ARIEL

この作品について思うことを、以下まったくとりとめもなく、つらつらと書 き連ねてみようと思います。

「かんせーせーぎょってなに?」「かずみ物理とってた?」「とってないと思 うよ」「それじゃ説明してもわかんないと思う」「なんだあ、そうなの」

作者の代表作・出世作であり、読んでいる側も一番安心して読める作品でし た。シリーズ後半になって話の中心が宇宙人サイドに移ってしまい、タイトルに もなった主役メカの活躍が余りにもささやかになってしまったのはちょっと残念 です。もともと技術レベルが違いすぎてまったく勝負にならない、という話だっ た以上、話が長引いたら ARIEL の活躍をメインにはできないのはやむを得ない のですが、せっかく新型を投入して「ダブルA」というネーミングまで奉った割 には Advanced ARIEL の印象が薄くなってしまった点が惜しまれます。

どちらかと言うと地球サイドの方が好きな私ですが、シリーズ通して一番好 きな場面は、14巻のセイバー登場のシーンです。ここまでに蓄積されてきたセイ バーに関する描写が、一気に「効いて」きて、全ての流れがこれ以上ない絶妙の タイミングで一点に集約していくあの快感には痺れますね。

また、巻レベルで言うと、6・7巻が甲乙付けがたいです。話の完成度から 言えば6巻の方が僅かに上でしょうが、内容的には7巻の方が好みです。

6巻の見どころはクライマックス、パンプキン大聖堂上空についにスピンファ イアが出現してからのスピード感溢れる展開ですね(その少し前、ネーブルブリ ンガーシステムに灯が点る辺りからもうそのワクワクするような予感を大いに孕 みつつあるのですが)。ハウザーがシモーヌを連れ出した所でめでたく幕となる のかと思いきや、上を下への戦闘シーンが続き、お祭り騒ぎのような楽しさを醸 し出します。そして最後に、ここまでかと思いきや最高のタイミングで伏線が炸 裂するあの展開は、本当に読んでいて気持ちのいいものでした。また、御他聞に 漏れず0073ナミが一番のお気に入りキャラなので(笑)、「たった一人の侵略」 が載っているところも6巻はポイントが高いです。

7巻は珍しく ARIEL がまとも(?)に活躍する所が気に入っています。オル クス・ハウザーからは遥かに格落ちする相手が敵で、ナミらによる宇宙技術ベー スのアシストもあったからこそ、ではありますが、とにかく何とか一矢は報いる ことができた所に達成感があります。ラストもなかなか気持ちのいい締まり方で、 続刊がなかなか出なかったことともあいまって、「『即席地球防衛軍』が見事地 球を守り切った、という爽やかなこの場面で完結、ということになっても、それ はそれで綺麗に締まっていていいかな」と思ったりもしました。また、この巻は ナミの出番が多い所もいいですね(笑)。

「そのうち、なんつったっけ、エラはり、じゃなくてアリエルだっけ、なん とかいう巨大ロボットが出てきてあたり一面焼け野原にして終わりってパターン になるんじゃない」「ならないんじゃない、今回は(パイロットにその気がない から)」

一言セリフのインパクトが一番大きかったのは、やっぱり5巻の「この反応 からしてシステムコンピューターの略称ではあるまい」ですかね(笑)。次点は、 2巻の「今は倒錯が一番美しいのだし、それに何と言ってもぼくは美しい」「用 件を早く言え!」のやりとりです(笑)。また、楽しさでは、「げーのーかい!」 から始まる、ナミの一連のやりとりが一番でしょうか(笑)。

細かいところでは、ゲルニクスだのゼネラル・オプチカリクスだのトランス・ ジレルだのといった架空のメーカー名がものすごく自然で存在感のあ る、しっくりくる名前だったことに舌を巻いた作品です。

また、ネーミングと言えば、「おのろけメルセデス」だの「ぶぎうぎチャー ルストン」だの「水玉スカイハリアー」だの「おめでたナイトホーク」だの「虹 色エクステンダー」といった SCEBAI 所属機の名前は本当に楽しくてうきうきし ましたね(笑)。

「ARIEL 読本」によって念願のカセットブック3を聞くことがかないました が、つくづく横山智佐はこういうアーパーの役をやらせたら天下一品 だね!(笑)と思いました。和美役には富沢美智恵より遥かにはまり役です(※ )。富沢さんは、美亜役に変わったとき、以前和美 役をやっていたことを覚えていたでしょうか…?

