ガロア理論入門ノートについて・その5

\(\newcommand{\rnsg}{\mathrel{\vartriangleright}}
\newcommand{\lnsg}{\mathrel{\vartriangleleft}}
\DeclareMathOperator{\Irr}{Irr}
\DeclareMathOperator{\Gal}{Gal}\)
以下の文章で、「本文書」というのは「ガロア理論入門ノート」のことを指す。

■ p.25 定理26 「\(\implies\)」の証明
\(f_{i}(X)\), \(f(X)\) を1次式の積に因数分解した式の小文字の \(x\) は大文字の \(X\) が正しい。
■ p.25 定理26 「\(\impliedby\)」の証明
ここが本文書を読む上で(私が)一番苦労した所だった。理由は何点かある。

まず、「\(f(X)=\Irr(\alpha,K)\) の \(L\) の最小分解体」という部分だが、ここで \(\Irr(\alpha,K)\) を \(f(X)\) とおくのは非常に紛らわしい…と言うか、はっきり言って誤り。「\(\impliedby\)」の仮定の \(f(X)\) も、この後で出てくる \(f(X)\) も \(\Irr(\alpha, K)\) とは別のものである(なのでこの文書を読み始めた頃はここの議論は非常に頭が混乱した…)。なので、ここの「\(f(X)=\)」は削除すべき。また、うって変わって非常に細かいことだが、「\(L\) の最小分解体」は「\(L\) 上の〜」であるべきはず。

そして、それにも増して当初さっぱり理解できなかったのが「\(\sigma\) を単射準同型写像 \(\tau\colon L \to L(\beta)\) まで拡張することができる」の部分だ。一体なぜそんなことが言えるのか?理由としては「\(L\) は \(f(X)\) の \(K(\alpha)\) 上の最小分解体であり、\(L(\beta)\) は \(f(X)\) の \(K(\beta)\) 上の最小分解体であるから」と書いてあるのだが、そのことがどのように生かせるのか、始めのうちはまったく謎だった。

色々と考えたり、他の文書にも当たったりしているうち、そもそもその前段の「\(K\) 同型写像 \(\sigma\colon K(\alpha) \to K(\beta) \; (\sigma(\alpha) = \beta)\) が存在する」というのも、よく考えると実は自明ではないことに気づいた。やりたいこととしては、「\(K\) の数はすべてそのままで、\(\alpha\) を \(\beta\) に置き換える」という変換を \(\sigma\) としたいわけだが、
● それは写像として well-defined なのか?\(K(\alpha)\) の数を \(K\) の数と \(\alpha\) を使って(有理式の形で)表す表し方は一意ではない。
● 写像として成立する場合でも、ちゃんと同型写像になっているか?四則演算と両立し、全単射になっているという条件をみたさなければいけない。
という2点を確かめておかないと、\(\sigma\) が存在するかどうかわからない。

ここで、この「\(\sigma\) が存在する」という部分で「\(\alpha\), \(\beta\) が \(K\) 上共役」という条件が非自明な形で使われている、ということにようやく気づいた。以下のような話になっている。

● [well-defined 性の確認] \(\alpha\), \(\beta\) 共通の最小多項式を \(g(X) \in K[X]\) とする。まず、「多項式での」表し方によらない、ということから確認しよう。\(K(\alpha)\) の数 \(x\) は、\(K\) 係数の多項式 \(h(X) \in K[X]\) を使って
\begin{equation}
\label{eq:11-1}
x = h(\alpha)
\end{equation}
と書ける(ちょっと紛らわしいが、小文字の \(x\) と大文字の \(X\) はまったく別のものを表すよう使い分けていることに注意)。\(x\) を決めても \(h(X)\) は一意には決まらないから、\(x\) を \(h(\beta)\) に移すという変換が、\(h\) の不定性によらないことを示さなければならない。

\(h_{1}\), \(h_{2}\) が共に \(x\) を与える多項式だとすると、\(h_{1}-h_{2}\) は \(\alpha\) で \(0\) になるから、\(g\) で割り切れる。
\[ h_{1}(X) – h_{2}(X) = g(X)Q(X) \quad (Q(X) \in K[X]) \]
この式に \(\beta\) を代入すると
\[ h_{1}(\beta) – h_{2}(\beta) = 0 \quad (\because g(\beta) = 0) \]
となるので、\(h_{1}\), \(h_{2}\) のどちらを使っても結果は変わらない。よって、\(\alpha\) を \(\beta\) に置き換えるという変換は \(x\) を決めるだけで一意に決まり、\(K(\alpha) \to K(\beta)\) の写像をなしている。

