ガロア群が可解である方程式の解き方・補足

\(\newcommand{\Q}{\mathbb{Q}}\)
先日「その1」に追記した「『多項式としての』対称性が必要で『解を代入した値の』対称性では不十分」ということの意味がちょっとわかりにくいと思うので補足しておく。

置換に対する対称性として大半の人にとって馴染み深いのは、「多項式としての対称性」の方だろうから、まずその確認から。例えば、\(3\) 変数多項式
\[ f(x,y,z) = x^{2}y+y^{2}z+z^{2}x \]
は \(x \to y \to z \to x\) という変数の入れ替えを行っても不変で、
\begin{equation}
\label{eq:50-1}
f(x,y,z) = f(y,z,x) = f(z,x,y)
\end{equation}
がなりたっている。これは多項式としての等式であって、変数(不定元)\(x,y,z\) に何を代入してもなりたつ。したがって特に \(x, y\) に \(y, x\) を代入する、ということをしてもよくて、
\begin{equation}
\label{eq:50-2}
f(y,x,z) = f(x,z,y) = f(z,y,x)
\end{equation}
もなりたつ(確認しておくが、今の例では\eqref{eq:50-1}と\eqref{eq:50-2}の多項式は異なっていて、前者は \(x^{2}y+y^{2}z+z^{2}x\)、後者は \(xy^{2}+yz^{2}+zx^{2}\) である。「\eqref{eq:50-1}から\eqref{eq:50-2}が導かれる」からと言って、それらが同一の式になるわけではない。もちろん、\(f(x,y,z)=x+y+z\) のように、\eqref{eq:50-1}と\eqref{eq:50-2}の多項式が一致する場合もありうる)。

このように、「多項式としての」対称性は、置換群 \(\{e, (1,2,3), (1,3,2)\}\) に対する対称性\eqref{eq:50-1}が、同様の対称性\eqref{eq:50-2}も同時に保証する、という性質を持つ。

一方、「解を代入した値の」対称性はそうではない。つまり、多項式 \(f(x,y,z)\) の選択によっては、\(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) をある方程式の解としたとき、
\begin{equation}
\label{eq:50-3}
f(\alpha,\beta,\gamma) = f(\beta,\gamma,\alpha) = f(\gamma,\alpha,\beta)
\end{equation}
がなりたつのに
\begin{equation}
\label{eq:50-4}
f(\beta,\alpha,\gamma) = f(\alpha,\gamma,\beta) = f(\gamma,\beta,\alpha)
\end{equation}
は不成立の場合がある…と言ったら驚くだろうか。「え?どういうこと?\eqref{eq:50-1}\eqref{eq:50-2}と\eqref{eq:50-3}\eqref{eq:50-4}に違いなんてあるの!?」という方もおられるかもしれないので、論より証拠、実例をお目にかけよう。
\[ f(x,y,z) = x^{2}y+yz+zx \]
とおくと、
\[ \underbrace{f(1,-1,0)}_{-1} = \underbrace{f(-1,0,1)}_{-1} = \underbrace{f(0,1,-1)}_{-1} \]
はなりたつものの、
\[ \underbrace{f(-1,1,0)}_{1} = \underbrace{f(1,0,-1)}_{-1} = \underbrace{f(0,-1,1)}_{-1} \]
はなりたたない。

容易に見てとれるように、ここでは \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) が「ただの数値」であり、「多項式の変数(不定元)」ではない、というのが重要な分かれ目だ。また、\(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) が値にすぎなくても、もしも\eqref{eq:50-3}が「すべての実数 \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) についてなりたつ」ような等式だったとしたら、「多項式としての」等式\eqref{eq:50-1}がなりたつことも言えるので、そういう場合はもちろん\eqref{eq:50-4}もなりたつと言えてしまう。つまりここで説明しているのは「\eqref{eq:50-3}だからと言って\eqref{eq:50-4}とは限らないような多項式 \(f(x,y,z)\) と数値 \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) が存在する」という話だ(上でもちゃんと「多項式 \(f(x,y,z)\) の選択によっては」「\(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) をある方程式の解としたとき」と断っている)。一方\eqref{eq:50-1}\eqref{eq:50-2}の方は、詳しく述べれば「\eqref{eq:50-1}が多項式の等式としてなりたつようなどんな \(f(x,y,z)\) に対しても必ず、\eqref{eq:50-2}が多項式の等式としてなりたつ」という話だ。このように「\(\forall\)」と「\(\exists\)」の付き方の違いをきちんと踏まえれば、これらが見かけは似ていても実は本質的にかなり異なる話だということがわかるだろう。

