第10話 如月ナイン誕生!

これぞ「プリ9」の真価!

というわけで、前半の最高傑作エピソードのひとつに到達です。いよいよ 如月女子高野球部のレギュラーが全員集結。

この回は、「プリ9」を見てきて本当によかった!と感激させてくれた回 でした。この回が放映されていた頃は、第4話第9話のような不出来な回を見せられていて、作品それ 自体への不満が募ってきつつありましたが、第10話はそのような不満を吹き飛 ばし、「プリ9」がまさしく「作り話を鑑賞することのプリミティブな喜びを 満喫させてくれる作品」であることを、改めて認識させてくれた名作でした。

「作り話を鑑賞することのプリミティブな喜び」とは何か、と言ったら、 以前も書いた通り「作り話ならで はの都合のいい展開を魅せてくれること」でしょう。視聴者のウケを取ること を至上命題とし、卑屈にならずに(重要!)、堂々と、サービス精神に徹して、 客を楽しませるプロとして最高の娯楽を提供する、という 使命を誠実に果たした「プリンセスナイン」が偉大な作品である由縁です。

オープニング変更

今回からオープニングの映像が一部変更になりました。いよいよナインが 全員集合したのを記念して、この回に合わせて変更したのか?…と思いました が、どうも、 単 に作業が遅れていただけ、ということのようです。あの天を仰いで激 涙する泥だらけの涼なかなかイ ンパクトのある映像だったのですが、見られなくなってしまってちょっと 残念。

ナインが次々と現れる、という新作部分のコンセプトは1話から付いてい た別パートと同じなんですが、そちらが「野球部に加わった順」だったのに対 し、こちらの登場順は打順と一致させてありました。で、ナイン+寧々が次々 とパンしていくこのカットで、初めて寧々がオープニングに登場しましたね。 なぜか彼女だけくるりと一回転するアクションが付いていて、優遇されてます。 作画スタッフのひいきキャラなんだろーか?

試合前はお祈りの時間

陰口を叩く教頭の脇に、「そろそろ始まるようね」と登場した理事長。うー ん、何だかこの理事長、寄り目ですねえ。今回、全般的にちょっとクセのある 作画で、やや気になりました。何か、女性キャラの微妙なプロポーションやバ ストの影の付け方が、そこはかとなくやらしいんですよねえ(笑)。作画監督 は海堂 裕氏。仮名なのか普段からこの名前なのかは不勉強で知らないのです が、「プリ9」で作監をやっていたのはこの回だけでした(また、今回は、普 段「美術」としてアニメ製作に関わっているスタジオ美峰が「レイアウト」に 名を連ねているのも異例な気がします。今回は山木氏辺りが製作体制の上で何 か実験的なことを試みたのかも知れません)。

試合前のナインのやりとりは、短い時間ながら各キャラの性格が出てて、 よくできてましたね。そうかあ、涼って意外と仕切り屋なんだ。「人形でもい いから、心の支えがある人がうらやましい」は、真央のキャラをよく表してい てグーでした。

寧々は相変わらず。「ご心配なく、案外こういう控えが頼りになるんですぅ」 わかったわかった(笑)。

木戸「ってなわけで、三田、悪いが、サードのカバーも頼むな」
加奈子「ええっ…あぁ、ハイ………」
というセリフを聞くと、木戸は「校長の娘が変装して加わってる」という事情 を知ってるようですね。気にかかるのは、「理事長がこの事情を知ってたかど うか」です。これについては、加奈子が自ら正体を明かした 14話の感想で改めて取り上げることにします。

ところで、この頃から意識し出したんですが、加奈子役の笠原さんって、 割とうまい人ですね。この辺りのセリフ回しもそうですが、シリーズを通して なかなか堂に入った芝居を聞かせてくれて、結構感心しました。先日放映され てた「ミトの大冒険」でも達者な所を披露していて、子どもっぽい声からドス の効いた声までいろいろ取り揃えてお待ちしておりま〜す、な役者さんですね。

