アスタロト大公爵、どうもお久し振りです。
> 凶悪な魔族、メドーサは得意な得物として“さすまた”を使います。
(中略)
> どうして凶悪なメドーサが、殺戮の為の武器ではなく、防御・捕縛のための武器を使うのでしょうか?
正直この点についてはぼくも疑問に想っていましたが、
敢えて放置していました(苦笑)。
では、これを機に少々考えてみます。
> メドーサのさすまたの場合、先端が鋭く尖り、美神の右肩を突き刺してえぐったこともあります。とはいえ、やはり先端が二股に分かれていれば力は分散するでしょう(先端が外側に反っていますから、やはり「突き刺す」ではなく首などを「挟み込む」ために作られた武器ではないでしょうか)。
> 突き刺すならば、槍のように一本の真っ直ぐな刃の方が、力は入り易いはずです。
魯迅の『故郷』では、スイカ畑を荒らす架空の動物チャー
(漢字ではケモノ偏に査と書くが、これは魯迅の造字らし
い)を刺し殺すのに刺股を用いるのですが……大公爵の指
摘の様に、確かに槍などの他の武器と比べて刺股は殺傷に
やや不向きな印象が強いですね。それにメドーサの立場上、
この武器の捕縛対象になりそうなのは、寧ろ持ち主本人で
すので(苦笑)、実に奇妙な組み合わせと謂えます。
では、作中でのこの刺股の扱いはどうなっているのでしょ
うか? 刺股の(単にメドーサが持っているだけの場面を
除いた)主な登場場面をコミックスから抜き出してみます。
・『プリンス・オブ・ドラゴン!!(その4、5)』(第7巻)
・『誰が為に鐘は鳴る!!(その19)』(第11巻)
・『香港編<10〜15>』(第14巻)
・『私を月まで連れてって!!(その2、4、8)』(第25巻)
・『ジャッジメント・デイ!!(その4)』(第34巻)
いずれの場面でもほぼ共通して謂えるのは、メドーサは
必要な場合以外には無闇に刺股を出していない事です。さ
て、その必要な場合とは……則ち、接近戦に臨む場合、余
裕を感じている場合、素手で処理するには適さない場合、
になるでしょうか。
そもそもメドーサは、確実な攻撃手段としては刺股より
も、手から発せられる光線様の霊的攻撃を用います。この
「光線」は普通の武器よりも影響範囲が広く、なにより間
合いを気にせず攻撃できます。『プリンス〜』/『私を月
まで〜』では各々天龍童子/令子を倒す為、最終的には光
線で始末しようとします。また『香港編』/『私を月まで
〜』にて各々ドクター・カオスを倒す為/最後の弾丸を弾
き飛ばす為に敢えて刺股を用いたのが、それぞれ元始風水
盤/アンテナ(ヒドラ)を勢い余って破壊しない様にとの
配慮からだったとすれば、光線は出力の調整や発射後の操
作が難しい攻撃なのかも知れません。その点、刺股は一回
一回の攻撃を加減できますし、『香港編』にて令子を押さ
えつけた様に本来の捕縛の用途にも使えます。
そして、多くの場面で接近戦時のメドーサは随分と愉し
そうに見えます。メドーサが元々好戦的な性向であるとも、
小競り合い程度では相手に打ち負かされない自信の表れと
も、またそう云う素振りを装い相手の焦りと油断を誘う作
戦とも解釈できそうです。実際、小竜姫に対してすらも終
始余裕を見せ続け、『誰が為に〜』での不戦敗はともかく
『プリンス〜』『香港編』では光線攻撃を巧みに織り混ぜ
て優位に立っています。
また『香港編』では一旦令子の首筋を押さえるものの、
ドクター・カオスの風水盤逆操作をあっさりと解放してし
まいますが……これもまた、令子との圧倒的実力差からの
余裕からきた行動なのかも知れません。
『誰が為に〜』では小竜姫たちを威嚇、『私を月まで〜』
では弾丸の処理……と、素手では中々絵になりにくい場面
でも刺股は活躍します。また、接近戦に於いては相手を攻
撃すると謂うより、相手の攻撃に対処する必然で登場して
いる様にも見えます(つまり、小竜姫が振るう剣に対して
素手で受け流すのは、実質的にも絵的にも成立し難い)。
『私を月まで〜』での、令子が武器代わりに振るう魔族の
小銃を絡め取ると云う芸当も、素手でやるより刺股の方が
説得力が有ります。
なお『ジャッジ〜』ではヘリコプタを両断する場面以外
では光線攻撃を行わず、刺股に依る攻撃に拘ります。普段
の余裕も感じられず、今までとは少々戦い方が異なります。
これは本領を発揮する前に退治されてしまった1つの例
外と見るべきではないでしょうか。『私を月まで〜』の最
後に吐いた言葉を守って、忠夫を葬る事に気を取られて近
視眼に陥っていたのかも知れません。それと裏切り者であ
るルシオラが相手だった事も、冷静さを失わせる要因であっ
た事でしょう……年少[わか]さ故の何とやら、でしょうか。
以上、メドーサが刺股を得物として使い続ける理由を纏
めますと……まず第1に、光線攻撃が使えるので、武器そ
のものの破壊力は重視しなかったであろう事。第2に、殺
傷力が高くなくても敗北しない、強者の余裕が有ったであ
ろう事。第3に、道具としての用途の汎用性を重視したで
あろう事です。……余り回答になっていない気もしますが。
とは謂え、彼女は職業的暗殺者であり、状況によっては
戦略的撤退すら辞しません。従って場合に依って多用な武
器を使い分けていても可い訳で、刺股一本に拘り続けるの
は少々奇妙な印象もあります……実は身体の一部である、
と云う可能性も有りますが、これも根拠が有りません。
と云う訳で以下、これまた完全に根拠の無い妄想になり
ますが……過去の事件、例えば彼女が犯罪者に指定された
事件あたりに由来を求める展開も有り得ると想います。個
人的に想う所が有ったさる刑吏から奪い取った物であると
か、いろいろと考えられそうですね。