続いて、今の議論の「多項式」を「有理式」に拡張できることを確かめよう。それには、2つの有理式の差を通分した分子が \(g(X)\) で割り切れる、ということを使うが、その際注意しなければならないこととして、「\(\alpha\) を \(\beta\) に置き換えたとき、分母が \(0\) になってしまったりしないか?」という点がある。これは、上と同様な議論によって、\(K\) 係数多項式 \(F(X)\) に対して \(F(\alpha)=0 \Leftrightarrow F(\beta)=0\) がなりたつことから言える(元々の分母が \(F(\alpha) \ne 0\) だったら \(F(\beta) \ne 0\) と言えるので)。

よって、多項式に限定せず、\(x\) を \(\alpha\) のどんな \(K\) 係数有理式で表していたとしても、分子分母を通じて \(\alpha\) を \(\beta\) に置き換えるという変換で矛盾は生じない。この写像を \(\sigma\) とする。

● [同型性の確認] \(x\), \(y\) を \(K(\alpha)\) の数とし、\(x\), \(y\) を\eqref{eq:11-1}の形におく。つまり、\(K\) 係数の多項式 \(h_{1}(X)\), \(h_{2}(X)\) を使って \(x=h_{1}(\alpha)\), \(y=h_{2}(\alpha)\) とおいておく。すると、\(\sigma(x)=h_{1}(\beta)\), \(\sigma(y)=h_{2}(\beta)\) となっている。

まず、\(\sigma\) が準同型であることを示す。それには、
\begin{align*}
\sigma(x+y) &= \sigma(x) + \sigma(y) \\
\sigma(xy) &= \sigma(x) \sigma(y) \\
\sigma(1) &= 1
\end{align*}
を示せばよい。(第3の式がある理由: 本文書の「環の準同型」の定義では第1、第2の式しか要請されていないが、これだけだと \(\sigma(1)=0\) でも値域が \(\{0\}\) になっちゃうだけで特に矛盾は生じないようだし、「環・体論II—GALOIS理論」を見ても、(体の)準同型写像、というものを考えるときは独立に要請すべきものであるらしい)

和について: \(x+y = h_{1}(\alpha) + h_{2}(\alpha)\) なので、\(x+y\) を与える多項式は \(h_{1}+h_{2}\)。よって
\[ \sigma(x+y) = h_{1}(\beta) + h_{2}(\beta) = \sigma(x) + \sigma(y) \]
である。
積について: \(xy = h_{1}(\alpha)h_{2}(\alpha)\) なので、\(xy\) を与える多項式は \(h_{1}h_{2}\)。よって
\[ \sigma(xy) = h_{1}(\beta)h_{2}(\beta) = \sigma(x)\sigma(y) \]
である。
1の像について: 定義により、\(\sigma\) は \(K\) の数を不変に保つので \(\sigma(1)=1\) である。
以上でまず準同型であることが示された。そして、差と両立することも和とまったく同様に言える。

続いて、\(\sigma\) が全単射であることを示す。まず、\(K(\beta)\) の数はいずれも \(K\) 係数の多項式 \(h(X)\) を使って \(h(\beta)\) の形に書けるので、\eqref{eq:11-1}の形から、\(\sigma\) が全射であることは明らか。また、単射であることは、\(\sigma(x)=0\) をみたす \(x\) が \(0\) のみであることを示せば言えるが、上で確認した通り \(h(\beta)=0\) ならば \(h(\alpha)=0\) であるからこれも言えた(もっと一般に、やはり「環・体論II—GALOIS理論」に書いてあるように、体の準同型写像は自動的に単射になるとも言えるので、それを使ってもよい)。

そうすると \(x \in K(\alpha)\) が \(0\) でないなら \(\sigma(x) \ne 0\) と言
えるので、\(\sigma\) は商とも両立する。よって \(\sigma\) は四則演算すべてと両立。
■ だいぶ話が逸れたが、まだ「\(\sigma\) を単射準同型写像 \(\tau\colon L \to L(\beta)\) まで拡張することができる」のはなぜか?の方は丸々未解決のまま残っている。

