これは難しい問題です。
まず、この「横島が氷の弾丸を胸に受け即死。ヌルの雷撃を受け美神は数分過去へ時間移動」という事柄は、他の時間移動とはちょっと異なっています。
『母からの伝言』で、幼女の美神令子が母の胸に抱かれて、過去からやってきます。その結果、美神令子は二人になります。
『ある日どこかで』で、美神,横島,マリアは中世ヨーロッパに飛びます。そこには過去のカオスの造り掛けのマリアが存在しました。その結果、マリアは二人(2体)になります。
『デッド・ゾーン』では、平安京に美神と横島が飛び、そこには美神の前世メフィスト,横島の前世・高島がいました。前世ではあるものの、それぞれ二人になったといっていいでしょう。
『ストレンジャー・ザン・パラダイス』では未来の横島がやってきます。そして横島は二人になります。
『仁義なき戦い』で過去からやって来た美神美智恵は、『エピローグ:長いお別れ』で過去に戻っていきます。ところが実は、ここで本来の時間座標の美智恵は、夫・公彦のところにいたことが判明しました。美智恵が同時間に二人存在したわけです。
このように、「過去または未来に時間移動すると、時間旅行者の存在は二人になる(もちろん、誕生→死亡の時間内への移動であれば、だが)」というのは、一つの法則と言えます。
ところが、「横島が氷の弾丸を胸に受け即死。ヌルの雷撃を受け美神は数分過去へ時間移動」の時には、美神は二人になっていません。
これはどういうことでしょう。
実は、『愛に時間を』の中では、時空消滅内服液を飲み過去へ時間移動しつつある横島は、二人になっていません。ビデオテープを巻き戻すように、過去の自分にピッタリ重なり合うように時間をさかのぼっています。「横島が即死。美神は数分過去へ時間移動」の時も、これと同じように過去の美神に未来から戻って来た美神が重なってしまっているようです。
これは、どうしてでしょう?
二つの可能性があります。
(1)美神の時間移動能力には、2種類ある
美神の時間移動能力には、1.自分または自分を含めた数人を未来または過去に移動させる。2.自分に関連する因果関係を、ビデオを巻き戻すように過去に戻す。 この2種類がある。1.は「変えられることしか変えられない」大した能力ではない。2.は「全ての因果律を崩壊させる」究極の能力である。通常は1.しか使えないが、大切な横島が死んだ、などという非常事態になると、2.が発動する。
(2)実は美神の時間移動能力で生き返ったのではなかった
横島は、この後『スリーピングビューティー』では死津喪比女を倒し、『私を月まで連れてって』では魔族の月世界侵略を防ぎ、『仁義なき戦い』以降ではアシュタロスと戦って倒し、世界を滅亡から救う。そのような重要な運命を担った人物が、時間移動の最中に殺される(つまり「過去」のヌルが「未来」の運命に干渉する)などということは、あってはならないこと。正常な時間座標の中での出来事なら“運命”だが、これはまったく異なった時間座標の中での出来事。そのため、まさに“時間の復元力”によって、横島の死はその瞬間に無かったことにされた。
私に考え付くのはこんなものです。