\(\DeclareMathOperator{\Gal}{Gal}
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\)
以下の文章で、「本文書」というのは「ガロア理論入門ノート」のことを指す。
■ p.34 命題38 「有理関数体」と言うからには \(X_{i}\) は不定元。\(\C\) の数ではない。そして \(s_{i}\) がそれらの基本対称式と言うからには、\(s_{i}\) も \(\C\) の数ではなく、\(X_{1}+X_{2}+ \dots + X_{n}\) のような、不定元のある特定の計算式(多項式)を表している。つまり \(s_{i}\) は新たな不定元ではなく、そういった特定の式の略記。
\(X_{i}\) を直接 \(K\) に添加する前に、まずそれらの特殊な組み合わせ \(s_{1}, \dots, s_{n}\) を添加し、その後で \(X_{1}, \dots, X_{n}\) を添加して体の拡大を図っている。これによって、不定元を基本対称式の形で係数に含む多項式 \(f(X) = X^{n}-s_{1}X^{n-1} + \dots + (-1)^{n}s_{n}\) の係数体 \(K(s_{1}, \dots, s_{n}) = K(X_{1}+ \dots + X_{n}, \dots, X_{1} \dotsm X_{n})\) およびその上の最小分解体 \(K(X_{1}, \dots, X_{n})\) を考えている。
■ 命題38の主張の最終行以降は \(X_{1}, \dots, X_{n}\) と書くところで1つめのコンマが抜けている箇所が2つあり、また証明2行目の「\(K(X_{i}, \dots, X_{n})\)」の添字の \(i\) は当然 \(1\) である。
■ 命題38の証明の細部を一応埋めておく。対称群 \(S_{n}\) の置換 \(\sigma\) から、有理関数体 \(K(X_{1}, \dots, X_{n})\) 上の変換 \(\sigma\) を誘導しているが、まずこの \(\sigma\) が変換として well-defined であることは OK(1つの \(n\) 変数有理式をどのように \(n\) 変数多項式の比として表そうとも、変数に置換を施した結果の有理式は変わらない)。また、\(\sigma\) が \(K(X_{1}, \dots, X_{n})\) から自分自身への写像で、全射であることも容易にわかる。さらに和・差・積と両立するので自己準同型で、\(K\) の定数は動かさないため商とも両立し、単射でもある。よってまず \(\sigma\) は \(K(X_{1}, \dots, X_{n})\) 上の自己同型写像である。
さらに \(\sigma\) は \(s_{i}\) を不変に保つので、\(K(s_{1}, \dots, s_{n})\) 同型写像でもある。
ここまでで、「\(S_{n}\) の元 \(\sigma\) から、\(\Gal(K(X_{1}, \dots, X_{n}) / K(s_{1}, \dots, s_{n})) = \Gal_{K(s_{1}, \dots, s_{n})}(f)\) の元 \(\sigma\) への対応」が作れた。同型「\(\cong\)」がなりたつことを言うには、さらに以下のことを確認する必要がある。
(1) この対応が群としての準同型であること。
(2) その準同型が全射であること。
まず、(1) は \(\sigma\) の双方の群での働きから自明。(2) はそこまで自明ではないが、後者の群の元 \(\tau\) の \(X_{1}, \dots, X_{n}\) に対する作用は \(S_{n}\) の置換になるしかない(\(\tau\) を \(f(X)\) に作用させてみればわかる)ので、やはり成立する。\(\square\)
■ p.35 定理39の前に「簡単に言えば \(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}\) は不定元ということ」とあるが、「事実上、そのように見なすことができる」ということも定理39の証明に含まれている、ということなのであろう。定義としては \(\alpha_{i}\) は不定元とは限らず \(\C\) の数である場合も含んでいて(もし不定元の場合しか考えていないなら、わざわざ不定元 \(X_{i}\) に \(\alpha_{i}\) を「代入」するような操作に意味がなくなる(※注)、以下ではもう \(\C\) の数と思って読んだ方が読みやすいのではないか。
