\(\newcommand{\Bfloor}[1]{\Bigl\lfloor #1 \Bigr\rfloor}\)
東京出版「大学への数学」2月号の記事で「\(n!\) が素数 \(p\) で何回割り切れるか」が \(n\) の \(p\) 進法表記を使うと思いがけず割ときれいな表し方ができる、ということが紹介されていましたが、これに触発されて色々考えているうち、その記事よりショートカットした説明ができることに気づきました。改めて調べてみると、(その記事内でもちょっと触れられている通り)実はこの式は結構知られているらしい(例えば http://shochandas.xsrv.jp/gauss/gausssymbol.htm)こともわかりましたが、自分のものは説明の仕方としてはなかなかすっきりしているのではないかと自画自賛しているので、やはり自己満足のためにここに公開しておきます。
式の導出
ここでは、\(n\) の \(5\) 進法表記が \(ABCDE\) だった場合に示すが、桁数が上下したり、\(5\) 以外の素数を考える場合もまったく同様。
まず、\(n!\) が \(5\) で割り切れる回数 \(g(n)\) は \(g(n) = \Bfloor{\dfrac{n}{5}} + \Bfloor{\dfrac{n}{5^{2}}} + \Bfloor{\dfrac{n}{5^{3}}} + \dotsb\) だが、これを \(5\) 進表記の筆算で表すと
\[ \begin{array}{rc@{}c@{}c@{}c}
&A&B&C&D \\
& &A&B&C \\
& &&A&B \\
+) & &&&A \\
\hline
\end{array} \]
となる。足す順番を入れ替えると
\begin{equation}
\label{eq:warikirerukaisuu-1}
\begin{array}{rc@{}c@{}c@{}c}
&A&A&A&A \\
& &B&B&B \\
& &&C&C \\
+) & &&&D \\
\hline
\end{array}
\end{equation}
になる。ここで、\eqref{eq:warikirerukaisuu-1}を \(4\) 倍して \(A\)〜\(E\) を足すという計算をしてみよう。
\begin{equation}
\label{eq:warikirerukaisuu-7}
\eqref{eq:warikirerukaisuu-1} \times 4 + A + B + C + D + E
\end{equation}
(※ 注)。\eqref{eq:warikirerukaisuu-7}の計算過程で、まず \(A\) を含む部分だけを抜き出してみると
\begin{align*}
AAAA \times 4 + A &= A\times (1111 \times 4 + 1) = A \times (4444 + 1) \\
&= A \times 10000 = A0000
\end{align*}
である(\(5\) 進法表記を使っていることに注意)。\(B\) 以降を含む部分もまったく同様になるので、結局
\begin{equation}
\label{eq:warikirerukaisuu-2}
\eqref{eq:warikirerukaisuu-7} =
\begin{array}{rc@{}c@{}c@{}c@{}cl}
&A&0&0&0&0 \\
& &B&0&0&0 \\
& & &C&0&0 \\
& & & &D&0 \\
+)& & & & &E \\
\hline
&A&B&C&D&E & = n
\end{array}
\end{equation}
で元の \(n\) に戻る。
元々\eqref{eq:warikirerukaisuu-1}は \(g(n)\) だったので\eqref{eq:warikirerukaisuu-7}は \(g(n) \times 4 + A + B + C + D + E\) に等しく、よって\eqref{eq:warikirerukaisuu-2}は
\begin{equation}
\label{eq:warikirerukaisuu-4}
g(n) \times 4 + A + B + C + D + E = n
\end{equation}
を意味する。したがって
\[ g(n) = \dfrac{n-(A+B+C+D+E)}{4} \]
が得られる。\(\Box\)
(※ 唐突に天下り的な計算が出てきたが、\(AAAA\) 等を等比数列の和として計算すれば結果的にはまったく同等の式が出てくる)
同様にして、\(n!\) が素数 \(p\) で割り切れる回数 \(\Bfloor{\dfrac{n}{p}} + \Bfloor{\dfrac{n}{p^{2}}} + \Bfloor{\dfrac{n}{p^{3}}} + \dotsb\) が
\[ \dfrac{n- \text{《$n$を$p$進表記した各桁の和》}}{p-1} \]
に等しいことが言える。
大数の記事に沿った計算
所期の式の導出
大数の当該記事のように、Gauss 記号(ここでは floor 関数記号を使っているが)を主役にすると、次のようにもできる。
まず、位取り記法の構造より、正の実数 \(x\) に対して
\begin{equation}
\label{eq:warikirerukaisuu-3}
\text{《$x$の$5$進小数表記の小数第$1$位》} = \lfloor 5x \rfloor – 5
\lfloor x\rfloor
\end{equation}
