ガロア理論入門ノートについて・その7

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\)
以下の文章で、「本文書」というのは「ガロア理論入門ノート」のことを指す。

この辺りから、私も「一度は読んで理解したけど、ソラですらすら再現するのは怪しくなってくる」ような部分に入っていく。変なこと・誤りを書いていたりしたらご容赦のほどを。

■ p.27 定理30 証明1行目の「\(M \subset \mathcal{I}\)」の「\(\subset\)」は「\(\in\)」の誤り。3行目の「\(G \subset \mathcal{F}\)」も同様。
■ p.27 定理30 証明の始めで、\(L^{G}=M\) が明らかとされているが、私には \(L^{G} \supset M\) こそ明らかだったものの「\(\subset\)」が明らかでなくて最初は困った。

特に \(M=K\) の場合を考えてみると、この式が意味しているものは \(L^{\Gal(L/K)} \subset K\)、つまり「\(L\) の中で、ガロア群 \(\Gal(L/K)\) のどの写像でも不変な数は、\(K\) の数に限られる」ということなので、これが手がかりにならないかと思って考えてみた結果、最初は次のような原始根と対称式の理論と解・係数の関係を全面に押し出した証明にたどり着いた。

[\(L^{\Gal(L/K)} \subset K\) の証明その1(原始根と対称式の理論利用版)]
\(L\) の \(K\) に関する原始根を \(\theta\) とし、\(K\) 上 \(\theta\) と共役な数を \(\theta_{1}, \dots, \theta_{n}\) とする。\(\Gal(L/K)\) の写像は \(\theta\) を \(\theta_{i}\) に置き換えるような作用で表される。

\(\alpha \in L\) が \(\Gal(L/K)\) のどの写像でも不変だったとしよう。\(K\) 係数の多項式 \(f(X)\) を使って \(\alpha = f(\theta)\) と表せるので、仮定より
\[ \alpha = f(\theta_{1}) = f(\theta_{2}) = \dots = f(\theta_{n}) \]
である。よって
\[ \alpha = \dfrac{f(\theta_{1}) + f(\theta_{2}) + \dots + f(\theta_{n})}{n} \]
である。この右辺は \(\theta_{1}, \dots, \theta_{n}\) に関する \(K\) 係数の対称式だから、\(K\) の数である(\(\because \theta_{1}, \dots, \theta_{n}\) は適当な \(K\) 係数 \(n\) 次多項式の根の全体)。\(\square\)

後になって、前回述べた定理26の系によって同じことが言えることが志賀本に書いてあったことに気づいた…。これまた、私がきれいさっぱり忘れ去ってしまっていた事柄だった。しかもこちらの方がずっと早い。
[\(L^{\Gal(L/K)} \subset K\) の証明その2(共役数を結ぶ同型写像利用版)]
\(\alpha \in L^{\Gal(L/K)}\) とする。\(\alpha \in L\) なので、\(\alpha\) と \(K\) 上共役な任意の数 \(\beta\) は \(L\) の数で、\(\beta = \sigma(\alpha)\) となるような \(\sigma \in \Gal(L/K)\) が存在する。仮定より \(\alpha\) は \(\Gal(L/K)\) のどの写像でも不変だから \(\alpha = \sigma(\alpha) \quad \therefore \beta = \alpha\) である。つまり、この場合は \(\alpha\) と共役な数は \(\alpha\) 自身しかないので、\(\alpha\) の最小多項式は1次式で \(\Irr(\alpha,K) = X-\alpha\) である。これより、\(\alpha \in K \quad \square\)

いずれの証明にせよ、これさえ言えれば定理30の \(L^{G} \subset M\) の証明は簡単である。\(G=\Gal(L/M)\) のどの写像でも変化しない数は \(M\) の数に限られることを示せばよいが、\([L:K]=[L:M][M:K]<\infty\) より \([L:M]\) も有限だから、上の \(K\) の場合の証明を、\(M\) に置き換えれて適用すれば OK。\(\square\)
■ p.28 系31 証明
まずは単純なミスプリから。(1) で「任意 \(\rho\)」の所は当然「の」が抜けている。

なお、後で準同型定理によって \(\Gal(L/K) / \Gal(L/M) \cong \Gal(M/K)\) を示すのであれば、「\(\implies\)」の証明は \(\Ker \varphi = \Gal(L/M)\) を使うという手もある。準同型写像の核は必ず正規部分群になるので。