試合開始

まず、「へーいみんあな!リラックス!」とシメてみせる涼が生き生きし てていいですね!やっぱり主人公はこうでなくっちゃ!(長沢美樹さんの芝居 もいい)2話ぶりに主役の座を取り返してくれてよかったよかった♪そして、 その檄に応えてみせるヒカルもいいなあ(長沢直美さんの声もいい)。

さていよいよ試合開始ですが、この回の試合の流れの描写は非常にうまかっ たと思います。まず聖良がピッチャーゴロで一塁へ。俊足という彼女の個性を、 大変わかりやすい形で描写していました。ピッチャーゴロを放った直後にしば らく固まってたのも、「野球的なリアルさ」から言えば言語同断でしょうが、 最初にキャラを確立する際にはあれくらいストレートでいいんです。

続いて、ヒカルのバントでオールセーフ、ノーアウト1、2塁。これも、 「小技師・ヒカル」のキャラをオーソドックスに確立させる、手堅く、手慣れ た演出ぶりでしたね。

それから、もはや「プリ9」では当たり前になっちゃってあまり明示的に は触れてなかったけれど、やっぱり音楽が抜群にいいですね。曲がいいのはも ちろん、その選曲や編集も非常にハイレベルで快感に酔いしれることのできる 素晴らしい水準でした。

涼「でも、考えてみたら、ほんの2カ月前はあたしたちも中学生だったん だよね」そうか…作中じゃまだ5月なのか(笑)。という訳で「プリ9」はか なり実際の季節とズレた放映でしたね。最後は、夏の甲子園の地区大会準決勝 を10月に放映してましたし。

寧々侮りがたし

ここで、主砲・寧々登場(違う)。

寧々「マンガだと大抵ここは助っ人選手がまさかのホームランを打つ場面なのよね」
だからもうわかったってば(笑)。

それにしても、10話以降を思い返してみても思うんですが、寧々って結構 ストーリー上活用されてますよね。第4話でマネー ジャーとして現れたときは、ここまで「使用頻度」の高いキャラだとは思って もみませんでした。セリフの量は絶対にユキよりも多いし、下手をすると真央 よりも多いぞ(笑)

ピンチ到来

記者1「どうしたんだ?急に守備が崩れたなあ」
記者2「わからんのか?サードとライトとキャッチャーが素人だって、明応に 見抜かれたのさ」
もしもし、今したり顔で解説してたそこのあなた。あなたさっき、「さっきの サードと言い、今のライトと言い、なんで自分で取らないんだ?」なんてボケ たことをおっしゃってませんでしたかい?そんな知ったかぶりをこくのは10 年早いです(笑)。

という訳で徐々にピンチに追い込まれて行く如月女子。この辺の描写もちゃ んと説得力があっていいですね。素人プレーヤーの隙につけこんでいる所もちゃ んと描写されてましたし、「真央がまだ涼の全力投球を取れない」という事情 で、シリーズ開始時の涼のバケモノピッチャーぶりも損なわないようにうまく 構成されています。

今回、見事な展開を紡いでみせてくれた絵コンテ担当のスタッフは原 博さ んという方。この後の回も彼の手掛けた回は大体佳作に仕上っていて、特にこ の10話を始めとする野球中心の回(例えば13話)で の確かな仕事ぶりは高く評価しています。この話は13話の感想でも取り上げま しょう。

電波少女の真価

そしていよいよ今回の白眉、9回表のミラクルプレーのシーンへ!BGM を 務めるは名曲「果てしなき闘い」。静かに緊張感を湛えながら、遂に堤防が決 壊するがごとく怒涛の展開へとなだれ込みます。

涼「しまった!コースが甘い!」
ヒカル「まずいで!長打コースや!」
ボールが飛んだ先に待ち受けるのは………宇宙人とお友達の東ユキ!
「え、そうなの、フィーフィーちゃん?また、助けてくれるのね。いつも、本 当にありがとう」
というコワいセリフとともに上を見上げるユキを、広角レンズ風の画面が捉え ます。異様なセリフを受け止めるにふさわしい、異様なレイアウト。

そして、何とユキはボールを見もせずに、全く動かずに左手だけでフライ をキャッチしてしまいます!宇宙人パワー恐るべし!明応中の監督じゃなくて も「な、なんだありゃ!?」と言いたくなろうというもの。

さらに、ひょいっとボールを右手に放り移し、ロクにモーションもつけず に右手だけ振り上げて送球するのですが、このときの作画も異様な迫力を伴っ た全作画。そしてユキの無表情さがまた異様さを強調しています。しかも手投 げのはずのこの返球が涼の顔をものすごい勢いでかすめる豪球!

