\tau(\beta)\) は \(\sigma(K)\) 上の最小多項式の任意の根に選ぶことができた。それを \(K=\Q(\alpha)\) としてそのまま適用すればよい。
以上から、\(\sigma(\alpha) = \alpha_{2} = -\alpha\) であるようなガロア共役変換 \(\sigma\) は、次のいずれかから誘導される \(2\) 通りである。
\begin{alignat*}{2}
\alpha &\mapsto -\alpha, &\qquad \beta &\mapsto -\beta \\
\alpha &\mapsto -\alpha, &\qquad \beta &\mapsto \alpha + \beta
\end{alignat*} - \(\sigma(\alpha) = \alpha_{3} = \beta\) のとき
前項と同様に、今度は \(\sigma\) による \(\beta\) の移り先は、\(g_{\beta}(x) = x^{2} + \alpha x + \alpha^{2}\) を \(\sigma\) で移した \(x^{2}+ \beta x + \beta^{2}\) の根となる。さて、この \(x^{2}+ \beta x + \beta^{2}\) は、先ほど\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-3}や\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-9}を導く過程では因数分解されていない多項式である。その根はどうやって求めればいいだろうか。今の例では
\begin{align*}
x^{2}+ \beta x + \beta^{2} &= x^{2} + \beta x-\alpha\beta-\alpha^{2} \quad (\because \eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-4}) \\
&= (x-\alpha) (x+\alpha+\beta)
\end{align*}
と簡単に因数分解できるので、根は \(\alpha\), \(-\alpha-\beta\) とすぐわかるが、一般にはそう簡単ではないだろう。ひとつの方法は、上で説明した「\(\Q(\alpha, \beta)\) 係数の多項式を、\(\Q(\alpha,\beta)\) 係数の範囲で既約分解する」やり方だ。\(x^{2}+ \beta x + \beta^{2} = x^{2}+\beta x-\alpha\beta-\alpha^{2}\) を \(\Q(\alpha, \beta)\) 係数の多項式として既約分解することは、手間はかかるが確実にできる。そしてこのとき \(1\) 次式の積として因数分解し尽くすことは予めわかっているから、その結果から根も \(\alpha\), \(\beta\) の \(\Q\) 係数多項式として具体的に求まる。
もうひとつ、\(\beta\) の移り先はどうせ \(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{6}\) のどれかしかない…ということからシラミつぶしすることもできる。一般にはおそらくこちらの方が速いだろう。実際には、\(\beta\) 以外の解 \(\alpha\), \(-\alpha(=\alpha_{2})\)の行き先としてすでに \(\sigma(\alpha) = \alpha_{3}\), \(\sigma(-\alpha) = -\beta = \alpha_{4}\) の \(2\) つが「予約済み」なので、\(\beta\) の行き先の候補は残りの \(\alpha_{1}\), \(\alpha_{2}\), \(\alpha_{5}\), \(\alpha_{6}\) のどれかに限られる。そのそれぞれを \(x^{2} + \beta x + \beta^{2}\) に代入して、\(0\) になるかどうかを調べる。\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-4}, \eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-1}を使って次数下げすると
\begin{align*}
{\alpha_{1}}^{2} + \beta \alpha_{1} + \beta^{2} &= \alpha^{2} + \beta\alpha + \beta^{2} = 0 \\
{\alpha_{2}}^{2} + \beta \alpha_{2} + \beta^{2} &= \alpha^{2}-\beta\alpha + \beta^{2} = -2\alpha\beta \ne 0 \\
{\alpha_{5}}^{2} + \beta \alpha_{5} + \beta^{2} &= (\alpha+\beta)^{2}-\beta(\alpha + \beta) + \beta^{2} = \alpha^{2} + \alpha\beta + \beta^{2} =0 \\
{\alpha_{6}}^{2} + \beta \alpha_{6} + \beta^{2} &= (\alpha+\beta)^{2} + \beta(\alpha + \beta) + \beta^{2} = \alpha^{2} + 3\alpha\beta + 3\beta^{3} = -2\alpha^{2} \ne 0
\end{align*}
となるので、\(x^{2} + \beta x + \beta^{2}\) の根は \(\alpha_{1}=\alpha\) と \(\alpha_{5} = -\alpha-\beta\) だ。この \(2\)通りのいずれに対しても、対応するガロア共役変換 \(\sigma\) が存在することは前項と同様だ。
以上から、\(\sigma(\alpha) = \alpha_{3} = \beta\) であるようなガロア共役変換 \(\sigma\) は、次のいずれかから誘導される \(2\) 通りである。
\begin{alignat*}{2}
\alpha &\mapsto \beta, &\qquad \beta &\mapsto \alpha \\
\alpha &\mapsto \beta, &\qquad \beta &\mapsto -\alpha-\beta
\end{alignat*}
同様にして、\(\alpha\) の移り先が残りの \(\alpha_{4}\)〜\(\alpha_{6}\) の場合にも、\(\beta\) の移り先としてありうるものを求めることで、それぞれの場合のガロア共役変換を求めることができる。それらすべての結果を総合したものは次の通りだ。すなわち、\(f(x)=x^{6}-2=0\) のガロア群 \(\Gal(\Q(\alpha,\beta)/\Q)\) の元は、次のそれぞれから誘導される \(12\) 個の自己同型写像である。\(\sigma_{1}, \dots, \sigma_{12}\) の番号を振っておいた。
\begin{alignat*}{2}
\alpha &\mapsto \alpha, &\quad \beta &\mapsto
\begin{cases}
\beta & \cdots \sigma_{1} \quad (\text{恒等写像}) \\
-\alpha-\beta & \cdots \sigma_{2}
\end{cases} \\
\alpha &\mapsto -\alpha, &\quad \beta &\mapsto
\begin{cases}
-\beta & \cdots \sigma_{3} \\
\alpha+\beta & \cdots \sigma_{4}
\end{cases} \\
\alpha &\mapsto \beta, &\quad \beta &\mapsto
\begin{cases}
\alpha & \cdots \sigma_{5} \\
-\alpha-\beta & \cdots \sigma_{6}
\end{cases} \\
\alpha &\mapsto -\beta, &\quad \beta &\mapsto
\begin{cases}
-\alpha & \cdots \sigma_{7} \\
\alpha+\beta & \cdots \sigma_{8}
\end{cases} \\
\alpha &\mapsto -\alpha-\beta, &\quad \beta &\mapsto
\begin{cases}
\alpha & \cdots \sigma_{9} \\
\beta & \cdots \sigma_{10}
\end{cases} \\
\alpha &\mapsto \alpha+\beta, &\quad \beta &\mapsto
\begin{cases}