アニメ版は見てないので林原めぐみがどんな風に和美を演じていたのかはまっ たく知らないのですが、横山智佐ほどのはまり役ではなかったんじゃないかなあ。 このおふたりは、地声は実は割と似ていると思うのですが、横山さんはかなり高 い方の声を使って和美をやってるので、林原さんだとああはならないだろう、と 思うわけです。

ずーっと昔に、カセットブッ ク1だけは聞いたことだけはあります。あまりの内容のなさにびっくりでした(笑)。 聞く前は、3巻のライナーノートは話を面白くするためややオーバーに書かれて いるんだろう、と思っていましたが、どうしてどうして、あれはほとんど事実そ のままだったんじゃないか?というのが正直なところですね(笑)。

なお、絢が通っていることになっている「都立井の頭西高校」というのは 実在しません(笑)。

それにしても、「着弾のショックを吸収し、なおかつ触れればわか るようなコスチューム」というのは、十分宇宙人並みのレベル の技術だと思います(笑)。

初期によく出てきたレポーターの園場かぎりというのが、ゆうきまさみの 「アッセンブル・インサート」に登場するキャラと同じ名前なのですが、偶然の 一致なのか、それともゆうきまさみと示し合わせて同じ名前のキャラを登場させ たのか、どっちなんだろう、という点が以前から気にかかっています。シリーズ 完結記念にソノラマが「作者への質問」を募っていたときに、この質問を送って おけばよかった…!と後悔しています。いや、募集当時はこの疑問のこと、すっ かり頭から消えていたんですよ。惜しいことをしました。

鈴木さんのイラストはいつもとてもよかったのですが、終盤の巻だと本文が しばしば〆切ギリギリだったらしかったことを受けて、割と白っぽいイラストが 多くなりましたね。(そうは言っても、決して「手抜き」には見えないよう、最 低限抑えるべき所はきっちり抑えてあったところはさすがです)

2007 年に発売された新装版では、文庫では見覚えのないイラストが見られま したが、あれは鈴木さんの新規描き下ろしなんでしょうか?それとも、獅子王掲 載時の、文庫未収録イラスト?

未収録イラストと言えば、ARIEL 読本を読んで驚いたことのひとつに、「実 は文庫では獅子王掲載時のイラストがかなり抜けている」ことがありました。獅 子王(とグリフォン)は買ってなかった(すみません…)ので、「えええー、こ、 こんなイラストが雑誌の方では載ってたの!?」と意外な思いをしたものです。

ところで、番外編2でハウザーの実家が出てきましたが、シャルロットはど こに…?シャルロットー!シャルロットを出してくれー!(笑)

「きゃっうそ、何か飛んできたわ!!(どばあん)」「えー、スタジオです。 そのばさん、そのばさん、聞こえますか?」「撃墜されちゃったようですねえ」

この作品で一番残念だったことを挙げるなら、由貴に関する扱いです。この 作者は「猛烈に頭が切れ、口が減らずに大胆な行動力で困難な状況を困難とも思 わず切り開く」タイプのキャラ(岸田博士やマリオ、ジャックや沖田)を描かせ るとものすごく生き生きと魅力的に活躍させるのですが、反面、そういうキャラ に頼り切ってしまって、そんなキャラがべらべら喋ってグイグイ行動する展開で ないとうまく話を進められない、という欠点と表裏一体になっているような気が します。