後は余談になるが、こういった「多項式としての対称性」と「代入した結果の値の対称性」を混同してはいけない別のケースを見ておく。「多項式(の値)を不変に保つ置換全体の集合」というのがしばしば重要になってくるのはよくご存知だろう。例えばこんな話はよく目にする。

\(f(x_{1},\dots,x_{n})\) をひとつ固定すると、それを不変に保つ置換 \(\sigma\) 全体は群をなす。

これも、詳しく述べれば「多項式の等式として
\[ f(x_{1}, \dots, x_{n}) = f(x_{\sigma(1)}, \dots, x_{\sigma(n)}) \]
をみたすような置換 \(\sigma\) 全体は群をなす」という、「多項式としての対称性」に基づく話だ。ところがこれは「代入した値の対称性」だと成立しない。つまり、「\(\alpha_{1},\dots, \alpha_{n}\) をある方程式の解とすると、
\begin{equation}
\label{eq:50-5}
f(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}) = f(\alpha_{\sigma(1)}, \dots, \alpha_{\sigma(n)})
\end{equation}
をみたすような置換 \(\sigma\) 全体は群になるとは限らない」のだ。これも実例は簡単に作れる。もしも群になるとしたら、\eqref{eq:50-5}をみたすような置換どうしの積も\eqref{eq:50-5}をみたす置換となるはずである。特に、\(\sigma\) 自身を合成した \(\sigma^{2}\) 等もそうなるから、\(\sigma\) を何度繰り返そうとも値は不変となるはずだ。では、次のような例を考えてみよう。
\(f(x,y,z) = xz\) とすると
\[ f(0,1,2) = f(1,2,0) ← \text{巡回置換$0 \to 1 \to 2 \to 0$に対し値が不変} \]
だから、上の考察から
\[ f(0,1,2) = f(1,2,0) = f(2,0,1) \]
となっていなければいけないはずだ。ところが容易に確かめられる通り、これはなりたたない。実際、この \(f(x,y,z)=xz\), \((\alpha_{1}, \alpha_{2}, \alpha_{3}) = (0,1,2)\) の場合、置換 \(\sigma\) が\eqref{eq:50-5}をみたす条件は
\begin{align*}
&\alpha_{\sigma(1)}\alpha_{\sigma(3)} = 0 \\
&\Leftrightarrow \alpha_{\sigma(1)}=0 \text{ or } \alpha_{\sigma(3)}=0 \\
&\Leftrightarrow \sigma(1)=1 \text{ or } \sigma(3)=1
\end{align*}
だから、そのような \(\sigma\) 全体の集合は
\[ \{e, (2,3), (1,2,3), (1,3)\} \]
であって群にはならない。

このように、「多項式の変数(不定元)\(x_{1}, \dots, x_{n}\) についての対称性」と、「ただの数値 \(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}\) についての対称性」は、うかつに扱うと間違った議論にすぐ陥りやすい。注意しよう。


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コメント

“ガロア群が可解である方程式の解き方・補足” への17件のフィードバック

  1. 河下希のアバター

    いつも愉しく拝読させていただいてます。
    なにか勘違いしているかもしれないのですが、もとの記事で扱っているのは、代入する値が既約多項式の相異なる解の全体、という状況で、さらに考える置換は方程式のガロア群の部分群なのですよね?
    その場合には多項式として不変であることと拡大体の元として不変であることは同値ではないかと思うのですが、違うのでしょうか?

    1. 井汲 景太のアバター
      井汲 景太

      紛らわしくてすみません。

      > 考える置換は方程式のガロア群の部分群なのですよね?