【 追記 】※ 以前はこう書いたが、これは思い違いだったかもしれない。よく考えると、命題38では \(X_{1}, \dots, X_{n}\) が(与えられた)不定元で、多項式 \(f(X)\) の係数は「複数の不定元どうしの和・差・積の組み合わせ」で得られる「\(n\) 変数多項式環の要素」だった一方、定理39では多項式 \(g(X)\) の係数は「別の不定元から作られる」ものではなく、\(t_{1}, \dots, t_{n}\) こそが元々の(与えられた)不定元なので、実は結構違うものを考えていることになるのではないか。\(g(X)\) の根 \(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}\) というのは、そういう「与えられた不定元をナマで係数に持つ多項式の根」として定理23や系24で述べられているような手続きで作り出された「新しいモノ」———つまり、\(\C\) の数どころか \(t_{i}\) と同レベルの不定元ですらなく、\(t_{i}\) の有理的な組み合わせで表現することもできないようなモノ———だ、と思って読んだ方が適切なようにも思える。だとすると、不定元 \(X_{i}\) に \(\alpha_{i}\) を代入するという操作は、上で私が即断してしまっていたような「同レベルの不定元の間の代入」とは質的に異なるものだと見なければいけなくなる。
■ p.35 定理39 上で述べたように、ここでは \(\alpha_{i}\) が \(\C\) の数(である場合も含んでいる)として考えているので、\(\Q(t_{1}, \dots, t_{n})\) を「\(n\) 変数有理関数体」と書いてあるのは無視しなくちゃいけないんだろう。推敲過程の文言が残ってしまったものと推察される。
【 追記 】以前はこう書いたが、上の反省に基づいて考え直すと、やはり「\(\Q(t_{1}, \dots, t_{n})\) が \(n\) 変数有理関数体」でよかったのかもしれない。
■ p.35 定理39 以下では、もう \(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}\) は \(\C\) の数として話を続ける。
【 追記 】としてしまうと実はまずかったかもしれなかったわけだが、以下そう思い込んで書いている部分は適宜補正しながら読んで頂きたい。
\(f(X)=X^{n}+t_{1}X^{n-1}+ \dots +t_{n} = (X-\alpha_{1})\dotsm (X-\alpha_{n})\) ということだから、
\begin{align*}
t_{1} &= -(\alpha_{1}+ \dots + \alpha_{n}) \\
t_{2} &= \alpha_{1}\alpha_{2} + \dots + \alpha_{n-1}\alpha_{n} \\
&\vdots \\
t_{n} &= (-1)^{n}t_{1}\dotsm t_{n}
\end{align*}
一方、\(s_{i}\) は \(X_{i}\) の基本対称式とされているから、
\begin{align*}
s_{1} &= X_{1} + \dots + X_{n} \\
&\vdots \\
s_{n} &= X_{1} \dotsm X_{n}
\end{align*}
で、\(g(X) = X^{n}+s_{1}X^{n-1}+ \dots + s_{n} = (X+X_{1}) \dotsm (X+X_{n})\) となっている。
\begin{align*}
K &=\Q(t_{1}, \dots, t_{n}),& L&=\Q(\alpha_{1}, \dots,
\alpha_{n}) = K(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}) \\
K’ &=\Q(s_{1}, \dots, s_{n}),& L’&=\Q(X_{1}, \dots,
X_{n}) = K'(X_{1}, \dots, X_{n})
\end{align*}
つまり、プライムなしが \(\C\) の数を添加する \(\C\) の中での拡大、プライムつきが不定元を添加して \(\C\) の外へ出て行く拡大。
■ p.38 定理39 写像 \(\Phi\) の定義で使われている多項式 \(f\) は、上で定義された \(f(X)\) ではなく、単に \(\Q[X_{1}, \dots, X_{n}]\) の任意の元を表す文字として使われている。紛らわしいので、こちらの方は別の文字を使った方がよいと思われる(と言っても \(\Phi\) というのは要するに「\(\alpha_{i}\) を \(X_{i}\) に代入する」という操作を表してるだけで、余り丁寧に扱うようなものでもないわけだけれど)。
(その後で現れる写像 \(\Psi\) の定義で使われている多項式 \(f\), \(g\) についても同様)
■ p.38 定理39 「\(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}\) が \(\Q\) 上代数的に独立」となっているが、これは仮定の「\(t_{1}, \dots, t_{n}\) が \(\Q\) 上代数的に独立」から証明しなければならないことなのにその証明が抜け落ちている。
