Legendre 多項式で表される確率・その5

\(\newcommand{\kumiawase}[2]{{}_{#1}\text{C}_{#2}}\)
前回の考察で、「解決」まであと1歩だった、ということにようやく気づいたので書いておく。

まずは、前回導いた所まで改めて導出を書いておこう。サイコロを \(n\) 個振ったとき、\(6^{n}\) 通りの目の出方のうち、1 の目が 6 の目より \(k\) 個多く出る出方が \(f(n,k)\) 通りあるとする(\(-n \leqq k \leqq n\))。元々の話の確率は \(p_{n} = \dfrac{f(n,0)}{6^{n}}\) となる。対称性によって \(f(n,-k)=f(n,k)\) である。

普通に立式すれば
\begin{equation}
\label{eq:38-1}
f(n,k) = \sum_{r} \dfrac{n! 4^{n-2r-k}}{r!(r+k)!(n-2r-k)!}
\end{equation}
となる。ここで、\eqref{eq:38-1}右辺は和の式が意味を持つ \(r\) の範囲で和をとる。

\eqref{eq:38-1}の両辺に \(x^{k}\) をかけて和をとると
\begin{equation}
\label{eq:38-2}
\sum_{k=-n}^{n} f(n,k) x^{k} = \sum_{k=-n}^{n} \sum_{r} \dfrac{n!
4^{n-2r-k} x^{k}}{r!(r+k)!(n-2r-k)!}
\end{equation}
だが、\(x^{k}=x^{r+k}x^{-r}\) に注意すると\eqref{eq:38-2}の右辺は多項定理による展開形そのもので、よって
\begin{equation}
\label{eq:38-3}
\sum_{k=-n}^{n} f(n,k) x^{k} = \Bigl( x + 4 + \dfrac{1}{x} \Bigr)^{n}
\end{equation}
がなりたつ。ここまでは前回到達していた。ここからあと少しで、ちゃんと Legendre 多項式が出てくる話になる。

\eqref{eq:38-3}の両辺に \(x^{n}\) をかけると
\[ \sum_{k=-n}^{n} f(n,k) x^{n+k} = (x^{2}+4x+1)^{n} \quad (=g(x) \text{ とおく}) \]
で、多項式 \(g(x)\) の \(x^{n+k}\) の係数が \(f(n,k)\) である。

よって例えば \(f(n,0)\) を求めたければ \(f(n,0) = \dfrac{g^{(n)}(0)}{n!}\) である。そこで \(x^{2}+4x+1=(x+2)^{2}-3\) と平方完成してみると、Legendre 多項式との関連がはっきりしてくる。解析概論にならって \(u(x)=(x^{2}-1)^{n}\) とおくと
\begin{align*}
u \Bigl( \dfrac{x}{\sqrt{3}} \Bigr) &= \Bigl( \dfrac{x^{2}}{3}-1 \Bigr)^{n} = \dfrac{(x^{2}-3)^{n}}{3^{n}} \\
\therefore g(x) &= \bigl( (x+2)^{2}-3 \bigr)^{n} = 3^{n} u \Bigl( \dfrac{x+2}{\sqrt{3}} \Bigr) \quad \text{であるから、}\\
g^{(n)}(x) &= 3^{n} \cdot \Bigl( \dfrac{1}{\sqrt{3}} \Bigr)^{n} u^{(n)}\Bigl( \dfrac{x+2}{\sqrt{3}} \Bigr) \\
\therefore g^{(n)}(0) &= \sqrt{3}^{n} u^{(n)}\Bigl( \dfrac{2}{\sqrt{3}} \Bigr) \\
\therefore f(n,0) &= \dfrac{g^{(n)}(0)}{n!} = \dfrac{\sqrt{3}^{n}}{n!} u^{(n)} \Bigl( \dfrac{2}{\sqrt{3}} \Bigr) \\
&= \sqrt{3}^{n} \cdot 2^{n} P_{n}\Bigl( \dfrac{2}{\sqrt{3}} \Bigr) \quad (\because P_{n}(x) = \dfrac{1}{2^{n} n!} u^{(n)}(x) )
\end{align*}
となる。この両辺を \(6^{n}\) で割れば、初回に導いた
\[ p_{n} = \dfrac{1}{\sqrt{3}^{n}} P_{n}\Bigl( \dfrac{2}{\sqrt{3}}
\Bigr) \]
が再現される。

  • 他の \(f(n,k)\) もまったく同様に \(P_{n}(x)\)(あるいは Legendre 陪関数 \(P_{n}^{k}(x)\))を利用して表せる。
  • この流れだと、
    • なぜ Legendre 多項式が現れるのか?
    • \(\dfrac{2}{\sqrt{3}}\) という値は何なのか?

    という疑問に対する必然性が割とはっきりする。前者は、\((\text{$2$次式})^{n}\) の \(x^{n}\) の係数を抜き出すために \(n\) 回微分するから。また、\(f(n,-k) = f(n,k)\) という対称性のためにこの \(2\) 次式は相反形になっているわけだが、それを平方完成した形を \(x^{2}-1\) と結びつけるために係数を調節した結果現れた数が \(\dfrac{2}{\sqrt{3}}\) だった、というストーリーになっている。

【2015, 4/15 追記】
\eqref{eq:38-3}を導く別の道筋もあるのか。\(f(n,k)\) は定義により
\begin{equation}
\label{eq:38-4}
f(n+1,k) = f(n,k-1) + 4f(n,k) + f(n,k+1)
\end{equation}
をみたす(\(\lvert k\rvert > n\) のときは \(f(n,k)=0\) と定めておけば、\eqref{eq:38-4}は \(k\) によらず成立する)。両辺に \(x^{k}\) をかけて和を取れば
\begin{align*}
\sum_{k} f(n+1,k)x^{k} &= \sum_{k} f(n,k-1)x^{k} + 4\sum_{k}
f(n,k)x^{k} + \sum_{k} f(n,k+1)x^{k} \\
&= \sum_{k} f(n,k)x^{k+1} + 4\sum_{k} f(n,k)x^{k} + \sum_{k}
f(n,k)x^{k-1} \\
&= \Bigl( x + 4 + \frac{1}{x} \Bigr) \sum_{k} f(n,k)x^{k} \\
\therefore \sum_{k} f(n,k)x^{k} &= \Bigl( x + 4 + \frac{1}{x} \Bigr)^{n} \sum_{k} f(0,k)x^{k} = \Bigl( x + 4 + \frac{1}{x} \Bigr)^{n}
\end{align*}
となって\eqref{eq:38-3}が出てくる。


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