由貴というのはまさしくそういうキャラなのですが、「途中出場のポッと出 のキャラ」に「虹色の脳細胞」岸田博士が喰われてしまったのは読者としてどう にも納得が行かず、明らかにマイナスでした。「たった一人の侵略」での黒幕ぶ り位に留めておけば許容範囲だったのですが…。

何のバックグラウンドもない女子高生が宇宙人組織を手玉に取ってしまうと いう所は、残念ながらちょっと白けてしまう展開で、作者が楽をするために由貴 に(安直に)頼り切っている雰囲気が強く感じられてしまいます。その役割は、 担うべきキャラがいるとしたら岸田博士か、せいぜい美亜なのですが。だからこ そ、終盤のオープンフリートではまた岸田博士がブイブイ言わせるようになって もいるのでしょうけれど。

また、読み進んでいるとどうしても「こんな簡単に由貴がオールマイティー を張れるのか?何かどんでん返しが用意してあるのでは?」という点が気になる のですが、結局そういうものは全然ない、という所も、精神的負荷が高くてちょっ と辛かった覚えがあります。この辺り、当初は先の展開まで決めて書いていたの かと思ったら、19巻のあとがきで全然そんなことはなかったとばらさ れていて、「そ、そうだったのか…」と脱力でしたね。

がんばれオルクス、負けるなハウザー!君たちが、君たちだけが地球を侵略 できるのだ

長く連載が続いただけあって、途中で色々と辻褄の合わない点が出てきてい るのは、まあ仕方ないと言えば仕方ないですが、探してみると楽しいですね(笑)。 ご愛敬としては、ナミが初登場時は車を物凄く荒っぽく振り回す運転を平然とし ていたのに、後になると3人組の運転に怯えるようになってしまった所とか、 AYUMI らが、最初第5世代コンピュータだったのがいつの間にかこっそりと第6 世代になっていた(笑)なんて所がありますが、他にめぼしいのを挙げてい くと…

まず、第2話で地球人類の自滅係数が60を超えることに宇宙人が驚いている のですが、10巻の「星を喰らう怪物」との戦いの描写を見るに、どうもオルクス 単艦とその搭載機動兵器の戦力を合わせれば、星間文明の2つや3つ、軽く滅ぼ せてしまいそうに見えます(笑)。彼らの自滅係数は到底60だの100だのといっ た数値には収まらないことでしょう。

それから、12巻では地球側の第6世代コンピュータたちは宇宙人側のウイル スにいいようにやられてしまったのですが、17〜18巻になると「規格が全然違う から乗っ取られることはない」になっていたのはちょっとみっともない、と言わ ざるを得ないでしょう。笹本先生、17巻頃には、12巻の話すっかり忘れちゃって たんでしょうかね(笑)。

ちょっと別の角度ですが、12巻で電磁波に関する縦波・横波の説明が完 全に間違っていて、デジタルというのが0と1の二値であるということの 概念も完璧に間違っていることにはびっくりしました。電磁波という のは縦波成分を一切持っておらず、そのことが光・電磁波に関する素粒子理論で 極めて重要なポイントになっていますし、デジタルの0・1と縦波・横波の方向 性にはまったく何の関係もありません。[2009, 7/28] 新装版[6]でも、この とんでもない誤りはそのままになってますね…(笑)。

それから、素数列を「、3、5、7、11、13…」としている のも思いっきり間違ってますね。1は素数ではないですし、最小の素数である2 が抜けています。考えられる事情は…

  1. 単なる誤植。「二」が「一」に誤植された。
  2. 笹本先生の知識が生半可で、「素数とは、1と自分自身以外に約数を持た ない自然数のこと(したがって、1も素数である)」「素数はすべて奇数」 という思い込みの下に「2」を除き、「1」を加えてしまった(正確には、 それぞれ「素数とは、1と自分自身以外に約数を持たない自然数。た だし1は除く」「2以外の素数はすべて奇数」です)。

