新・方程式のガロア群の求め方 その3

\(\newcommand{\Q}{\mathbb{Q}}\)前回の記事の補足を2つ書く。ひとつは、前回最後に紹介したガロア群発見法で、最後の方が手際よくなかった所の改良。もうひとつは、前回始めの方で書いた「次数に関するふるい分け」の適用範囲をもうちょっと広げられる、という話になる。

しらみつぶし的ガロア群算出法・手法説明の一部簡約化

前回、定理2の系を証明した後の話は結構長いことになっていたが、もうちょっと簡単にできる。

まず、以前の話から、次のことがわかっていた。すべての \(V_{k}\) を根に持つ \(\Q\) 係数多項式 \(F(x) = \prod_{S_{n}} (x-V_{k})\) を \(\Q\) 係数の範囲で既約分解したとき、任意の既約因子を \(V\) の \(\Q\) 上の最小多項式 \(g(x)\) と思ってよく、その \(g(x)\) の根 \(V_{k}\) に対応する置換群が(解の置換群としての)ガロア群だった。したがって、次のことが言える。「\(\prod_{G} (x-V_{k})\) が \(\Q\) 係数になるような置換群 \(G \subset S_{n}\) のうち、(位数(要素数)が)最小のものがガロア群である」ここで、最小になるものは一般に複数あるが、それらは互いに相似な関係になっているだけなので、(置換群としての)ガロア群が相似を除き一意に定まる。

さて、\(G\) に帰属し、方程式 \(f(x)=0\) に対して「うまく」作られた多項式 \(\xi\) は一意には決まらないが、解を代入した値 \(\xi(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n})\) については、「どれかひとつが有理数ならすべて有理数」と言える(定理2の系により)。そして、定理1の証明の過程から、そのような \(\xi\) の一例に解を代入した \(\xi(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n})\) の値が、\(\prod_{G} (x-V_{k})\) に整数 \(M\) を代入した \(\prod_{G} (M-V_{k})\) で与えられることがわかっている。

そして、多項式 \(\prod_{G} (x-V_{k})\) の係数は \(G\) で不変な多項式に \(x_{1}=\alpha_{1}, \dots, x_{n}=\alpha_{n}\) を代入したものだから、再度定理2の系から
\begin{align*}
&\quad\text{\(\prod_{G} (x-V_{k})\) が \(\Q\) 係数になる} \\
&\iff \text{\(G\) と元の方程式 \(f(x)=0\) に対して「うまく」作った $\xi(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n})$ が有理数になる}
\end{align*}
だ。したがって、さらに次のこともなりたつ。
\begin{align*}
&\qquad \text{\(G\) と元の方程式 \(f(x)=0\) に対して「うまく」作った \(\xi\) に対して、$\xi(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}), \xi^a(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}), \xi^b(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}), \dotsc$ のいずれかが有理数} \\
&\iff \text{$G, aGa^{-1}, bGb^{-1}, \dotsc$ のいずれかに対する $\prod (x-V_k)$ が $\Q$ 係数}
\end{align*}
ここから、前回の記事の最後の所につながって、\(R(x)\) が有理根を持つような最小の \(G\) を求めればいい…ということになる。

何だか、書いてみると分量的には前回の記事と同程度になってしまったが(笑)、内容的にはより頭に入りやすい話になっている…と思うのだがいかがだろうか。

既約性判定条件の小さな拡張

前回、元の方程式 \(f(x)=0\) が \(\Q\) 係数で可約であるときの話で、次のことを述べた。既約因子 \(f_{1}(x), f_{2}(x), \dotsc\) の最高次因子 \(f_{1}(x)\) の根 \(\alpha\) を添加した体 \(\Q(\alpha)\) で \(f_{2}(x), f_{3}(x), \dotsc\) の既約分解を試みる際、次数によっては実際に既約分解を試さなくても既約であるとわかる場合があって(つまり分解したい \(f_{i}(x)\) は \(\Q(\alpha)\) 係数の範囲でも既約のまま)、試行錯誤を節約できる。その条件は、前回は「\(f_{i}(x)\) の次数が素数で、\(f_{1}(x)\) の次数を割り切らないとき」としていたが、実はもうちょっと広げることができて、「分解したい \(f_{i}(x)\) の次数と、\(f_{1}(x)\) の次数が互いに素」という条件だけで既約と言えることに気づいた。これは、前回も触れた志賀本中の定理を、ちょっと拡張すれば示せる。(なお、前回その定理を「アーベルの既約定理」と書いてしまったのは誤りで、志賀本中で「アーベルの既約定理」とされているのは別の定理でした。すみません。ここで言っている定理は志賀本中では特に名前がついておらず、単に「定理I」と書いてあるだけのようです)

志賀本の定理そのままではなくなったので、この証明も志賀本に沿って述べておこう。ちゃんと定理の形として書くとこうなる。

\(f(x)\), \(g(x)\) は \(\Q\) 係数多項式で、共に \(1\) 次以上で \(\Q\) 係数の範囲で既約であるとする。\(g(x)\) の根のひとつ \(\alpha\) を \(\Q\) に添加したところ、\(\Q(\alpha)\) 係数の範囲で \(f(x)\) が可約になったとすれば、\(f(x)\), \(g(x)\) の次数は自明でない公約数を持つ(すなわち、「互いに素ではない」「共通の素因数を持つ」)。