      そういうわけではないのです。(そういう場合ももちろん含んでいるが、それに限られる話ではない)
      元の記事 https://ikumi.que.jp/blog/archives/256 で、

      > つまり、\(G_{i}\) は Galois 群に含まれないような置換を含むような群でも一向に差し支えないのである

      と書いてある辺りのことをご覧ください。あと、「相異なる」解であることは前提にしていますが、
      記憶では方程式が既約であることは仮定してなかった、ような気が…(何か思い違いしてたらすみません)。

      ガロア群の部分群である場合には、\(G\) が(体を順次拡大していく過程での、各段階での)ガロア群で、
      \(H\) がその正規部分群、という場合のみ考えれば本質的には十分なので、おっしゃる通りだと思います。

  2. 河下希のアバター

    ありがとうございます。確かにおっしゃる通り読み落としておりました。
    方程式の既約性も確かに仮定されていないと思います。
    なので4次以下の方程式に対して(任意の係数に対して共通で解を与える明示式という意味で)解の公式が存在するということも含んだ言明になるわけですね。
    多項式として不変ということなどのは端的にまとめればおそらく、有理関数体の元を係数とする「具体的な」多項式(4次方程式の解の公式ならx^4+ax^3+bx^2+cx+d∈K(a,b,c,d)[x]を考えるということ)に対してべき根による体の拡大の構成を行うということで、そういう視点で見ればよりすっきりするのかもしれません。少なくとも個々の方程式ではなく、何らかの解ける方程式の族に対して解の公式を作れるカラクリみたいなものが見えるのではないかと思いました。

    1. 井汲 景太のアバター
      井汲 景太

      > 4次以下の方程式に対して(任意の係数に対して共通で解を与える明示式という意味で)解の公式が存在するということも含んだ言明になる

      そういうことでーす。

      > 多項式として不変ということなどのは端的にまとめればおそらく、有理関数体の元を係数とする「具体的な」多項式(4次方程式の解の公式ならx^4+ax^3+bx^2+cx+d∈K(a,b,c,d)[x]を考えるということ)に対してべき根による体の拡大の構成を行うということ

      すみません、ここはよくわかりませんでした。後半のような状況でも成立する話には確かになっていると思いますが、前半の「多項式として不変」、つまり「\(\psi(x_{h(1)}, \dots, x_{h(n)}) = \psi(x_1,\dots,x_n)\) が多項式の等式としてなりたつような \(\psi\) について考える」ということは、係数が有理関数体の元であるか具体的な数値であるかを特に区別して議論しているわけではないのですが。

      > 何らかの解ける方程式の族に対して解の公式を作れるカラクリ

      実際、私としては元の記事でそういう話を繰り広げていたつもりだったのです。つまり、4次以下の代数方程式(で重解がないもの)という族と、有理数体上のガロア群が可解群であるような有理数係数の方程式(で重解がないもの)という族について、それらが解ける共通のカラクリを説明したものが元記事です。

      1. 河下希のアバター

        x^4+ax^3+bx^2+cx+dのような多項式を考えればそのガロア群は対称群ですから式として不変ということと値として不変ということは同じになり、このような補足をする必要がなくなります。
        その書き方だと「多項式x^4+ax^3+bx^2+cx+dの根を一度求めれば、例えばx^4+2x+x-3=0の解はその明示式に(a,b,c,d)=(0,1,1,-3)を代入すれば求められるのである。」
        のような感じで解の公式を作る手続きがあることが、よりはっきり述べられるかと思います。
        (具体的な数値を係数に持つ個々の方程式のみを考察の範囲とする場合、その注釈は「係数を変えても同様の手続きを行えば解が得られるので、対称群が可解である4次以下の方程式に対してはこの方法で解の公式が作れるのである。」のようなものになるでしょうか。これでも十分ではあると思いますが、結果的に同じ計算式になる、というよりも計算式を直接求めてしまうストーリーの方が個人的には見通しがよいと感じる、という程度の意図でした。)