-\alpha &\cdots \sigma_{11} \\
-\beta &\cdots \sigma_{12}
\end{cases}
\end{alignat*}
\(\alpha\), \(\beta\) の値はまだ求まっていないが、それらの最小多項式 \(g_{\alpha}(x)\), \(g_{\beta}(x)\) と、ガロア群の元が \(\Q(\alpha,\beta)\) にどのように作用するかは判明したわけだ。
なお、上の議論では、\(\beta\) の行き先のそれぞれに対して対応するガロア共役変換の存在を確認したが、それを省いて単なる必要条件として「ありうる候補」を列挙するだけにして、この時点で改めて「すべてが適する」ことを確認することもできる。上のようにして「ありうる候補」を列挙すると、その個数は「\(g_{\alpha}(x)\) の次数と \(g_{\beta}(x)\) の次数の積」で \(6\times2=12\) 個になる。一方これはガロア群 \(\Gal(\Q(\alpha,\beta)/\Q)\) の位数(要素数)とも等しい:
\[ \lvert \Gal(\Q(\alpha,\beta)/\Q) \rvert = [\Q(\alpha,\beta):\Q] = \underbrace{[\Q(\alpha,\beta):\Q(\alpha)]}_{g_{\beta}(x)\text{の次数}} \times \underbrace{[\Q(\alpha):\Q]}_{g_{\alpha}(x)\text{の次数}} = 2 \times 6 = 12 \]
したがって、\(12\) 個の候補はひとつも欠けることなく実際にすべてガロア群 \(\Gal(\Q(\alpha,\beta)/\Q)\) の元でなければならない。
\(\sigma_{1}, \dots, \sigma_{12}\) での \(\alpha\), \(\beta\) の移り先が列挙されているので、それらを合成した \(\sigma_{i} \circ \sigma_{j}\) での \(\alpha\), \(\beta\) の移り先もすぐに計算できる。こうやってガロア群 \(\Gal(\Q(\alpha,\beta)/\Q)\) の乗積表が作れるので、ガロア群の構造が完全に決定できる。さらに、求めたければ解 \(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{6}\) の置換群としてのガロア群も求めることができる(ただし、可解群かどうかを判定したり、可解群だった場合に組成列を求めたりする計算は、実際には乗積表を使って行うわけだから、それらを目的とするのであれば置換群としてのガロア群は必ずしも求める必要はない)。
実際に乗積表を求めてみると、次の表になる。表の中身は、積の計算結果の \(\sigma\) の添字だけが書いてある。
\[ \sigma_{i} \circ \sigma_{j} =
\begin{array}{c|*{12}{c}}
j\backslash i&1&2&3&4&5&6&7&8&9&10&11&12\\
\hline
1&1&2&3&4&5&6&7&8&9&10&11&12 \\
2&2&1&4&3&6&5&8&7&10&9&12&11 \\
3&3&4&1&2&7&8&5&6&11&12&9&10 \\
4&4&3&2&1&8&7&6&5&12&11&10&9 \\
5&5&9&7&11&1&10&3&12&2&6&4&8 \\
6&6&10&8&12&2&9&4&11&1&5&3&7 \\
7&7&11&5&9&3&12&1&10&4&8&2&6 \\
8&8&12&6&10&4&11&2&9&3&7&1&5 \\
9&9&5&11&7&10&1&12&3&6&2&8&4 \\
10&10&6&12&8&9&2&11&4&5&1&7&3 \\
11&11&7&9&5&12&3&10&1&8&4&6&2 \\
12&12&8&10&6&11&4&9&2&7&3&5&1
\end{array} \]
見直しはしていないので、ミスがあったらご容赦。
以上の例では、\(f(x)=x^{6}-2\) の最小分解体は \(\Q\) に \(2\) 解 \(\alpha\), \(\beta\) を添加するだけで得られた。より一般には、\(3\) 解 \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) やそれ以上を添加して初めて最小分解体となる場合もありうる。上の手順は、そういう場合にもそのまま拡張できることはわかるだろう。
また、始めの \(f(x)\) が \(\Q\) 係数の範囲で可約だったら、その既約因子の一つを \(g_{\alpha}(x)\) とし、\(\alpha\) をその解(のひとつ)として計算を進めればよい。
ここまでの話で、前半の最小分解体を求める所までの処理は、本質的に同じものが Risa/Asir には用意されているようだ(つまり、この記事の内容も新規性はなく、その筋の人にはよく知られた話に過ぎなかった、ということだろう)。ヘルプを見ると“代数体上での因数分解は, Trager によるノルム法を改良したもので, 特にある多項式に対し, その根を添加した体上でその多項式自身を因数分解する場合に特に有効である
”とあるので、“改良”
、すなわち計算の効率化の工夫が色々施されているのだろう。\(3\) 解添加で最小分解体が作れる \(f(x)=x^5+x^2-2x+3\) は、maxima でここまでのやり方で計算しようとしたら数時間かかっても終わらなかったが、Risa/Asir は次のように易々と計算してのけた。
\begin{align*}
x^5+x^2-2x+3 &=
\begin{aligned}[t]
\text{定数} &\times (x-\alpha) (x-\beta) (x-\gamma) \times \\
&\bigl\{ 493x+(((15\alpha^3-40\alpha^2+75\alpha)\beta^3+(30\alpha^4+12\alpha-12)\beta^2 \\
&\quad {}+(-40\alpha^4-75\alpha^3-12\alpha^2+10\alpha- 58)\beta+12\alpha^2-32\alpha+60)\gamma^2 \\
&\quad {}+((45\alpha^4+40\alpha^3-75\alpha^2+24\alpha-24)\beta^3+(80\alpha^4-18\alpha^2+80\alpha-122)\beta^2 \\
&\quad {}+(-75\alpha^4-15\alpha^3+10\alpha^2-25\alpha-120)\beta+9\alpha^4+24\alpha^3-13\alpha^2-111\alpha+350)\gamma \\
&\quad {}+(-9\alpha^2+24\alpha-45)\beta^3+(-9\alpha^3+12\alpha^2-13\alpha-60)\beta^2 \\
&\quad {}+(-18\alpha^4+13\alpha^2-9\alpha+368)\beta+24\alpha^4+45\alpha^3+60\alpha^2+149\alpha+3)
\bigr\} \times \\
&\bigl\{ 493x+(((-15\alpha^3+40\alpha^2-75\alpha)\beta^3+(-30\alpha^4-12\alpha+12)\beta^2 \\
&\quad {}+(40\alpha^4+75\alpha^3+12\alpha^2-10\alpha+58)\beta-12\alpha^2+32\alpha-60)\gamma^2 \\
&\quad {}+((-45\alpha^4-40\alpha^3+75\alpha^2-24\alpha+24)\beta^3+(-80\alpha^4+18\alpha^2-80\alpha+122)\beta^2 \\
&\quad {}+(75\alpha^4+15\alpha^3-10\alpha^2+25\alpha+120)\beta-9\alpha^4-24\alpha^3+13\alpha^2+111\alpha+143)\gamma \\
&\quad {}+(9\alpha^2-24\alpha+45)\beta^3+(9\alpha^3-12\alpha^2+13\alpha+60)\beta^2 \\
&\quad {}+(18\alpha^4-13\alpha^2+9\alpha+125)\beta-24\alpha^4-45\alpha^3-60\alpha^2+344\alpha-3)\bigr\}
\end{aligned} \\
g_{\alpha}(x) &= x^5+x^2-2x+3 \\
g_{\beta}(x) &= x^{4}+\alpha x^{3} + \alpha^{2}x^{2} + (\alpha^{3}+1)x
