> 「私を月まで連れてって」の中で、美神とメドーサは超加速状態で対決します。
本作での超加速は「一時的に時の流れを遅らせる術」(コ
ミックス8巻98頁)と云う定義が『超神合体ヨコシマン!!』
で登場しますが、これは『香港編』で「「超加速」は本来イ
駄天の技なのに…」(14巻45頁)とある通り、小竜姫とメ
ドーサの超加速にも当てはまるのでしょう。
以上、一応の確認。
> 「フ … 加速状態でライフルなんか使えるわけないだろ!?」とメドーサに揶揄されます。
このように(25巻80頁参照)超加速で加速状態になるのは
飽くまで術者本人の身一つのみで、彼が身に着けている物品
には一切影響しない。これが上で確認した定義に次ぐ、超加
速の2つ目の特徴です。
> 魔族のライフルの性能がどうであるかはよく分かりませんが、ここでは弾速は人間のライフルの中でもっとも遅い、秒速600mとします。
> 一方、「へろへろのろのろ」の弾丸の速度は、美神とメドーサの感覚では「人間が歩くくらい」かと思われます。とすれば。秒速1m( = 時速3.6km)程度でしょう。
(中略)
> ここで美神とメドーサは14ページにわたって戦い続けますが、何分間くらい戦っていたのでしょうか? 描写を読む限り、目まぐるしく攻防していますから、せいぜい3分といったところです。漫画に描かれていない部分があったとしても、まず10分以上ということはないでしょう。
> 10分 = 600秒ですから、地球で待っている小竜姫やおキヌたちの感覚では、わずかに1秒です。
> となると、「美神さんたちは!?」「メドーサと交戦中! 加速状態のため・連絡不能です!」「超加速…!」「なら勝負はすぐにつくな…!」「メドーサさんなんかとやりあって……」などという会話を交わしている時間はないのではないでしょうか?
まず、加速状態の令子が魔族のライフルを発射する、その
直前の場面を観ましょう(同79頁参照)。令子の動きに着目
してください……後ろ向きに加速していますよね。彼女がそ
の後後ろ向きに真っ直ぐ飛んでいるのは次の頁での集中線の
方向からも判断できます。ライフルを発射した時点での令子
には身体の縁に急速な運動を表すボカシが入っていませんか
ら、おそらくそのまま惰性で動いているのでしょう。そんな
彼女の驚異的な制動を可能にした小竜姫の装具は、同時に宇
宙空間での適応をも実現していますから、急激な加減速に際
しての生理的影響にも耐性をもたらしているでしょう。とな
ると79頁と80頁の間に在った運動の変化に対してはっきり
と自覚できなかった可能性が有ります。
ここで、令子の運動の変化が「減速」であった場合、ライ
フルと弾丸には発射の方向とは逆の向きに慣性が働きます。
つまり減速した分、弾丸の速度が通常よりも遅くなるのです。
しかも、超加速の所為と誤解して急な減速を続ければ一層弾
の速度が遅くなる虞が有ります。
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※以下の議論では令子が「瞬間的に」減速したと仮定。
この場合、彼女はどれだけ減速したのでしょうか。
各々の速度と時間の関係は次の式の通りです。
T/t = v/(V−B) ……*
T:実際の戦闘時間 ; t:令子たちの体感戦闘時間 ;
V:ライフル弾の速度; v:令子たちが体感する弾の速度;
B:令子の減速度 ;
*式を少し変形します。
B = V − vt/T ……**
**式に、エンキドウさんが設定した数字を代入します。
但し、実際の戦闘時間Tについては25巻84-85頁の待機組
の会話が成立する最低限度の時間として T = 30 秒 を代
入します(つまり 20 倍の加速)。すると、
B = 580(m/秒) ……***
と、なります。
なるほど、超加速にこれ程の制動を「瞬時に」為さしめる
だけの機動力があるのならば、先の場合とは逆に加速された
(「月の石舟」によって最高で月面の第2宇宙速度である
2400 m/秒 迄速度を上乗せできます)状態のライフルの
弾を叩き落としたり(同155、157頁参照)、手から放出
された光術攻撃?を先回りして防いだり(14巻68頁参照)す
る事も、そこそこ余力が有ればできる訳です。
因みに慣性が働かない(令子が急に制動しない)場合に加
速状態にある令子から見えるライフル弾の速度 v' は、上式