        ガロア群が可解である方程式の解を求める話は
        「t=α^2β+β^2γ+γ^2α(と解の基本対称式)のべき根と加減乗除で作られる式によってα,β,γを表す公式があるので、この方程式の場合はt=3という数値を求めることによって解をべき根と四則によって表すことができるのである。」
        のように書くことで公式的に一様な手続きでできる部分と方程式ごとに個別の手続きを行っている部分の区別が(前者は不定元のままの方程式で考察を進め、後者は具体的な数値の方程式で考察を進めるという異なる枠組みになることから)より明確になるような気がします。もちろん井汲さんの記事でも前者は公式があることは読み取れるわけですが。

        >「ψ(xh(1),…,xh(n))=ψ(x1,…,xn) が多項式の等式としてなりたつような ψ について考える」ということは、係数が有理関数体の元であるか具体的な数値であるかを特に区別して議論しているわけではない
        全ての記事を通じてそもそも係数体として(標数0の仮定はところどころ必要ですが)どのようなものを考えても問題なく展開できることを意識した書き方をなさっていることは重々承知しております。
        そうであるからこそ
        x^4+ax^3+bx^2+cx+d=0というような有理関数体の元を係数とする方程式に話を移行することも容易で、上述のような書き方もあるのではないかなと思った次第です。

        > 何らかの解ける方程式の族に対して解の公式を作れるカラクリ
        解の公式というのは一つの族を固定したときに、そこに属する全ての方程式に対して解を与える式、という意図です。
        極端な例として
        x^5+ax^4+bx^3+cx^2+dx+e=0
        はb=-10(a/5)^2,c=10(a/5)^3,d=-5(a/5)^4,e=(a/5)^5という関係式があるとき(要するに左辺が(x-k)^5,k=-a/5と分解できる場合です)、この方程式のガロア群は自明群で、かつ5つの根は全て-a/5と、係数で具体的に表す式が得られます。同様に4次以下の多項式に分解してしまうような多項式の族に対しては“解の公式”は存在します。
        (上の5重根の例はK=Q[a,b,c,d,e]/(b+10(a/5)^2,…,e-(a/5)^5)
        においてx^5+ax^4+bx^3+cx^2+dx+eの最小分解体はK自身で、かつ根は全て-a/5ということ。)

        元記事の
        「前回の例で見たように、上の角の 3 等分方程式の場合、それらはx3−9x−9←Q上のVの最小多項式(中略)
        αβ2+βγ2+γα2=3
        と V が消え去って、見事にこれまで未知だった「3」という値が出てくる。」
        の部分はx^3+ax^2+bx+cに対するK=Q[a,b,c]の(a,b+3,c-1)に含まれる十分小さな(その尺度はわかりませんが、例えば剰余環のクルル次元が多項式の次数の3より1小さい程度、とかでしょうか)イデアルIで、K上のx^3+ax^2+bx+cのガロア群がC_3となるものを見つける手続きを述べたものでしょうか。

        1. 井汲 景太のアバター
          井汲 景太

          説明ありがとうございます。

          > このような補足をする必要がなくなります。

          おそらく河下さんは、こういう風に捉えてらっしゃるのですね。
          (1) この記事のような補足には煩わされない形に議論が組み立てられれば、すっきりして望ましい。
          (2) せっかく解の公式が作れることがわかるし、(1)の解決にもなるのだから、それを前面に押し出すといいのではないか。
          この 2 点のどちらが主でどちらが従なのかはちょっとわかりませんが、私の捉え方はちょっと違うのです。
          まず私は、この記事の補足を「夾雑物」的な捉え方はしていなくて、むしろこれはこれでアピールしたい(笑)内容なのです。なので、元記事の話の流れで、この補足への言及の必要性を消していきたいという志向は持っていません。
          そして解の公式について言えば、私は「解の公式が作れること」自身には余り関心がなくて、元記事でやりたいことは「解を求めるアルゴリズムと、その背景に共通して存在する仕組みを説明すること」なのです。と言うのも、まず、4次以下の方程式に解の公式があることはもうよく知られていることなので、そのことに改めて言及することに余り意義があるという感じはしません。それから、以前 http://d.hatena.ne.jp/lemniscus/20120430/1335798729 で読んだ以下の記述に影響を受けています:“「解の公式を書き下せること」と「解を求める手順があること」は必ずしも同じではないんだけど、あまり注意されない気がする。