+ \alpha^{4}+\alpha-2 \\
g_{\gamma}(x) &= x^{3}+ (\alpha+\beta)x^{2} +
(\alpha^{2}+\alpha\beta+\beta^{2})x + \alpha^{3}+\alpha^{2}\beta +
\alpha\beta^{2} + \beta^{3} + 1
\end{align*}
さらに、従来のアルゴリズムでは「退職後は素人数学者」さんが“いくつかの難関があって,計算するのは到底不可能である
”とされていた \(f(x)=x^6+2x^5+3x^4+4x^3+5x^2+6x+7\) は、“(追記) 後でわかったことであるが,意外にも\(g(x)\)は6個の120次多項式の積に分解できる
”とあったことから「\(3\) 解添加で最小分解体ができるはず」と見当をつけて Risa/Asir に計算させてみると、こちらも 1 分もかからずに次のような結果が得られた。
\begin{align*}
&x^6+2x^5+3x^4+4x^3+5x^2+6x+7 =\\
&\qquad \begin{aligned}[t]
\text{定数} &\times (x-\alpha) (x-\beta) (x-\gamma) \times \\
&\bigl\{ 112x+(((6\alpha^4+5\alpha^3+3\alpha^2+5\alpha-1)\beta^4
+(6\alpha^5+16\alpha^4+16\alpha^3+16\alpha^2+14\alpha+4)\beta^3 \\
&\quad {}+(4\alpha^5+10\alpha^4+4\alpha^3-10\alpha^2-18\alpha-34)\beta^2 +(2\alpha^5+8\alpha^4-8\alpha^3-28\alpha^2-38\alpha-24)\beta \\
&\quad {}+4\alpha^5+8\alpha^4-5\alpha^3-17\alpha^2-3\alpha-1)\gamma^3
+((4\alpha^4+7\alpha^3+5\alpha^2-3\alpha-7)\beta^4 \\
&\quad {}+(4\alpha^5+14\alpha^4+20\alpha^3+8\alpha^2-8\alpha-14)\beta^3
+(6\alpha^5+12\alpha^4+6\alpha^3-20\alpha^2-42\alpha-42)\beta^2 \\
&\quad {}+(-2\alpha^4-16\alpha^3-32\alpha^2-68\alpha-42)\beta
-2\alpha^5-4\alpha^4+3\alpha^3-21\alpha^2-39\alpha-7)\gamma^2 \\
&\quad {}+((2\alpha^4+\alpha^3-19\alpha^2-25\alpha-25)\beta^4
+(2\alpha^5+4\alpha^4-12\alpha^3-48\alpha^2-58\alpha-40)\beta^3 \\
&\quad {}+(-18\alpha^4-46\alpha^3-92\alpha^2-88\alpha-52)\beta^2
+(-18\alpha^5-44\alpha^4-68\alpha^3-104\alpha^2-94\alpha-40)\beta \\
&\quad {}-8\alpha^5-16\alpha^4-19\alpha^3-33\alpha^2-11\alpha+73)\gamma
+(4\alpha^4-3\alpha^3-15\alpha^2-19\alpha-9)\beta^4 \\
&\quad {}+(4\alpha^5+6\alpha^4-8\alpha^3-24\alpha^2-28\alpha-6)\beta^3
+(-2\alpha^5-12\alpha^4-24\alpha^3-46\alpha^2-44\alpha-12)\beta^2 \\
&\quad {}+(-8\alpha^5-10\alpha^4-28\alpha^3-28\alpha^2-32\alpha+50)\beta+6\alpha^5+12\alpha^4+7\alpha^3+\alpha^2+39\alpha+117) \bigr\}
\times \\
&(\text{あと2因子省略})
\end{aligned} \\
&g_{\alpha}(x) = x^6+2x^5+3x^4+4x^3+5x^2+6x+7 \\
&g_{\beta}(x) =
x^5+(\alpha+2)x^4+(\alpha^2+2\alpha+3)x^3+(\alpha^3+2\alpha^2+3\alpha+4)x^2 \\
&\qquad\qquad {}+(\alpha^4+2\alpha^3+3\alpha^2+4\alpha+5)x+\alpha^5+2\alpha^4+3\alpha^3+4\alpha^2+5\alpha+6 \\
&g_{\gamma}(x) = x^4+(\beta+\alpha+2)x^3+(\beta^2+(\alpha+2)\beta+\alpha^2+2\alpha+3)x^2 \\
&\qquad\qquad {}+(\beta^3+(\alpha+2)\beta^2+(\alpha^2+2\alpha+3)\beta+\alpha^3+2\alpha^2+3\alpha+4)x \\
&\qquad\qquad {}+\beta^4+(\alpha+2)\beta^3+(\alpha^2+2\alpha+3)\beta^2+(\alpha^3+2\alpha^2+3\alpha+4)\beta+\alpha^4+2\alpha^3+3\alpha^2+4\alpha+5
\end{align*}
\(g_{\alpha} \text{の次数} \times g_{\beta} \text{の次数} \times g_{\gamma} \text{の次数} = 6\times5\times4=120\) だから、確かにこの \(f(x)\) のガロア群の位数(要素数)は \(120\) だ。さらに、この既約分解の結果を使えば、原理的にはガロア群(の乗積表)を求めることも可能というわけだ。
可解である方程式の解をべき根で表す
引き続き、\(f(x)=x^{6}-2=0\) を例に取って、求まったガロア群が可解だった時に、解をべき根で具体的に表す計算法を考える。上述の通り、先日の記事で述べたやり方「最小分解体 \(\Q(\alpha,\beta)\) を単拡大で与える原始根 \(u\) とその \(\Q\) 上の最小多項式を求める」だと、一般の場合に次数が大きくなってしまう上にその係数がとてつもなく膨れ上がってしまうため、それは避けることにしよう。
元々の私の考えで、最も重要なポイントは「置換群としてのガロア群で不変であるような任意の \(n\) 変数多項式に、解 \(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}\) を代入した値を具体的な数値として求められる方法があればよい」という所だった。これを実現するため、各解を原始根 \(V\) で表した式を求め、それを代入すると \(V\) が打ち消し合って具体的な数値として求まる…という手を採ったわけだ。今から説明する新しいアルゴリズムでは、\(V\) を使わずにこれを実現することができる。
まず、ガロア群
\[ G = \{ \sigma_{1}, \sigma_{2}, \sigma_{3}, \sigma_{4}, \sigma_{5}, \sigma_{6}, \sigma_{7}, \sigma_{8}, \sigma_{9}, \sigma_{10}, \sigma_{11}, \sigma_{12} \} \]
の組成列を求める所はこれまでと同じだ。組成列は一意に定まらないが、まずは \(G\) の正規部分群として
\[ G_{1} = \{ \sigma_{1}, \sigma_{2}, \sigma_{5}, \sigma_{6}, \sigma_{9}, \sigma_{10} \} \]
を取ろう。これは \(A=\{ \alpha_{1}, \alpha_{3}, \alpha_{5} \}\), \(B=\{\alpha_{2}, \alpha_{4}, \alpha_{6}\}\) のそれぞれに対して \(3\) 次対称群(\(\cong S_{3}\))として作用する群になっている。よってその次の正規部分群は \(A\), \(B\) のそれぞれに交代群 \(\cong A_{3}\) として作用するもので、
\[ G_{2} = \{ \sigma_{1}, \sigma_{6}, \sigma_{9} \} \]
である。これで \(G\) の組成列ができた。
\[ G \supset G_{1} \supset G_{2} \supset \{\sigma_{1}\} \]
当然ながら、\(G\) は可解群になっている。そこで、この組成列に従って、べき根による体の拡大を一段ずつ行って、方程式 \(f(x)=0\) の解をべき根で求めよう。