以下、補足として \(n=2\) の場合の証明を述べる。\(n \geqq 3\) の場合への一般化は容易である。
【証明】
\(t\), \(u\) は \(\Q\) 上代数的独立とし、\(X^{2}+tX+u\) の根を \(\alpha\), \(\beta\) とする。このとき、\(\alpha\), \(\beta\) も \(\Q\) 上代数的に独立と示したい。
それには、\(\Q\) 係数 \(2\) 変数多項式 \(F(Y,Z)\) で
\begin{equation}
\label{eq:20-1}
F(\alpha, \beta)=0
\end{equation}
をみたすものはゼロ多項式しかないことを示せばよい(代数的独立性の定義)。今、\(F(Y,Z)F(Z,Y)\) は \(Y\), \(Z\) について対称な \(\Q\) 係数多項式なので、対称式の基本定理より
\begin{equation}
\label{eq:20-2}
G(-(Y+Z), YZ) = F(Y,Z)F(Z,Y)
\end{equation}
をみたす \(\Q\) 係数 \(2\) 変数多項式 \(G(\cdot, \cdot)\) が存在する。\eqref{eq:20-2}および
\[ \alpha+\beta = -t,\quad \alpha\beta = u \]
より
\begin{align*}
G(-(\alpha+\beta), \alpha\beta) &= F(\alpha, \beta)F(\beta, \alpha) \\
\therefore G(t,u) &= 0 \quad (\because \eqref{eq:20-1})
\end{align*}
を得る。すると、\(t\), \(u\) が \(\Q\) 上代数的独立だったという仮定から、\(G\) はゼロ多項式。よって\eqref{eq:20-2}より \(F(Y,Z)F(Z,Y)=0\)(多項式の等式として)。
よって多項式の等式として \(F(Y,Z)=0\) または \(F(Z,Y)=0\) となるが、どちらにしろ \(F\) もゼロ多項式である。\(\square\)
■ \(\Gal(L’/K’) \cong \Gal(L/K)\) がなりたつ理由は、\(L’ \cong L\) の同型を与える写像 \(\Psi\) によって \(K’ \cong K\) の同型もなりたつことによる。
■ 「命題38により \(\Gal(L’/K’) \cong S_{n}\)」とあるが、\(g(X)\) の係数の符号のとり方が命題38とは違っていることが気にかかる人もいるかもしれない。しかしそこの符号の違いは、結局添加によってできる体 \(K’\), \(L’\) に違いを生まないので、気にする必要はない。
■ この証明の路線では、本当は「\(n=5\) のとき、\(\Q\) 上代数的に独立な \(\alpha_{1}, \alpha_{2}, \alpha_{3}, \alpha_{4}, \alpha_{5}\) が \(\C\) の中に存在する」ということを確かめないと「解けない5次方程式がある」ことの証明としてはまだちょっとだけ不十分なように思う。個人的にはそこはもう明らかに感じられるので余り追求したい気持ちは起きないが、気になる人は「環・体論II—GALOIS理論」に当たると証明が載っているようだ。
■ 定理39のミスプリは、証明の下から4行目で、「\(\cong\)」記号が上下分かれてしまっている所がある。
■ 定理39を読んで、個人的に面白く感じた発見があった。まあ、\(\pi, e, 2^{\sqrt{2}}, 3^{\sqrt{2}}, \pi^{e}\) は \(\Q\) 上代数的に独立と思ってよかろう(「証明しろ」と言われても私には一生かかってもできないだろうが)。すると、定理39によれば
\[ X^{5}-(\pi+e+2^{\sqrt{2}}+3^{\sqrt{2}}+\pi^{e})X^{4}+(\pi e+ \dots +
3^{\sqrt{2}}\pi^{e})X^{3} – (\dots)X^{2} + (\dots)X – \pi\cdot e\cdot
2^{\sqrt{2}}\cdot 3^{\sqrt{2}}\cdot \pi^{e} = 0 \]
は「解けない」方程式、ということになる。ちゃんと因数分解は
\begin{equation}
\label{eq:20-3}
(X-\pi)(X-e)(X-2^{\sqrt{2}})(X-3^{\sqrt{2}})(X-\pi^{e})=0
\end{equation}
とできて、厳密解 \(X=\pi, e, 2^{\sqrt{2}}, 3^{\sqrt{2}}, \pi^{e}\) は求まるというのに!