「\(\impliedby\)」の証明で、\(\forall\tau \in \Gal(L/K) [\tau(M) = M]\) から \(M\) が\(K\) のガロア拡大、と言っている部分でも、前回触れた「定理26の系」が使われている。\(M\) の任意の数 \(\alpha\) に対して、\(\alpha\) と \(K\) 上共役な数 \(\beta\) は適当な \(\tau \in \Gal(L/K)\) で \(\beta=\tau(\alpha)\) のように結ばれているが、\(\tau(M) = M\) より \(\beta \in M\)。よって \(M\) は\(K\) のガロア拡大。\(\square\)
■ p.28 系31の証明では、\(\varphi\) が全射であることの理由として述べられている「\(M\) の自己同型写像は \(L\) に拡張できる」を検討しなければならない。これは本当か。今、\(L\) に拡張したい同型写像 \(\tau’\) は \(\Gal(M/K)\) の元、つまり \(K\) の数を固定する同型写像なので以前補題25の補足でやってみせたのと同様の手続きで \(L\) まで拡張できるのだが、「\(K\) の数を固定」という条件を外してしまうと以下のように反例があることに注意しておく。

一般に、\(L\) が \(K\) の有限次ガロア拡大で、\(M\) が中間体のとき、\(M\) のどんな自己同型写像も \(L\) の自己同型写像に拡張できるか?
[反例] \(K=\Q(\sqrt{2})\) とする。\(K\) 上の方程式 \(X^{2}=\sqrt{2}\) の解 \(\pm \sqrt[4]{2}\) を \(K\) に添加して \(L=K(\sqrt[4]{2})\) を作る。これは有限次ガロア拡大。

\(M\) として \(K\) 自身を取り、\(M\) の自己同型写像 \(\sigma\) を \(\sigma(\sqrt{2}) = -\sqrt{2}\) で定める。\((\sqrt[4]{2})^{2} = \sqrt{2}\) の両辺に同型写像 \(\tau\) を作用させると
\[ (\tau(\sqrt[4]{2}))^{2} = \tau(\sqrt{2}) \]
となるから、もし \(\tau\) が \(\sigma\) の拡張なら右辺は \(\sigma(\sqrt{2})=-\sqrt{2}\) となる。よって \(\tau(\sqrt[4]{2}) = \pm \sqrt[4]{2}i \not\in L\) となるので、\(\tau\) は \(L\) の自己同型写像にはなれない。\(\square\)
つまり、本文書の実際の主張は「\(M\) の \(K\) 自己同型写像は \(L\) に拡張できる」であったはずが、書き損なって「\(M\) の自己同型写像は…」になってしまったのではないだろうか。
■ この記事を書いていてやっと理解が追いついたが、この \(\varphi\) の全射性は、原始根を使って具体的に書くと次のような話になる。

\(K\) に対する \(M\) の原始根を \(\mu\) とし、\(\mu\) と \(K\) 上共役な数を \(\mu_{1}, \dots, \mu_{m}\) とすると、\(\Gal(M/K)\) の写像は \(\mu\) を \(\mu_{i}\) に移すような変換として表される。\(\mu \in L\) なので、\(\mu_{1}, \dots, \mu_{m}\) のすべてに対し \(\mu\) を \(\mu_{i}\) にうつすような \(\Gal(L/K)\) の写像が存在し、\(\mu_{i} = \sigma_{i}(\mu)\) とおける(\(\sigma_{i} \in \Gal(L/K)\))。すると、\(\sigma_{i}|_{M} \; (i=1,\dots,m)\)  が \(\Gal(M/K)\) の各元である。つまり \(\varphi\) は全射である。\(\square\)

\(\varphi\) の核が \(\Gal(L/M)\) であることからわかるように、\(\sigma_{i}\) 以外に \(\sigma_{i}\rho \; (\rho \in \Gal(L/M))\) も \(\mu \mapsto \mu_{i}\) をみたすので同じ \(\Gal(M/K)\) の元に対応する。つまり、1つの \(\Gal(M/K)\) に対応する写像は \(\Gal(L/K)\) に複数あり、その不定性は \(\Gal(L/M)\) の分だけあるということ。
■ ああそうか、実は次元数のカウントだけでも行けるのか。とりあえず準同型定理から
\[ \Gal(L/K) / \Gal(L/M) \cong \Img(\varphi) \]
は言える。\(\Img(\varphi) \subset \Gal(M/K)\) はわかってるから、「\(=\)」を言うためには要素数が一致することを言えば十分で、
\begin{align*}
\zettaiti{\Img(\varphi)} &= \zettaiti{\Gal(L/K) / \Gal(L/M)} =
\zettaiti{\Gal(L/K)} / \zettaiti{\Gal(L/M)} \\
&= [L:K] / [L:M] = [M:K] = \zettaiti{\Gal(M/K)}
\end{align*}
より言えた。\(\square\)


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