タイガーがテレパスであり他人の心が読めてしまうということ、まさにそのことが、タイガーが女性恐怖症であることの原因なのではないでしょうか。
美神公彦は学者タイプであり、神経質で他人と付き合うのが苦手な男のようです。テレパスになる前、少年時代からそうだったとすると、苛められっ子のタイプであった可能性が大です。頭は良くても、度胸がなくケンカが弱く、友達を作らずいっしょに遊ばない。こういう青年が、周囲の人間の心が全部読めるようになってしまえば、どうなるか。
(なんだアイツ、気味の悪い…)
(陰気な奴だな、アッチへ行けよ)
(ナニを考えてるかわかったモンじゃないぜ)
(アタシ、ああいうヒト嫌いなの。ゴメンだわ。ゾッとする。死んじゃえ!)
こういうことを一日中、大声で耳元で喋られているのと同じですから、これは耐えられないでしょう。地獄です。
しかも、「変な仮面をつけてる」「テレパスだそうだ。近づくな! 心を読まれるぞッ」という評判が加わりますから、なおさらのことです。もう、徹底的な人間嫌いになるしかないでしょう。
一方タイガーです。タイガーが日本国籍なのか、生まれ育ちは日本なのか外国なのか、は良くわかりません。しかしどちらにしても、タイガーが育った地域はバンカラな風習の土地で、「男は度胸と腕っ節。ケンカが強いことこそ男の条件。ケンカの弱い奴は男じゃねェッ」という気風の地方だったのではないでしょうか。
そうだとすると、タイガーはまだ高校生なのに、身長は2m。体形は筋肉質で、体重160kg以上もありそうです。「まるでダンプカー」と魔理に評されていますから、パワーも大相撲力士並みでしょう。
となると、小さなころからタイガーは、
(寅吉だ。でけェ!)
(あいつは強ェぞ!)
(大人だってブン投げちまうそうだ)
(とてもかなわねえェ。オラ、子分にしてもらうだ)
などという周囲の友達の声が、テレパシーによって聞こえていたのではないでしょうか。ケンカは無敵! 町でも学校でも番長! だとしたら本人は得意満面で、ちっとも苦痛ではないでしょう。
これでタイガーが美男なら何の問題もないのです。問題は、やはり彼の容姿です。
女の子の前に出るとこれが違ってきます。天使のような外見の娘たちは、表面は愛想の良い笑顔を見せてくれるのに、
(なーに、このゴリラ)
(あっち行って欲しいわ。フランケンシュタインみたいな顔してッ)
(ブ男は嫌いなのよ!)
(あんたがいると、暑っ苦しいのよッ)
(動物園に行って、カバでも口説いてなさい!)
タイガーにはこんな女の子の「ホンネ」がストレートに読めてしまい、彼の神経にはとても耐えられなかったのではないでしょうか。
ただ、ということは、実は小笠原エミはああ見えても、本当はタイガーのことがそんなに嫌いではないのかもしれません。
テレパスのタイガーが、エミの脳内から「私はピートのような美形がいいの。タイガーなんて雄のゴリラとしか思ってないわ」という思考を読み取っているならば、失恋を悟り、いかになんでもエミの元から離れていくでしょう。
そうならない、ということは、案外エミはタイガーのことを憎からず思っているのかも。いずれは、美神―横島カップルと同様に、エミ─タイガーの師弟カップル誕生か?
不思議なことではありません。あの小錦だって、2度も結婚し2度とも素晴らしい美人の奥さんでした。超巨漢が好き、という女性は案外に多いのでしょうから。
あっ、でももう魔理がいるか。