なのですが…後者なんじゃないかな〜(笑)。 [2010, 8/23] 新装版[9] で、この誤りは訂正さ れました。ああ、でも、新たに気づきましたが、そのすぐ近くと、もうちょっと 後で出てくる「周期表」が「周期表」に誤植されてます ね(笑)。惜しいっ! → と言うか、そもそも 「周期表」と 呼ぶべきものであって、「周期律表」というのは誤用に近い慣用表現のよう です。

宇宙船の打ち上げ関連では、専門家すら遥かに上回るような知識を備えてい る(備えるに至った)笹本先生でありながら、こういったごくごく初歩的な理系 知識に欠けていたりすることもある、というのは、なかなか新鮮な驚きでした。

[追記] 「ARIEL 読本」でも「周期率表」って書いてますね。つまり、作者PC にはこの読みと表記で辞書登録されてる、ということなんでしょうね。

新装版について

2007年12月より刊行が開始された新装版。「巻末追加の書き下ろし」のせい で、こちらも買わざるを得ないハメに追い込まれている(笑)のですが、そちら を読んで思ったことを雑感としてまとまりなく書いていきます。

書き直し

さすがに、旧版といちいち見比べて変更箇所を精査する程の時間はとれない のですが、ぱらぱらっとめくっている間にたまたま目についた変更点として、上 の方で引用しているセリフが1ヶ所修正されているのに気づきました。「エラは り」が「エリエリ」になっています。これは、修正前の語句が身体的特徴を揶揄 した言葉に当たる、との判断からの修正なんでしょうが…うーむ、そこまで気に する必要があるんでしょうかねえ。まあ、細かい所まで気を使っているというの はよくわかりましたので、その点は嬉しいですが。

そうそう、旧版文庫では結局収録されず、「ARIEL 読本」で補完された「イ ドの中の怪物」ですが、この新装版ではどうなるのでしょうか?ちゃんと最初か ら収録されるのかな?→[2011, 7/12] 問い合わ せてみたところ、今回の新装版では、第15話「戦え!秘密戦隊エリアル3」と第 16話「イドの中の怪物」は収録予定はないそうです。

ミス

[02]での書き下ろしですが、まず「暗黒物質(ダークマター)」という用語が 指しているものが、実際とは全然違っているのに笑いました(笑)。暗黒物質と いうのは、「見ると真っ黒に見える」ものではなくて、「重力の大きさから推定 すると存在するはずなのに、光学的観測にはひっかからない」物質のことを言い ます。これは、そのような物質が、自ら光を放つ恒星の形では存在していないこ とを意味します。自らは光らない、という所をもって「暗黒」と形容されている のですね。つまり、ここで使われているような「光を遮ったり、吸収したりする せいで真っ黒に見える」という類の性質とは根本的に異なります。「ものすごい 大量に存在するはずなのに、光は素通し」という性質を持つのが暗黒物質です (もっとも暗黒物質と言えども、重力レンズ効果を通じて間接的に光学的観測に 影響を及ぼすことはあるのですが)。

ただまあ、ここは語感優先で「暗黒物質」というネーミングを使うのもありだ ろう、とも思います。実際、専門用語としては違うものを指す、ということを承 知の上で、作者が用語を重複させた可能性もあるんじゃないか、と思います。

それから、「相対速度は時として光速を超す」はあんまりです、笹本先生(笑)。 やっぱり、相対性理論を本当の意味でちゃんとご存知なわけではないんですねえ… って、まあそんなの当たり前なんですが、つい思ってしまった文章でした(ただ まあ、超光速航法や超光速通信が実用化されていて、相対性理論の前提が破れてい る世界での話ですから、そこから導かれる帰結も違っていておかしくない、とフォ ローすることはできるんですけどね)。

あと、すんげー細かいことなんですが、p. 418 上段左から 4 行目の「艦隊」 は「艦体」とすべきですね。


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井汲 景太 <ikumikeita@jcom.home.ne.jp.NOSPAM.>(迷惑メールお断り)
最終更新日: 2023年10月18日