          例えばax+by=gcd(a,b)の整数解を求める問題には、解を求める単純なアルゴリズムはあるけど、解をaとbで具体的に表す単純な公式は(たぶん)ない。”これで私は「解の公式そのもの」に執着する気はなくなって、「大事なのは解を求められる手順の方だ」という認識を持つようになっています。

          > ガロア群が可解である方程式の解を求める話は…公式的に一様な手続きでできる部分と方程式ごとに個別の手続きを行っている部分の区別が…より明確になるような気がします

          については、そういう見方をしたことはなかったので「おお、なるほど」と思いました。ただ、個人的には自分でそういうストーリーに沿って記事を書きたいという動機には特にならないです(すみません)。

          > 元記事の…の部分は…見つける手続きを述べたものでしょうか

          すみません、代数はちゃんと勉強したことがないので、出てくる用語が全然わかりません!(笑)私のつもりとしては、非常に単純な話で、「置換群としてのガロア群に対して不変な多項式に解を代入したものの値は、(解の具体的な値が求まってなくても)知ることができるよ」、という実例を挙げてみせたつもりで、それ以上の考えは特にありませんでした。

  3. 河下希のアバター

    >これで私は「解の公式そのもの」に執着する気はなくなって、「大事なのは解を求められる手順の方だ」という認識を持つように

    前のブログでもコメントさせていただいた、ただ単に解が見つかるということと、ここで行っている議論とは「しらみつぶしじゃない点が違うよ」ではちょっとさみしい、もっと明確な形で差別化ができないのだろうか、ということはかなり気にしながら読ませていただいてました。
    公式があるか否か自体には私自身も大して興味があるわけではありませんが、一連の記事全体を通じた雰囲気では、「何らかの共通の構造を持つ」方程式に対しては加減乗除とべき根の組み合わせ方が、多少数値を変えても共通のやり方でできる部分がある、というのが一番はっきりした違いなのかと思ったので、解の公式という視点でもう少し掘り下げたいと思った、と言えば私の思考過程の良い近似になっていると思います。

    もちろん4次方程式に解の公式があることは(新奇性が何らないという意味で)どうでも良いことです。
    私が気にしているのは5次以上の方程式に対しても「部分的な解の公式」があるのではないか、ということです。
    前回コメントの最後の部分は要するに、「その1の文章は部分的解の公式の導出手順の解説もしたものなのですか?」ということでした。
    回答いただいた文章からは答えはNoのようですが、意図はきちんとお伝えしたいと思いますので、改めて釈明させていただきます。
    (「解の公式の定義」は細かいバリエーションがあるとは思います。前回コメントでは係数の間に何らかの関係式がある形にて述べさせていただきました。今回はもう一つのバリエーションである、係数がパラメータ表示されている形で書かせていただきます。)
    具体例はわからないですが、不定元a,bが本当に現れる有理係数多項式f(a,b),g(a,b),h(a,b)であって
    x^3+f(a,b)x^2+g(a,b)x+h(a,b)=0  (*)
    のガロア群がC_3、かつa,bに適当な値を代入するとx^3-3x+1=0になるようなものがおそらく存在するだろうと思います。
    そのような方程式に対してべき根による解の表示を求めることはその1で解説されている手順でできるわけですが、(*)の方程式を見つける方法自体も何らかの示唆を与えているのであれば、5次以上でもガロア群が可解な方程式に対しても「部分的な解の公式」を見つける手順の解説にもなるわけで、そうであればおもしろいなと思った次第です。

    1. 井汲 景太のアバター
      井汲 景太

      ひとまず、一点だけ。他の点についてはまた後日。

      > 具体例はわからないですが、不定元a,bが本当に現れる有理係数多項式f(a,b),g(a,b),h(a,b)であって
      > x^3+f(a,b)x^2+g(a,b)x+h(a,b)=0  (*)
      > のガロア群がC_3、かつa,bに適当な値を代入するとx^3-3x+1=0になるようなものがおそらく存在するだろうと思います。