step1: まず \(G\), \(G_{1}\) の関係から、\(1\) 段目の体拡大を行う。\(p = \lvert G/G_{1} \rvert = 2\) である。\(G_{1}\) の作用が \(A\), \(B\) にはっきり別れている(つまり、解集合 \(\{\alpha_{1}, \dots, \alpha_{6}\}\) 上の \(G_{1}\) の軌道が \(A\), \(B\) の \(2\) 本になっている)ことから、\(g_{\alpha}(x)\) は次のように \(G_{1}\) で不変な \(2\) つの因子に分解する。
\[ g_{\alpha}(x) = \underbrace{(x-\alpha_{1}) (x-\alpha_{3}) (x-\alpha_{5})}_{G_{1}\text{で不変}} \times \underbrace{(x-\alpha_{2}) (x-\alpha_{4}) (x-\alpha_{6})}_{G_{1}\text{で不変}} \]
それぞれの因子を \(h_{1}(x)\), \(h_{2}(x)\) とおき、\(\alpha\), \(\beta\) で具体的に表そう。\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-4}と\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-1}で次数下げができる所はこれまでと同じだ。
\begin{align*}
h_{1}(x) &= (x-\alpha_{1}) (x-\alpha_{3}) (x-\alpha_{5}) = (x-\alpha) (x-\beta) (x+\alpha+\beta) \\
&= x^{3} +(\alpha\beta – (\alpha+\beta)^{2})x + \alpha\beta(\alpha+\beta) \\
&= x^{3}-\alpha^{3} \quad (\because \eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-4})
\end{align*}
である。そして \(G/G_{1} \cong \{\sigma_{1}, \sigma_{3}\}\) だから、\(h_{2}(x)\) は \(h_{1}(x)\) を \(\sigma_{3}\colon \alpha \mapsto -\alpha, \beta \mapsto -\beta\) で移せば得られ、
\[ h_{2}(x) = x^{3} + \alpha^{3} \]
である。
よって、\(1\) の原始 \(p=2\) 乗根 \(-1\) を使って
\[ \theta(x) = h_{1}(x) + (-1)^{1}h_{2}(x) = -2\alpha^{3} \]
となる。一般には、\(\theta(x)\) の \(0\) でない係数は複数個ありうるが、今の場合は定数項 \(-2\alpha^{3}\) のみが非 \(0\) である。これを \(p=2\) 乗すると、この時点での体…つまり \(\Q\)…の数が得られるはずだが、実際に\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-4}, \eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-1}で次数下げすると
\begin{equation}
\label{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-2}
(-2\alpha^{3})^{2} = 4\alpha^{6} = 8
\end{equation}
となって値がわかった。
ここで、\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-2}において次数下げによって \(\alpha\), \(\beta\) が消え、具体的な数値だけが残ったのは単なる幸運ではない。拡大体の次元定理 \([\Q(\alpha,\beta):\Q]=[\Q(\alpha,\beta):\Q(\alpha)] [\Q(\alpha):\Q]\) の証明過程で出てきたように、\(\Q(\alpha,\beta)\) の \(\Q\) ベクトル空間としての基底は、\(\underbrace{\{1,\alpha,\alpha^{2}, \dots,
\alpha^{5}\}}_{\Q(\alpha)\text{の}\Q\text{ベクトル空間としての基底}}\) と \(\underbrace{\{1, \beta\}}_{\Q(\alpha,\beta)\text{の}\Q(\alpha)\text{ベクトル空間としての基底}}\) のすべての組み合わせで積を取った
\begin{equation}
\label{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-5}
\{1,\alpha,\alpha^{2},\alpha^{3},\alpha^{4},\alpha^{5}, \beta, \alpha\beta, \alpha^{2}\beta, \alpha^{3}\beta, \alpha^{4}\beta, \alpha^{5}\beta \}
\end{equation}
だった。つまり、\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-5}の \(12\) 個の \(\Q\) 係数 \(1\) 次結合で表される数は、表現(\(1\) 次結合の係数)が一意的に決まる。そのような表現は、\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-4}, \eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-1}で次数下げすれば得られる(\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-4}を使えば \(\beta\) の次数を \(1\) 以下にでき、その結果に対して\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-1}を使えば、\(\beta\) に何の影響も与えずに \(\alpha\) の次数だけを \(5\) 以下にできる)。
特に、上の手順で作られる \(\theta(x)\) の係数は基底\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-5}の \(\Q\) 係数 \(1\) 次結合である。よって、それを \(2\) 乗した\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-2}の値が \(\Q\) の数になるとしたら、次数下げした結果では、基底\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-5}のうち \(1\) 以外の係数は \(0\) になるしかない。言い換えれば、次数下げすれば \(\alpha\), \(\beta\) はすべて消え失せる。そして \(\theta(x)\) の計算手順から、基底\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-5}の \(\Q\) 係数はすべて具体的な値としてわかっているので、結果として得られる \(1\) の係数も \(\Q\) の数として具体的に得られるのである。
話を元に戻す。\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-2}より \(-2\alpha^{3} = \pm 2\sqrt{2}\) で、ここでは \(+2\sqrt{2}\) の方を取って \(\alpha^{3} = -\sqrt{2}\) としよう。したがって \(h_{1}(x)=x^{3}+\sqrt{2}\) である。
今の計算から、「ガロア群 \(G\) の部分群 \(G_{1}\) に対応する中間体は \(K=\Q(2\sqrt{2}) = \Q(\sqrt{2})\)」とわかった。また、\(K\) 上では \(g_{\alpha}(x)=x^{6}-2\) は既約でなくなり、\(\alpha\) の \(K\) 上の最小多項式は \(x^{3}+\sqrt{2}\) である。これを新たに \(g_{\alpha}(x)\) と置き直すことにする。では \(\beta\) の最小多項式の方はどうだろうか。\(K(\alpha)\) 上では元々の \(g_{\beta}(x)=x^{2}+\alpha x + \alpha^{2}\) が既約でなくなってさらに分解したりするのだろうか?
