さてところが、ここで問題があります。それは、この人が「バーさん」だという事実です。
“master”という単語は男性名詞です。対応する女性名詞は、“mistress”です。
“mistress”には次のような意味があります。
女主人,女支配者,比喩的に女王,SMプレイの女王様,女教師,女性の名人・大家,主婦,××夫人,××嬢,愛人・情婦
…ということは、ネクロマンサーマスター、とは単なるネクロマンサーの何とか、ではありません。ネクロマンサーの雇い主,親方,先生,名人・達人,という意味であれば、美神は「ネクロマンサーミストレスの先生よ」と呼んだはずです。美神は英語が堪能なはずですから。
つまり、「ネクロマンサーマスター」で一つの呼称なのです。「ネクロマンサーマスター」という職業なり階級なり資格なり称号なり、があるのですよ。では、それはどういうものか。
ネクロマンサーの雇い主になることは、お金さえあれば可能であり、特別な職業とされたり資格が必要だったりすることはないでしょう。
ネクロマンサーは、ICPOに登録された人間だけでも世界中でたったの3人。民間のネクロマンサーが100倍いたとしても、とても「全日本ネクロマンサー協会」とか「東京ネクロマンサー組合」とかがあるとは思えません。ということは、ネクロマンサーの親方、という特別な職業なり階級なりの呼称があるとは思えません。
ということは、ネクロマンサーを教え,指導し,養成する教師としての職業、または資格の名称でしょうか。または、ネクロマンサーの中の達人・名人という階級,称号の名称でしょうか。それともその両方でしょうか。
さてそれでは、「ネクロマンサーマスターの先生」とはどういう意味でしょうか。
日本語の「○○の先生」とは次のような意味があります。
1.○○という人を教えている。:小学生・山田浩くんの先生。アイドルタレントの先生。
2.○○という分野を教えている。:数学の先生。ピアノの先生。柔道の先生。
3.○○という教育組識等に属している。:東京大学の先生。○○自動車教習所の先生。
4.知的職業の人に対する、敬称。:弁護士の先生,小説家の先生,漫画家の先生,評論家の先生。
「ネクロマンサーマスター」は明らかに人間を指しているので、2.と3.は違います。1.か4.でしょう。
ということは、総合すると「ネクロマンサーマスターの先生」とは次のどれかの意味だということになります。
(1)ネクロマンサーを教える職業教師,または資格所有者。(を敬称を付けて呼んだ)
(2)ネクロマンサーの名人・達人という称号を授与された人。(を敬称を付けて呼んだ)
(3)ネクロマンサーを教える職業教師,または資格所有者、をまた教え指導する人。
(4)ネクロマンサーの名人・達人という称号を授与された人、をまた教え指導する人。
(3) はちょっとどうでしょう。学校の先生を養成する学校(東京教育大学とか)で教えている先生、というのは存在しますが、そんな多階層の養成組識があるのならば、もっと多くのネクロマンサーがいてもいいような…。
(4) も変で、名人・達人をいまさら教える必要があるのでしょうか。もっとも、現・名人を昔教えた師匠、という意味かも知れません。世界のホームラン王・王貞治氏を育てたコーチ、荒川博氏は、何かというと「王を育てた。王の師匠だ」と吹聴していました。そんなら他にも大打者をたくさん育てていそうなものですが……。マラソンの小出監督も似たようなものですね。
ということで総合すると、「ネクロマンサーの名人・達人」という称号をGS協会あたりから授与された人で、後進の指導にも当っている老師、ということなのではないでしょうか。しかし、体力的に悪霊の除霊はもう無理なので、現役ネクロマンサーとしてICPOに登録されてはいなかったのでしょう。
ネクロマンサーは特殊な素質を必要とする職業なので、数が少なく、あのお婆さんはもうずいぶん長い間弟子の養成をしていなかった、そこへ才能のある若者(おキヌ)が現れた、という連絡をICPOから受けた。嬉しくなり、さっそく会いに来たのでしょう。
ところが、もうすでにおキヌは超一流のネクロマンサーだった。何も教えることはない。
(がっかりじゃのう。アタシももう引退かねェ……)