これは要するに、ガロア理論の中で「解ける」「解けない」と言っているのは「代数的に」解けるかどうか、つまり「方程式の係数から四則演算とべき乗根の有限回の組み合わせだけで解を表すことができるかどうか」ということに特化した話になっているから。つまり、「目の子で\eqref{eq:20-3}のように因数分解できて解ける」ということと、「解が代数的に求まる」ということは必ずしもイコールではない、ということになる。
これは中々興味深い。というのは、人間が目の子で因数分解を見つけているときは、「単なる代数的解法」よりも高級なことをやってのけている(場合がある)、ということになるわけなので。
■ そこからさらに、解の公式の有無についての、ちょっと違った角度からの視点も得られた。「解の公式」があるかないか、ということは、あくまで「元の方程式の係数だけを材料にして、解を四則演算とべき乗根で表す式が作れるか」ということに特化して考えるわけだが、これは別の言い方をするとこういうことになる。
\(n\) 個の数 \(\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}\) の基本対称式
\begin{align*}
& \alpha_{1} + \dots + \alpha_{n} \\
& \alpha_{1}\alpha_{2} + \dots + \alpha_{n-1}\alpha_{n} \\
& \vdots \\
& \alpha_{1} \dotsm \alpha_{n}
\end{align*}
だけを材料として、四則演算とべき乗根のみで個々の \(\alpha_{i}\) が出てくるような式が作れるか?
こう書き直してみると、とたんにこの問題の難易度がまざまざと伝わってくる。少なくとも私は、このように捉え直して初めて「ああ、こりゃとてもできっこないわ。ごく例外的な場合だけしか可能じゃないのも当たり前だ」と明確に意識することができた。それまで「なぜ解けないのか」については「結果的にそうなってる」くらいの感覚しか持ち合わせておらず、その難易度についての具体的なイメージはほとんどなかったのだが、このように問題を定義し直すと、難易度がとたんに跳ね上がって感じられたのだ。
と言うのは、元々使っていいのが(基本)対称式だけ、ということになると、そこから作れるものも原則としては対称式だけに限られてしまうからだ。対称式しか作れない、ということは、個々の解 \(\alpha_{1}\), \(\alpha_{2}\), …といったものを個別に表す式など絶対にできない、ということになる。唯一対称性を崩すことができるのは、べき乗根をとるときの不定性だけだ。例えば平方根だったら \(\pm\) のどちらをとるか、の2通りの不定性があるし、立方根だったら \(\sqrt[3]{A^{3}}\)を \(A\), \(\omega A\), \(\omega^{2}A\) のどれにするかの3通りの不定性がある。使えるのはたったそれだけである。4次方程式までは、出現する未知数が少ないことから、そういう僅かな不定性を最大限に活用することで、さんざん苦労しながらそれでも何とか個々の解を生み出す式をひねり出すことが可能だったわけだが、もっと文字数が増えるとそれが絶望的になるのは「ごく当たり前」と実感できる。その可能・不可能の境目が、文字数が4つか5つか、の間に横たわっていた、というのが「5次方程式の解の公式は存在しない」ということの意味だったのだ。
このような理解に到達できて、私としては非常に満足できる結末となった。これでついに、昔からの懸案が解決した、という感覚を得ることができた。改めて、ガロア理論入門ノートを公開してくださった Osamu MATSUDA さんに感謝を!
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