それはない。今、ガロア群が \(G\) から \(G_{1}\) に縮小(\(\frac{1}{2}\) 倍のサイズ)したことによって、最小分解体の拡大次数 \(\deg g_{\alpha}(x) \times \deg g_{\beta}(x)\) も \(\frac{1}{2}\) 倍に縮小している。しかし、\(g_{\alpha}(x)\) の次数がすでに \(6\) 次から \(3\) 次へと \(\frac{1}{2}\) 倍に縮小しているので、ここで \(g_{\beta}(x)\) の次数まで縮小してしまっては、次数の勘定が合わなくなる。したがって \(g_{\beta}(x)\) は \(x^{2}+\alpha x + \alpha^{2}\) のまま不変である。
step2: 続いて、\(G_{1}\), \(G_{2}\) の関係から、\(2\) 段目の体拡大を行う。\(p = \lvert G_{1}/G_{2} \rvert = 2\) である。さて、今度は先ほどと違って、\(g_{\alpha}(x) = (x-\alpha_{1}) (x-\alpha_{3}) (x-\alpha_{5})\) も \(g_{\beta}(x) = (x-\beta)(x+\alpha+\beta) = (x-\alpha_{3}) (x-\alpha_{5})\) も、\(G_{2}\) の作用で不変な非自明因子に分解したりはしない。
実は、step1 でやってみせたのは汎用性のない ad hoc なやり方に過ぎない。本命は今から説明するやり方で、「ないなら作ってしまえばいい」という精神である。実は、今度も「最小分解体を単拡大で作る原始元」を結局は使うことになる。ただし、使い方は従来のアルゴリズムとはやや異なる。
まず、\(\alpha\), \(\beta\) の整数係数 \(1\) 次結合 \(u\) を作る。
\[ u=m_{1}\alpha + m_{2} \beta \quad (m_{1}, m_{2} \in \mathbb{Z}) \]
より一般に、\(3\) 解 \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) の添加で最小分解体が作られる場合は、それらの \(1\) 次結合 \(u=m_{1}\alpha + m_{2}\beta + m_{3}\gamma\) を考える。
\(u\) をガロア群 \(G_{1}\) の元で変換した \(\lvert G_{1} \rvert = 6\) 通りの値がすべて異なるように整数 \(m_{1}\), \(m_{2}\) の値を(試行錯誤で)決める。ここでは \(u=\alpha-\beta\) とする。
\begin{align*}
u_{1} &= \sigma_{1}(u) = u = \alpha-\beta \\
u_{2} &= \sigma_{2}(u) = \alpha+\alpha+\beta = 2\alpha+\beta \\
u_{5} &= \sigma_{5}(u) = \beta-\alpha \\
u_{6} &= \sigma_{6}(u) = \beta+\alpha+\beta = \alpha + 2\beta \\
u_{9} &= \sigma_{9}(u) = -\alpha-\beta – \alpha = -2\alpha-\beta \\
u_{10} &= \sigma_{10}(u) = -\alpha-\beta – \beta = -\alpha-2\beta
\end{align*}
これらの右辺は、基底\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-5}の \(\Q\) 係数 \(1\) 次結合としてすべて異なっているので、値もすべて異なる(よって \(u\) は原始元になっていて、\(\alpha\), \(\beta\) はいずれも \(u\) の \(K\) 係数多項式として表すことが可能だが、それをやろうとするとやはり次数が高く係数が複雑化するはずなので、やめておく)。余談だが、こうやって視察のみで「値がすべて異なる」とわかるというのは、線形代数の威力をまざまざと実感できる。当たり前の話だが、1次独立というのは実に強力で有用な概念なんだなあ…。
さて、そうすると \(G_{2}\) では不変だが \(G_{1}\) では不変でない多項式として \(h_{1}(x) = (x-u_{1}) (x-u_{6}) (x-u_{9})\), \(h_{2}(x) = (x-u_{2}) (x-u_{5}) (x-u_{10})\) が作れる。これらを \(\alpha\), \(\beta\) で具体的に表してみる。今度は、\(\alpha\) の新しい最小多項式 \(g_{\alpha}(x)=x^{3}+\sqrt{2}\) が使えることに注意しよう。
\begin{align*}
h_{1}(x) &= (x-\alpha+\beta) (x-\alpha-2\beta) (x+2\alpha+\beta) \\
&= x^{3} + 6\alpha^{2}\beta – 3\sqrt{2}
\end{align*}
また、\(G_{1}/G_{2} \cong \{\sigma_{1}, \sigma_{5}\}\) より、\(h_{2}(x)\) は \(h_{1}(x)\) を \(\sigma_{5}\colon \alpha \mapsto \beta, \beta \mapsto \alpha\) で移した
\[ h_{2}(x) = x^{3} + 6\alpha\beta^{2} – 3\sqrt{2} = x^{3} – 6\alpha^{2}\beta + 3\sqrt{2} \]
となる。
よって、\(1\) の原始 \(p=2\) 乗根 \(-1\) を使って
\[ \theta(x) = h_{1}(x) + (-1)^{1}h_{2}(x) = 12\alpha^{2}\beta – 6\sqrt{2} \]
となる。やはり、一般には \(\theta(x)\) の \(0\) でない係数は \(1\) つとは限らないが、そのうち任意のひとつを選べばよい。今の場合は定数項 \(6(2\alpha^{2}\beta – \sqrt{2})\) のみであり、これを \(p=2\) 乗して次数下げすれば \(K\) の数として具体的に求まるはずである。
\[ \bigl\{6(2\alpha^{2}\beta-\sqrt{2})\bigr\}^{2} = 6^{2}(4\alpha^{4}\beta^{2} – 4\sqrt{2}\alpha^{2}\beta + 2) = 6^{2} \times (-6) \]
これより、\(6(2\alpha^{2}\beta – \sqrt{2}) = \pm 6\sqrt{-6}\) である。\(+6\sqrt{-6}\) の方を取れば
\begin{equation}
\label{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-8}
2\alpha^{2}\beta – \sqrt{2} = \sqrt{-6}
\end{equation}
が得られる。\(G_{2}\) に対応する中間体は \(M=K(6\sqrt{-6}) = K(\sqrt{-6}) = \Q(\sqrt{2}, \sqrt{-6})\) だ。
さて、こうやって得られた新しいべき根を含む式を、従来のやり方ではどう扱ってきたかというと、新しい体での原始元の最小多項式 \(h_{1}(x)\) を具体的に求めるのに使ってきたわけだ。今の場合も、\(h_{1}(x)=x^{3} + 6\alpha^{2}\beta – 3\sqrt{2}\) と\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-8}を見比べれば直ちに \(h_{1}(x) = x^{3}+3\sqrt{-6}\) とわかるが、それは目指すべき方向ではない。
ここまでの話では、主役は原始元 \(u\) ではなく、解 \(\alpha\), \(\beta\) だった。つまり、step1 と同じように、「新しい体 \(M=K(\sqrt{-6})\) では、\(\alpha\), \(\beta\) の最小多項式はどう変わるのか」を考えるべきだ。となると、step1 と同様、新しいべき根の式\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-8}に直接着目するのがよい。\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-8}には \(\beta\) が消えずに残っており、ここから \(\beta\) が \(1\) 次式
\begin{equation}
\label{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-10}
2\alpha^{2}x – \sqrt{2} – \sqrt{-6}
\end{equation}
