\(\newcommand{\rnsg}{\mathrel{\vartriangleright}}
\newcommand{\lnsg}{\mathrel{\vartriangleleft}}
\DeclareMathOperator{\Irr}{Irr}
\DeclareMathOperator{\Gal}{Gal}\)
以下の文章で、「本文書」というのは「ガロア理論入門ノート」のことを指す。
■ p.20 系19 やはり \(M\) を \(K\) と書いてしまっている所があり、正しくは
\[ [L:K] = [L:M] [M:K] \]
となる。
■ p.20 代数的数・超越的数の定義の所で、「\(0\) でない \(\alpha \in L\) に対して」となっているが、「\(0\) でない」という条件は不要では。\(0\) の最小多項式は \(X\) である、ということで何も問題はなく、他の値と区別する必要はないし、この条件があると、\(0\) は代数的でないことになってしまう。
ひとつ考えられるのは、推敲の過程で「\(0\) でない」という語句を別の場所に付け加えようとして、うっかり間違えたのでは、ということ。「\(0\) でない」が「\(f(X) \in K[X]\) が存在するとき」の前に付くならば問題ない(と言うか、そちらはむしろ付かないとまずい。\(\alpha\) がどんな数であろうと、\(f(X)\) がゼロ多項式なら問答無用で \(f(\alpha)=0\) となるのだから)。
■ p.21 最小多項式の定義でも同様に、「次数最小の多項式」というとき、厳密には「0(ゼロ多項式)でない」という条件を付けておく必要がある(定理20の中では断っているけれど)。
また、後の方で当然の性質として特に明記せず使ってる性質として \(K\) 係数の多項式 \(g(X)\) が \(g(\alpha)=0\) をみたすなら、\(g(X)\) は最小多項式 \(\Irr(\alpha,K)\) で割り切れるというのがあるので、これをここで証明しておいた方がいいのでは。
■ p.22 定理21(2) の証明で、\(f(X)\) を \(X^{n}+b_{1}X^{n-1} + \dots +
b_{n}\) とおいてしまっているのはちょっと表記が混乱していて、これだと続く \(b_{i}\) を使っている式とごちゃまぜになってしまって破綻してしまう。ここでは、\(f(X)\) の係数を具体的におく必要はない。
また、ここで同様にして「有限次拡大なら代数拡大」ということを言っておかないと、次の系22(2)でギャップが生じてしまう(この証明は難解ではないので省略する)。
■ p.22 系22 単純なミスプリで、まず (1) の主張右辺で \(\alpha_{1}\) の添字が取れてただの \(\alpha\) になってしまっている。
■ その次の定理23、系24は、最初読んだときに意図が全然わからなかった。個々の主張自体は理解でき、その証明を追うことは難しくなかったが、「\(\mathbb{C}\) の中では1次式の積に分解し尽くすことは分かり切ってる(代数学の基本定理)のに、なんでわざわざこんなことを改めて?」ということがさっぱり不明だった。また、定理23で作られた根 \(\alpha\) は当然 \(\mathbb{C}\) の中には入っておらず、今考えている「複素数の中で解を求めるための公式があるかどうか」を考える上では、\(\mathbb{C}\) からはみ出した解がこうやって人工的に作れますよ、ということを言われてもちっとも嬉しくもなんともない。おまけに、このように \(\alpha\) を人工的に勝手に作ることを考えるなら、ここで述べられたのは「作り方の一例」に過ぎないわけだから、何通りもの作り方があっていいはずで、拡大の仕方が自由に色々選べる、ということになる。すると、同じ \(K\) という体を拡大する場合でも、出自の異なる複数の拡大法による結果は全然異なる「世界」の中での拡大ということになって、まったく縁のない別々の集合になることを覚悟しなければならない。そのような場合、別々の拡大体に属する数どうしには四則演算程度の単純な演算すら容易には定義されなくなるだろう。さらに、そうなると、\(K\) と \(f(X)\) を決めてもその最小分解体というのが一意に決まらなくなり、何通りもの「最小分解体」というものができてしまうのでは?とどんどん謎は深まって行った。