      2パラメーターじゃなくて1パラメーターですが、
      http://ja9nfo.web.fc2.com/math/galois-gp1.pdf
      にあります。問4およびその考察部分をご覧ください。\(n=0\) とすると、スケール変換のみで \(x^3-3x+1=0\) になる方程式が得られます。(考察部で述べられている手順は、ちょっと考えた限りでは、2 パラメーターに拡張できるかどうかは微妙。ちゃんと調べてないですが、ぎりぎりだめそうな気がします)
      なお、けっこう以前の「大学への数学」の栗田さんの連載に、ほぼ同じ手順によるものがありました。

      この手順は 3 次巡回群に特化したものになっていて、残念ながらそのままでは河下さんが期待される「部分的な解の公式が作れる 5 次以上の方程式」は導けません。

    2. 井汲 景太のアバター
      井汲 景太

      > 私が気にしているのは5次以上の方程式に対しても「部分的な解の公式」があるのではないか、ということです。

      そうですね。確かに、係数が不定元を含んでいても、それらの間に何らかの関係があって、置換群としてのガロア群が同一であるような方程式の族に対しては、(その置換群が具体的にわかっていて、かつ可解群であれば)「解の公式」を構成することが(原理的には)可能だと思います。

      それで、前回のコメントでは、紹介した記事の手法は \(3\) 次巡回群に限られる、と書きましたが、これは素数次の方程式のみ考えていたからでした。合成数も考えに入れると、円分多項式 \(\Phi_n(x)\) が \(2\) 次式になるような \(n\) に対しては同じ手法が使えるので、\(3\) 以外に、「\(4\) 次方程式でガロア群が \(4\) 次巡回群になるもの」「\(6\) 次方程式でガロア群が \(6\) 次巡回群になるもの」は、\(1\) パラメータかそこらの方程式族が作れて、それに対する「解の公式」は作れると思います。
      今ちょっと忙しくてそれに着手する余裕はないですが、1ヶ月かそこら経った頃に、気が向いたら試してみます。

      1. 井汲 景太のアバター
        井汲 景太

        と思いましたが、\(n=4\) や \(n=6\) だと、\(A\) を \(4\) 乗・\(6\) 乗する前に \(2\) 乗・\(3\) 乗した時点で scalar 行列になってしまうので、\(2\) 次巡回群や \(3\) 次巡回群になってしまいますね。ダメでした。

      2. 河下希のアバター

        5ページの「逆転の発想で、」から始まる段落のところですね。今回もおもしろい記事を紹介いただきありがとうございます。
        巡回拡大を繰り返すとどうなるのかが(まだちゃんと考えていないので)よくわからないのですが、他の解が一つの解の一次分数変換で書けるような巡回拡大を行う度にパラメータが一つ導入されて、そのような拡大を行った回数と同じ個数のパラメータを持つ方程式の族が作れる、という感じになるのでしょうか。
        そうだとすれば、2次正方行列のべきが添加前の体成分のスカラー行列になるという条件は、初めの段階は円分多項式が2次以下ですが、いったん(パラメータを導入しない巡回拡大を挟むことで)5次以上の巡回拡大も行うことができるような気がします。全然理解していないので全く見当違いかも知れませんが。
        2次拡大の場合は他の解が一つの解の一次分数変換で書けるというのは一般に成り立つ状況ですが、3次以上の拡大の場合にはそれがどの程度一般的なのかもよくわからないので、どの程度適用範囲がある考え方なのかもう少し考えてみたいと思います。
        それと一つ確認させていただきたいのですが、x^3-3x+1=0のスケール変換であるx^3-12x+8=0を含むとのことですが、全く別ストーリーの構成をしたらたまたま含まれていた、と理解したのですがそれで正しいのでしょうか。それともx^3-3x+1=0についての井汲さんの解説の流れと紹介いただいたリンクの流れとは何らかの関係があるのでしょうか。