の根であることがわかる。つまり、\(M(\alpha) = K(\alpha, \sqrt{-6}) = \Q(\alpha, \sqrt{2}, \sqrt{-6})\) 上の \(\beta\) の最小多項式は\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-10}にほかならない。そこで、これを \(g_{\beta}(x)\) とおき直せばよい。実際、\(x^{2}+\alpha x + \alpha^{2}\) を\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-10}で割ってみれば、割り切れることがわかる(計算過程省略)。
なお、このように得られた \(\alpha\), \(\beta\) とべき根を含む新しい式は、一般にはそのまま \(\beta\) の新しい最小多項式になるとは限らない。そこからわかることは「新しいべき根を含む体では、\(\beta\) がこれまでの \(g_{\beta}(x)\) よりも低次の多項式(\(\ne\) ゼロ多項式)をみたす」ということなので、実際に新しい最小多項式を求めるには、それらふたつの多項式の間で GCD を求める必要がある。\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-10}のような新しく得られたべき根を含む式が新しい最小多項式になるかどうかは、元の \(g_{\beta}(x)\) に比べて次数が \(\frac{1}{p}\) 倍に縮小しているかどうかで判定できる(ただし、今の場合は\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-10}が \(1\) 次式だったため、その時点で直接新しい最小多項式であることがわかる)。例えば step1 では、新たなべき根を使って \(\alpha\) がみたす式 \(x^{3}+\sqrt{2}\) が得られたが、この次数 \(3\) が元々の \(g_{\alpha}(x)\) の次数 \(6\) の \(\frac{1}{p}=\frac{1}{2}\) 倍であるため、\(x^{3}+\sqrt{2}\) が \(\alpha\) の新しい最小多項式と言えるわけだ。
より一般に、\(3\) 解 \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) の添加で最小分解体を作っていた場合は、新しくべき根を含む式が得られた際、
- それが \(\gamma\) を含んでいれば、新しい体では \(g_{\gamma}(x)\) が新しい式に置き換わる
- それが \(\gamma\) を含まず、\(\beta\) を含んでいれば、新しい体では \(g_{\beta}(x)\) が新しい式に置き換わる
- それが \(\gamma\), \(\beta\) を含まない場合(必然的に \(\alpha\) を含む)は、新しい体では \(g_{\alpha}(x)\) が新しい式に置き換わる
ということになる。そして、新しく得られたべき根を含む式が、着目する文字についての次数が元の最小多項式 \(g_{\bullet}(x)\) の次数の \(\frac{1}{p}\) 倍になっていればそれがそのまま新しい最小多項式となり、そうでなければ GCD が最小多項式となる(※ ここで得られた GCD が可約で、「その任意の既約因子が新しい最小多項式になる」ということは原則として起こらず、最小多項式を与える。その理由はこの記事の最後の節で説明する)。
なお、\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-8}のように新しいべき根を含む等式が得られた時、そこから新しい最小多項式を得る…というやり方は、従来の \(V\) を使った計算でも同様に行える。これは先日の記事ではグレブナー基底の利用例として既に触れた話だが、今説明したようにグレブナー基底を使わず、GCD を使って求めることも可能だ。
話を元に戻そう。これで、\(G\) の部分群 \(G_{2}\) に対応する中間体 \(M\) は \(M = K(\sqrt{-6}) = \Q(\sqrt{2}, \sqrt{-6})\)、\(M\) 上の \(\alpha\) の最小多項式は \(g_{\alpha}(x) = x^{3}+\sqrt{2}\)、\(M(\alpha)\) 上の \(\beta\) の最小多項式は \(g_{\beta}(x) = 2\alpha^{2}x – \sqrt{2} – \sqrt{-6}\) とわかった。
step3: 最後に、\(G_{2}\) と単位群の関係から最後の体拡大を行う。\(p= \lvert G_{2} \rvert = 3\) である。今度は、再度 \(g_{\alpha}(x)\) が
\[ g_{\alpha}(x) = \underbrace{(x-\alpha_{1})}_{\text{単位群で不変}} \underbrace{(x-\alpha_{3})}_{\text{単位群で不変}} \underbrace{(x-\alpha_{5})}_{\text{単位群で不変}} \]
と \(3\) つの因子に分解することを使えばいい。\(G_{2} = \{\sigma_{1}, \sigma_{6}, \sigma_{9}\} = \langle \sigma_{6} \rangle\) で、\(h_{1}(x) = x-\alpha_{1}\) を \(\sigma_{6}\colon \alpha \mapsto \beta, \beta \mapsto -\alpha-\beta\) で順に移したものを \(h_{2}(x)\), \(h_{3}(x)\) とすると
\begin{align*}
h_{1}(x) &= x-\alpha \\
h_{2}(x) &= x-\beta \\
h_{3}(x) &= x+\alpha+\beta
\end{align*}
となる。\(1\) の原始 \(p=3\) 乗根 \(\omega\) を使って
\begin{align*}
\theta(x) &= h_{1}(x) + \omega^{1}h_{2}(x) + \omega^{2} h_{3}(x) \\
&= (1+\omega+\omega^{2})x -\alpha -\omega\beta +\omega^{2} (\alpha+\beta) \\
&= -(\alpha+2\beta)\omega -(2\alpha+\beta) \quad (\because \omega^{2}+\omega+1=0)
\end{align*}
が得られる。\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-8}, \(\alpha^{3}=-\sqrt{2}\) を使って \(\beta\) を次数下げ(&分母の有理化)すると
\begin{align}
\beta &= \frac{\sqrt{2}+\sqrt{-6}}{2\alpha^{2}} = \frac{\sqrt{2}+\sqrt{-6}}{2\alpha^{3}}\alpha \notag\\
&= -\frac{\sqrt{2}+\sqrt{-6}}{2\sqrt{2}} \alpha \notag\\
\therefore \alpha+2\beta &= \alpha – \frac{\sqrt{2}+\sqrt{-6}} {\sqrt{2}}\alpha \notag\\
&= -\frac{\sqrt{-6}}{\sqrt{2}} \alpha \notag\\
2\alpha+\beta &= 2\alpha – \frac{\sqrt{2}+\sqrt{-6}}{2\sqrt{2}} \alpha \notag\\
&= \frac{3\sqrt{2}-\sqrt{-6}}{2\sqrt{2}}\alpha \notag\\
\therefore \theta(x) &= \frac{\sqrt{-6}}{\sqrt{2}} \alpha \omega – \frac{3\sqrt{2}-\sqrt{-6}}{2\sqrt{2}}\alpha \notag\\
&= \frac{2\sqrt{-6}\omega-3\sqrt{2}+\sqrt{-6}}{2\sqrt{2}} \alpha
\label{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-11}
\end{align}
ここで、注意しなければいけないことがひとつある…が、それについては後で振り返ることにして、ここでは話を先に進める。
これまで通り、\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-11}を \(p=3\) 乗して次数下げすると未知数が消え、\(M\) の数と \(\omega\) だけで表されるはずだ。
\begin{align*}
\Bigl( \frac{2\sqrt{-6}\omega-3\sqrt{2}+\sqrt{-6}}{2\sqrt{2}} \alpha \Bigr)^{3} &= \Bigl( \frac{2\sqrt{-6}\omega-3\sqrt{2}+\sqrt{-6}}{2\sqrt{2}} \Bigr)^{3} \alpha^{3} \\