私が解決した順序で述べると、結局この路線で理解するのは一度放棄して、「\(\impliedby\)」全体を以下のようにまったく別の流れで証明した。

[定理26 「\(\impliedby\)」の証明の別証] \(f(X)\) の根を \(x_{1}, x_{2}, \dots, x_{n}\) とすると、\(L=K(x_{1}, \dots, x_{n})\) である(また紛らわしいが、今度は小文字の \(x_{i}\) は \(f(X)\) の根を表すのに使っている)。\(L\) の元 \(\alpha\) は、\(K\) 係数の \(n\) 変数多項式 \(h\) を用いて \(\alpha = h(x_{1}, x_{2}, \dots, x_{n})\) と表せる。この式で、\(S_{n}\) の置換 \(\tau\) によって \(x_{1}\)〜\(x_{n}\) を入れ替えたものを
\[ \alpha^{\tau} = h(x_{\tau(1)}, \dots, x_{\tau(n)}) \in L \]
と書くと(※ 注)、
\[ \prod_{\tau \in S_{n}} (X-\alpha^{\tau}) \]
は \(K\) 係数の多項式となる(解と係数の関係、および対称式の理論より)。
これは \(X=\alpha\) を代入すると \(0\) になるから、\(\alpha\) の最小多項式 \(g(X)\) で割り切れる。つまり、\(g(X)\) は \(X-\alpha^{\tau}\) の形の1次式の1個以上の積(の定数倍)である。

よって、\(K\) 上で \(\alpha\) と共役な数はすべて \(\alpha^{\tau}\) のうちのどれかである。それらはすべて \(L\) の数だったから、\(L\) はガロア拡大になっている。\(\square\)

【2014, 8/23 追記】(上記の注※)「\(\alpha^{\tau}\)」と書いているが、これは \(\tau\) が \(L\) の数に対する写像として定義できる、ということは主張していない。
\begin{equation}
\label{eq:20140823}
\alpha = h(x_{1},\dots, x_{n})
\end{equation}
となるような \(K\) 係数多項式 \(h\) は \(\alpha\) を決めただけでは一般には決まらないから、\(\alpha\) を決めてもそれだけでは \(\alpha^{\tau}\) の値は定まらない。ここでは、\eqref{eq:20140823}をみたすような \(h\) が存在することから、そのような \(h\) を1つ固定した上で、\(h(x_{\tau(1)}, \dots, x_{\tau(n)})\) という数の略記として \(\alpha^{\tau}\) という書き方をしているだけなので、そこは混乱しないよう注意されたし。

その後、「環・体論II—GALOIS理論」を参考にして、やっと \(\sigma\) を \(\tau\) に拡張する、という路線での証明も作れたが、問題はそれが本文書だともうちょっと先に出てくる定理29の結果を先に利用したものになっていたことだった。定理29は定理26〜28とは独立なので、単純に定理29を定理26の前に持ってくることで解決を図ることも可能だったが、さらにその後、「体論(ガロア理論)」を参考にして、以下のようにどうやら定理29を使わずに証明もできたようだ(なお、次項で触れるように、\(\tau\) の値域が \(L(\beta)\) に含まれることはここの議論では特に示す必要がないはずなのでオミットしてある)。

[\(\sigma\) を、\(L\) を定義域とする単射準同型写像 \(\tau\) まで拡張することができることの証明]
\(f(X)\) の根を \(x_{1}, x_{2}, \dots, x_{n}\) とすると、\(L=K(x_{1}, \dots, x_{n})\) である。まず \(K(\alpha)\) に \(x_{1}\) を添加した体を \(K_{1}\) とする。\(\phi(X) = \Irr(x_{1}, K(\alpha)) = X^{m} + a_{1}X^{m-1} + \dots + a_{m} \; (a_{i} \in K(\alpha))\) とおき、その各係数を \(\sigma\) でうつした多項式を \(\phi^{\sigma}(X) = X^{m} + b_{1}X^{m-1}+ \dots + b_{m} \; (b_{i} = \sigma(a_{i}) \in K(\beta))\) とし、その根 \(y_{1}\) をひとつ取って固定する。このとき、\(x_{1}\) を \(y_{1}\) にうつす変換を考えることで、\(\sigma\) を「\(K_{1}\) を定義域とする単射準同型写像 \(\tau\)」に拡張できる: \(K_{1}\) の任意の数
\[ k_{1}{x_{1}}^{m-1} + k_{2}{x_{1}}^{m-2} + \dots + k_{m} \; (k_{i} \in K(\alpha)) \]
は \(\tau\) によって
\[ k_{1}'{y_{1}}^{m-1} + k_{2}'{y_{1}}^{m-2} + \dots + k_{m}’ \;  (k_{i}’ = \sigma(k_{i}) \in K(\beta)) \]
にうつる。

これは、以下の順で示せる。まず、\(\phi^{\sigma}(X)\) は \(K(\beta)\) で既約である(証明は容易なので省略)。これより、\(\phi^{\sigma}(X)\) は \(y_{1}\) の最小多項式であるから、上のような変換は well-defined な写像になり、それは単射準同型写像である(\(\sigma\) が well-defined な同型写像になることを示したのと同様に示せるので省略)。