に B = 0 を代入して v' = 30 m/秒 (時速 108 m)
と出ますが、これでもやはり 600 m/秒 程度の速度を瞬時
に操る超加速の敵ではありません。
(※数値を替えてみます。t = 3 分 、V = 1200 m と
すると B = 1194 m/秒、v' = 200 m/秒 、加速は
6倍程度になるものの、議論の本質には影響しません。)
後、Tの値についてですが……マリアの感知能力や遠距離
のタイム=ラグ(月と地球の距離、38万kmでは電波でも片
道 1.3 秒程度かかる)などで余裕が生じる余地が少々残さ
れている事も付け加えておきます。
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> 「ほほほほほっ! あと何分動けるんだい!? 1分? 2分?」などとメドーサに揶揄されますが、小竜姫は超加速で対抗します。
> この時も600倍の感覚になっていたとすれば、残り時間が1分しかなかったとしても、小竜姫の残り時間は600分 = 10時間ということになります。超加速状態になってからも小竜姫は焦りまくっていましたが、なにも焦ることはない、10時間もあれば余裕ではないですか。
まず上のメドーサの台詞は、小竜姫とメドーサ自身がまだ
加速状態に入る前の物です(14巻38頁参照)。また、小竜姫
が超加速を使っのは「速攻でカタをつける…!!」(同43頁)
為ですが、それは文字通り高速の攻撃で勝負すると云う意味
でしょう。が、「あれ[※超加速]はエネルギー消費がはげ
しすぎて、一度使えば立ち上がる力も残らんはず…!」(8
巻93頁)でもありますので、恐らく「加速せずに戦う場合よ
りも短い時間しか保たないので、とっとと決着をつける!」
と云った意味も含んでいるのでしょう。
エンキドウさんの仰る「10時間の余裕」は加速した小竜姫
の体感するそれです。彼女はただでさえ消耗しやすい異国と
云う状況の中で、更にエネルギー消費の激しい状態になって
いるのです。加えて敵のメドーサまでもが加速しているので
すから、まるで「灼熱の砂漠の中で喉が渇いている状態がゆ
るやかに続いていて、蜃気楼を追い駆けて走っている」よう
な生殺しの状態なのではないでしょうか。これは辛そう。
脱線。
加速状態に入ったメドーサは速く移動する時以外は普通の
格好のままなのに、なぜ『香港編』の小竜姫は加速状態に入
ると影法師の姿になってしまうのか。
それはズバリ、例のミニスカ・ルックは普通の衣服なので、
加速した分増加した空気抵抗でせっかくの着衣がバラバラに
なってしまうからでしょう(笑)。加速した令子たちが機敏
に動けたのは小竜姫の装具で筋力や霊力を含めた能力が増し
ていたからでしょう(宇宙服は余程丈夫にできていたみたい
ですが、装備されていた生命維持装置などはライフルと同様
に加速状態では充分に機能しなかったでしょうね……これま
た竜族の神通力さまさまです)。
なおメドーサは魔力を空気と対比して高地トレイニングの
成果を見せつけていますが……ひょっとしたら魔力のある所
を霊的な物質が通過すると、空気抵抗のような物(魔力抵抗
?)が発生する可能性も有りますね。
以上、脱線終了。
> 反対に、超加速状態での感覚が通常の10倍程度だとすると、魔族ライフル弾の速度は秒速10m前後だということになります。オリンピック選手の走る速度くらいですから、そうなると魔族のライフル弾は、斜め45度の角度で打ち上げても、10.2mの距離しか届かないことになります。仮になんらかの魔力で水平軌道を保ったとしても、100m先まで届くのに10秒かかります。簡単によけられてしまうでしょうし、第一、手で投げた方がずっとマシなのでは?
『今、ここにある危機!!』で示されたこのライフルの性能
は無論こんなものではありませんでした(21巻28頁)ので、
この辺りの心配は御無用かと。
最後に。加速状態で飛び道具を使う利点は、実は在ります。
……そう、「目標が加速状態に非い時」。『私を月まで〜』
の後半のヒドラ破壊の際に令子が言ったように「超加速状態
で突っこめば迎撃もかわせるはずよ!」(25巻121頁)つま
り向かってくる攻撃を見極めてから回避でき、「発射地点で
超加速すればはずしっこないわ!」(同146頁)つまりゆっ
くりと狙いを定められる、この2点です。
結局は、有益な能力も強力な装備も使いようって事でしょ
うかね。