        私も聞きかじっただけで詳しいことは知らないのですが、Gal(K/Q)=Gとなる代数体Kが存在するようなS_nの部分群Gの特徴付けを与えよ、という問いは少なくとも5年ほど前の時点ではまだ未解決だったようで(もうちょっと弱い形の問題が「ガロアの逆問題」と呼ばれているようです)、ガロア群からスタートして、そのような対称性を持つ解の公式を構成するというのは一般には絶望的のようです。
        その意味では仮に2ないし3次巡回拡大にしか適用できなくても意味のある話なのだろうと思います。

        20日、22日の書き込みにおけるパラメータの個数について、その時点では理解が及んでおらず不適切な数値を例示していました。例えば3次の方程式であれば解のスケール変換と平行移動によって(自明にべき根を開いて終わるx^3+c=0の形を除けば)x^3+x+c=0の形までは変形できるため、本質的なパラメータは1つが限界と考えてよさそうです。
        「非本質的な変換」の定義がよくわからないですが、仮に全ての係数に同じ有理数(≠0)をかけることと、解に有理数係数の一次分数変換を施すこと、の組み合わせのみだとしても、一次分数変換は3つの自由度を持つので、十分高次であればn次方程式の自由度はn-3くらいになりそうです。

    3. 井汲 景太のアバター
      井汲 景太

      ここで提起されている
      > 具体例はわからないですが、不定元a,bが本当に現れる有理係数多項式f(a,b),g(a,b),h(a,b)であって
      > x^3+f(a,b)x^2+g(a,b)x+h(a,b)=0  (*)
      > のガロア群がC_3、かつa,bに適当な値を代入するとx^3-3x+1=0になるようなものがおそらく存在するだろうと思います。
      について、一般的に解決済みらしいという記述を
      http://shochandas.xsrv.jp/polynomial/field.htm
      で見かけました。最後の方でこう書かれています。
      > 3次以上は相当難しいと思います。3次の巡回拡大について、次のことが成り立つらしい
      > です。(多分この問題の解決には役立たないでしょうが...。)
      >
      >  a、b は有理数で、f(x)=x^3-3(a^2+ab+b^2)x-a^3^b^3 は既約であるとする。このとき、f(x)=0 の
      > 最小分解体は、有理数体上3次の巡回拡大である。即ち、f(x)=0 の巡回関数が存在する。
      >
      >  p、qが有理数で、f(x)=x^3+px+q とする。f(x)=0 の最小分解体が3次の巡回拡大ならば、
      > 即ち、f(x)=0 の巡回関数が存在するなら、有理数 a、b が存在して、
      >  f(x)=x^3-3(a^2+ab+b^2)x-a^3^b^3
      > とかける。
      このページや、関連ページとしてリンクされている
      http://shochandas.xsrv.jp/solution/solution3.htm
      では、3 次方程式に限らず、このような方程式の一般形についてもいろいろ考察
      されているようです。

  4. 井汲 景太のアバター
    井汲 景太

    すみません、紹介した PDF、ちゃんと読み返さずに書いていたのでしくじりましたが、ちゃんと 2 パラメータの例が載ってましたね。
    \[ x^3-ax^2-(ta+3t^2)x-t^3=0 \]
    がそれで、\(a=0, t=-1\) のときに \(x^3-3x+1=0\) になります。
    このことと
    > 本質的なパラメータは1つが限界と考えてよさそうです。
    がどう両立するかよくわかってませんが、\(a=0\) のときは \(t\) の変化がスケール変換しかもたらさないことを考えると、見かけ上 2 パラメータなだけで、本質的には 1 パラメータなのかな…?

    > 全く別ストーリーの構成をしたらたまたま含まれていた、と理解したのですがそれで正しいのでしょうか。
    そうです、たまたまです。

    > 他の解が一つの解の一次分数変換で書けるような巡回拡大を行う度にパラメータが一つ導入されて
    私の理解だと、この PDF で解説されている手法は、巡回「拡大」を(順次)追加できるようなものではなくて、ガロア群が巡回群になっているようなパラメータ入りの方程式族をバシッと1発作ってそれで終わり、というものです。
    scalar 行列でない \(2 \times 2\) 行列の最小多項式は \(2\) 次式(ケーリー・ハミルトンの定理)なので、うまく作れるのは結局 \(3\) 次巡回群の \(3\) 次方程式と \(2\) 次巡回群の \(2\) 次方程式だけのはず…。
    何か簡単なことを見落としていたらすみません。