\(K(\beta)\) に \(y_{1}\) を添加した体を \(K_{1}’\) とすると、これが \(\tau\) の値域であることは明らかで、よって \(\tau\) は \(\tau\colon K_{1} \cong K_{1}’\) の同型写像である。ここで、もし \(K_{1}=L\) だったならこれで OK。
もしそうなってなかったら、さらに \(x_{2}, x_{3}, \dotsc\) を順に添加して、\(L\) に達するまで同様のことを繰り返せばよい。\(\square\)
■ ここまで述べてきたことからすればもはや些細なことに過ぎないが、定理26の最後の方の「\(L(\beta) = \tau(L) = L\)」の1つ目の等号も疑問。
定理26の証明の文章中では、そこまでで言っているのは \(\tau\) が \(L\) から \(L(\beta)\) への写像、ということだから直接言えることは「\(L(\beta) \supset \tau(L)\)」であって、等号が成立することは定理26の帰結として言えることのはずなので。そして、補題25を使っているが、それなら「\(L(\beta) \supset \tau(L)\)」だけで「\(\tau(L) = L\)」が言えて、そこから目標である \(\beta \in L\) が言えてしまうから、結局この部分は1つ目の等号を \(\supset\) に替えた
\[ L(\beta) \supset \tau(L) = L \]
で置き換えるべきなのではないか。(更に言えば、前回触れたように補題25は仮定をもうちょっと簡潔化できるはずで、それだと \(L(\beta) \supset \tau(L)\) すら使わずに同じ結論が導けるはず)
■ …そうか。この記事を書いたことでわかってきたけど、拡張した \(\tau\) の値域が \(L(\beta)\) に一致するというのは、割と自然に出てくることなのかもしれない。ふたつ上の項で \(x_{1}, x_{2}, \dotsc\) を順に添加していったけど、それを続けて \(x_{n}\) まで添加したときの同型写像 \(\tau\) の値域って、次のように考えると自然に \(L(\beta)\) になる。
まず、\(x_{n}\) まで添加したときの定義域の体は \(K(\alpha)\) に \(x_{1}, \dots, x_{n}\) をすべて添加したものだから、
\[ K(\alpha, x_{1}, \dots, x_{n}) = L(\alpha) = L \: (\because \alpha \in
L) \]
である。そして、これと同型写像 \(\tau\) によって結ばれる体は \(K(\beta)\) に \(y_{1}, \dots, y_{n}\) をすべて添加したもの。ここで、\(y_{1}, \dots, y_{n}\) は \(\tau\) による \(x_{1}, \dots, x_{n}\) の像だから、全体として \(x_{1}, \dots, x_{n}\) と一致する(なぜならば、\(\tau\) は \(K\) 同型写像なので \(K\) 係数多項式 \(f(X)\) の根の全体 \(x_{1}, \dots, x_{n}\) を \(x_{1}, \dots, x_{n}\) の全体に移すから)。

よって \(\tau\) の値域の体は
\[ (K(\beta))(y_{1}, \dots, y_{n}) = K(\beta, x_{1}, \dots, x_{n}) =
L(\beta) \]
になる。\(\square\)

———たぶん、群論体論に慣れた人なら、この辺りの知識を考えるまでもなく直ちに出てくるようにパッケージ化された形で豊富に持っていて、それに基づくとこの手の話は苦もなくスラスラと出てくるのだろう。本文書で、「単射準同型写像 \(\tau\colon L \to L(\beta)\)」と書いてた部分も、そういう事情からつい書き方がややルーズになっていて、「\(\tau\) の値域が \(L(\beta)\) になる」ということまでこの書き方には含めていたつもりだったんだけど、杓子定規な読み方をしていた私がそのことが読み取れなかった、ということが真相だったような気がしてきた。
(ただ、ほんとに上の路線で \(\tau(L) = L(\beta)\) の確認を想定するなら、いちいち補題25を使わなくても、\(\alpha\) が \(K\) 係数の多項式(有理式)を使って \(\alpha = h(x_{1}, \dots, x_{n})\) と書けることと、\(\tau\) による \(x_{i}\) の像が \(x_{1}, \dots, x_{n}\) のどれかに限る、ということだけから \(\beta = \tau(\alpha) = h(\tau(x_{1}), \dots, \tau(x_{n})) \in K(x_{1}, \dots, x_{n}) = L\) が直接言えるわけだけれども)


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