ここのトリプルプレーの作劇上の存在意義は、如月女子の大ピンチを印象 に残る派手な展開で切り抜けることによって視聴者に強い印象を与えることに ありますが、そのための手法として、すんでのところで大量失点になりかねな かった敵の攻撃を、紙一重でシャットアウトする、という展開を採用していま す。

ここで原演出が際だって優れていた点は、このようなド派手な展開を、ユ キの設定とうまく結びつけていた所にあります。普通にやったら、長打コース に飛んだはずの打球を、ダイビングキャッチか何かで無理矢理もぎとることに なるんでしょうが、それだと多少ご都合主義の匂いが漂ってしまうのは避けら れません。

ここでユキの電波少女っぷりを生かし、その補球・返球シーンをひたすら 異様な雰囲気で包み込むことによって、これまで描かれてきたユキの不思議な 雰囲気と、ともすればご都合主義的になってしまう都合のいい展開を結びつけ て、説得力のあるシーンに昇華させる…。名演出の数々により名を馳せた「プ リ9」の中でも、特筆に値する見事な構成ではないでしょうか。私はこのシー ンにすっかり惚れ込んでしまい、10話の中でもこの9回の攻防のシーンを何回 見返したかわかりません(笑)。結構テープがヘタってしまってきているか も…。

そして、細かい点ですがちゃんとヒカルがホームにカバーに入っている点 は good。まだ野球に不慣れな真央をちゃんとカバーしてますね。片手キャッ チ→タッチもかっこいいぞ、ヒカル!

そして、「ショート!!」「OK!!」のあうんの呼吸の涼とヒカル。この 2人が野球慣れしてることをきっちり描いており、この一連の展開は本当に名 演出続出です。

真打ち登場

名作・第10話を締めくくる爆笑の展開。ああ、「プリ9」を見ていて 本当によかった!「崖っぷちね」のセリフとともにかかる 大げさな BGM!正体バレバレの謎の(笑)登場人物をさまざまな角度からアッ プにするわざとらしさ満点のカット割り!!しかもその際いちいち付く、 「ゴォ〜ン」だの「シャキーン」だのいう効果音!!!

コレですよコレ!私が「プリ9」に求めていたものはまさにこの「ドラゴ ンボール」ばりの、厚かましいまでにオーバーな過剰演出なんッス!!(感激) やっぱり、人を楽しませようと思ったらとことん過剰にしてくれないとネ!!!

そして、「狙い目は左側の照明塔ね」「慣れてないのよ。ただ遠くに飛ば すだけなんて、そんなお手軽なプレーには」という大口がまた期待に応えてく れます。えらい!よく言った!!寧々が振り向くと丁度そこには照明塔が見え ている、という小技も効いてます。BGM もノリまくりでまさしくお祭り状態。

「もらったわ」という自信満々のセリフもあくまで正しく、トドメは予告 通りにバリーンと照明塔にブチ込まれるホームランボール!!熱く、クサく、 クドく、オーバーに、貴く偉大な「プリンセスナイン」演出の真髄を体現する、 夢のような数分間を体験させてもらえました。これぞプリ9!これぞ娯楽作品 の王道!!

それにしても明応中のピッチャー、負けたのにやけにサバサバしてますね。 「でも、きれいなお姉さんたちと試合できてよかったよ。ハハハ」じゃないで しょ(笑)。

いずみの加入も決まり、いよいよ本式にスタートする如月女子高野球部。 そう、伝説の真の始まりは、これからなのです…。

恒例ツッコミシリーズ


各話感想一覧へ
プリ9のトップページへ
全体のトップページへ
井汲 景太 <ikumikeita@jcom.home.ne.jp.NOSPAM.>(迷惑メールお断り)
最終更新日: 2004年7月 8日