&= \Bigl( \frac{2\sqrt{-6}\omega-3\sqrt{2}+\sqrt{-6}}{2\sqrt{2}}
\Bigr)^{3} \times (-\sqrt{2}) \\
\therefore \frac{2\sqrt{-6}\omega-3\sqrt{2}+\sqrt{-6}}{2\sqrt{2}} \alpha &= -\frac{2\sqrt{-6}\omega-3\sqrt{2}+\sqrt{-6}}{2\sqrt{2}} \times
\begin{cases}
&\sqrt[3]{\sqrt{2}} \\
&\sqrt[3]{\sqrt{2}}\omega \\
&\sqrt[3]{\sqrt{2}}\omega^{2}
\end{cases}
\end{align*}
\(3\) 乗根の選択としていちばん上のものを選ぶと、\(\alpha\) の新しい最小多項式
\begin{equation}
\label{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-12}
g_{\alpha}(x) = \frac{2\sqrt{-6}\omega-3\sqrt{2}+\sqrt{-6}}{2\sqrt{2}}
\biggl(x+\sqrt[3]{\sqrt{2}}\biggr)
\end{equation}
が得られる。
全 step 完了だ。新しい体は \(L=M(\sqrt[3]{\sqrt{2}}, \omega) = \Q(\sqrt{2}, \sqrt{-6}, \sqrt[3]{\sqrt{2}}, \omega)\) で、\(L\) 上では \(\alpha\), \(\beta\) の最小多項式が共に \(1\) 次式となった。すなわち \(\alpha\), \(\beta\) の値が判明し、\(\alpha = -\sqrt[3]{\sqrt{2}}\) で、\(\beta = -\frac{\sqrt{2}+\sqrt{-6}}{2\sqrt{2}} \alpha = \frac{\sqrt{2}+\sqrt{-6}}{2\sqrt{2}} \sqrt[3]{\sqrt{2}}\) である。
以上から、\(f(x)=x^{6}-2=0\) の \(6\) 解は
\begin{align*}
\alpha_{1} &= \alpha = -\sqrt[3]{\sqrt{2}} \\
\alpha_{2} &= -\alpha = \sqrt[3]{\sqrt{2}} \\
\alpha_{3} &= \beta = \frac{\sqrt{2}+\sqrt{-6}}{2\sqrt{2}} \sqrt[3]{\sqrt{2}} \\
\alpha_{4} &= -\beta = -\frac{\sqrt{2}+\sqrt{-6}}{2\sqrt{2}} \sqrt[3]{\sqrt{2}} \\
\alpha_{5} &= -\alpha-\beta = \frac{\sqrt{2}-\sqrt{-6}}{2\sqrt{2}} \sqrt[3]{\sqrt{2}} \\
\alpha_{6} &= \alpha+\beta = \frac{-\sqrt{2}+\sqrt{-6}}{2\sqrt{2}} \sqrt[3]{\sqrt{2}}
\end{align*}
である。
以前の私のアルゴリズムだと、最小分解体を \(V\) の単拡大で捉え、\(V\) の最小多項式 \(g(x)\) の因数分解を繰り返すことで解を求めていた。これに対し、上で説明したアルゴリズムでは、最小分解体は解 \(\alpha, \beta, \gamma, \dotsc\) を順次添加した拡大体として捉え、各々の最小多項式 \(g_{\alpha}(x), g_{\beta}(x), g_{\gamma}(x), \dotsc\) を因数分解することで解を求めている。こういう対比ができるという所は、個人的にはなかなか興味深い。
\(G\) は \(6\) 次巡回群と同型な
\[ G_{3} = \{ \sigma_{1}, \sigma_{11}, \sigma_{6}, \sigma_{3}, \sigma_{9}, \sigma_{8} \} = \langle \sigma_{11} \rangle \]
も部分群に持っており、これも正規部分群である。よって
\[ G \supset G_{3} \supset G_{2} \supset \{\sigma_{1}\} \]
という組成列も作れる。これに基づいて \(f(x)=x^{6}-2=0\) を解く場合、最初の \(G\) と \(G_{3}\) の関係では \(g_{\alpha}(x)=x^{6}-2\) も \(g_{\beta}(x) = x^{2}+\alpha x + \alpha^{2}\) も非自明な不変既約因子を持っていないので、最初から原始元にご登場願うことになる。ただし、先ほどの \(u=\alpha-\beta\) は \(G_{1}\) に対してはすべて異なる値を生じたが、\(G\) に対しては重複が生じるので不適である。このため、例えば \(u=\alpha-2\beta\) など別のおき方をしないといけない。
べき根の不定性問題再び
先延ばしにしていた\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-11}での微妙な問題の話に戻ろう。ここでは、実はやはり「べき根の選び方の不定性によって、\(0\) になる可能性もならない可能性もある式」の問題が発生している。\(\omega = \frac{-1 \pm \sqrt{-3}}{2}\) だから、複号の選び方によっては\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-11}の \(\alpha\) の係数の分子 \(2\sqrt{-6}\omega-3\sqrt{2}+\sqrt{-6}\) は \(0\) になってしまう。そういう場合は \(\theta(x)\) がゼロ多項式になってしまい、添加すべきべき根になるはずだった値が \(0\) になり、\(\alpha\) の最小多項式となるはずだった\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-12}もゼロ多項式になってしまう。この場合は、\(\omega\) とは別の虚数立方根 \(\omega^{2}\) を採った
\[ \theta_{2}(x) = h_{1}(x) + (\omega^{2})^{1}h_{2}(x) + (\omega^{2})^{2}h_{3}(x) \]
の方を使わないといけなくなる。
\(\omega\) はここで使っている中間体 \(M=\Q(\sqrt{2},\sqrt{-6})\) の元だから、その最小多項式は \(x^{2}+x+1\) ではなくなっている。実際、上で説明した「代数拡大を繰り返した体での既約分解」の方法に従い、\(\sqrt{2}\), \(\sqrt{-6}\) の最小多項式 \(g_{\sqrt{2}}(x)=x^{2}-2\), \(g_{\sqrt{-6}}(x)=x^{2}+6\) を使って \(x^{2}+x+1\) を既約分解すると
\[ x^{2}+x+1 = \text{定数} (4x+\sqrt{2}\sqrt{-6}+2) (4x-\sqrt{2}\sqrt{-6}+2) \]
となるので、\(M\) 上の \(\omega\) の最小多項式としては \(4x + \sqrt{2}\sqrt{-6} +2\) か \(4x-\sqrt{2}\sqrt{-6}+2\) のどちらかを選ばないといけない、というわけだ(どちらを選んでももちろんよい)。前者の場合、\(\omega = \frac{-\sqrt{2}\sqrt{-6}-2}{4}\) より
\begin{align*}
2\sqrt{-6}\omega -3\sqrt{2} + \sqrt{-6} &= \frac{\sqrt{-6}(-\sqrt{2}\sqrt{-6}-2)}{2} -3\sqrt{2}+\sqrt{-6} = \frac{6\sqrt{2}-2\sqrt{-6}}{2}-3\sqrt{2}+\sqrt{-6} \\
&= 0
\end{align*}
で、上で懸念した通りのことが起こっている。つまりこの場合 \(\theta(x)=0\) となってしまうので代わりに \(\theta_{2}(x)\) を使って添加すべきべき根を決定しないといけない。
一方後者の場合、\(\omega = \frac{\sqrt{2}\sqrt{-6}-2}{4}\) より
\begin{align*}
2\sqrt{-6}\omega -3\sqrt{2} + \sqrt{-6} &= \frac{\sqrt{-6}(\sqrt{2}\sqrt{-6}-2)}{2} -3\sqrt{2}+\sqrt{-6} = \frac{-6\sqrt{2}-2\sqrt{-6}}{2}-3\sqrt{2}+\sqrt{-6} \\
&= -6\sqrt{2} \ne 0
\end{align*}
なので問題はない。
一般に、\(p>2\) の場合は新たなべき根の添加に当たって利用する \(1\) の原始 \(p\) 乗根 \(\zeta_{p}\) のみたす多項式