色々考えて、他の資料も当たったりしているうちに、どうやら「代数学の基本定理なんていう大掛かりな道具をわざわざ持ち出さなくても、群論体論の枠内だけでどんな(1次以上の)多項式の根であろうとも調達できる」ということを言おうとしているらしい、と見当がついてきた。このことの意味は次の2つなのだろう。まず、ベースになる体としてお馴染みの \(\mathbb{Q}\) や \(\mathbb{R}\) などを使わず、有限体を使って「有限体の数を係数とする方程式」といったものに話を拡張するときもそのまま適用できる、ということ。第2に、本文書の最後の方では \(\mathbb{Q}\) に不定元を添加した有理関数体 \(\mathbb{Q}(X_{1}, \dots, X_{n})\) が係数体となる場合がちょっと出てくるので、そういうものを考える場合でもちゃんと「根」というものがあってそこまでの体論の成果をそのまま使って構わない、ということが保証されること。
考えてみれば、「自然(故に特別)」と感じている体 \(\mathbb{C}\) も、実係数多項式環に \(x^{2}+1\) を法とする合同式を導入して定理23と同様に構成した体とまったく同じ構造を持っていて「人工的な」ものと見なすこともできるわけだから、\(\mathbb{C}\) だけを特別視する絶対的根拠があるわけではない。そう考えると上の2点の考察もしっくり来る。
また、上述の「最小分解体が一意に決まらなくなる?」という懸念だが、どうやら \(f(X)\) を1次式の積に分解する \(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}\) を作ったとき、\(\mathbb{C}\) の中から調達していようがそうでなかろうが、作り方によらず \(L=K(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n})\) は互いに同型になる(ので自然な同一視が可能で違いを気にする必要はない)、ということのようだ(そこら辺のちゃんとした証明は私には荷が重くて斜め読みしただけだが)。
というわけで、定理23, 系24のことは余り気にしなくていいようだ。今のように、「\(\mathbb{Q}\) や \(\mathbb{R}\), \(\mathbb{C}\) を係数とする方程式の解を \(\mathbb{C}\) の中で求める」という立場の場合は、必要な数は常に \(\mathbb{C}\) の中から調達する、と考えることにすれば問題はないのだろう。そうすれば最小分解体 \(L \subset \mathbb{C}\) も一意に定まって不安なところはない。以下、この立場を取ることにする。
■ そのようにして、すべての数は \(\mathbb{C}\) の中から取る、ということにすれば、「\(\alpha\) の \(K\) 上の共役元」というものも曖昧さなしに決まるので、p.24 のガロア拡大の定義も問題なく定まる。
■ p.24 アーベル拡大や巡回拡大の定義
ここではまだガロア群 \(\Gal(L/K)\) が(その表記さえ)定義されていないので、アーベル拡大・巡回拡大の定義は p.26 まで先送りした方がいいのではないだろうか。
■ p.24 補題25 明記されていないが、「\(K\) 上の〜準同型写像」という言い方で、「\(K\) の数をすべて固定する」ということが含意されているようだ。また、仮定で \(L’\) が \(L\) の拡大体である必要は余りないような気がする。\(K\) の数を固定するために \(K\) の拡大体になっている必要はあるだろうが…。
\(L’ \supset L\) に意味があるとすれば、上で懸念したような「全然縁がない複数の拡大の仕方がありうる」という前提で考える場合ではないか。証明中では「\(\sigma(\alpha_{i})\) も \(f(X)\) の根になっているから \(\sigma(\alpha_{i})\) は \(\alpha_{1}\)〜\(\alpha_{n}\) のどれか」という議論を行っているが、もしも \(\sigma\colon L\to L’\) で \(L’\) が \(L\) とは全然別の「世界」の中での拡大だったとすると、根 \(\sigma(\alpha_{i})\) は \(L\) とは全然別の世界の中にいるので、\(\alpha_{1}\)〜\(\alpha_{n}\) のどれかと言えなくなってしまう、という心配があるので、それを避けるために \(L’ \supset L\) を仮定したのだとすれば合点がいく。しかし、今我々がしているように、「数はすべて \(\mathbb{C}\) から取り、拡大はすべて \(\mathbb{C}\) の中」という前提なら、そんな繊細な配慮は必要ないだろう。単純に、\(L’=\mathbb{C}\) ととっておけばそれで十分のはず。
■ p.24 補題25 証明