である。大数の記事の計算の仕方を使わせてもらうため、\eqref{eq:warikirerukaisuu-3}を
\[ \text{《$x$の小数第$1$位》} + 4\lfloor x\rfloor = \lfloor 5x \rfloor –
\lfloor x\rfloor \]
と変形してから \(x=\dfrac{n}{5}, \dfrac{n}{5^{2}}, \dfrac{n}{5^{3}}, \dotsc\) を代入し、辺々足すと次のようになる。
\begin{align*}
& \text{《$\dfrac{n}{5}$の小数第$1$位》} + \text{《$\dfrac{n}{5^{2}}$の小数第$1$位》} + \text{《$\dfrac{n}{5^{3}}$の小数第$1$位》} + \dots \\
&\qquad + 4 \biggl(
\Bfloor{\dfrac{n}{5}} + \Bfloor{\dfrac{n}{5^{2}}} + \Bfloor{\dfrac{n}{5^{3}}} + \dotsb \biggr) = \lfloor n \rfloor – \Bfloor{\dfrac{n}{5^{\infty}}} \\
\therefore &\underbrace{\text{《$n$の$1$の位》} + \text{《$n$の$10$の位》} + \text{《$n$の$10^{2}$の位》} + \dots}_{\text{$n$の$5$進表記での各桁の和}} + 4 g(n) = n
\end{align*}
これは先ほどの\eqref{eq:warikirerukaisuu-4}と同じ式である。
他の式の導出
ここまでの議論では、大数の記事で重要とされていた
\begin{equation}
\label{eq:warikirerukaisuu-5}
\lfloor x \rfloor + \Bfloor{x+\dfrac{1}{5}} + \Bfloor{x+\dfrac{2}{5}} +
\Bfloor{x+\dfrac{3}{5}} + \Bfloor{x+\dfrac{4}{5}} = \lfloor 5x\rfloor
\end{equation}
をまったく使っていない。\eqref{eq:warikirerukaisuu-5}も、\(5\) 進法表記に着目するとすっきり示せる。
\(x\) を正の実数とする。ポイントとなるのは次のことだ。「\(4\) つの足し算
\begin{equation}
\label{eq:warikirerukaisuu-6}
x+\dfrac{1}{5}, \quad x+\dfrac{2}{5},\quad x+\dfrac{3}{5},\quad x+\dfrac{4}{5}
\end{equation}
のうち、『\(5\) 進表記したときの筆算で、小数第 \(1\) 位から \(1\) の位への繰り上がりが起こるもの』の個数は、\(x\) の小数第 \(1\) 位と等しい」
これは、次のようにしてわかる。例えば、\(x\) の \(5\) 進表記での小数第 \(1\) 位が \(3\) のとき、\eqref{eq:warikirerukaisuu-6}の \(4\) つの足し算のうち、\(1\) の位への繰り上がりが起こるのは \(\dfrac{2}{5}\), \(\dfrac{3}{5}\), \(\dfrac{4}{5}\) を足す \(3\) 通り(\(5\) 進小数表記だと、\(\dfrac{1}{5}\), \(\dfrac{2}{5}\), \(\dfrac{3}{5}\), \(\dfrac{4}{5}\) はそれぞれ \(0.1\), \(0.2\), \(0.3\), \(0.4\) であることに注意)。他の場合も同様だ。
すると
\begin{align*}
\text{《$x$の$5$進表記での小数第$1$位》} &= \underbrace{\biggl( \Bfloor{x+\dfrac{1}{5}} – \lfloor x\rfloor \biggr) + \biggl( \Bfloor{x+\dfrac{2}{5}} – \lfloor x\rfloor \biggr) + \biggl( \Bfloor{x+\dfrac{3}{5}} – \lfloor x\rfloor \biggr) + \biggl( \Bfloor{x+\dfrac{4}{5}} – \lfloor x\rfloor \biggr)}_{\text{いずれのかっこも、\eqref{eq:warikirerukaisuu-6}の足し算で$1$の位への繰り上がりが起これば$1$、起こらなければ$0$。}} \\
&= \Bfloor{x+\dfrac{1}{5}} + \Bfloor{x+\dfrac{2}{5}} + \Bfloor{x+\dfrac{3}{5}} + \Bfloor{x+\dfrac{4}{5}} – 4\lfloor x\rfloor
\end{align*}
であることがわかる。これと\eqref{eq:warikirerukaisuu-3}を比較することにより\eqref{eq:warikirerukaisuu-5}が導ける。
このように、位取り表記の構造に着目すると、\eqref{eq:warikirerukaisuu-5}は \(g(n)\) の所期の式を得るためには必ずしも重要ではなく、むしろ派生的に得られる系だ、ということがわかる。
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