【証明】\(f(x)\), \(g(x)\) の次数を \(l\), \(m\) とする(\(l \geqq 1\), \(m \geqq 1\))。仮定より \(\alpha \not\in \Q\), \(m \geqq 2\) で、\(x\) の多項式の等式として
\begin{equation}
\label{eq:howtocomputegaloisgroup-new3-1}
f(x) = \varphi(x, \alpha) \psi(x, \alpha)
\end{equation}
とおける。ここで、\(\varphi(x,y)\), \(\psi(x,y)\) は \(\Q\) 係数の \(2\) 変数多項式で、\(x\) についての次数は \(1\) 次以上、\(y\) についての次数は \(1\) 次以上 \(m-1\) 次以下としてよい。

\(r \in \Q\) を\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new3-1}の \(x\) に代入すると \(f(r) = \varphi(r,\alpha) \psi(r, \alpha)\) である。よって \(y\) の \(\Q\) 係数多項式
\[ f(r) – \varphi(r,y) \psi(r,y) \]
は \(\alpha\) を根に持つ。よって \(g(x)\) の \(\alpha\) 以外のすべての根 \(\beta, \dots, \gamma\) もその根になっていて(\(\because g(x)\) は \(\Q\) 係数の範囲で既約)、\(f(r) = \varphi(r,\beta) \psi(r,\beta)\) などがなりたつ。これらが任意の有理数 \(r\) に対してなりたつので、\(x\) の多項式の等式として
\begin{align}
f(x) &= \varphi(x,\beta) \psi(x,\beta)
\label{eq:howtocomputegaloisgroup-new3-2} \\
&\vdots \notag \\
f(x) &= \varphi(x,\gamma) \psi(x,\gamma)
\label{eq:howtocomputegaloisgroup-new3-3}
\end{align}
がなりたつ。

\(\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new3-1}, \eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new3-2}, \dots, \eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new3-3}\) の \(m\) 個の等式をかけあわせることで
\[ \bigl\{ f(x) \bigr\}^{m} = \underbrace{\varphi(x,\alpha) \varphi(x,\beta) \dotsm \varphi(x,\gamma)}_{\Phi(x)\text{とおく}} \times \underbrace{\psi(x,\alpha) \psi(x,\beta) \dotsm \psi(x,\gamma)}_{\Psi(x)\text{とおく}} \]
となる。

\(\Phi(x)\), \(\Psi(x)\) は共に \(\alpha, \beta, \dots, \gamma\) について対称なので \(\Q\) 係数となる。すると、\(f(x)\) が \(\Q\) 係数の範囲で既約だったことから、\(\Phi(x)\), \(\Psi(x)\) はともに \(f(x)\) のべき乗の定数倍の形。つまり、\(c \in \Q\) を \(0\) でない定数として
\begin{equation}
\label{eq:howtocomputegaloisgroup-new3-4}
\Phi(x) = c\bigl\{ f(x) \bigr\}^{\mu}, \Psi(x) = c^{-1} \bigl\{ f(x) \bigr\}^{\nu}
\end{equation}
とおける。ここで、\(\mu\), \(\nu\) は \(\mu + \nu = m\) をみたす整数。さらに、\(\Phi(x)\), \(\Psi(x)\) は共に定数ではないから、\(\mu\), \(\nu\) は共に \(1\) 以上の整数で、したがって \(m-1\) 以下でもある。

\(l\), \(m\) が互いに素と仮定して矛盾を導く。\(\Phi(x)\) の作り方から、その次数は \(m\) の倍数。一方\eqref{eq:howtocomputegaloisgroup-new3-4}から \(\Phi(x)\) の次数は \(l\mu\) だから、\(l\mu\) が \(m\) で割り切れなければいけない。よって \(\mu\) は \(m\) で割り切れる。ところが \(1 \leqq \mu \leqq m-1\) だったのでこれは矛盾。\(\square\)

志賀本の証明とほぼ同じで、最後の最後をほんのちょっと変えただけだ。

なお、上の定理・証明は \(\Q\) の所を任意の体 \(K\) にしてもそのままなりたつ(志賀本では実際そうなっていた)。したがって、前々回の記事で紹介したガロア群の求め方で、\(f(x)\) の \(\Q(\alpha)(=K)\) 係数の範囲での \(2\) 次以上の既約因子のそれぞれを、更に \(f(x)=0\) の解 \(\beta\) を添加した体 \(K(\beta)\) を係数とする範囲で既約分解を試みる際も同様の判定ができる。すなわち、\(\beta\) の最小多項式として選んだ因子の次数と、更なる既約分解を進めたい因子の次数が互いに素であれば、実際に試してみるまでもなく「\(K(\beta)\) 係数の範囲でも既約なまま」とわかって無駄な試行錯誤が省ける。同様のことは、\(K(\beta) = \Q(\alpha, \beta)\) がまだ \(f(x)\) の最小分解体にならない場合、残った \(2\) 次以上の既約因子を更に次の根 \(\gamma\) も使って既約分解を試みる際にも使えるし、以下同様に繰り返すときもその都度使える。


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