邪悪な殺し屋メドーサが、なぜ殺戮用でない武器であるさすまたを使うのか。
メドーサの名前は、正式には漢字で「女蜴叉」と書きます。
この「叉」という文字の意味は、「二股に分かれること」です。三本の棒状の物が一点で結び合わさった状態が、すなわち「叉」です。
叉銃:野外で軍隊などが休憩するとき、銃を銃口と槊杖(さくじよう)との部分で組み合わせて三角錐状に立て合わせること
叉状分岐:植物の主軸の生長点が二分して同形の枝を出し、さらにそれぞれの枝が同様に分岐すること。多くの藻類・苔類の根などにみられる。叉生分岐。叉生。叉分。
叉状脈:二股に分かれる葉脈。イチョウなどにみられる。
三省堂「大辞林 第二版」より
さすまたは、まさに柄の先端が二股に分かれた武器なのですから、「叉」状の武器なのであって、「女蜴叉」が使うに相応しい武器と言えます。
さて、名前が先か武器が先かと言えば、これは武器が先でしょう。そもそも女性の名前に「叉」なんて文字は不自然です。「叉」は意味としては「股」と近いので、「股間・性器」を連想させますし…。まあ普通は「サ」なら「沙」とか「紗」とかを使うでしょう。
多分、彼女がさすまた術の奥義に達した時に、武術の師匠から授かった名前なのではないでしょうか。
さて、メドーサの名前についてさらにこだわってみましょう。
「女蜴叉」の「女」は女性であること、「叉」はさすまた使いであることを表すとして、「蜴」は何か。これは「蜥蜴(トカゲ)」の後ろの方の字です。
「蜥」:虫+音符(ばらばらにきれる)。手足が切れても生きている虫。
「蜴」:体が薄く平らな虫。
という意味であるそうです。メドーサは「ヒス持ちヘビ女」ですが、まあ同じ爬虫類であるトカゲとも縁があるのでしょう。これは納得できるところです。
ところが! ここで疑問がわきます。「蜴」の字を調べると、読みは「エキ,ヤク」であって、「ドウ」などという読み方はないんです。どういうことか?? と思ってよく調べると …… あったッ、ありました。非常によく似た漢字「蝪」の読みが「トウ,ドウ」なのです。(画面でわかりますか? 「日」の下に横棒が一本多いのです)
ということは、「女蜴叉」は誤植であって、本当は「女蝪叉」なんではないでしょうか?
もしそうだとすると、「蝪」の訓読みは「つちぐも」です。
つちぐも? 魔物の名前で「つちぐも」といえば、思い出すのは能や歌舞伎に登場する、源頼光に退治された、妖怪・土蜘蛛。これは平安時代の物語です。
http://funabenkei.daa.jp/noh/tsuchigumo.html
さらにさかのぼれば、「古事記」に登場する、古代の天皇勢力に反抗する先住民族「まつろわぬ民」の人々が、やはり土蜘蛛と呼ばれています。
まだガキの天龍童子の年齢が700歳なのですから、オバハンであるメドーサの年齢は数千歳はあるでしょう。すると、メドーサは古代ヤマト朝廷のころから反乱している勢力の一人なのでしょうか?