> 美神は、月の石船に乗り、月面を一周してアンテナに接近しました。この時、「残り時間は?」「約32分!」「ギリギリね」ということですから、月の石船は月面を30分弱で一周したことになります。
> 月の質量:7.34×10^22[kg]
> 月の赤道半径:1738×10^3[m]
> 重力定数:6.67259×10^-11[m^3/kg秒^2]
> というデータから計算すると、月の第一宇宙速度は1679[m/秒]であり、この速度で月面を一周すると、約108分かかることになります。この場合、月の重力と遠心力が完全に釣合います。
秒速約 1.7 km で距離約 1700 km を走破するんですから
1035 秒 = 17 分 15 秒 で廻れますよ。
あ、因みに「A^B」は「数 A の B 乗」の意味ですね。解
らない方々の為に一応。
> 月の石船が月面を一周した時間は、この4分の1の27分としましょう。また、月の石船は「加速」のために月面を一周したのですから、一定の加速度で加速していたと考えます。すると、メドーサと遭遇時の月の石船の速度は、第一宇宙速度の8倍ということになります。
迦具夜姫の説明図では完全に1周している訳ではありま
せんが、ほぼ赤道面に沿った運動をしているのは確かなよう
ですね(25巻125頁参照)……、ここで「地面スレスレの
高さで月の赤道上(道距S = 赤道半径)を初速度ゼロの等
加速度運動を時間t行って T = 30 分 掛けて一周し終え
る迄に月面の第一宇宙速度(月面スレスレの高さを延々と廻
り続ける必要最低限の速度)Vに達し、残り時間t' は慣性
(惰性)飛行」と云う運動に必要な加速度aを考えます。
計算は省略して(距離、速度、時間に各々1つずつ、都合
3連立方程式です。おヒマでしたら検証してみてください)
結果のみ記しますが、2.263 m/秒^2 (1秒毎に速度が時
速2.263mずつ上昇する加速度、約0.23G)の加速を12分
23秒間続ければ月面の第一宇宙速度に達し、そのまま舟の動
力を切っても慣性に依り約17分半で月面一周ができるのです。
つまり(前提となる計算に不備が在った訳ですが)、月面
の第一宇宙加速度の8倍もの速度で舟を飛ばす必要は一切有
りません。
と云うより、そもそもその値は月面の第二宇宙速度(月面
の重力を振り切って外へと飛び出さない上限の速度、第一宇
宙速度のルート2倍)を大きく超えているので、そのまま何
処かへ飛んでいってしまうでしょうけどね。
よって令子の言った「ギリギリね」は、32分と云う残り時
間を厳密に評価したものでは非く、単に残り時間が短い事を
強調した物であると謂えるでしょう。現に月の石舟の「速度
はあなた方(※地球の人間族)の船より出ます。」(同124
頁)との事ですので、その高い加速性能を活かせばもっと短
い飛行距離で月面の第一宇宙速度に達する事も可能なのでしょ
う(城とヒドラが近過ぎたので、最短距離での攻撃は断念し
たものの、小竜姫の装具のお蔭で令子は相当無茶な加速にも
耐えられるでしょう)。
それに同じ「廻る」でも時間を節約できる同一高緯度上
(例えば北緯35度線に沿ってぐるりと廻る、など)では非く
赤道上での加速に拘ったのは、月の自転や小回りの回転で生
じた慣性によって肝心の射撃の狙いを狂わせたくなかったか
らでしょう(某映画のパロディの件はここでは措く(笑))。
(※……と随分簡単に言いましたが、実際に行うのは大変
です。最終的に第一宇宙速度を出すだけの動力は必要ですし、
とりわけ重大かつ深刻かつ難解な燃料の問題が待っています。)
(※余談。迦具夜姫の言う「十分な速度」(同125頁)がど
れ程なのか、具体的に知る事は叶いませんが……、実は月面
第一宇宙速度よりも大きな速度を得る方法は在ります。
まず、とことん加速します。月面の第一宇宙速度も突破し
ます。船体が浮き揚がってきますが、月の第二宇宙速度を超
えないように注意しながら、より高い高度の円軌道に入りま
す。そして細かい姿勢制御を行って、目標地点とその正反対
の地点を結ぶ線を短軸とする楕円軌道に修正します。
この方法ならば目標地点スレスレ上空(とその反対側)で
月面の第二宇宙速度、約2400km/秒の付近迄、理論上到達
できますが……ここまでするにはムチャクチャ時間が掛かる
上、軌道を精査に調整しなくてはならないので、面倒。)
> しかし、美神の体はそのままでは上空に吹っ飛んでしまいます。ですから、むしろこの時の石船は、上下逆さまになって飛んで来た方が妥当である(美神の体を床で支える)と言うことになります。
> さてそれでは、この時の遠心力はどの程度だったのでしょうか。計算してみると、これはなんと地球重力の10.4倍ということになります。(速度が第一宇宙速度の8倍ということは、遠心力は重力の64倍。ということは美神の体にかかる力は月の重力の63倍。月の重力は地球の6分の1だから、地球重力の10.5倍になり、ほぼ正しいことが裏付けられます)
先述の通り、月面ではこんな法外な速度は出せませんので、
こんな法外な遠心力も発生しません(繰り返しますが、舟が
どこかに飛んでいってしまいます)。
では仮に、第一宇宙速度が月面の8倍以上である星の上で
の話と仮定して考えても、こうはならないでしょう。慣性力
として発生する遠心力はどうあっても重力と相殺してしまう
のですよ。……種明かしをしてしまうと、宇宙速度が月の8
倍の星と云うのは、重力が64倍の星なんですけどね。
遠心力で飛んでいかない例は至る所にあります。一番身近
な例は……ぼくたち自身です。ご存じの通り、地球は一日に
一回自転をしています。当然、その上に乗っているぼくたち
は物凄い速度で回転をしているのですが、決して外に飛び出
す事が無いのは、先に言ったように遠心力と重力が釣り合っ
ているからです。
上の例で、令子を地球上のもの、舟の軌跡を自転に置き換
えてみれば、どう云った事なのか能く解ると想います。
> 美神の体重が50kgならば、この時の美神の体にかかった遠心力は520kg! まあ「Gの恐怖」の時には10トン以上にはなっていましたから、そのくらいは平気なのでしょう。
グラヴィトンの呪いは完全にオカルト的な現象なので、物
理的議論には全く不向きだと想います(ただの肉体に高質量
を付与した物理的原理は? 高密度の身体で自在に関節を曲
げられる物理的メカニズムは? etc...)。
大体ロケット打ち上げの時に瞬間的に掛かる加速度の最高
が10G前後だったと想いますので、まあその位だったら長時
間でなければ小竜姫の装具が無くてもなんとか耐えられるか
もしれませんが……200Gはぺちゃんこですよ、普通。