    1. 河下希のアバター

      すみません、まず訂正を:
      >x^3+x+c=0の形までは変形できるため、
      と書きましたがしょうもない勘違いをしていました。
      平行移動で2次の項を消した後、x^3+ax+b=0にx=ykのスケール変換を施すとy^3+ak^2y+bk^3=0となるので、ak^2=1となるようにkをとれば1次の係数は1としていいみたいなことを何故か考えていたのですが、今は有理数の範囲での変換しか許さないのが正しい姿勢だと思いますので、そのようなkは一般には取れませんね。なので一般の3次方程式は本質的なパラメータが2つあるかもしれません。
      それでも3乗根を一度開くだけで済む方程式に限れば、その自由度は1になる可能性はあり得るような気はする、むしろ多分そうなんじゃないかと思う、という感覚でいるのですがいろいろ思考がまとまっていないので、ある程度はっきりしたらまた何らかの形でアウトプットしていきたいと思います。

      紹介していただいた記事にある一次分数変換で係数の間に関係式が出てくる絡繰りが、少し手を動かして確認してみたのですがよくわかりませんでした。あの場合にたまたま1次の係数と定数項が2次の係数で書けたのか、あの手の構成をすれば必ず書けるのか・・・。巡回拡大を繰り返すにしても、一度だけ行うにしてもそこの部分がわからないと、たまたまうまくいった例がある、という理解にとどまってしまうので何とも歯がゆいです。

      1. 井汲 景太のアバター
        井汲 景太

        > あの手の構成をすれば必ず書けるのか・・・。

        必ず書けます(※)。あそこで計算している解と係数の関係の式のうち、意味があるのは \(2\) 次の係数に対する
        \[ a = \alpha+\beta+\gamma = \alpha + g(\alpha) + g(g(\alpha)) \]
        だけです(\(g\) は今考えている1次分数変換)。この式の分母を払うと \(\alpha\) に関する \(3\) 次方程式の形になり、それこそが今欲している \(3\) 次巡回群の \(3\) 次方程式にほかなりません。なぜならば、式の作り方より、\(\beta\) と \(\gamma\) もまったく同じ式をみたし、かつ \(\alpha, \beta, \gamma\) は互いに異なる(もし \(g(\alpha)=\alpha\) だと、分母を払って \(\alpha\) が \(2\) 次方程式をみたしてしまう)からです。
        つまりその他の解と係数の関係式は、そこから自動的に出てきます。

        ※ 書いていて気づきましたが、「必ず」とは言い切れなくて「ほとんどの場合は」かも。まず、1次分数変換 \(g\) の分母の \(1\) 次の係数は \(0\) でないように取らないといけないですし、あと \(\alpha, \beta, \gamma\) が必ず異なるとは限らないかな? \(g(\alpha)=\alpha\) なら結局 \(\alpha=\beta=\gamma\) になって、単に \(3\) 次方程式と \(2\) 次方程式が共通解を持つという話にしかならないかも。まあ、いずれにしろ、例外的なケースを除けばほぼ一般になりたつことは変わらないはずです)。

        1. 河下希のアバター

          なるほど、すごくわかりやすい説明をありがとうございます。
          最高次の一つ下の関係式がそのままαの最小多項式になるのですね。
          分母の1次の係数が0の場合はただの1次変換で、その場合g^3=idとなるのは恒等写像しかないですね。

          1. 井汲 景太のアバター
            井汲 景太

            このことは私も元記事だけでは気付いてなくて、大数の栗田さんの記事で初めて知りました。解と係数の関係式を全部考えることなく、\(\alpha+\beta+\gamma\) の式で分母を払うだけで \(3\) 次方程式が出ていたので、「そういうことなのか」と理解できた次第です。

            > 分母の1次の係数が0の場合はただの1次変換で、その場合g^3=idとなるのは恒等写像しかないですね。
            確かに。言われてみれば当たり前ですね。

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