仮定では \(\sigma\) は「単射準同型写像」だったのが証明の最後の行で「同型写像」になってしまったのはちょっと変だが、後者では恐らく \(\sigma(L)\) への写像として捉え直した上での話をしているのだろう。あるいは、「同型写像だから」を「単射だから」に修正してもよい。
■ p.24 補題25 証明
最後の所の「\([\sigma(L):K]=[L:K]\). ゆえに \(\sigma(L)=L\)」というのはやや略証気味だが、「なぜ次元の一致から集合の一致が言えるのか?」「なぜ次元の一致が言えるのか?」については読者に対する演習、と思って読めばよいのだろう。どちらもこうやって的を絞れば難しくない話。
■ p.24 補題25 非常に細かい補足を2点。まず、「\(f(X)\) の最小分解体」というものを考えているので、\(f(X)\) は1次以上という前提なのだろう(仮定には明記されていないが)。また、証明の3行目左の方、\(\sigma\) に余計な閉じ括弧が付いている。
■ p.24 補題25 更に、本文書の証明では個々の \(\alpha_{i}\) に別々に \(\sigma\) を作用させているが、私の思い違いでなければ、以下のように \(f(X)\) 全体に作用させればもうちょっと強いことまで言えて、次元の考察もなく仮定もすっきりさせて議論ができるのではないか?(丁寧に書いたので分量的には却って増えてしまったが…)
補題25 改
\(K\) を体、\(f(X)\) を \(K\) 係数の1次以上の多項式、\(L\) を \(f(X)\) の \(K\) 上の最小分解体とする。\(L\) を定義域とする準同型写像 \(\sigma\) が \(K\) の数をすべて固定するなら、\(\sigma(L)=L\) である。
証明 \(f(X)=a_{0}X^{n}+a_{1}X^{n-1}+ \dots + a_{n} = a_{0} (X-\alpha_{1}) \dotsb (X-\alpha_{n}) \quad (a_{0}, \dots, a_{n} \in K, \alpha_{1}, \dots, \alpha_{n} \in L, a_{0} \ne 0)\) とすると \(L=K(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n})\) である。\(f(X)\) の各係数に \(\sigma\) を作用させても不変であるから、
\[ f(X)= \sigma(a_{0})X^{n} + \dots + \sigma(a_{n}) =
a_{0}(X-\sigma(\alpha_{1})) \dotsb (X-\sigma(\alpha_{n})) \]
である。これより、\(\sigma(\alpha_{1}), \dots, \sigma(\alpha_{n})\) の全体は \(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}\) の全体に一致する(もし \(f(X)\) が重根を持つ場合は、重複度も含め一致)。
\(L\) の元はすべて \(K\) 係数有理式(多項式)\(g(X_{1}, \dots, X_{n})\) を使って \(g(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n})\) と表せるので、まず \(\sigma(L) \subset L\) である(\(\because \sigma(g(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n})) = g(\sigma(\alpha_{1}), \dots, \sigma(\alpha_{n}))\))。さらに、\(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}\) を適当に並び替えた \(\alpha_{i}, \dots, \alpha_{j}\) が、\(\sigma\) によってこの順のまま \(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}\) にうつるようにできるので、\(\sigma\colon L \to L\) は全射でもある(\(\because \sigma(g(\alpha_{i}, \dots, \alpha_{j})) = g(\sigma(\alpha_{i}), \dots, \sigma(\alpha_{j})) = g(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n})\))。\(\square\)
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