\begin{equation}
\label{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-13}
x^{p-1}+ \dots + x+1
\end{equation}
が、その時点の体で可約になる可能性がある問題を気にかけなければいけない。解決方法は、大きく分けてふたつある。
ひとつは、上でやったように「その時点の体」で\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-13}を既約分解し、\(\zeta_{p}\) の「正しい最小多項式」を特定していくやり方だ。この場合、\(p>2\) に対する体拡大を行う度に \(\zeta_{p}\) の最小多項式の既約分解を行う必要がある。以前使った \(p\) と同じ \(p\) の値が再び現れた場合も、「その後に添加したべき根」によって既約分解が進む可能性があるので、前回の最小多項式を「再利用」するだけではダメで、その時点での拡大体によって前回の最小多項式の既約分解を試みなければならないだろう。
もうひとつは、以前の記事で説明したやり方で、「必要な \(1\) のべき根の添加は、最初に \(1\) 回行うだけで済ます」方法だ。今の場合、ガロア群の位数(要素数)は \(N=\lvert G \rvert = 12 = 2^{2}\cdot 3\) で、異なる奇素因数すべての積は \(N’=3\) だ。そこで、\(1\) の原始 \(N’=3\) 乗根 \(Z\) を \(\Q\) に添加した \(\Q(Z)\) を「一番最初に出発する体」に取り直す。そうすると、途中で出現する \(p>2\) はすべて \(N’\) の約数となるので、\(1\) の原始 \(p\) 乗根は \(\zeta_{p} = Z^{N’/p}\) と \(Z\) のベキで与えられるのだった。
この場合、\(Z\) の添加でガロア群が(真に)縮小する可能性があるのだったから、最小多項式の列 \(g_{\alpha}(x), g_{\beta}(x), \dotsc\) の再調整が必要だ。\(Z\) を添加した体 \(\Q(Z)\), \(\Q(Z,\alpha)\) でそれぞれ \(g_{\alpha}(x)=x^{6}-2\), \(g_{\beta}(x)=x^{2}+\alpha x + \alpha^{2}\) を既約分解し、可約だった場合は最小多項式を取り直す。今の場合 \(Z=\omega\) で、\(\Q\) 上の最小多項式は \(x^{2}+x+1\) である。\(g_{\alpha}(x) = x^{6}-2\) は \(\Q(\omega)\) 上でも既約なままで、\(\alpha\) の最小多項式は不変。一方 \(g_{\beta}(x)=x^{2}+\alpha x + \alpha^{2}\) の方は \(\Q(\omega,\alpha)\) 上では可約で
\[ x^{2}+\alpha x + \alpha^{2} = (x-\omega\alpha) (x+\omega\alpha + \alpha) \]
となるので、\(\beta\) の最小多項式は \(g_{\beta}(x)=x-\omega\alpha\) または \(g_{\beta}(x) = x+\omega\alpha+\alpha\) とおき直すことになる(どちらを選んでもよい)。これで \(\alpha_{3} = \beta = \omega\alpha\) や \(\alpha_{5} = -\alpha-\beta = -\alpha -\omega\alpha\) などが決まり、新しいガロア群 \(\Gal(\Q(\omega,\alpha,\beta)/\Q(\omega))\) の構造を求め直せる。
こうしてから \(f(x)=0\) の解を求める step に入れば、べき根の取り方の不定性による問題は生じない。
GCD の既約性
べき根の取り方の不定性によって、\(0\) になる可能性もならない可能性もある式が関わってくると話が違ってくるので、そういう場合は除外する。
話としてはまったく同様なので、従来の \(V\) を使ったアルゴリズムに沿った話のみ説明する。体 \(K\) 上での \(V\) の最小多項式が \(g(x)\) で、一方 \(\theta(x)\) の最高次係数を \(t(V)\) とする。つまり、\(\zeta\) を \(1\) の原始 \(p\) 乗根として、\(t(x)\) は \(K(\zeta)\) 係数の多項式で、\(t(V)\) を \(p\) 乗した結果が \(K(\zeta)\) の具体的な数 \(A\) として求まっている。
\[ \bigl\{ t(V) \bigr\}^{p} = A \]
これより、\(t(V)\) の値は
\begin{equation}
\label{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-14}
t(V) =
\begin{cases}
&\sqrt[p]{A} \\
&\sqrt[p]{A}\zeta \\
&\sqrt[p]{A}\zeta^{2} \\
&\vdots \\
&\sqrt[p]{A}\zeta^{p-1}
\end{cases}
\end{equation}
のいずれかであり、どの可能性もありうる。冒頭の注意により \(A \ne 0\) としてよいので、この右辺の \(p\) 通りの値はすべて異なる。
\(g(x)\) は、拡大体 \(M=K(\zeta,\sqrt[p]{A})\) の範囲では \(p\) 個の同次数の既約因子 \(h_{1}(x), h_{2}(x), \dots,h_{p}(x)\) に因数分解でき、\(V\) の \(M\) 上 での最小多項式がその \(p\) 個のどれになるかは、\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-14}の \(p\) 通りのどれを選ぶかで決まるのだった。\(h_{i}(x)\) の添字を適当に付け替えて、添字と\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-14}の順序が対応するようにしておこう:\(g(x)\) の根 \(V\) のうち、\(t(V)=\sqrt[p]{A}\) をみたすものの \(M\) 上の最小多項式は \(h_{1}(x)\), \(t(V)=\sqrt[p]{A}\zeta\) をみたすものの \(M\) 上の最小多項式は \(h_{2}(x)\)、…。
そうすると、
\begin{equation}
\label{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-15}
\begin{cases}
g(V) &= 0 \\
t(V) &= \sqrt[p]{A}
\end{cases}
\iff \text{$V$の$M$上の最小多項式は$h_{1}(x)$}
\end{equation}
などがなりたっている。
一方、\(g(x)\), \(t(x)-\sqrt[p]{A}\) の GCD を \(d(x)\) とおくと、\(d(x)\) は \(M\) 係数であり、また GCD の性質から
\begin{equation}
\label{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-16}
\begin{cases}
g(x) &= 0 \\
t(x) – \sqrt[p]{A} &= 0
\end{cases}
\iff d(x)=0
\end{equation}
がなりたっている。
\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-15}, \eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-16}から「\(d(V)=0 \iff \text{$V$の$M$上の最小多項式は$h_{1}(x)$}\)」である。よって \(d(x)\) は \(h_{1}(x)\) で割り切れ、また \(d(x)\) の根はすべて \(h_{1}(x)\) の根になっている。
したがって \(d(x)\) は定数倍の違いを除き \(h_{1}(x), \bigl\{ h_{1}(x) \bigr\}^{2}, \bigl\{ h_{1}(x) \bigr\}^{3}, \dots\) のいずれかである。しかし、\(d(x)\) は \(g(x)\) を割り切り、しかも \(g(x)\) は既約で重複因子を持たなかったので、\(d(x)\) は \(h_{1}(x)\) の \(2\) 乗以上のべきになることはありえない。
以上から、\(d(x)\) は定数倍の違いを除き \(V\) の最小多項式 \(h_{1}(x)\) と一致する。
\(t(V)\) の値を\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new4-14}の \(p\) 通りの残りのどれに選んだ場合もまったく同様。
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